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竹中直人「最高の作品だった」 浅野いにお原作『零落』映画化の経緯を語る

竹中直人「最高の作品だった」 浅野いにお原作『零落』映画化の経緯を語る

竹中直人が、自身がメガホンをとった映画『零落』について語った。

竹中が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『BEFORE DAWN』(ナビゲーター:燃え殻)。ここでは2月28日(火)のオンエア内容をテキストで紹介する。竹中監督作の映画『零落』は3月17日(金)より全国公開される。

ただ1人の観客に向けて作った映画

『零落』を試写会で観たという燃え殻は「身に詰まる感じがした」と感想を伝えると、竹中は同作について「(原作の)浅野いにおという、たった1人の観客に向かって作った映画なんだよね」と告白した。
<あらすじ>
8年間の連載が終了した漫画家・深澤薫は、自堕落で鬱屈した空虚な毎日を過ごしていた。SNSには読者からの辛辣な酷評、売れ線狙いの担当編集者とも考え方が食い違い、アシスタントからは身に覚えのないパワハラを指摘される。多忙な漫画編集者の妻ともすれ違い、離婚の危機。世知辛い世間の煩わしさから逃げるように漂流する深澤は、ある日“猫のような目をした”風俗嬢・ちふゆと出会う。堕落への片道切符を手にした深澤は、人生の岐路に立つ……。
映画『零落』公式サイトより)


同作は主人公の深澤役を斎藤 工、その妻をMEGUMI、そして深澤が出会った「猫のような目をした風俗嬢」のちふゆを趣里が演じている。竹中が『零落』に出会ったのは、足しげく通っていた本屋だったそう。
【関連記事】斎藤工「心あたりしかない」 浅野いにおが描く、年齢を重ねた人の“零落という感覚”に共感

竹中:(本屋で)手に取った瞬間「なにこの漫画、『零落』。めちゃくちゃいいタイトルじゃん」という。

燃え殻:また装丁が、夜の車の中のような。

竹中:そうですね。闇の感じです。

燃え殻:じゃあ読む前に(映画化を)思ったんですか?

竹中:思いました。ちょっとオーバーかもしれないけど、もう『零落』というタイトルに惹かれちゃったので。帯に猫顔の少女のちふゆのイラストが描いてあるんですよね。それも含めて惹かれてすぐに買って読んで「映画にしたい」と思ったんです。いつもそんなもんです。原作に出会ったときとかは。

燃え殻:じゃあもう、ドーンとそこでビビッときて。それで浅野さんに(映画化の話をしたんですか)? 確か僕の記憶では浅野さんとラジオでお話してとか……。

竹中:僕は映画にしたいと思った人は、だいたいラジオにお呼びするので。

燃え殻:すごい口説き方。(監督作の)最初、つげ義春さんの『無能の人』を映画にするのもそういう?

竹中:大学生のときに出会って。『COMICばく』というのがあって「石を売る」という形で連載されていたんです。それが『無能の人』という1冊の本になって発売されて、『無能の人』というタイトルにずっと惹かれてました。

燃え殻:タイトルや絵で一発みたいなところはあるんですか?

竹中:あります。松浦寿輝さんの『花腐し(はなくたし)』というのもそうです。薄い紗のかかったトレーシングペーパーのようなカバー下に花の写真が載っているようなすごく美しい装丁で。そうしたらその写真は荒木経惟さんの写真だったんです。本屋さんでふと出会って手にしたものが映画になることが、一時期続いたことはあります。

燃え殻:今回の『零落』の帯の女の子、ちふゆさん。あれが僕、趣里さんが出てきたときに「うわあ、まんまじゃないか」って。

竹中:もう本当に、漫画から出てきたようですよね。キャスティングは趣里しか考えられなかった。ほかにはいなかったですね。

燃え殻:いやあ、すばらしい。

竹中:スケジュールが空いてて本当によかったと思って。「趣里ちゃん大丈夫かなあ」って、個人的に知り合いだから、連絡を入れていたので。

燃え殻:もうピッタリで。

竹中:みんなそれぞれ印象的な女優さんが出てくるから、どの人に感情移入するかというので全然変わってくるかもしれないですね。

燃え殻:僕は趣里さんは、本当に沁みました。

竹中:いにおさんの書いているセリフがまたいいからね。

燃え殻:そういう自叙伝の宿命ですけど、どこまでが浅野さんの本当なのか。あれはでも起こったことだけじゃなくて、あそこで浅野さんの気持ちの揺らぎみたいなものが本当なんだろうな、というぐらい真に迫るような作品でした。

竹中:僕ももう撮っているあいだは、いにおさんの原作から離れていたので。自分の撮りたい画を中心に撮影していましたし、台本が頭に入っちゃっているもんですから台本を持たないんです。

燃え殻:以前、竹中さんとラジオで話したときに「台本を全部頭に入れて現場に行くんだ」とおっしゃっていましたね。

竹中:台本を介入させるのが嫌なんです。もう撮影に入っているわけだから、役者の芝居を見ていればいいじゃんと。なぜ台本を見るの?と思ってしまう。信頼関係がより強くなるような気がするんです。

漫画原作の映画化、監督の頭の中に見えるもの

竹中は漫画原作を映画化する際の表現方法について語った。

竹中:小説を読んでいるときとかでも絵が浮かんで読むじゃないですか。燃え殻さんの書く文とかも絵がいっぱい浮かんできますから、それと同じように。漫画はすでに絵があるんですけど、特にいにおさんの『零落』は、僕にとってはとても映画的だったというか。印象に残る絵がたくさんあって「このカットを撮りたい」というのが頭のなかにこびりついちゃっているので。それに近い空間をどうやって見つけよう、と。だから背景がなくても自分なりの背景が浮かんで、ちふゆの住んでいるところは、いにおさんの書いた漫画と全然違う背景が浮かんだりするので。ある意味、いにおさんの世界とセッションしている感じ。それに近いですよ。

燃え殻は、斎藤が演じた主人公の役柄と自身を重ね合わせたという。

燃え殻:斎藤 工さんの役柄が漫画もそうですけど、ちょうどものが描けなくなったというか、漫画家としての踊り場にいるような。僕もいま本当に踊り場にいるというか迷い子になっているような感じなんです。それで「うう……」って身につまされるものがあって。あのなかでのセリフがいろいろあるじゃないですか。ものを作ってきた人間の苦悩というか、ああいうのは竹中さんにもありますか?

竹中:苦悩はもう、いくつになってもしているので。それは「こんなはずじゃなかった」というのもあれだし、いいときはみんなワーッてくっついてきてくれますけど。

燃え殻:はは(笑)。

竹中:ちょっとなんか沈むとみんなサーッて離れますし。

燃え殻:沈んだこととかあるんですか?

竹中:ありますよ、しょっちゅう沈んでいるみたいなものですからね(笑)。演劇をやっていても「うわあ、(お客さん)並んでんじゃん」という時期もあったけど「だんだん人が減ってきちゃったなあ」ということもありますしね。そんなこと言ったらでも、あっという間の人生ですから。それを気にしていたらなって。

燃え殻:一つひとつの山を気にせず?

竹中:でも、気にしますけどね。

燃え殻:僕は気になっちゃうんですよ。

竹中:なりますよね。「今日お客さんガラガラじゃん」とか現実的にあるし。「もう、ここから返り咲くことは不可能だろうな」とか思ったりもしますしね(笑)。ある程度あきらめてないと生きていけないですもん。

映画化までの苦労

竹中は映画化について「企画を通すまでが大変」だと話し、苦労について語った。

竹中:斎藤 工が「やる」と言ってくれたからです。いまをときめく斎藤 工が「やる」と言わない限りは誰も集まってこないです。

燃え殻:ありがたいことに、僕も何作か映像化されていますけれど、映像化になる過程とか、なぜそういう風になるのかとか僕はまったくわかっていなくて。

竹中:やっぱり数字をとるとか話題になるとか、それは基本にはあります。でも『零落』は基本的には浅野いにおさんの作品のなかでは地味とされていますけど、僕にとっては全然そういう地味ではない、すごく最高の作品だった。

燃え殻:純文学みたいな漫画ですよね。

竹中:そうです。そういう匂いがすごくして、絶対映画にしたいと思っていたんです。でも「さあ、どう動く」と思っても、自分がやったってなんの話題にもならないし(笑)。

燃え殻:そんなことないですよ。

竹中:僕だともう歳がいきすぎちゃっているし、40代ぐらいの人を主人公にしなきゃいけないというのは自分のなかでありましたから。それなりにインパクトのある人を呼ばないと、俺1人じゃなににもならない、限りなくゼロに近いものになってしまうので。『零落』も浅野いにおがいて、斎藤 工が来てくれた。それでまあ、俺がしがみついて。そうしたらちょうどMEGUMIとドラマが一緒で「私、映画のプロデュースをやってみたいのよね」「じゃあMEGUMI! そのプロデュースして、町田のぞみ(斎藤の妻役)も一緒にやっちゃおうぜ」と言って集結していく。そして「趣里が来てくれたら」って、集めていくんです。それで音楽はドレスコーズ。これだったら百人力だろう!みたいな感じです。もう必死ですからしがみつくんです。

燃え殻:それで企画がドーンと通って。

竹中:そうです。俺1人じゃなんにも。

燃え殻:いやいや。

竹中:竹中が監督して誰が観るんだって。

燃え殻:いやそんなこと(笑)。

竹中:本当ですよ。それは現実ですから。

燃え殻:竹中さんが最初に言ったみたいに「この作品を浅野いにおさんに届けるぞ」っていう、そこまで布陣を組んで「でも原作者に」と思ったんですか?

竹中:つげさんのときもそうでしたけど、俺はお客さんってわからない。いいときはみんなついてきてくれるけど、冷たいですからね。これは言っていいかどうかわからないけど。

燃え殻:いやわかります。

竹中:本当にすぐ飽きられますし。だからお客さんに向かったことがないんです。怖くて、信じられないし。お笑いでデビューしたときに、もう勝手に「この人は面白い人だ」ってみんな思って来ますから、なにもしなくても笑ってくれるので「お客さんて残酷だな」と思いましたもん。すぐこいつら笑わなくなるだろうなって。それがずっとありますからね。

竹中は3月7日(火)オンエアの『BEFORE DAWN』でも、引き続き燃え殻とトークする。オンエアは深夜2時から。放送から1週間はradikoでも楽しめる。

【radikoで聴く】https://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20230308020000

映画『零落』の公式サイトはこちら。

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2023年3月7日28時59分まで

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