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日本は難民申請が困難…映画『マイスモールランド』から浮き彫りにする問題とは

日本は難民申請が困難…映画『マイスモールランド』から浮き彫りにする問題とは

映画評論家・清水 節さんが、映画『マイスモールランド』が浮き彫りにする社会問題を解説した。

清水さんが登場したのは、7月1日(土)にJ-WAVEで放送された番組『BLUE IN GREEN』のワンコーナー「ENEOS FOR OUR EARTH -ONE BY ONE-」(ナビゲーター:堀田 茜)。

クルド人難民を扱った作品

清水さんは以前同番組に出演した際に、「#MeToo運動」の中心にいたスカーレット・ヨハンソンに注目して、ハリウッド映画に見るSDGsの浸透について解説した。

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今回紹介したのは「エンターテインメントだなと思いながらも実は社会的な話につながっている」という映画『マイスモールランド』だ。

映画『マイスモールランド』予告編

<あらすじ>
17歳のサーリャは、生活していた地を逃れて来日した家族とともに、幼い頃から日本で育ったクルド人。現在は、埼玉の高校に通い、親友と呼べる友達もいる。夢は学校の先生になること。

父・マズルム、妹のアーリン、弟のロビンと4人で暮らし、家ではクルド料理を食べ、食事前には必ずクルド語の祈りを捧げる。「クルド人としての誇りを失わないように」そんな父の願いに反して、サーリャたちは、日本の同世代の少年少女と同様に“日本人らしく”育っていた。

進学のため家族に内緒ではじめたバイト先で、サーリャは東京の高校に通う聡太と出会う。聡太は、サーリャが初めて自分の生い立ちを話すことができる少年だった。ある日、サーリャたち家族に難民申請が不認定となった知らせが入る。

在留資格を失うと、居住区である埼玉から出られず、働くこともできなくなる。そんな折、父・マズルムが、入管の施設に収容されたと知らせが入る……。
『マイスモールランド』公式サイトより)


清水:日本に滞在する在留資格がなくなると、まず社会保険、国民健康保険の資格がなくなる。そして働くことができない。つまり生活ができなくなる。でもなんとか生活しなくてはいけないのでお父さんが働いてしまい、逮捕されてしまいます。

堀田:不法滞在みたいになっちゃう?

清水:不法滞在扱いになります。そうすると入管という入国管理在留者を管理するための局、行政があって、そこに収容される。刑法とかで捕まると拘留期間や執行猶予があるんですが、難民の方々の場合は期限が決まっていないんです。極端に言うといつ出られるかわからない状態になる。

堀田:そんな怖いことないですよね。普通に生活していたのに……。

清水:お父さんが働いていないし、彼女(サーリャ)自身もバイトができなくなる。家族全員が働けなくなる。そうすると家賃が払えなくなる。どうしたらいいかとなって、ちょっと危ない仕事をしてみようかなと思ったりもする。

堀田:そっか、そっちに走っちゃいますよね。

清水:つまり生きていく権利が突然なくなってしまうんです。

日本では困難な難民申請

なぜ生きる権利を突然失うことになってしまうのか、清水さんはクルド人の歴史をひも解きつつ、その経緯を説明した。

清水:クルド人の場合、まずクルドという国がありません。大昔の話だけど、かつてオスマン帝国という国がありました。だけど、第一次世界大戦が終わったあとにそれが引き裂かれたかのように、クルド人と言われた人たちはいまイランとかイラクとかアルメニアといったところに分散して暮らしている。そのなかで、国によっては独立運動をしたりすると、その国から危険分子、テロリストとみなされて危ない目にあうので、命からがら逃れてきて日本にやってきたわけです。ほかの国、たとえばドイツに逃れて難民申請をした人はそこで暮らすことができていたりする。ところが日本の難民申請がおりるのはすごく難しいんです。

堀田:そっか……。

清水:データもいろいろありますが、比較できるデータだと、たとえば2021年はドイツだと申請した25パーセント以上の人が通るのに、日本だと0.7パーセントです。

堀田:日本はゼロに等しいじゃないですか。

清水:これはクルド人に限らず、日本ではあらゆる国の難民の人をなかなか受け入れがたいようなシステムになっているんです。

堀田:日本はそんなに厳しいんだ。

清水:そこで「入管法を改正しようじゃないか」という動きがありますが、なかなか悩ましくて。いまは難民申請が1回却下されても、またしばらくして申請すればその間は在留できるんです。それを受け取り方によっては悪用してずっと滞在する危険性があるという発想があって。

堀田:グレーな感じになっちゃっているんですね。

清水:改正案では3回目で却下されたらもう日本には住めない、国籍がある国に帰すという法律になってしまいました。これは改悪じゃないかという意見があって、ものすごく反対運動も起きました。決して『マイスモールランド』という映画自体は、声高に政治的なメッセージを訴える映画ではない。あくまでも少女の視点から見て、突如こういう目にあってしまうという。僕なんかも正直言って、この映画を観るまではそこまで難民問題を大きく深く考えたことはなかったです。だけれどもこの映画を観て、彼女の視点から入っていくことによってものすごく実感したし、そういう難民の方々が暮らしやすいシステム、法律がないのはどうなんだろうという風に思うようになりました。

実際の家族が、家族を演じた

清水さんは、監督・脚本の川和田恵真さんが『マイスモールランド』で難民をテーマに取り上げた理由についても解説した。

清水:川和田さんは是枝裕和さんが率いる「分福」という映像集団に所属していて、同映画はそこの企画会議から始まったんです。彼女自身が実はミックスで、自分のアイデンティティを小さいころからよく考えたらしいんです。そしてクルド人の問題を知ったときにとても興味を覚えて、自分の身に引き寄せながら考えて、2年ぐらい取材をしたらしいです。そして原作になる本も自分で書いて、スタッフとかキャストとかもフレッシュな状態で作り上げています。主人公、ヒロインをやっているのは嵐 莉菜さんというモデル出身の方です。彼女はこの作品の演技でさまざまな映画賞をとっています。ちなみに彼女自身もミックスで、お父さん役、妹役、弟役は実際に彼女の家族です。

堀田:えー!?

清水:みんな演技初体験の人たちがクルド人に扮しています。なぜクルド人に扮したかというと、実際のクルド人の人たちを起用して出演した場合、その国の人たちが目にしたときに、こういう主張のある作品に出ている、問題化されているということが明らかになると、彼女たち自身の家族が危うくなるから。なので実際にクルド人じゃない人たちを起用したらしいです。

堀田:そこにも根深いものを感じてしまいます……。

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堀田は清水に「特に心を打たれたシーンはどこか」と尋ねた。

清水:当然ごく普通の暮らしをしていて、明確なラブロマンスにはならないんだけど、心惹かれた同じ高校生の男子と心を通わせていきます。そのときに最初、ドイツ人と名乗るんです。なぜならクルド人って日本で言ってもあまりわからないじゃないですか。イメージがわかない。まず「クルドってどこの国?」って訊かれたりする。自分の出自を隠しながら、好きになりそうな人と出会っていくというプロセスに心を打たれました。

堀田:うわあ、切ない。

清水:もうひとつはこの映画のラスト。ネタバレだから言えないけど、お父さんがある決断をするんです。それはもしかしたら子どもたちに対して希望を与える決断かもしれない。そこも心を打たれます。

堀田:ニュースを観るだけじゃなくて、こういう問題を知りたいなと思ったら、そのテーマが描かれている映画を探すというのも社会情勢を知るいい入り方かもしれません。

『BLUE IN GREEN』のワンコーナー「ENEOS FOR OUR EARTH -ONE BY ONE-」では、地球のより良い未来の実現に向けたSDGsについて毎回ゲストを招き、堀田と一緒に学んでいく。放送は毎週土曜日の14時から。

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14:00-14:30