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燃え殻が「ちゃんと“寺山修司している感じ”」な言葉に出会った、青森の旅を振り返る

燃え殻が「ちゃんと“寺山修司している感じ”」な言葉に出会った、青森の旅を振り返る

小説家の燃え殻が、古本屋でのトークイベントや「三沢市寺山修司記念館」を訪れた青森への旅を語った。

この内容をお届けしたのは、11月14日(金)放送のJ-WAVE『BEFORE DAWN』(ナビゲーター:燃え殻)。作家・エッセイストの燃え殻による深夜のトークラジオプログラムだ。

急に行くあてもない旅が始まった

先日、燃え殻はひさしぶりに旅へ出た。行き先は青森だった。

燃え殻:「トークイベントをやりませんか?」とメッセージが届いたのは、まだギリギリ暑かったころでした。送り主は青森県八戸にある古本屋「GERONIMO」(ジェロニモ)の店主。青森は酸ヶ湯温泉や青森県立美術館には何度か行ったことがあるんですけど、八戸には人生で行ったことが一度もありませんでした。日々、打ち合わせと作業の連続で今年も遠出という遠出をしたことがほぼなかったので、八戸がどんなところで、ジェロニモという本屋さんがどんな感じのところなのか、ほとんど調べずに行くことを決めました。

10月、燃え殻は東京から新幹線に乗り、青森へ向かった。

燃え殻:八戸駅まで車内でメールの返信などをしていると、その週の予定がどんどんと繰り越しになっていきました。あるものは消滅したりとかして。八戸のイベント終了後は3日間、執筆以外の予定はなくなってしまいました。つまり八戸でのイベント以降、行くあてもない旅に出ていいということになりました。Tシャツにカーディガンのような軽装で八戸のホームに降り立つと、びゅーっと冷たい風が吹いて芯から冷えてしまいました。さすがに10月の青森八戸には薄着すぎたかなあ、と思いながら後悔したのを覚えています。古本屋・ジェロニモは内装がとても凝っていて、ひと言で言えばおしゃれな、都内にあってもおかしくないくらいのこだわりの本屋さんでした。棚のほとんどは店主の本村さんの手作りだということは、あとから聞きました。

          

八戸は初めて来た街という感じがしなかった

ジェロニモは、店内に48個の小型本棚を設置し、その区画を月額制でレンタルできるしくみを整えていたという。

燃え殻:そのスペースは、自由に自分の本などを販売することができるシステムになっていて、たくさんの人に自分で値段をつけたり、本を売ったりする楽しみを知ってもらいたいという本村さんの試みらしいです。ジェロニモは、ほかにもお酒とか飲み物を飲みながら、イスに座ってゆっくり本を読むスペースもありました。そこのイスや棚などを全部のけて僕のイベントをやっていただけることになっていました。縁もゆかりもなかった八戸でのトークイベント。誰か本当に来てくれるのかなと最初は心配でしたが、チケットはありがたいことに完売で、時間になると店内いっぱいに集まっていただけました。気が緩んでここだけの話みたいなことを延々と話してしまった気がします。親子で来ていただいた方や、八戸でサラリーマンをされていて「人生で初めてトークイベントに来ました」と言ってくださった方もいました。特に多かったのが、radikoで『BEFORE DAWN』を聴いているという方です。この放送も聴いてくれているでしょうか。その節はとてもうれしかったです。

          
このトークイベントが始まる前、燃え殻はひとりで八戸の街をぐるぐるとまわっていたという。

燃え殻:ちょうど行ったのが日曜だったので、歩行者天国みたいになっていて、いろいろなお店が出ていました。そこで踊っている高校生の人たちがいたり、バンドをやってる人がいたり、焼きトウモロコシを食べられたり、ごはんがいろいろと振る舞われたりとかしてるところをまわりながらジェロニモにたどり着いたんですけど、なんか初めて来た街という感じがしませんでしたね。「ここ、前に来たんじゃないかな」っていう。初めて行った街じゃないって感じの雰囲気って、たまにありませんか。そんなものを八戸に感じました。また来るなって思ったんですけど、また、ジェロニモさん呼んでください、行きますね。

寺山修司の作品はちゃんと難解でいまでも疑問符がつく

トークイベントの翌日、燃え殻は三沢市にある「三沢市寺山修司記念館」を訪れた。

燃え殻:ここは青い森鉄道・三沢駅から20分くらい車で行った、森の中にあります。なかなか簡単に来られない場所にあるんですけど、僕はコロナ禍の前に何度か来たことがあります。最初の小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』のヒロインの元になった子は、寺山修司のことが大好きでした。僕は彼女に会うまで寺山修司のことは知りませんでした。彼女とは文通で出会ったんですが、彼女の手紙のなかには、いかに寺山修司の詩がすばらしいのか、彼が作った難解な映画をそれでも観るべきなのか、が淡々と書いてありました。ひさしぶりの寺山修司記念館に着いたのが朝9時だったこともあり、お客さんは僕ひとりでした。ゆっくり作品に触れることができました。やっぱりちゃんと難解で、いまでも疑問符がつくばかりの作品を眺めながら、ひさしぶりに彼女のことを思い出していました。

記念館の入り口には、来場者ノートが何冊も置かれていて、燃え殻はそのなかに「寺山修司のことを話せる人がまわりにいません。もしよかったらお話しませんか?」という若い女性の文面を見つけた。

燃え殻:LINEのIDやアドレスも書かれていました。寺山修司には文通がよく似合います。いまの時代でもちゃんと“寺山修司している感じ”が見えて、なんだかうれしくなりました。

人から教えてもらったほうが自分の心には残る

番組後半では、リスナーからのメッセージを紹介した。

私は52歳の専業主婦です。数カ月前にこの番組を知り、燃え殻さんとまさかの同い年でびっくり。急に親近感が湧きました。そこからずっとこの番組を聴いています。私は誰かに燃え殻さんのことを話したくなって、遠くに住む大学生の息子に「こんな人、知ってる?」と訊くと、知っているもなにも、燃え殻さんの本を全部持っているではないですか。すでに私よりもかなりのファンでした。こうして燃え殻さんきっかけに、息子と接点を持てたこともうれしい瞬間でした。

燃え殻:こうやって親子で読めるようなものを僕も書いたんだなって思うとうれしいですね。寺山修司記念館に行ったときに詩集とかをちょこちょこ買ったんですけど、「これ、昔読んだなあ」とか「うちの母が図書館で借りてたな」とか、「全然わかんなかった。いまでもわかんないけど懐かしいなあ。あのとき読んだなあ」みたいな感じで読んでいたんです。時間が経っても、世代が違っても読んでもらえるものであり続けていたらいいな、僕もそんなものが書けたらいいなって思っていたのでうれしいです。ありがとうございます。

私が働くビルのなかには本屋さんがあり、そこに併設する喫茶店のマスターと話すのが最近の楽しみです。ある日、マスターと好きな作家の話になって、お互いに村上春樹さんが好きだとわかりました。しかも、好きになったきっかけが高校時代の彼女に教えてもらった、というところまで同じで、思わず笑ってしまいました。

燃え殻:高校時代に彼女に教えてもらった……僕は高校ではなかったですけど、なんかそうやって、好きな人だったりとか、ふとしたときに「これ読んでみたら?」って人から勧められて、それからその思い出も込みで好きになるってことないですかね。僕は寺山修司とかもそうなんですけど、人から教えてもらったほうが自分の心には残るなっていう人に僕はなってましたね。それがいろんな人に会った証みたいな感じがして、「あの人から勧められた本だな」とか「最後にあの人が読んでた本だな」とかいう本が自分の家の本棚に並んでいると、なんとなくまた引っ張り出して読んだりとか、そういうことあるんですけど。僕も本屋さんが入っているようなビルで働くような生活してたら、きっとその喫茶店のマスターと話したりとかしてただろうなって思います。そういうところが1、2カ所あると本当にほっとしますよね。そのときに、ぴったりの本があるとさらに楽しいですよね。

小説家・燃え殻による、東京の真夜中に綴るトークラジオ『BEFORE DAWN』の放送は毎週金曜の26時30分から。 Spotifyなどのポッドキャストでも配信中。

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