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「映画界とジェンダー平等」 スカーレット・ヨハンソンの歴史とともに紐解く

画像素材:PIXTA

「映画界とジェンダー平等」 スカーレット・ヨハンソンの歴史とともに紐解く

映画評論家の清水 節さんが、SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」をテーマに、スカーレット・ヨハンソンの歴史から映画界を紐解いた。

清水さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ENEOS FOR OUR EARTH -ONE BY ONE-』(ナビゲーター:堀田 茜)。オンエアは8月6日(土)。
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番組ナビゲーターの堀田茜

なぜ日本人を白人が演じるのか?

清水さんは、映画関連雑誌や映画情報ウェブサイト「映画.com」や「シネマトゥデイ」など、映画を中心とする企画・編集・執筆・批評などの活動をおこなっている。

そんな清水さんが、スカーレット・ヨハンソンの出演作品をあげつつ、当時の社会を解説した。

清水:スカヨハ(スカーレット・ヨハンソン)がブレイクしたのは2000年代に入ってから。彼女が10代後半のころです。たとえば『ロスト・イン・トランスレーション』や『真珠の耳飾りの少女』といったアート系の作品で演技力を評価されて出てきた人です。その彼女が『アイアンマン2』に出演。役柄はナターシャ・ロマノフ、コードネームがブラック・ウィドウという、いわゆる主演ではないサブキャラクターだけど、魅惑的でセクシーな存在として描かれているエージェント、暗殺者です。

堀田:「スカーレット・ヨハンソンといえばブラック・ウィドウ」というのが、いまでもあります。

清水:最初に出てきたときはそんなに目立つ存在ではなかった。ただ、強調されていたのはセクシーさというところです。むこうでは「ハイパーセクシャライゼーション」という言葉があります。男女問わず人を性的対象として扱って、フィジカルの特徴やセクシーさを評価するような価値観。いま考えると古い時代の価値観ですよね。そういう存在としてスーパーヒーローものに出てきたんだけれども、彼女はその後、スーパーヒーローがそろう『アベンジャーズ』シリーズや『キャプテン・アメリカ』シリーズなどに立て続けにナターシャ役として出ています。2016年ごろになると、ある映画の情報サイトだと「最も興行収入をあげた俳優ランキング」で女優のトップになっています。2018年、2019年になると「世界で最も稼いだ女優」として、あるデータによると彼女が出ている映画が143億ドル以上の興行収入をあげていると。

堀田:さすがハリウッドです。

スカーレット・ヨハンソンは2017年に『ゴースト・イン・ザ・シェル』に出演。これはアニメでも大ヒットとなった日本の漫画『攻殻機動隊』が原作となっており、スカーレット・ヨハンソンは主演の草薙素子を演じた。これが現地のアジア系アメリカ人を中心に「日本人の役を日本人が演じられない!」という非難を巻き起こした。

清水:黒い髪にしてボブカットで、漫画の日本人の草薙素子と同じ扮装をしていたので「そこまでソックリにするんだったらなんで白人にしなきゃいけないの?」という声が高まったんです。同時にこのころ、マーベル映画では『ドクター・ストレンジ』シリーズがあって、原作コミックだとチベット人男性の役があるんだけれど、それを白人女性が演じていたりしたんです。つまり2016年、2017年ぐらいにこういうことが起こった。SDGsは2016年1月1日から始まっています。

「オスカー・ソー・ホワイト」と批判されたアカデミー賞

SDGsが始まった2016年のアカデミー賞では、ノミネートされた主演・助演含めて白人が占めていたことから「オスカー・ソー・ホワイト(白すぎるアカデミー賞)」と批判が集まった。さらに2012年のデータで、アカデミー賞の会員約6000人のうち男性が77パーセント、白人が94パーセント、50歳以下がわずか14パーセントということも明らかになり、大問題に発展した。

清水:ここでアカデミー賞は本気で改善・改革をしようとしました。投票者が白人男性の高齢者にかたよっているので、投票者をもっと多様化しなきゃいけないということになりました。

堀田:そうですよね。

清水:そこから5、6年をかけて、毎年どんどん増やしていきました。2022年はどうなったかというと、およそ4000人増えて約1万人になったんです。その増えた4000人の内訳が、女性やアジア系、黒人、マイノリティの人たち。それによってなにが起きたかというと、たとえば2020年に韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞含む4部門を獲得し、韓国映画が脚光を浴びました。2021年には中国出身女性のクロエ・ジャオ監督作品『ノマドランド』が作品賞などをとった。さらに同じ年に映画『ミナリ』で、韓国人女優が助演女優賞に輝きました。そしてヒーロー映画に目を転じてみると、マーベル映画は2018年に『ブラックパンサー』を公開しました。これはアフリカンカルチャーをモチーフにしていて、主要キャスト、あるいはスタッフまでもが黒人、アフリカ系で固められました。昔は、たとえば日本で黒人の役をやるときに、日本人が顔を黒く塗って演じたりするような時代もあったんです。

堀田:いま考えたら信じられないですね。

清水:2019年の『キャプテン・マーベル』では、マーベル初の女性監督を起用しています。2021年の映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』では、きちんとアジア系俳優を大量に使って映画化したり。つまりスカヨハが『ゴースト・イン・ザ・シェル』を演じて非難ごうごうになったあとの流れとして、アカデミー賞も改革され、受賞作品そのものも大きく変化しました。マーベル映画も多様化していく流れになったと。

堀田:ここ3、4年ですごい変化を遂げているということですよね。

女性ヒーロー像に大きな変化

2017年からは「#MeToo運動」が発生。2017年10月の「ニューヨーク・タイムズ」の記事がきっかけとなり、映画の名プロデューサーと言われたハーヴェイ・ワインスタインの性的暴行が告発されて社会問題へと発展した。その後、2018年に企画・制作・脚本が始まったのが、スカーレット・ヨハンソン演じるナターシャを主演としたマーベル映画『ブラック・ウィドウ』だ。

清水:コロナ禍もあり、公開したのは2021年になりました。映画はナターシャの生い立ちをめぐるストーリーで、倒すべき悪役は誰かというと、自分が所属してきたスパイ養成機関の支配者のドレイコフという男。狡猾な中年男が実は少女たちを誘拐して洗脳し、従順なスパイ戦士として育成している。そして育ったら彼女たちを世界に放って意のままに操ることができる。マーベル映画として珍しいのは、悪役の男に特殊能力がないんです。闇に隠れて影で女性たちを操っている。実はこれ、ハーヴェイ・ワインスタインのメタファーなんです。

堀田:すごい。時代が反映されていますね。

清水:ワインスタインの映画に、実はスカヨハも2本ぐらい出演しています。彼女は『ブラック・ウィドウ』では製作総指揮でもあります。『ブラック・ウィドウ』の物語を作るときに、ちょうどそのタイミングだったので「私たちはこの問題を反映させなければいけない」と。そしてナターシャは性的搾取の被害者だったけれど、向き合い直して、自分の弱み、トラウマに向き合って立ち上がると。彼女の真パワーは、実はその弱さにこそ秘められていて、支配していた悪の権化のドレイコフを倒して、ほかの女性たちを解放するという、女性ヒーロー像に大きな変化をもたらしました。

堀田:かっこいい。

清水:スカヨハは『アイアンマン2』当時のことをこう言っています。「性的対象として語られることは当時、女性にとって褒め言葉のようなものだと考えていたけれど、よくよく考えるとそれは自分の考え方が間違っていました」と。「私たちは、女性同士がサポートし合ってトラウマから抜け出そうとする#MeToo運動のムーブメントを反映する機会を逃してはならないと思いました。そしてもしこの映画が10年前だったら、映画会社側は『ブラック・ウィドウ』にGOを出さなかったかもしれません」ということすら言っているんです。

堀田:本当のスーパーヒーローみたいな存在ですよね。

清水:ハイパーセクシャライゼーションからの脱却が、この2010年代から2020年のはじめぐらいまでにかけて、ハリウッドでの大きなテーマとして、人種の多様化という問題も含めて、両方の中心にスカヨハがいたという。これが面白いです。

わたしたちの地球の未来を守るために、いまできることを一緒に考える30分。J-WAVE『ENEOS FOR OUR EARTH -ONE BY ONE-』の放送は毎週土曜日の14時から。

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2022年8月13日28時59分まで

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番組情報
ENEOS FOR OUR EARTH -ONE BY ONE-
毎週土曜
14:00-14:30