歌人で作家の小佐野彈(おさの・だん)さんが、自身のセクシュアリティに悩んだ時期を振り返り、短歌を詠み始めたきっかけを語った。
小佐野さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『START LINE』のワンコーナー「CITROËN AWESOME COLORS」。ここでは、1月14日(金)のオンエアをテキストで紹介する。この日はナビゲーターの長谷川ミラがお休みのため、ミュージシャンの小宮山雄飛が番組を担当した。
小佐野さんは幼稚舎から慶應義塾に通い、中等部在学中に短歌制作をスタート。大学院進学後に台湾で起業した経歴を持つ。
小宮山:今はちょうど日本に帰国している時期なんですか?
小佐野:そうですね。8月から一時帰国をしていまして、本当は11月末に台湾に戻るつもりでしたが、コロナや仕事の関係で、戻るのが延びに延びている状況です。
小宮山:『僕は失くした恋しか歌えない』の主人公は“超セレブ”という設定ですけども、自伝的小説ですから小佐野さんがモデルなんですよね?
小佐野:自分が超セレブかどうかはわからないんですけど。
小宮山:とてつもないセレブだって情報がきてますよ(笑)。
小佐野:セレブって最近出てきた言葉だと思うんですよね。ただ、当時の自分が恵まれた境遇にいる自覚はありましたけど、いわゆる「セレブ」かどうかは……。慶應義塾の幼稚舎を通っていたって言うと「送り迎えが来るんでしょう?」とか「給食がすごいんじゃないの」と訊かれるんですけど、そんなことはなかったですよ。公共交通機関しか使っちゃダメだってルールがあったし、月のお小遣いも数万円とかではなく500円でしたから。
小宮山:ええ!? 月500円は少ないほうじゃないですか?
小佐野:けっこうやりくりを頑張っていましたね。
小宮山が「聞くところによると専属シェフがいるとか?」と問いかけると、小佐野は「いや、いないです」と笑う。
小佐野:でもずっと勤めてくださっているお手伝いさんはいます。うちは母子家庭で、母ときょうだいと祖父母で暮らしていたんですけど、誰も料理ができなかったんですね。だから必然的にお手伝いさんに作ってもらうか、店屋物を頼むかの選択でした。
小宮山:そういうことだったんですね。
小佐野:家で会食をしたりホームパーティをしたりする際は、よくお願いをしているシェフの方に来ていただいていますが、家にずっといるわけではないですね。
小佐野:第二次性徴が始まったぐらいの頃、「自分が他と違う」と気付いたんですね。慶應義塾に通っている生徒はよくも悪くも比較的豊かで似た家庭環境の人が多くて、同質性が強い場所だったんですね。そのなかで「俺が好きなのって男じゃね?」って気付くのは恐怖でした。あのときの感覚は今でも思い出しますね。
小宮山:私立で同じような環境のなかで違いに気付くと、プレッシャーとかいろんなことを感じたわけですね。
小佐野:そうですね。それに慶應ってけっこう体育会系なノリもあるんですよ。ラグビーとかアメフトとか、スポーツも盛んなので。
小宮山:いわゆる「慶応ボーイ」と呼ばれる存在ですね。
小佐野:幼稚舎と同じく、慶応ボーイもある意味、画一的なイメージを持たれがちなんですよね。そのなかで、自分はまったく慶応ボーイらしくないわけですよ。好きな相手は同性だし、スポーツに興味がありませんでしたから。もっと大変な境遇な方がいらっしゃるので、生きづらいって言葉を容易に使うものではないと思うのですが、自分にとってはツラい時期でした。
小佐野:(最初は)詩を書くって恥ずかしいという感情が出てきちゃったんですよね。日記も考えたんですけど、リアル過ぎるかなって思って。事実を記すってなると、誰かに読まれたときにまずいじゃないですか。そんななか、自分が14歳になる1997年5月に俵 万智さんの歌集『チョコレート革命』(河出書房新社)が発売されたんですね。僕は学校の帰り道によく本屋に寄っていて、そこで発売間もない『チョコレート革命』が平積みになっていたんですよ。装丁にチョコレートの写真が使われていたので気になって開いたら、ある短歌が書かれていたんです。
「知られてはならぬ恋なれどまた少し知られてみたい恋愛」(『チョコレート革命』より)
小佐野:そのとき僕は、ちょうど同性の先輩に恋心を抱いていたときだったんですよ。だから、まさにこの短歌が刺さりました。短歌に対しては国語の授業でなんとなく難しいイメージを抱いていたのですが、俵 万智さんの短歌のおかげで現代語で口語でわかりやすく表現ができるんだって知りました。中学生にとって本の価格1000円は決して安くはなかったんですけども、すぐに買いました。
『チョコレート革命』に大きな影響を受けた小佐野さんは、書籍を購入した夜から見よう見まねで短歌を詠み始めたそうだ。
小佐野:それが短歌を詠み始めたきっかけです。誰かに見せることは考えていなくて、自分の気持ちを何かの形で吐き出したかったんですね。あと、『チョコレート革命』のあとがきに、端的に言うと「真実と事実は違う」ってことを書かれていたんですね。「真実」には「こころ」とルビがふってあって、「真実を書くための嘘を私はとことんつく。短歌においては」みたいなことが書かれていました。それを読んで、もし誰かに短歌を見られても「嘘なんで」って予防線を張れるなって思いました。親に何を書いているか訊かれても「短歌だよ」と返せますし、「偉いわね」って言われそうだし(笑)。だから短歌はちょうどよかったんですよ。
小佐野:作家と会社を経営している関係上、生活リズムがとにかく不規則なんですよ。寝る時間も毎日違って。普段のなかのくつろぎ時間と言ったら、寝る前に携帯でBL漫画を読んでいるときですかね。
小宮山:寝床に入ってから携帯を触るのって、睡眠時間が削れませんか?
小佐野:不健康ですよね。だけど、タバコを吸いながら携帯でBL漫画を読むのが、自分にとって一番のくつろぎ時間なんですよ。
小宮山:ほかにもくつろぎ時間に欠かせない場所はありますか?
小佐野:今、とても温泉にハマっています。僕はもともと火山や地質が大好きで、小説のなかにもたまに火山の描写を書いたりしているんですね。
地質に興味を持つにつれ、温泉にも興味が出てきた小佐野さんは、各地の温泉を巡りながら「この土地でこの温泉が出る理由」を分析するそうだ。
小宮山:通常の温泉のくつろぎ方とはちょっと違いますね(笑)。泉質とかが気になっちゃうんですね。
小佐野:実は今日も軽井沢の温泉に行ってから直接スタジオに来ました。
『START LINE』のワンコーナー「CITROËN AWESOME COLORS」では、自分らしく輝くあの人のストーリーをお届け。放送は毎週金曜日の18時10分から。
小佐野さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『START LINE』のワンコーナー「CITROËN AWESOME COLORS」。ここでは、1月14日(金)のオンエアをテキストで紹介する。この日はナビゲーターの長谷川ミラがお休みのため、ミュージシャンの小宮山雄飛が番組を担当した。
自伝的小説の主人公は“超セレブ” 本人は?
2021年11月、小佐野さんが悩み、葛藤し続けてきた自身のセクシュアリティをモデルにした自伝的小説『僕は失くした恋しか歌えない』(新潮社)を出版。中高生をはじめ、さまざまな世代の人たちから注目を集めた。小佐野さんは幼稚舎から慶應義塾に通い、中等部在学中に短歌制作をスタート。大学院進学後に台湾で起業した経歴を持つ。
小宮山:今はちょうど日本に帰国している時期なんですか?
小佐野:そうですね。8月から一時帰国をしていまして、本当は11月末に台湾に戻るつもりでしたが、コロナや仕事の関係で、戻るのが延びに延びている状況です。
小宮山:『僕は失くした恋しか歌えない』の主人公は“超セレブ”という設定ですけども、自伝的小説ですから小佐野さんがモデルなんですよね?
小佐野:自分が超セレブかどうかはわからないんですけど。
小宮山:とてつもないセレブだって情報がきてますよ(笑)。
小佐野:セレブって最近出てきた言葉だと思うんですよね。ただ、当時の自分が恵まれた境遇にいる自覚はありましたけど、いわゆる「セレブ」かどうかは……。慶應義塾の幼稚舎を通っていたって言うと「送り迎えが来るんでしょう?」とか「給食がすごいんじゃないの」と訊かれるんですけど、そんなことはなかったですよ。公共交通機関しか使っちゃダメだってルールがあったし、月のお小遣いも数万円とかではなく500円でしたから。
小宮山:ええ!? 月500円は少ないほうじゃないですか?
小佐野:けっこうやりくりを頑張っていましたね。
小宮山が「聞くところによると専属シェフがいるとか?」と問いかけると、小佐野は「いや、いないです」と笑う。
小佐野:でもずっと勤めてくださっているお手伝いさんはいます。うちは母子家庭で、母ときょうだいと祖父母で暮らしていたんですけど、誰も料理ができなかったんですね。だから必然的にお手伝いさんに作ってもらうか、店屋物を頼むかの選択でした。
小宮山:そういうことだったんですね。
小佐野:家で会食をしたりホームパーティをしたりする際は、よくお願いをしているシェフの方に来ていただいていますが、家にずっといるわけではないですね。
同質性が高い環境下で“他者との違い”に苦しんだ
作中では主人公が自身のセクシュアリティに悩むシーンが描かれており、小佐野さんも生きづらさを感じていた時期があったようだ。小佐野:第二次性徴が始まったぐらいの頃、「自分が他と違う」と気付いたんですね。慶應義塾に通っている生徒はよくも悪くも比較的豊かで似た家庭環境の人が多くて、同質性が強い場所だったんですね。そのなかで「俺が好きなのって男じゃね?」って気付くのは恐怖でした。あのときの感覚は今でも思い出しますね。
小宮山:私立で同じような環境のなかで違いに気付くと、プレッシャーとかいろんなことを感じたわけですね。
小佐野:そうですね。それに慶應ってけっこう体育会系なノリもあるんですよ。ラグビーとかアメフトとか、スポーツも盛んなので。
小宮山:いわゆる「慶応ボーイ」と呼ばれる存在ですね。
小佐野:幼稚舎と同じく、慶応ボーイもある意味、画一的なイメージを持たれがちなんですよね。そのなかで、自分はまったく慶応ボーイらしくないわけですよ。好きな相手は同性だし、スポーツに興味がありませんでしたから。もっと大変な境遇な方がいらっしゃるので、生きづらいって言葉を容易に使うものではないと思うのですが、自分にとってはツラい時期でした。
短歌を詠み始めたきっかけ
自分のセクシュアリティに悩んでいた頃、小佐野さんは自身の気持ちを表現する方法として「短歌」を選んだ。その経緯をこう話す。小佐野:(最初は)詩を書くって恥ずかしいという感情が出てきちゃったんですよね。日記も考えたんですけど、リアル過ぎるかなって思って。事実を記すってなると、誰かに読まれたときにまずいじゃないですか。そんななか、自分が14歳になる1997年5月に俵 万智さんの歌集『チョコレート革命』(河出書房新社)が発売されたんですね。僕は学校の帰り道によく本屋に寄っていて、そこで発売間もない『チョコレート革命』が平積みになっていたんですよ。装丁にチョコレートの写真が使われていたので気になって開いたら、ある短歌が書かれていたんです。
「知られてはならぬ恋なれどまた少し知られてみたい恋愛」(『チョコレート革命』より)
小佐野:そのとき僕は、ちょうど同性の先輩に恋心を抱いていたときだったんですよ。だから、まさにこの短歌が刺さりました。短歌に対しては国語の授業でなんとなく難しいイメージを抱いていたのですが、俵 万智さんの短歌のおかげで現代語で口語でわかりやすく表現ができるんだって知りました。中学生にとって本の価格1000円は決して安くはなかったんですけども、すぐに買いました。
『チョコレート革命』に大きな影響を受けた小佐野さんは、書籍を購入した夜から見よう見まねで短歌を詠み始めたそうだ。
小佐野:それが短歌を詠み始めたきっかけです。誰かに見せることは考えていなくて、自分の気持ちを何かの形で吐き出したかったんですね。あと、『チョコレート革命』のあとがきに、端的に言うと「真実と事実は違う」ってことを書かれていたんですね。「真実」には「こころ」とルビがふってあって、「真実を書くための嘘を私はとことんつく。短歌においては」みたいなことが書かれていました。それを読んで、もし誰かに短歌を見られても「嘘なんで」って予防線を張れるなって思いました。親に何を書いているか訊かれても「短歌だよ」と返せますし、「偉いわね」って言われそうだし(笑)。だから短歌はちょうどよかったんですよ。
寝る前の読書タイムがくつろぎ時間
「CITROËN AWESOME COLORS」では、ゲストに「くつろぎ時間の過ごし方」を訊く。小佐野さんは寝る前にBL(ボーイズラブ)漫画を読むと癒されるという。小佐野:作家と会社を経営している関係上、生活リズムがとにかく不規則なんですよ。寝る時間も毎日違って。普段のなかのくつろぎ時間と言ったら、寝る前に携帯でBL漫画を読んでいるときですかね。
小宮山:寝床に入ってから携帯を触るのって、睡眠時間が削れませんか?
小佐野:不健康ですよね。だけど、タバコを吸いながら携帯でBL漫画を読むのが、自分にとって一番のくつろぎ時間なんですよ。
小宮山:ほかにもくつろぎ時間に欠かせない場所はありますか?
小佐野:今、とても温泉にハマっています。僕はもともと火山や地質が大好きで、小説のなかにもたまに火山の描写を書いたりしているんですね。
地質に興味を持つにつれ、温泉にも興味が出てきた小佐野さんは、各地の温泉を巡りながら「この土地でこの温泉が出る理由」を分析するそうだ。
小宮山:通常の温泉のくつろぎ方とはちょっと違いますね(笑)。泉質とかが気になっちゃうんですね。
小佐野:実は今日も軽井沢の温泉に行ってから直接スタジオに来ました。
『START LINE』のワンコーナー「CITROËN AWESOME COLORS」では、自分らしく輝くあの人のストーリーをお届け。放送は毎週金曜日の18時10分から。
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小宮山雄飛