日本でも10年ほど前から耳にするようになった欧米的な雇用形態「ジョブ型雇用」とはどんな仕組みなのか?
J-WAVEの番組『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では10月12日(月)から15日(木)まで、「ジョブ型雇用」について、雇用問題に詳しい、千葉商科大学国際教養学部の准教授・常見陽平さんが解説した。ここでは12日、13日のオンエアをご紹介しよう。
常見:日本の雇用は「メンバーシップ型雇用」と言われ、会社に入り、その上で勤務地や職務が決まっていく。さらにはその都度で異動や昇進・昇格の変更がありうる雇用形態です。一方、「ジョブ型雇用」はこれとは異なり、詳細な労働条件を明確にして合意する形態。今「ジョブ型雇用」という言葉が、新聞や雑誌、経団連(日本経済団体連合会)などさまざまなところから提唱されていますが、根本的には「明確な条件について合意をする」ということ。ここがジョブ型のポイントですね。
「ジョブ型雇用」という言葉がさまざまに広がる反面、本来の意味とは違う使い方をされる場合があると、常見さんは懸念する。
常見:「成果を取るためにジョブ型雇用にする」という言い方をされることもあるが、これは最もずれた議論です。目的と手段が非常にずれています。「ジョブ型雇用」は職務、勤務地、労働時間など詳細な労働条件について互いに合意することが本質であり、それよって成果をとりやすくなるのは副次的効果なんです。職務を遂行する上での能力があるかどうか、そこについての合意ができているかどうか、そこがポイントであり、成果を問うかどうかはその後の話です。これまでの「メンバーシップ型雇用」でも成果を取ろうとしていたことなので、そこは誤解していけないところだと思います。
「ジョブ型雇用」は労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎さんが提唱したと言われている。
常見:この概念自体は欧米の雇用では広く確立されていたもので、それが10年前から「ジョブ型」と呼ばれるようになりました。しかし、最近は特に経団連やビジネス雑誌などで非常に使われるようになり、その理由のひとつは新型コロナの影響でテレワークが拡大したことがあげられます。テレワークの拡大によって「遠隔で働く上では、仕事を明確にした方がいい」という議論がりました。もうひとつは、これからの働き方を考え、さまざまな成約や条件がある中で、それらを明確にした働き方の方が雇いやすく、また働きやすいのではと考えられたからだと思います。
常見:確かに雇用される者が仕事の内容が明確になるとか、企業側も仕事を任せ方が明確になるとかありますが、労働者に取っては「社内でその仕事がなくなったらどうなるんだろうか」「他の業務にうつるときはどうなるんだろうか」「そもそもその仕事に就くための能力が足りない場合はどうするのか」などさまざまな弊害があります。海外の場合、社内で職を失うとしても市場の中では仕事があるという可能性があるけれど、今の社会においてはその仕事自体が市場からなくなるリスクだってあるわけなんです。経団連をはじめ、「ジョブ型雇用」に変えていこうと叫んでいますが、それが機能し始めた頃に、次の変化に対応できなくなることを考える必要があると思います。
「ジョブ型雇用」は自分のやることや勤務地が明確になるので、キャリア形成にとってメリットも生まれる。
常見:「自分はずっと営業をやりたい」など、自らの意思でキャリア形成をしやすくなることはメリットですね。また、業務の範囲が明確にもなり、仕事の計画を立てやすくなります。最近、批判されている転勤も見直しが行われ、勤務地も明確になることも大きなメリットです。たとえば、夫婦共働きで子どもを育てているときに転勤を言い渡されると、突然ワンオペ育児になってしまいます。もちろん転勤は本人にとっても事業にとってもメリットはあるけれど、育児や介護、教育と両立するために勤務地を選ぶことも、「ジョブ型雇用」がやりようによっては有効だと思います。
日本でも資生堂、富士通、KDDIなどの企業が職務を明確にして年齢年次問わず適切な人材を配置する「ジョブ型雇用」への移行を加速させている。
人材獲得競争が激しくなり、海外からの労働力も入れようとするなか、今後アメリカやヨーロッパで一般的な「ジョブ型雇用」を企業も取り入れる動きが広まり、新卒一括採用は減っていくのではないかと言われている。
「ジョブ型雇用」の言葉だけが一人歩きしないよう、メリット、デメリットを見ながら慎重に検討することが必要だ。
『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では、時代を映すニュースなキーワードを、リスナーの記憶にファイリングする。放送は月曜~木曜の19時25分頃から。
J-WAVEの番組『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では10月12日(月)から15日(木)まで、「ジョブ型雇用」について、雇用問題に詳しい、千葉商科大学国際教養学部の准教授・常見陽平さんが解説した。ここでは12日、13日のオンエアをご紹介しよう。
ジョブ型雇用は「詳細な労働条件を明確にして合意する形態」
ジョブ型雇用とは、職務、勤務地、労働時間など詳細な労働条件について明確な合意がなされた働き方だ。この雇用は「就職」か「就社」と考えるとわかりやすい。常見:日本の雇用は「メンバーシップ型雇用」と言われ、会社に入り、その上で勤務地や職務が決まっていく。さらにはその都度で異動や昇進・昇格の変更がありうる雇用形態です。一方、「ジョブ型雇用」はこれとは異なり、詳細な労働条件を明確にして合意する形態。今「ジョブ型雇用」という言葉が、新聞や雑誌、経団連(日本経済団体連合会)などさまざまなところから提唱されていますが、根本的には「明確な条件について合意をする」ということ。ここがジョブ型のポイントですね。
「ジョブ型雇用」という言葉がさまざまに広がる反面、本来の意味とは違う使い方をされる場合があると、常見さんは懸念する。
常見:「成果を取るためにジョブ型雇用にする」という言い方をされることもあるが、これは最もずれた議論です。目的と手段が非常にずれています。「ジョブ型雇用」は職務、勤務地、労働時間など詳細な労働条件について互いに合意することが本質であり、それよって成果をとりやすくなるのは副次的効果なんです。職務を遂行する上での能力があるかどうか、そこについての合意ができているかどうか、そこがポイントであり、成果を問うかどうかはその後の話です。これまでの「メンバーシップ型雇用」でも成果を取ろうとしていたことなので、そこは誤解していけないところだと思います。
「ジョブ型雇用」は労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎さんが提唱したと言われている。
常見:この概念自体は欧米の雇用では広く確立されていたもので、それが10年前から「ジョブ型」と呼ばれるようになりました。しかし、最近は特に経団連やビジネス雑誌などで非常に使われるようになり、その理由のひとつは新型コロナの影響でテレワークが拡大したことがあげられます。テレワークの拡大によって「遠隔で働く上では、仕事を明確にした方がいい」という議論がりました。もうひとつは、これからの働き方を考え、さまざまな成約や条件がある中で、それらを明確にした働き方の方が雇いやすく、また働きやすいのではと考えられたからだと思います。
「ジョブ型雇用」のメリット、デメリット
常見さんは「そもそも『ジョブ型雇用』が万能なわけではない」と切り出す。それはどうしてか。常見:確かに雇用される者が仕事の内容が明確になるとか、企業側も仕事を任せ方が明確になるとかありますが、労働者に取っては「社内でその仕事がなくなったらどうなるんだろうか」「他の業務にうつるときはどうなるんだろうか」「そもそもその仕事に就くための能力が足りない場合はどうするのか」などさまざまな弊害があります。海外の場合、社内で職を失うとしても市場の中では仕事があるという可能性があるけれど、今の社会においてはその仕事自体が市場からなくなるリスクだってあるわけなんです。経団連をはじめ、「ジョブ型雇用」に変えていこうと叫んでいますが、それが機能し始めた頃に、次の変化に対応できなくなることを考える必要があると思います。
「ジョブ型雇用」は自分のやることや勤務地が明確になるので、キャリア形成にとってメリットも生まれる。
常見:「自分はずっと営業をやりたい」など、自らの意思でキャリア形成をしやすくなることはメリットですね。また、業務の範囲が明確にもなり、仕事の計画を立てやすくなります。最近、批判されている転勤も見直しが行われ、勤務地も明確になることも大きなメリットです。たとえば、夫婦共働きで子どもを育てているときに転勤を言い渡されると、突然ワンオペ育児になってしまいます。もちろん転勤は本人にとっても事業にとってもメリットはあるけれど、育児や介護、教育と両立するために勤務地を選ぶことも、「ジョブ型雇用」がやりようによっては有効だと思います。
日本でも資生堂、富士通、KDDIなどの企業が職務を明確にして年齢年次問わず適切な人材を配置する「ジョブ型雇用」への移行を加速させている。
人材獲得競争が激しくなり、海外からの労働力も入れようとするなか、今後アメリカやヨーロッパで一般的な「ジョブ型雇用」を企業も取り入れる動きが広まり、新卒一括採用は減っていくのではないかと言われている。
「ジョブ型雇用」の言葉だけが一人歩きしないよう、メリット、デメリットを見ながら慎重に検討することが必要だ。
『JAM THE WORLD』のワンコーナー「CASE FILE」では、時代を映すニュースなキーワードを、リスナーの記憶にファイリングする。放送は月曜~木曜の19時25分頃から。
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