映画監督の今泉力哉と小説家の燃え殻がJ-WAVEで対談。今泉力哉の監督最新作『ちひろさん』や、印象深い小説を語った。
今泉が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『BEFORE DAWN』(ナビゲーター:燃え殻)。ここでは、2月7日(火)のオンエア内容をテキストで紹介する。
今泉:元風俗嬢のちひろ(有村架純)が海辺の街でお弁当屋さんになっていて、風俗で働いたこととかも特に隠してなくてみたいな女の人が主人公で。漫画が原作なんですけど、ちひろさんって変な大人なんですよね。ちょっと子どもっぽいところもあったりとか、大人はこうしてなきゃいけないってことじゃなくて公園で1人で遊んでたりとか、そういう変な大人といろんな人が出会うことでちょっと視野が広がるというか。説教したりとか「こうしたらいいよ」って教えてくれるわけじゃなくて、出会ったり触れ合ったりするだけで自分の世界が広がったり、「こんな大人もいていいんだ」って思うようになってくるような物語だと思っています。
燃え殻:漫画はパラパラと読んでいて、有村さんが主演っていうのが意外だったんですが、予告を見たら「これは合ってる」と思って。これが今泉さんぽいって思いましたね。原作自体はファンだったんですか?
今泉:自分は普段小説とか漫画を読まなくて、プロデューサーから依頼があってそのときは企画書に「元風俗嬢の女性が海辺の街でお弁当屋さんをしていて」みたいなあらすじが書いてあって、ちょっとほっこりしたほのぼの系だと思って「これはちょっと、自分じゃないですよ」って言ってて。それで漫画を読んだらすごく面白くて。それでこの話を描いた人に会いたいと初めて思って、早々に「原作者さんに会えませんか?」って言って。
その後、今泉は実際に原作者の安田弘之と会い、多くの話をしたという。
今泉:映画化がどうこうというよりも、子どもとか生活とか生きにくさとか、自分にとってのちひろさんみたいな変な大人と子どものときに出会うことの大事さとか、そういういろんな話をしました。自分にとってのちひろさんは、親戚のおじさんに(似た存在感の人が)いたんですけど、そういう話を2時間くらいして、その後映画化に向けての話をしていくような感じでした。
燃え殻:主演が有村架純さんに決まったのにはどんな理由があったんですか。
今泉:いろんなキャスティング候補に当たってプロデューサーと話していくなかで、それこそ『有村架純の撮休』(WOWOW)っていう作品でご一緒していて、どこかで暗さがあったり、どこか分からなさがある人がいいと思っていて、自分がご一緒したときに有村さんのかわいらしくてやわらかくてみたいなパブリックイメージとは全然違ったので、ちひろさんを有村さんができるかもって思いました。
燃え殻:予告を見たときに、これはちひろさんだという感じがしました。
今泉:漫画はすごくスタイルがシュッとしてて細いんで、菜々緒さんとか壇蜜さんとか杏さんをイメージして読んでいたみたいな人とか、要はスラッと背が高い印象を持つ人もいたんです。そんな中で自分は、有村さんのある種の怖さじゃないけど、そこに魅力を感じて。原作の安田先生とも「ネアカな人は無理だな」って話をしていて、それを有村さんに話をしたら「そこの部分は大丈夫です」と言われたりしていたので、映画を観ていただいたら原作ファンの方も(納得していただけると思います)。安田さんもすごく作品を気に入ってくださっていたので、ぜひ観てほしいですね。
今泉:絵が1つあるので、そこをどのくらい合わせるか、合わせないかというとあれですけど、今回の作品でもキャラクター化された例えば2頭身とは言わないけど現実世界にはいないでしょみたいなキャラクターはどう作るのかとか、そういうのはいろいろ話ながらやっていきました。漫画のほうが難しさもあるし、ある種小説より1個答えがある気がするので。
燃え殻:カメラワークではないですけど、漫画のコマってちょっと意識したりするんですか。
今泉:そこまで引っ張られないようにしていますね。やっぱり流れが違うと思っていて。もちろん映画も間を省略で見せていくものですけど、漫画の省略ってまた違う文法だと思うので、そこまでは意識してないですね。例えば思いっきり泣いてるシーンがあって、それを実際に映像でも泣かせるとお客さんに届く強さが全然変わっちゃうので、漫画で泣いているけど現実は泣かせないほうがいいとか、そういう差は絶対にあると思っています。
映画『ちひろさん』の主題歌には、くるりの『愛の太陽』が採用された。
燃え殻:これは今泉監督がオファーされたんですか。
今泉:プロデューサーと話していて、くるりはずっと好きだったんですけど、やってもらえるならいいですよねって話をして。劇伴も岸田(繁)さんがやってくださって。
燃え殻:今回の映画はNetflixと劇場公開となりますが、それは今までの作品とは違いましたか。
今泉:もともと映画として始まったりもしていて、Netflixが出資したりとかもあったので、あんまりNetflixだからってことで変えるような意識はそんなにしてないんですけど、単純に予算感だったりより豊かにできる部分はあったりして、あと撮影前の準備とか仕上げもすごく丁寧にできました。Netflixで観るのももちろんですし、大きなスクリーンで観ることの良さもあるので、どちらでも楽しんでもらえたらうれしいですね。
燃え殻:持ち歩くのはずっと同じ本ですか。
今泉:読み終わったら変わるかもですけど。金原ひとみさんの『アンソーシャルディスタンス』(新潮社)っていうコロナ禍にできた、本当にダメになっちゃったりするような人の話がたくさん出てくる小説があって、すごく読んでて。勝手にジャンル的に合わない気がしていて、実は初めて(金原さんの作品を)読んだんですよ。すごく面白かったですね。ストロングゼロをずっと飲んじゃう話とか、あるライブに行くことだけを支えに生きていたカップルがライブが中止になったりしてうまくいかなくなっちゃう話とか、すごく身近だけど、ある種救いがないような、何かにすがっている人たちの話だけど、この小説があることで助けられた人ってたくさんいるんだろうなって。それを変に笑わせるわけじゃないけど、読んでて面白いんですよね。笑っちゃうというか。
【関連記事】尾崎世界観×金原ひとみが対談。「音楽は不要不急」の言葉に傷ついた人に捧ぐ小説を語る
燃え殻:短編がいくつか入っている作品ですよね。僕も読みました。
今泉:あとは自殺願望とは違うけど、希死念慮って言葉とか、そうやって言葉がついたことでみんな自分だけじゃなくて、となるようなことに近いようなことがあって。このワードってことじゃないけど、ストロングゼロとかで助けられてる人もいれば、お酒でつらい目にあったりする人いたりとかを、こんな身近なやりとりで書けるのかって面白く読みましたね。
燃え殻:コロナ禍に読む本としていいかもしれないですよね。
今泉は映画『愛がなんだ』の作品に携わるときに、角田光代の原作小説を読んで「小説ってこんなに面白いのか」と驚いたという。
【関連記事】角田光代、文章を書くことは「革命が起きたような楽しさがあった」
今泉:角田さんの小説は衝撃でしたね。それで言うと、古い小説も読んでなくて、夏目漱石を読んだときの内容じゃなく文章の面白さというか。それくらい小説に触れてきてなかったので、これは面白いなってことがありましたね。
今泉はこの秋、日本をはじめ世界中で圧倒的な人気を誇る伝説的漫画『アンダーカレント』(講談社コミックプラス)の映画化を手掛けることが発表された。また、2月10日(金)から放送のドラマ『杉咲花の撮休』(WOWOWプライム)も脚本・監督として参加している。
今泉力哉の最新情報は、オフィシャルTwitterまで。
今泉が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『BEFORE DAWN』(ナビゲーター:燃え殻)。ここでは、2月7日(火)のオンエア内容をテキストで紹介する。
漫画を読んですぐに原作者に会いたくなった
今泉が監督を務める有村架純主演の映画『ちひろさん』(Netflix・全国劇場公開)が2月23日(木・祝)に公開となる。燃え殻:漫画はパラパラと読んでいて、有村さんが主演っていうのが意外だったんですが、予告を見たら「これは合ってる」と思って。これが今泉さんぽいって思いましたね。原作自体はファンだったんですか?
今泉:自分は普段小説とか漫画を読まなくて、プロデューサーから依頼があってそのときは企画書に「元風俗嬢の女性が海辺の街でお弁当屋さんをしていて」みたいなあらすじが書いてあって、ちょっとほっこりしたほのぼの系だと思って「これはちょっと、自分じゃないですよ」って言ってて。それで漫画を読んだらすごく面白くて。それでこの話を描いた人に会いたいと初めて思って、早々に「原作者さんに会えませんか?」って言って。
その後、今泉は実際に原作者の安田弘之と会い、多くの話をしたという。
今泉:映画化がどうこうというよりも、子どもとか生活とか生きにくさとか、自分にとってのちひろさんみたいな変な大人と子どものときに出会うことの大事さとか、そういういろんな話をしました。自分にとってのちひろさんは、親戚のおじさんに(似た存在感の人が)いたんですけど、そういう話を2時間くらいして、その後映画化に向けての話をしていくような感じでした。
燃え殻:主演が有村架純さんに決まったのにはどんな理由があったんですか。
今泉:いろんなキャスティング候補に当たってプロデューサーと話していくなかで、それこそ『有村架純の撮休』(WOWOW)っていう作品でご一緒していて、どこかで暗さがあったり、どこか分からなさがある人がいいと思っていて、自分がご一緒したときに有村さんのかわいらしくてやわらかくてみたいなパブリックイメージとは全然違ったので、ちひろさんを有村さんができるかもって思いました。
燃え殻:予告を見たときに、これはちひろさんだという感じがしました。
今泉:漫画はすごくスタイルがシュッとしてて細いんで、菜々緒さんとか壇蜜さんとか杏さんをイメージして読んでいたみたいな人とか、要はスラッと背が高い印象を持つ人もいたんです。そんな中で自分は、有村さんのある種の怖さじゃないけど、そこに魅力を感じて。原作の安田先生とも「ネアカな人は無理だな」って話をしていて、それを有村さんに話をしたら「そこの部分は大丈夫です」と言われたりしていたので、映画を観ていただいたら原作ファンの方も(納得していただけると思います)。安田さんもすごく作品を気に入ってくださっていたので、ぜひ観てほしいですね。
小説と漫画 映画化の違いは?
小説が原作となる映画を手掛けたことはある今泉だが、今回のように漫画が原作の映画を作るに当たり、そこには何か違いはあったのだろうか。今泉:絵が1つあるので、そこをどのくらい合わせるか、合わせないかというとあれですけど、今回の作品でもキャラクター化された例えば2頭身とは言わないけど現実世界にはいないでしょみたいなキャラクターはどう作るのかとか、そういうのはいろいろ話ながらやっていきました。漫画のほうが難しさもあるし、ある種小説より1個答えがある気がするので。
燃え殻:カメラワークではないですけど、漫画のコマってちょっと意識したりするんですか。
今泉:そこまで引っ張られないようにしていますね。やっぱり流れが違うと思っていて。もちろん映画も間を省略で見せていくものですけど、漫画の省略ってまた違う文法だと思うので、そこまでは意識してないですね。例えば思いっきり泣いてるシーンがあって、それを実際に映像でも泣かせるとお客さんに届く強さが全然変わっちゃうので、漫画で泣いているけど現実は泣かせないほうがいいとか、そういう差は絶対にあると思っています。
映画『ちひろさん』の主題歌には、くるりの『愛の太陽』が採用された。
今泉:プロデューサーと話していて、くるりはずっと好きだったんですけど、やってもらえるならいいですよねって話をして。劇伴も岸田(繁)さんがやってくださって。
燃え殻:今回の映画はNetflixと劇場公開となりますが、それは今までの作品とは違いましたか。
今泉:もともと映画として始まったりもしていて、Netflixが出資したりとかもあったので、あんまりNetflixだからってことで変えるような意識はそんなにしてないんですけど、単純に予算感だったりより豊かにできる部分はあったりして、あと撮影前の準備とか仕上げもすごく丁寧にできました。Netflixで観るのももちろんですし、大きなスクリーンで観ることの良さもあるので、どちらでも楽しんでもらえたらうれしいですね。
小説ってこんなに面白いのか
続いて「本」の話題に。燃え殻が「本とか小説を読むか」と訊くと、今泉は「そんなには読んでないけど、何冊かは持ち歩いたりしている」と答える。燃え殻:持ち歩くのはずっと同じ本ですか。
今泉:読み終わったら変わるかもですけど。金原ひとみさんの『アンソーシャルディスタンス』(新潮社)っていうコロナ禍にできた、本当にダメになっちゃったりするような人の話がたくさん出てくる小説があって、すごく読んでて。勝手にジャンル的に合わない気がしていて、実は初めて(金原さんの作品を)読んだんですよ。すごく面白かったですね。ストロングゼロをずっと飲んじゃう話とか、あるライブに行くことだけを支えに生きていたカップルがライブが中止になったりしてうまくいかなくなっちゃう話とか、すごく身近だけど、ある種救いがないような、何かにすがっている人たちの話だけど、この小説があることで助けられた人ってたくさんいるんだろうなって。それを変に笑わせるわけじゃないけど、読んでて面白いんですよね。笑っちゃうというか。
【関連記事】尾崎世界観×金原ひとみが対談。「音楽は不要不急」の言葉に傷ついた人に捧ぐ小説を語る
燃え殻:短編がいくつか入っている作品ですよね。僕も読みました。
今泉:あとは自殺願望とは違うけど、希死念慮って言葉とか、そうやって言葉がついたことでみんな自分だけじゃなくて、となるようなことに近いようなことがあって。このワードってことじゃないけど、ストロングゼロとかで助けられてる人もいれば、お酒でつらい目にあったりする人いたりとかを、こんな身近なやりとりで書けるのかって面白く読みましたね。
燃え殻:コロナ禍に読む本としていいかもしれないですよね。
今泉は映画『愛がなんだ』の作品に携わるときに、角田光代の原作小説を読んで「小説ってこんなに面白いのか」と驚いたという。
【関連記事】角田光代、文章を書くことは「革命が起きたような楽しさがあった」
今泉:角田さんの小説は衝撃でしたね。それで言うと、古い小説も読んでなくて、夏目漱石を読んだときの内容じゃなく文章の面白さというか。それくらい小説に触れてきてなかったので、これは面白いなってことがありましたね。
今泉はこの秋、日本をはじめ世界中で圧倒的な人気を誇る伝説的漫画『アンダーカレント』(講談社コミックプラス)の映画化を手掛けることが発表された。また、2月10日(金)から放送のドラマ『杉咲花の撮休』(WOWOWプライム)も脚本・監督として参加している。
今泉力哉の最新情報は、オフィシャルTwitterまで。
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