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「さみしさ」はネガティブなことばかりじゃない。ヒグチアイ×燃え殻が語り合う

「さみしさ」はネガティブなことばかりじゃない。ヒグチアイ×燃え殻が語り合う

シンガーソングライター・ヒグチアイと燃え殻が「さみしさ」について語り合った。

2人がトークを展開したのは、J-WAVEで放送中の番組『BEFORE DAWN』(ナビゲーター:燃え殻)。ここでは5月9日(火)のオンエア内容をテキストで紹介する。ヒグチは4月19日に新曲『祈り』をデジタルリリースした。

人たちの切り取り方が本当に好み

今回、初対面となる2人。燃え殻がヒグチの存在を知ったのは、映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』のプロデューサー・山本晃久からの「これ聴いて」というメールだった。

燃え殻:それがヒグチさんの『東京にて』という楽曲でした。「詞がこの映画の世界観にぴったりだから何かで使おうよ」ってプロデューサーが言って。
燃え殻:そのとき僕はバスかなんかに乗ってて、聴いて感動しちゃって。

ヒグチ:ええ、うれしい。

燃え殻:めちゃくちゃいい詞だと思って。山本さんに連絡して「これどうやったら使えるんですか。作法がわからないんですけど」って(笑)。そう言ったら、ここでってことで、最初のティザーで使わせていただいて、本当にぴったりだったなって。

ヒグチ:山本さんがタクシーで流れてきたのを聴いてくれたみたいな話をしていて、たぶんラジオかなにかで聴いてくれたと思うんですけど、そういう風に曲が出会うことが、めちゃくちゃ理想的だなと思って。自分が普通に家で1人で作ってるものが、誰か1人でいる場所で受け取ってもらえるっていう。回り回って1対1になった瞬間に「よかった」って言ってもらえたことがめちゃくちゃうれしかったんです。

燃え殻は「僕も小説を書いていて、いろんな人に読んでもらいたいって思いながら、『自分の物語だと思った』って言ってくれる人に出会うと本当に感動する」とヒグチに同調する。

燃え殻:ヒグチさんの『東京にて』の詞が、山本さんと何度も話をして、そのときも「これって俺たちの映画のために作られたみたいだよね」っていうくらい、いろんな人たちの日常みたいな、もしかしたら誰かにとっては取るに足らないのかもしれないけど、当人たちにとっては一度きりの人生で、一度きりの決断の中を生きていて、それが東京っていう大きい空の下みんないろんなことを考えて生きている。これって『ボクたちは~』の世界じゃんみたいな。

ヒグチ:その通りです。

燃え殻:そんな話をしてました。

ヒグチ:自分も東京に来て15年くらい経つんですけど、その中で見たもの全ての人たちが入ってる感じなので、自分の目から見てるけど、その目も離れてる瞬間があるというか。

燃え殻:人たちの切り取り方が本当に好みでした。

【関連記事】燃え殻、小説を書くきっかけになった「三軒茶屋の夜」を語る

さみしいから人のことを愛しく思ったりする

ヒグチは『東京にて』が生まれたときのエピソードを明かす。

ヒグチ:そのときにすごく好きな人がいて、その人がバスタ新宿って高速バスターミナルからバスに乗って帰っちゃうみたいなときに、私はお見送りしたくなかったんです。お見送りがさみしくなっちゃって、向こうがバスに乗る前に私は先にちょっと違うところに行ったんですけど、その瞬間に『東京にて』を書きたくなって。

燃え殻:いい話。山本さんにメールしなきゃ(笑)。

ヒグチ:そういういろんな人の別れ方とか、自分のちゃんとした別れに対面できないこととか、でも帰る場所が東京にあることとか。そういうことが全部含まれた時間があったんですよね。

燃え殻:だからちょっと情緒がありつつ、ちょっともの悲しい感じがある曲なのかな。

ヒグチ:そうかもしれないですね。悲しさというかさみしさはあると思いますね。

燃え殻は「ヒグチさんの詞って他の楽曲もさみしいみたいなのが(あると思う)」と言う。

燃え殻:ケーキで言うと下地にあって、その上でさみしいけど今日は楽しいことがあったとか、今日は晴れてるみたいな、でもずっと掘っていくとやっぱりさみしいみたいな。

ヒグチ:ずっとさみしい感じってないですか?

燃え殻:ずっとさみしいんですか?

ヒグチ:そうです(笑)。

燃え殻:でもそれがうまくコーティングされて、いろんなかたちで作品になってるなって思っていて、そこが好きなのかもしれないですね。

ヒグチ:さみしいから人のことを愛しく思ったりするじゃないですか。さみしいがネガティブな感情だと思ってたんですけど、「それがあるから世界がカラフルに見えることってない?」っていうことがあるというか。だからさみしいってことがなくならないでほしいなとも思ってるというか。

燃え殻:僕、さみしいレーダーがハンパないので、すごく楽しいときに「これいつか終わる」って。

ヒグチ:私もめっちゃ思います。

燃え殻:だからあんまり楽しいと不安になってくるんです。

ヒグチ:わかります。どうしたらいいんでしょうね。

燃え殻:それは作品にして帰ろうって(笑)。

ヒグチ:そう思います(笑)。

何かを応援することはちょっとおこがましいと思っていた

ヒグチは4月19日に新曲『祈り』をデジタルリリースした。
ヒグチ:この曲は、それこそ今話をした「さみしい」が根底にあるっていうところからちょっと1回出てみたというか。私、人を応援するとか、スポーツ選手でもチームでもいいんですけど、何かを応援することはちょっとおこがましいことだとずっと思ってたんですよ。自分がちゃんと頑張れてないのに人のことを応援してるってところがすごくアンバランスで。ずっと応援できなかったんですけど、コロナになったときに海外のサッカーを観て、そこでめっちゃ頑張ってる人を見ると自分が今どうしようもない状態を忘れられるってことがわかったんです。忘れて2時間くらい応援したあとにちょっと前向きな気持ちになってることがわかったんですよ。

燃え殻:ああ。

ヒグチ:だから根底にあるさみしさを2時間でもいいから忘れる時間があると、そのあとにさみしいに帰ってきても、さみしい+前向きな気持ちになってることがあって、さみしいから一瞬でも逃げられる場所が必要なんじゃないかなって思って。

燃え殻:1回荷物を置く場所というか。

ヒグチ:そうです、逃げるでいいというか、忘れるでいいし、そっちに置いておくでもいいから、1回頭からなくして、ただ没頭して応援するっていうことがそのあとの自分を助けてくれるんじゃないかなって思って書いた曲なので、かなり前向きな、100パーセント前向きな応援歌になってます。

燃え殻:なるほど。

1人でいるときに寄り添える曲を書きたい

燃え殻は、自身の原作のドラマ『すべて忘れてしまうから』(Disney+)の第3話のエンディングテーマに使用されるヒグチの楽曲『しみ』について、こんな質問を投げかけた。
燃え殻:僕の中では『しみ』もさっきの話でいうところのさみしさみたいなところがあって、なんとなく1人の女性がふと思うことみたいな。それもいろんな人たちが思うんだろうなっていう、男でも思うなっていう歌詞だったと思うんですけど、曲と詞ってどっちから先とかあるんですか。

ヒグチ:どっちもありますけど、この曲に関しては打ち合わせをしたときに女性のディレクターさんが熱心に語ってくれて。世の中で謎の女みたいな感じで言われてる、「この人、ミステリアスな人だよね」って感じで言われている人でも普通の生活をしているし、その中に当たり前にみんながやってるようなこともやってるし、汚いこともきれいなことも全部やってる。でもその一面だけ見たら謎の女なんだよね、みたいな話を力説していただいて。それめっちゃわかるなって。男の人から見た女の人よりも、女の人から見たミステリアスな女の人ってけっこう透けて見える部分がいっぱいあるよねっていうことになって、そこをすくいたかったってことがあるんですよね。

燃え殻は「『しみ』だけじゃなくて、ヒグチさんの曲はそこも根底にあるような気がする」と表現する。

燃え殻:1曲聴くと物語を読んだみたいな。その人の途中の物語から途中の物語までを読んだみたいな感じがするんですよね。たぶんそういうようなことを意識して書いているのかなとか思いました。

ヒグチ:そうですね。自分のことがほとんどですけど、そういう「この面は見えるけど本当はこう思ってるんじゃないか」とか、私の曲って絶対に1人で聴く曲なんですよね。たぶん。誰かとイヤホンを半分こにして聴く曲じゃないというか(笑)。

燃え殻:それもいいかもしれないけどね。一緒に泣くみたいなね。

ヒグチ:でも一緒に泣いてるけど、別々のところに刺さってるみたいな。2人いるのに孤独を感じながらが泣いてるとか。それに近い気がしていて、だから1人でいるときに寄り添える曲を書きたいなっていうのはずっと思っていますね。

ヒグチは5月13日(土)から東名阪をまわるライブ「HIGUCHIAI band one-man live 2023 [産声]」を開催。

ヒグチアイの最新情報は、公式サイトまで。

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