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「お母さんは結婚して幸せだったの?」角田光代、作家の仕事を反対する母に伝えたこと

「お母さんは結婚して幸せだったの?」角田光代、作家の仕事を反対する母に伝えたこと

J-WAVEで放送中の番組『RADIO SWITCH』。この番組は【Listen to the Magazine, Reading the Radio 雑誌を聴く、ラジオを読む。】をコンセプトに、カルチャーマガジン『SWITCH』、旅の雑誌『Coyote』、新しい文芸誌『MONKEY』の3つの雑誌とゆるやかに連動しながらお送りしています。

1月19日(土)のオンエアでは、『SWITCH』編集長・新井敏記さんによる作家・角田光代さんへのロングインタビューをお送りしました。『対岸の彼女』や『八日目の蝉』『紙の月』など、数々のヒット作を世に送り出してきた角田さん。子ども時代に2年間で60冊も書いた作文ノートの話や、母親に「作家をやめてほしい」と言われていたことなど、たっぷり伺いました。


■派遣社員の仕事が楽しすぎて…

角田さんは『SWITCH』の関東で、トラベルエッセイ「オリオリ」を連載しています。

新井:連載、楽しみにしています。書いていて、いかがですか。
角田:以前ほど旅行に行けなくなってしまって、正直、書くことがないんですよね……。
新井:作家によって、旅のスタイルはさまざまですよね。角田さんの旅は生活の延長として、人々の生活に入っていく感じがあって好きなんです。長い手紙を受け取っているかのようですごく嬉しい。あまり旅に行けなくなってしまっても、きっとああいうスタイルは残っていくんじゃないかなという気がします。
角田:旅って、時代によって変わりますよね。コンピュータや携帯電話が生まれたことで、本当に変わった。20数年前の旅のことを話しても伝わらない部分も多い気がします。

角田さんに、旅の思い出を伺いました。初めてパックツアーではない旅行をしたのは24歳のとき。タイを5週間かけてまわったそうです。

角田:落とした財布を知らない人に拾ってもらったり、道を訊いたら目的地に連れて行ってくれたり、信じられないくらい、人の綺麗なものをたくさん見ました。旅の最後にマラリアになって寝込んだんですけど、それもあって、忘れがたい思い出ですね。

タイへの旅行は、旅エッセイを書くことが目的ではなく、自分に踏ん切りをつけるためだったと、角田さんは語ります。24歳の角田さんは、どんな状況だったのでしょうか。

角田:23歳のときに作家としてデビューしたんですが、すぐに本が出たりしないじゃないですか。だから、生活費がなくなって、衛星放送の「WOWWOW」で、派遣社員として働き始めたんです。一年働いたら、楽しすぎて。派遣社員生活が自分に合い過ぎていて、辞めたくなくなってしまったんです。
新井:何が楽しかったんですか?
角田:同じ場所に行って、同じ仲間に会って、みんなで「お昼ご飯何にする?」って相談したりして、仕事のことを話しながらみんなで食べて、夜になっていく……という、全てが楽しかったですね。仕事も有能だったんです(笑)、というか、自分で思うよりはちゃんとできたんです。「これはまずいな」と思って。書くよりもアルバイト代の方が稼げるわけだし、書くほうは書いても書いても書き直しを命じられていて、「このままでは派遣社員になってしまう」と。7歳から作家になろうと思ってきたのに、このままではダメだと思って、アルバイトを辞めるために5週間の旅を設定したんです。自分のなかでいろいろと踏ん切りをつけるための旅で、エッセイなどの形にしようとは一切思っていませんでした。



■「作文を書いたときに革命が起きた」

角田さんが作家を志したきっかけは、小学校1年生で作文を書くことを覚えて、「革命が起きたような楽しさがあった」からだそうです。

新井:どんな革命が起きたんですか?
角田:書けば伝わる、ということです。喋るのが非常に苦手だったので、喋らなかったんです。でも、そうすると誰も何もわかってくれない。世界って、そういうものだと思ってたんです。誰かが気づいてくれるまで、じっとりと念を送るしかないようなものだと。でも、そうじゃない。言葉にして、文章にして、それを読んでもらえば伝わるということに、異様なくらい興奮しまして。

その作文が褒められ、「本を読むのも書くのも好き」となったとき、職業として作家しか浮かばなかったと角田さん。初めて作文を褒めてくれたのは、当時の国語の先生でした。

角田:海に行ったときの作文で「波がレースのようだった」と書いたところに、一文字ずつマルをつけてくれて。「すごく表現が美しい」と書いてくれたのが最初じゃないかと思います。
新井:それによって希望の扉が開いた感じですか?
角田:それはもう嬉しくて嬉しくて。作文を書きまくりました。

2年間で60冊もの作文ノートを書いた角田さん。しかし、小学校3年生のときに先生が変わってしまいました。その先生にも作文を持って行きましたが、嫌がられてしまい、6年生まで書かなくなったそうです。
新井:濃密な2年間だったんですね。作文では、「悲しい物語ではなく楽しい物語を書きたい」と書いていたそうですが、それは「じっとりとした自分を救いたい」という気持ちがあった?
角田:いいえ。それは、いいことを書いて先生に気に入られようとする、ずるい感じですね。

『SWITCH』編集長・新井敏記さんによる作家・角田光代さんへのロングインタビュー


■母に「はやく作家をやめてほしい」と言われていた

小さな頃から文才を発揮していた角田さんですが、母親は「作文をあまり書かないでほしい」と言っていたそう。作家になってからも、「やめてほしい」という態度だったとのこと。

角田:作家は不安定な仕事なので。昭和一桁の親なので、前時代的というか、普通に結婚して家庭に入って子どもを育ててほしかったんです。そのためには、作家なんて名乗っていたら、相手も寄ってこないし。ずっと言われていたのは「小説を書かないでほしい」とかではなくて、「ちゃんと就職をして」って。
新井:角田さんは創作する上で、朝から仕事場に行って、17時まで書くというスタイルをとっていらっしゃいますよね。それは、親の影響もあるのでしょうか。
角田:ぜんぜんないです(笑)。30歳からそのスタイルにしたんですけど、それは当時付き合っていた人がサラリーマンだったので、彼の仕事終わりにデートするには時間を合わせないとなと思って変えたんです。親の縛りみたいなものは、私にはないですね。
新井:そうなんですか。作家という職業は名誉ではないかと思うので、「やめてほしい」と言うのは、独特な感じがしますね。テレビなどの娯楽がない時代は特に、みんなが待ち望んでいたから本も売れていましたし。
角田:うーん。私は、「子どもには、小説なり音楽なり何でも好きなことやってほしい」という考え方はむしろ今日的な親のあり方のような気がします。一昔前は、「音楽をやりたい」なんて言ったら、「とんでもない、この不良が!」みたいな世界だったし。それと同じで、「小説を書いて生きていこう」というのに対しても、「もうちょっと地に足の着いた生き方をしなさい」と言う親が多かったと思います。

そんな言葉に対して、角田さんはどういう反応をしていたのでしょうか。

角田:30歳になるくらいまでは、「お母さんは、結婚して幸せだったの?」って訊いてました。「あんまり幸せそうに見えないけど、幸せだったからそうしろと言っているのか?」と。「もしそうじゃないのなら、そういうことを違う人間に押し付けるのはおかしいと思います」という話をしてました。
新井:それはお母さんからしたらつらいですね。
角田:ぜんぜんつらくないですよ。言葉が通じると思ってちゃんと話そうとしていたんですけど、30歳くらいで「あ、言葉が通じない」と思って一切言うのをやめたんです。

「亡くなったときに、お家から本が出てきました」と話す角田さん。母親が自分の作品を読んでいるとは思っていなかったようです。


■太宰治の好きなところ「よくぞこういう感情を…」

好きな作家についても訊きました。「訊かれた人によって答えを変える」という角田さん。新井さんには「太宰治と開高健と内田百閒」と答えました。

新井:たとえば太宰の作品だったら、何を選んでもらえますか?
角田:私が一番好きなのは『女生徒』です。
新井:理由は何ですか?
角田:太宰治はもともと好きなんです。一時期離れたけど、もう一回好きになって。『女生徒』は女性目線で書かれた短編が集められているんですけど、同性として、女性の目線で書く文章が本当に上手いと感じるんです。そういうことができる男性作家は、あんまり思い浮かばなくて。だから非常に印象に残っています。
新井:感情とか動作に嘘がないということですか?
角田:そうですね。「よくぞこういう感情を知ってるな」って思います。

オンエアではこの他にも、幼少期にのめりこんだ本の話や、角田さんが参加した那覇マラソンについてなど、さまざまな話に花が咲きました。

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【番組情報】
番組名:『RADIO SWITCH』
放送日時:土曜 23時-24時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/radioswitch/about.html

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