2020年度の入学に向けた大学入学共通テストは、年明け1月18日(土)、19日(日)に行われる。ところが11月1日に、2021年度の入学に向けた共通テストから実施する予定だった、民間の英語試験(英検、TOEFL、TOEICなど)の導入延期が発表された。さらに数学や国語の記述式回答にも問題が指摘されていて、延期が検討されている。
「共通テスト改革」の実施1年前というタイミングで、なぜ「延期」が決定、検討される事態になっているのか? 12月5日(木)オンエアの『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」で、堀 潤がジャーナリストの小林哲夫さんに話を訊いた。日本の教育や人材育成のレベルを高めるにはどうすればいいのか?
■なぜ民間の試験を利用? 国が主体的に動くべき
英語の民間試験の導入について、小林さんは今後のグローバル化に対応するための教育のあり方として「指導要領を変えるよりも、試験を変えてしまったほうが(英語を使える人材の育成は)早い」という考えがあったのではないかと推察。産業界や塾・予備校業界からの入れ知恵もあったのではと話したが、ここで堀はそもそも国が主体的に動かないことに対して不満を述べた。
堀:なぜわざわざ、数万円規模のお金を使って、民間の試験を利用しなければいけなかったんでしょうか。本当だったら教育に関わる費用は、なるべく負担を減らして……。
小林:国がやるべきですよね。
堀:ですよね。国がしっかり作る力があるのに、なぜそういう舵取りにならなかったんでしょうか。
小林:国の教育にかける予算を減らそうとしているからでしょう。
堀:おかしな話ですよね。これだけ少子高齢化で、少子化対策や「労働人口を増やそう」と言っているのに……。誰か大人たちが偏ったところで儲けようとしているから、こんなことになっちゃうんじゃないかって、悲しすぎます。
■教育の現場にも「縦割り」の弊害
小林さんは、日本では「大学をよくするためには、トップの大学をよくしよう」という発想が根強いとして「全体の底上げという発想がない」と指摘。その発想があれば、4技能(聞く、話す、読む、書く)といったことに柔軟に対応できるような試験ができると説明した。
堀:小学校、中学校の義務教育課程のさらなる充実。そして高等教育の格差が広がるなかでどのようにして機会を均等にしていくか、やることがいろいろとあると思いますが、「テストをするかしないか」みたいな話で右往左往している場合じゃないですよね?
小林:試験である程度決められることもあるでしょうけど、その前に今の小、中、高校の教育制度や使っている教科書、教育内容を改めたほうが、自分でものを考えたり、記述にも対応できます。「英語を話せる」といったことを入試に頼らないで変えていくことが筋であって、入試で上から変えても無理でしょう。
堀:もし、本当に大学を活性化させたいのであれば、きちんと研究費の手当てをするべきです。アメリカはスタンフォードやそのほかのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を含めて、彼らの場合は学生たちのベンチャーキャピタルのような役割を果たして、きちんとお金を入れて学生たちにチャンスを与えています。そこで得た果実を売って特許として儲けて、それを研究費に回すというような、一体的なシナジーがあります。なのに日本は昔からバラバラで、全然大学入試や大学そのものの改革もうまくいっていないんじゃないですか?
小林:いっていないですね。1つには、大学はとても縦割りで役所っぽいところがあります。文科省も当然役所で、さらに経産省や財務省といったお金の絡むところも縦割りです。産学連携で企業でなにかをする場合に、規制があってなかなか思うようなことができないというのが、ものすごくネックになっています。
堀:UCLAのベンチャーキャピタルのピッチの立った、日本から来た大学生ら起業家がいたんですよ。UCLAで取材をしたときに、最後に投資家が「君の研究はとてもいいですね。ビジネスチャンスがあると思うので投資をしたい。それで最後に訊きたい、君は日本の企業になるのかアメリカの企業になるのか、どっちだ?」と言ったら、即答していましたね「アメリカの企業になります!」って……。こんなことだと、いい人材はどんどんと外に出て行っちゃいますよね。
■大学が意思表示できるかがポイントに
今回の民間試験を利用しないと声明を出した大学は岩手県立大学、東北大学、慶應義塾大学、津田塾大学、愛知県立大学、京都工芸繊維大学、東京大学の7校。小林さんは今後の注目点について訊かれると、大学がそれぞれの方針を表明できるかがポイントだと解説した。
小林:もうこうなってしまった以上、大学が文科省の言いなりになるかどうかがポイントかなと思っています。まず、大学がどういう人材がほしいのか、どういう入学試験を作るのか。文科省がいろいろ言ってきますが、文科省の言うことにあまりしばられないで、大学が独自に「自分たちはこういう大学である」「こういう教育・研究をしたいから、こういう試験をやる」というのを明確に打ち出す大学が、信頼されるんじゃないでしょうか。「うちの大学は英語の授業がいっぱいあるから英語の民間試験が必要」というのも1つの理由なんです。それはそれで非常に評価ができる。
堀:筋が通っている。
小林:そういうことをきちんと言えばいいんです。とにかく大学が独自に方針を出してほしい。
堀:本来大学は独立した組織であったはずなのに……。さきほど言った7つの大学以外に、これからどういった指針があるのか、ぜひ注目をしていきたいと思います。
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
「共通テスト改革」の実施1年前というタイミングで、なぜ「延期」が決定、検討される事態になっているのか? 12月5日(木)オンエアの『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」で、堀 潤がジャーナリストの小林哲夫さんに話を訊いた。日本の教育や人材育成のレベルを高めるにはどうすればいいのか?
■なぜ民間の試験を利用? 国が主体的に動くべき
英語の民間試験の導入について、小林さんは今後のグローバル化に対応するための教育のあり方として「指導要領を変えるよりも、試験を変えてしまったほうが(英語を使える人材の育成は)早い」という考えがあったのではないかと推察。産業界や塾・予備校業界からの入れ知恵もあったのではと話したが、ここで堀はそもそも国が主体的に動かないことに対して不満を述べた。
堀:なぜわざわざ、数万円規模のお金を使って、民間の試験を利用しなければいけなかったんでしょうか。本当だったら教育に関わる費用は、なるべく負担を減らして……。
小林:国がやるべきですよね。
堀:ですよね。国がしっかり作る力があるのに、なぜそういう舵取りにならなかったんでしょうか。
小林:国の教育にかける予算を減らそうとしているからでしょう。
堀:おかしな話ですよね。これだけ少子高齢化で、少子化対策や「労働人口を増やそう」と言っているのに……。誰か大人たちが偏ったところで儲けようとしているから、こんなことになっちゃうんじゃないかって、悲しすぎます。
■教育の現場にも「縦割り」の弊害
小林さんは、日本では「大学をよくするためには、トップの大学をよくしよう」という発想が根強いとして「全体の底上げという発想がない」と指摘。その発想があれば、4技能(聞く、話す、読む、書く)といったことに柔軟に対応できるような試験ができると説明した。
堀:小学校、中学校の義務教育課程のさらなる充実。そして高等教育の格差が広がるなかでどのようにして機会を均等にしていくか、やることがいろいろとあると思いますが、「テストをするかしないか」みたいな話で右往左往している場合じゃないですよね?
小林:試験である程度決められることもあるでしょうけど、その前に今の小、中、高校の教育制度や使っている教科書、教育内容を改めたほうが、自分でものを考えたり、記述にも対応できます。「英語を話せる」といったことを入試に頼らないで変えていくことが筋であって、入試で上から変えても無理でしょう。
堀:もし、本当に大学を活性化させたいのであれば、きちんと研究費の手当てをするべきです。アメリカはスタンフォードやそのほかのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を含めて、彼らの場合は学生たちのベンチャーキャピタルのような役割を果たして、きちんとお金を入れて学生たちにチャンスを与えています。そこで得た果実を売って特許として儲けて、それを研究費に回すというような、一体的なシナジーがあります。なのに日本は昔からバラバラで、全然大学入試や大学そのものの改革もうまくいっていないんじゃないですか?
小林:いっていないですね。1つには、大学はとても縦割りで役所っぽいところがあります。文科省も当然役所で、さらに経産省や財務省といったお金の絡むところも縦割りです。産学連携で企業でなにかをする場合に、規制があってなかなか思うようなことができないというのが、ものすごくネックになっています。
堀:UCLAのベンチャーキャピタルのピッチの立った、日本から来た大学生ら起業家がいたんですよ。UCLAで取材をしたときに、最後に投資家が「君の研究はとてもいいですね。ビジネスチャンスがあると思うので投資をしたい。それで最後に訊きたい、君は日本の企業になるのかアメリカの企業になるのか、どっちだ?」と言ったら、即答していましたね「アメリカの企業になります!」って……。こんなことだと、いい人材はどんどんと外に出て行っちゃいますよね。
■大学が意思表示できるかがポイントに
今回の民間試験を利用しないと声明を出した大学は岩手県立大学、東北大学、慶應義塾大学、津田塾大学、愛知県立大学、京都工芸繊維大学、東京大学の7校。小林さんは今後の注目点について訊かれると、大学がそれぞれの方針を表明できるかがポイントだと解説した。
小林:もうこうなってしまった以上、大学が文科省の言いなりになるかどうかがポイントかなと思っています。まず、大学がどういう人材がほしいのか、どういう入学試験を作るのか。文科省がいろいろ言ってきますが、文科省の言うことにあまりしばられないで、大学が独自に「自分たちはこういう大学である」「こういう教育・研究をしたいから、こういう試験をやる」というのを明確に打ち出す大学が、信頼されるんじゃないでしょうか。「うちの大学は英語の授業がいっぱいあるから英語の民間試験が必要」というのも1つの理由なんです。それはそれで非常に評価ができる。
堀:筋が通っている。
小林:そういうことをきちんと言えばいいんです。とにかく大学が独自に方針を出してほしい。
堀:本来大学は独立した組織であったはずなのに……。さきほど言った7つの大学以外に、これからどういった指針があるのか、ぜひ注目をしていきたいと思います。
J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。
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