J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。10月30日(火)のオンエアでは、火曜日のニュース・スーパーバイザーを務める青木 理が登場。ゲストに、『刑務所しか居場所がない人たち:学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』(大月書店)の著者で、元衆議院議員の山本譲司さんをお迎えし、「本来なら福祉施設に入るべき人たちが、犯罪者として服役しているのではないか?」と指摘されている現状についてお話を伺いました。
■刑務所より社会のほうが「差別」が激しい
山本さんは現在、高齢受刑者や障害のある受刑者の社会復帰活動に取り組んでいます。衆議院議員だった2001年に秘書給与の詐取事件で実刑判決を受け、日本最大の初犯者の刑務所である栃木県黒羽刑務所に服役、その体験から大きな気づきがありました。
山本:刑務所に入ることに、覚悟はできていたつもりでしたけど、実際は戦々恐々としていました。しかし、その心持ちからすると拍子抜けでした。刑務所には、本来であれば福祉が支援をするべき対象者が多くいたんです。
青木:それは、犯罪者とされて服役している人たちが、いわゆる極悪人の印象とは全く違ったということですか?
山本:違いましたね。圧倒的に多い罪名は窃盗罪。生活困窮から食うに食えずの生活を続けた結果、軽微なものを盗んでしまう。特に食べ物の窃盗が多かったですね。その方々の人生を振り返ると、99パーセントが「被害者」として生きていました。刑務所は法的に人権を制限されるところなんですが、それでも社会の差別の方が激しかったんです。
「服役するまで、刑務所の塀の位置付けを誤解していた」と山本さんは続けます。
山本:服役前は、刑務所のおかげで、中にいる犯罪者から私たちの住む社会が守られていると考えていました。でも大部分の受刑者は、冷たい社会、厳しい社会、すぐに差別をされてしまう社会から、刑務所のなかに避難しているんです。それを法務省が保護している状況が多くの受刑者に当てはまる現実です。
■重大犯罪者は100人に1人以下
殺人や殺人未遂など重大犯罪で刑務所に服役する受刑者は、全受刑者のうち100人に1人もおらず、4割ほどが窃盗、3割ほどが薬物、そして無銭飲食などの詐欺罪が多いそうです。
山本:12年前に厚生労働省と法務省が一緒になって、受刑者に知的障害があるか、高齢者なのかという調査を行いました。そのなかで、知的障害がある人の犯罪に至る原因は、圧倒的に貧困なんです。例えば、パンを1個盗む前の2、3週間は何も食べ物を口にしていなかった人が、公園で水を飲んでいただけなのに、不審人物扱いされて通報されてしまい、その場所にいられなくなり転々としながら、そのうち空腹に耐えきれず、食べ物を盗んでしまう。
青木:それで捕まって、前科がある場合は一発で懲役になってしまいますよね。
山本:窃盗罪は1回目は執行猶予がつく場合がほとんどですが、執行猶予で社会に戻っても何も頼れるものはなく、社会で暮らすための経済的な基盤もないわけなので(また再犯してしまう)。
■行政の政策だけではなく、国民の意識が重要
社会のなかに居場所がない。それが犯罪に至る原因のひとつになると、山本さんは指摘します。
山本:先進国のなかで、日本ほど障害者福祉が遅れている国はありません。予算も付けず、安上がりな障害者福祉をやってきたわけです。
青木:(改革しようとなると)法務省や厚生労働省、その他いろいろな役所が構造的な問題として、障害者や精神疾患者とどう向き合うのか、という幅広い行政の横断的な取り組みが必要になりますよね。
山本:まさにそのポリシーミックスが重要になります。ただ、それだけではないと考えています。例えば刑務所から福祉につなぐためのコーディネート機関「地域生活定着支援センター」が、2009年に厚生労働省のお金で各都道府県に設置されるに至りました。その機関ができる以前は、1000人のうち0.1人も福祉につながらなかった。現在は100人に2.5人はつながるようになりました。
しかし、福祉につながったとしても、そこから社会に出た人たちが生活困窮からまた犯罪に手を染めて(刑務所に)戻ってきてしまう現状があると言います。
山本:ですから、行政の政策だけではなく、国民の意識が重要だと思います。こういう人たちとどう向き合うべきか、地域社会のなかでどう包み込んでいくかということですよね。
青木:法務省や厚生労働省だけではなく、警察や自治体や個人の取り組み、意識が大切になってくるわけですね。
山本:福祉そのものが差別的であったりもします。全国で刑務所から福祉につながった人たちを訪ね歩いているんですけど、受刑者を引き受けた福祉支援の人たちが「この人を変えてみせます。絶対に再犯をおこさせません!」と言うわけですけど、福祉がやるべきは再犯防止ではなく生き直しの手伝いです。また、最近は他人と自分を比べ、自分と違うところに目を向けて、そこを必要以上に拡大して捉えるところがあります。それがマイノリティだと徹底的に叩く。でも違いではなく、共通点を探すことが大切だと思いますし、共通点の方がずっと多いですから。
もっと受刑者の内情を社会や一人ひとりが知ることによって、受刑者が服役後に生きやすい環境が生まれるのではないでしょうか。ぜひ『刑務所しか居場所がない人たち:学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』を手に取ってみてください。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld
■刑務所より社会のほうが「差別」が激しい
山本さんは現在、高齢受刑者や障害のある受刑者の社会復帰活動に取り組んでいます。衆議院議員だった2001年に秘書給与の詐取事件で実刑判決を受け、日本最大の初犯者の刑務所である栃木県黒羽刑務所に服役、その体験から大きな気づきがありました。
山本:刑務所に入ることに、覚悟はできていたつもりでしたけど、実際は戦々恐々としていました。しかし、その心持ちからすると拍子抜けでした。刑務所には、本来であれば福祉が支援をするべき対象者が多くいたんです。
青木:それは、犯罪者とされて服役している人たちが、いわゆる極悪人の印象とは全く違ったということですか?
山本:違いましたね。圧倒的に多い罪名は窃盗罪。生活困窮から食うに食えずの生活を続けた結果、軽微なものを盗んでしまう。特に食べ物の窃盗が多かったですね。その方々の人生を振り返ると、99パーセントが「被害者」として生きていました。刑務所は法的に人権を制限されるところなんですが、それでも社会の差別の方が激しかったんです。
「服役するまで、刑務所の塀の位置付けを誤解していた」と山本さんは続けます。
山本:服役前は、刑務所のおかげで、中にいる犯罪者から私たちの住む社会が守られていると考えていました。でも大部分の受刑者は、冷たい社会、厳しい社会、すぐに差別をされてしまう社会から、刑務所のなかに避難しているんです。それを法務省が保護している状況が多くの受刑者に当てはまる現実です。
■重大犯罪者は100人に1人以下
殺人や殺人未遂など重大犯罪で刑務所に服役する受刑者は、全受刑者のうち100人に1人もおらず、4割ほどが窃盗、3割ほどが薬物、そして無銭飲食などの詐欺罪が多いそうです。
山本:12年前に厚生労働省と法務省が一緒になって、受刑者に知的障害があるか、高齢者なのかという調査を行いました。そのなかで、知的障害がある人の犯罪に至る原因は、圧倒的に貧困なんです。例えば、パンを1個盗む前の2、3週間は何も食べ物を口にしていなかった人が、公園で水を飲んでいただけなのに、不審人物扱いされて通報されてしまい、その場所にいられなくなり転々としながら、そのうち空腹に耐えきれず、食べ物を盗んでしまう。
青木:それで捕まって、前科がある場合は一発で懲役になってしまいますよね。
山本:窃盗罪は1回目は執行猶予がつく場合がほとんどですが、執行猶予で社会に戻っても何も頼れるものはなく、社会で暮らすための経済的な基盤もないわけなので(また再犯してしまう)。
■行政の政策だけではなく、国民の意識が重要
社会のなかに居場所がない。それが犯罪に至る原因のひとつになると、山本さんは指摘します。
山本:先進国のなかで、日本ほど障害者福祉が遅れている国はありません。予算も付けず、安上がりな障害者福祉をやってきたわけです。
青木:(改革しようとなると)法務省や厚生労働省、その他いろいろな役所が構造的な問題として、障害者や精神疾患者とどう向き合うのか、という幅広い行政の横断的な取り組みが必要になりますよね。
山本:まさにそのポリシーミックスが重要になります。ただ、それだけではないと考えています。例えば刑務所から福祉につなぐためのコーディネート機関「地域生活定着支援センター」が、2009年に厚生労働省のお金で各都道府県に設置されるに至りました。その機関ができる以前は、1000人のうち0.1人も福祉につながらなかった。現在は100人に2.5人はつながるようになりました。
しかし、福祉につながったとしても、そこから社会に出た人たちが生活困窮からまた犯罪に手を染めて(刑務所に)戻ってきてしまう現状があると言います。
山本:ですから、行政の政策だけではなく、国民の意識が重要だと思います。こういう人たちとどう向き合うべきか、地域社会のなかでどう包み込んでいくかということですよね。
青木:法務省や厚生労働省だけではなく、警察や自治体や個人の取り組み、意識が大切になってくるわけですね。
山本:福祉そのものが差別的であったりもします。全国で刑務所から福祉につながった人たちを訪ね歩いているんですけど、受刑者を引き受けた福祉支援の人たちが「この人を変えてみせます。絶対に再犯をおこさせません!」と言うわけですけど、福祉がやるべきは再犯防止ではなく生き直しの手伝いです。また、最近は他人と自分を比べ、自分と違うところに目を向けて、そこを必要以上に拡大して捉えるところがあります。それがマイノリティだと徹底的に叩く。でも違いではなく、共通点を探すことが大切だと思いますし、共通点の方がずっと多いですから。
もっと受刑者の内情を社会や一人ひとりが知ることによって、受刑者が服役後に生きやすい環境が生まれるのではないでしょうか。ぜひ『刑務所しか居場所がない人たち:学校では教えてくれない、障害と犯罪の話』を手に取ってみてください。
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番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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