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燃え殻「ここまで揃うと、なかなか忘れることができません」 母と過ごしたクリスマスイブのこと

燃え殻「ここまで揃うと、なかなか忘れることができません」 母と過ごしたクリスマスイブのこと

小説家の燃え殻が、母とのクリスマスの思い出を語った。

この内容をお届けしたのは、12月19日(金)放送のJ-WAVE『BEFORE DAWN』(ナビゲーター:燃え殻)。作家・エッセイストの燃え殻による深夜のトークラジオプログラムだ。

「昔、クリスマスに映画を観たことを覚えてる?」

「今日はクリスマスの思い出を語りたい」とナビゲーターの燃え殻は切り出した。

燃え殻:父と母が同時に病院に入院するという、人生でなかなかない経験を2025年にしました。妹と手分けをして両親に付き添って、いまのところなんとかやっております。僕は主に母に付き添って病院に一緒に行ったり、自宅で見守ったりしていました。昼間、ステロイドが効いていてずいぶん体が楽になった母が、ぼんやり窓の外を眺めているときがありました。しばらく僕も何も発することなく、一緒に外を眺めていました。外はきっと寒いんですけど、天気がよくて日差しが暖かい日でした。

肺炎も患っている母は、白湯をひと口飲みながら、こう言ったという。

燃え殻:「あなた、こんな昼間の時間に一緒にいるなんて、ほんとひさしぶりね」と。「そういえば、そうかもなあ」と初めて自覚的になりました。テレビの仕事をしていたときも、もの書きを始めた9年くらいは、なんだかんだで忙しくしてしまって、昼間に母と言葉を交わすなんてことは、ほぼ一度もなかった気がします。「こういう時間を持てたのはいいことだったわ」と母が言ってくれました。 2025年が終わるまで1カ月を切りました。振り返れば何ごともあっという間に感じるものですが、それにしてもあっという間だなあと思っています。

まだ窓の外を眺めていた燃え殻の母が、「昔、クリスマスに映画を観たのを覚えてる?」と口にする。

燃え殻:いろいろなことを忘れてしまいがちな僕ですが、ぼんやりその記憶はありました。「ああ、懐かしいね」と僕は返します。ずいぶん前の記憶です。親戚の見舞いか、祖母か祖父の見舞いの帰りに、母とふたりで用事を済ませて桜木町まで戻ってきます。そこでお腹が空いていることに気づいて、何か食べて帰ろうかという話になります。その日はお見舞い以外の予定は何もありませんでした。すぐに入れそうな店を探しながらイセザキ・モールを行ったり来たり、道を外れたり戻ったりしていました。結局、小さい洋食屋でナポリタンをふたりで食べた気がします。その日はクリスマスイブでした。クリスマスイブに母親と身内の見舞いに行って、そのあとにナポリタンを食べるというのは、我ながらちょっと心配になります。

お腹がいっぱいになったあと、燃え殻と母は、周辺がクリスマス仕様になっているイセザキ・モールを歩いた。

燃え殻:ふと映画館の前を通りかかりました。そのとき「映画でも観ていく?」と僕から言いました。母と映画館に行くのは幼いころ、家族全員で映画を観たとき以来です。母は驚いて「いいけど、忙しくないの?」とか言います。そのとき僕は、いまこのときしか、「人生で母と一緒に映画を観るなんてことは起きない」と、突然、確信してしまいます。上映時間を確認すると、ちょうどいい映画が1本ありました。その映画は『レインマン』。名画座のような映画館が昔の映画をかけていました。クリスマスイブに母と『レインマン』。ここまで揃うと、なかなか忘れることができません。あの日のことを穏やかな日差しのなかで母としばらくぼんやり話しました。「振り返れば何ごともあっという間だね」なんて話をしました。これから人生で『レインマン』を観るたびに、僕はあの日のことを思い出すと思います。日差しに当たりながら、母と一緒に語らった、あの何気ない午後のことを思い出す気がします。

「本当も嘘も曖昧な世界で、いま僕は働いている」

曜日も朝も夜も曖昧な世界で働いている燃え殻。行事とは無縁で、2025年のクリスマスイブは東京郊外で仕事だという。

燃え殻:ゆるい旅エッセイの連載を12月から始めるんですけど、「そのことがエッセイで書けるな」ぐらいに思って、ちょっと喜んだぐらいです。『theLetter』というウェブサイトで毎日、日記を発表することになりました。日記なので今日1日のあったことを基本は書くんですけど、もちろん全部は書きません。いろいろ問題があります。どこまで書いて、どこまで書けないか、それがまだつかめてない気がします。書き過ぎたり、書かな過ぎたりします。日常と私情を切り売りしながら生きているので、どうにかバランスを取っていきたいなと思っています。

燃え殻は、以前エッセイで、まったく予定のなかったクリスマスのことを書いたことがあったと言う。

燃え殻:もちろん、いろいろ伏せて書きました。すると、幼馴染から「あの話はクリスマスじゃなくて、年越しだったんじゃないか?」と雑誌に載ってすぐメールが届いたことがあります。そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれません。「あの原稿はあれでいいんだ」というようなことを返した気がします。最後まで幼馴染は納得してくれなかった気がします。2025年のクリスマスは東京郊外で仕事の予定です。年末もないかもしれません。曜日も朝も夜も、本当も嘘も曖昧な世界でいま、僕は働いています。

最近の「エッセイブーム」をどう思う?

番組後半では、リスナーから届いた質問に燃え殻が答えた。

いま人生がとってもつらいので、過去に逃げてばかりいます。過去を振り返るとか過去に執着するとかって、マイナスに捉えがちですが、楽しかったことや楽しかった人たちとの日々を思い出すのって、いまの救いになると思うんですが、どう思いますか? 家族との思い出、友人たちと騒いだ日々や、過去に付き合っていた人たちとの楽しかった日々、外国で暮らした日々。楽しく思い出せる記憶があるのは幸せ。でも、それに比例していま現在のつらさが際立ってしまうというのもありますが。

燃え殻:わかりますね。過去に逃げてばかり。僕はいま起きたことを過去のなかで探って、「あのときと一緒だな」とか「あのとき、こんなこと言ってたな。それがいまにつながってるのか」と考えるのが癖なんです。嫌いじゃないんですよね。つらいときも「あのときのつらさと一緒だな」とか「あのときのほうがつらかったな」とか思って、いまの痛みを少し止めるみたいな。「いろいろあるよ」って言うみたいな。

燃え殻は「それが僕は、どんな文章を書いていても根底に流れているような気がして」と続ける。

燃え殻:過去を振り返りながら文章を書いている気がするんですよね。僕の捉え方では、人生っていうものも、後ろを振り返りながら常々来た道を見ながら、「あ、間違ってない」もしくは「あ、こうやってこうやっていまここにいるんだな」って思うほうが落ち着く。「昔のほうがよかったな」って思うかもしれないんですけど、昔のつらかったこととかも、ふと思い出すっていうのはいいですよ。「あのときよりいまのほうがいいじゃん」とか「あのときもっとやばかったけど、結果、越えられたよね」とか。そうやって行ったり来たりしながら少しずつ前に進んでいくみたいな。そういう感じでいいんじゃないかなって思うんですけど。また行き詰まって立ち止まったらメッセージを送ってみてください。頑張ってくださいね。

noteでエッセイを書いています。エッセイがいまブームだと思います。燃え殻さんもそのブームの立役者だと思います。最近のエッセイブーム、どう思いますか?

燃え殻:エッセイブーム……うん、流行ってますよね。いろんな人たちが「文学フリマ」とかでもたくさんエッセイを書いたりとか、noteでも本当にいろんな人たちが書いたりしていますよね。読みたいって思うのか、書きたいって思うのか。いまの時代だったら書きたいってところから始まって、「あ、なんかこういうもの書きたい」とか「こういう人のこういう感じいいな」みたいな。そういうものが書きたいもののひとつに自分のものが入ったらうれしいし。こんなすごい人生を生きてきたっていう人がエッセイを書いたりとか、「私はこんなに変わってるんですよ」っていうことを書いたりするエッセイとか多いと思うんですけど、肩書きがけっこう派手みたいな。僕はもう真逆になっちゃってるんで、「このような出来事だったら俺にもあった、私にもあった」っていうことを、どうやって細部まで再現しながら書けるかなってことをやってます。読んだ人が「あ、俺も書ける」「私も書ける」って思ってくれたらうれしいなって思ってますし、そういう文章を僕も読みたいと思ってるんだと思います。なので、いまエッセイブームだとしたらうれしいなっていうのがひとつと、気が向いたらでいいんですけど僕のエッセイも読んでみてください。きっと、もっと書きたくなるはずだって僕は確信しながら書いてます。最近好きなエッセイなんだろうな。ジェーン・スーさんとか読んでますよ。いろいろと年末にかけて本をセレクトしているんで、エッセイ読んでみようかなって思います。

小説家・燃え殻による、東京の真夜中に綴るトークラジオ『BEFORE DAWN』の放送は毎週金曜の26時30分から。 Spotifyなどのポッドキャストでも配信中。



12/26(金)のオンエアは、投資家でアルファ・アドバイザリー株式会社 代表取締役の田中渓さんがゲストに登場する。オンエアから一週間はradikoタイムフリー機能で再生可能だ。

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