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村上春樹作品は“再読のほうが面白い”?その魅力と新作『夏帆』を書店主・中村秀一が語る

村上春樹作品は“再読のほうが面白い”?その魅力と新作『夏帆』を書店主・中村秀一が語る

東京・駒沢のブックストア「SNOW SHOVELING BOOKS & DIALOGUE」の店主・中村秀一さんと、小説家の燃え殻が、村上春樹作品の楽しみ方や、話題の新作『夏帆─The Tale of KAHO─』(新潮社)について語り合った。

中村さんが登場したのは、7月24日(金)放送のJ-WAVE『BEFORE DAWN』(ナビゲーター:燃え殻)。作家・エッセイストの燃え殻による深夜のトークラジオプログラムだ。

この日の放送は7月31日(金)28時ごろまで、radikoのタイムフリー機能で楽しめる。

ちょっと大げさに言うと聖書に近いもの

中村さんは10代のころから村上春樹の作品に大きな影響を受けており、店名の「SNOW SHOVELING」も村上の著書『ダンス・ダンス・ダンス』に登場する「文化的雪かき」という言葉に由来するという。

燃え殻:長年、村上作品がお好きということで。

中村:そうですね。10代後半くらいから読み続けて、浮気もせず。ちょっと大げさに言うと、聖書に近い読書です。

燃え殻:読書のバイブルというか、教科書というか、真ん中の柱みたいな。

中村:ちょっと危険なんですけど、そういう立ち位置というか、存在でした。今はもうちょっと客観的には読めるんですけど、思春期のころはほぼ自分の物語として読んでしまっていたという感じですね。

燃え殻:僕は『風の歌を聴け』と『国境の南、太陽の西』の2冊は完璧に読んだんです。

中村:完璧に読めるんですね!

燃え殻:というか、最初から最後まで。理解したということではないです(笑)。

中村:そういうことですね(笑)。

燃え殻:ほかの作品は、途中でやめてしまったり。短編とかでも、そのなかのふたつを読んだとか。そういうことはあるんですけど、「いい読者ではない」という。

中村:そんなことはないと思いますけどね。

どこを読んでも村上春樹だとわかる

中村さんは、数多くいる作家のなかで、村上春樹の作品にどのような魅力を感じているのだろうか。

中村:いくつか象徴的なところで言うと、文体にそもそも魅力があると思っています。どこを読んでも村上春樹だってわかるような文章が書けるというのは、なかなかできることではないと思うんです。でも、少なくとも村上春樹さんの場合はその文体が常に存在している。物語を読んでいて、物語とは関係ない部分でも面白く読めちゃうというか。たとえば、情景描写にしても、何かの比喩とか暗喩表現にしても、ちょっと膝を打つようなたとえ話があったりとかして、「こういうメタファーは村上春樹っぽいな」みたいなところが読んでいて楽しい瞬間ですね。

燃え殻:思春期のころに読んだときに、最初から文体とか読みやすさとかに魅了されたんですか?

中村:いえ。僕は『ノルウェイの森』という作品が最初の読書体験だったんですけど、それは完全に自分が没入した状態で、別の誰かの人生を擬似体験するような読書だったんです。だから、そのときは文体というよりは、主人公になりきってその物語を抜けていったっていう感じですかね。

燃え殻:村上作品がバイブルって状態から、少し俯瞰でも見られるようになってきたときは、どこから読んでも村上春樹という文体だったり、その端々までに魅力を感じられるようになってきた感覚ですか?

中村:そうですね。それがいいことかどうかはわからないんですけど、ちょっと分析的になってみたりしたときに、そういうところがちょっと浮き彫りになってくるというか。特徴とかが自分の中で見えてきたっていう。まぁ、それも30代に入ってくらいですけど。

燃え殻:ずっと繰り返し読みながらいろんな気付きのなかで魅了されているんですね。

村上作品は再読するほど面白い

燃え殻の「繰り返し」という言葉をきっかけに、話題は村上作品を再読する面白さへと移っていった。

中村:初読から2読目、3読目ってすることのほうが一般的には少ないと思うんですけど、僕の場合はそれをやればやるほど次のほうが面白かったりするんです。

燃え殻:なんでですか?

中村:たとえば、今日読んで明日読むだと、なかなか難しいんですけど、大げさに言うと自分のライフステージが変わったり、あるいは自分の状況……単純にハッピーだったかアンハッピーだったかが反転したりするときに読んでみると、まったく違う物語になったりとか。あるいは自分が気付けなかった部分とか、自分が感じたことが異なるリアクションになったりとかするときに、再読の面白さみたいのが出てくるというか。

燃え殻:わかる気もします。僕、『風の歌を聴け』に関して言うと、何冊買ったかわからないぐらい買うんです。旅行に行ったときにちょっと買いたくなる。まず、薄いじゃないですか。さらっと読めるのと、旅行先で読んでると気分がよくなるんですよ。

中村:なんでだろう。

燃え殻:作中に出てくる描写も含めて、旅の飛行機の中から風景を見てるみたいな気持ちになれるというか。このあいだ、沖縄に行ったんですけど、沖縄でも買いました。

新作は、やや辛口に言うと満足50・不満足50

ここからは、7月3日に発売となった村上の新作『夏帆─The Tale of KAHO─』の話題に。

燃え殻:今回の主人公は26歳の絵本作家・夏帆。ある日、初対面の男から思いもよらない言葉を投げかけられたことをきっかけに、彼女の周りで次々と不思議な出来事が起こり始めます。村上さんにとって初めて女性を主人公にした長編小説ということで話題になっていますが、中村さんは最初にどんな印象を受けましたか?

中村:まだ整理がついてないですけど、やや辛口に言うと満足50・不満足50くらいな感じですかね。初読の感想ですけど。

燃え殻:やっぱり何度か読み込んでいくなかで、自分の中の作品の場所も変わっていったり?

中村:そうですね。

燃え殻:それは最近の作品だと毎回ですか?

中村:ちょっと繰り返してますかね……是と非を繰り返すっていうか。

燃え殻:僕の知人ですごく村上春樹さんのことを好きな人がいて、最近の作品は最初読んで「ダメだった」って言って、しばらくしてから「あれ、やっぱりよかった」っていうふうにだいたいなるんですよ。

中村:それはあると思います。

燃え殻:好きの特徴なのかなと思って。

中村:なんでしょうね。染み渡る速度とか、自分の中でその物語がフィットするタイミングとかはあるのかもしれないですね。

1行目からロックンロールを感じた、その理由は…

『夏帆─The Tale of KAHO─』は、新潮社の月刊誌『新潮』に発表された『夏帆』シリーズに加筆・改稿を施し、長編作品として刊行されたものとなる。

中村:『新潮』で発表された4編を4章に章立てて長編小説になっているんですけど、勝手にファンとして、単行本化されたときに「もう1章くらい追加されるんじゃないか」みたいな期待があったんです。それこそ、原稿が変わっていたりもするんじゃないかという変な期待と、先回りみたいなのがあって。その期待を裏切られたというのも、さっきの不満ポイントに……。偉そうなことを話しているんですが、やや消化不良なポイントではありますね。だから、本当に文芸誌を追いかけていた人たちからすると、僕と同じような感想を持つ人も少なくないのでは、とも思います。

燃え殻:なるほど。村上さんが初めて女性を単独の主人公に据えて長編を書いたということなんですけど、今回読んでいて、女性の描き方とかも含めて、変化とか感じられました?

中村:批評家っぽく言うのは嫌なのですが、すごい挑戦だったんだろうなと思っていて。村上春樹を批判する人たちがいわゆる短文投稿メディアで見受けられていて、「村上春樹がミソジニーなんじゃないか」とか、そういうふうに言われてるなかで、主人公のジェンダーを変えて物語を語ってきたというのは、すごい挑戦だったんだろうなと。しかも、いわゆるルッキズム的な、女性の容姿をこするみたいなところから物語が始まっていくんですけど、それなんかは批判されていた部分を1ページ目から風呂敷を広げるような感じだったので、ある種、僕はロックンロールを感じたっていうか。正面からそれ出してくるんだ、みたいなかっこよさがそこには感じられました。

燃え殻:ある種、そういうようなものも踏まえたうえで、村上春樹さん的な今の答えみたいな感じで書かれているのかな。

中村:今しか書けない物語をずっと書いてきている人だと思うんですけど、2020年代に世の中とやや呼応するような(作品を発表されて)。これは僕の深読みなんですが、陰謀論とかスピリチュアリズムとか、そういうものが今すごく強いパワーを持っている世の中だと思うんですね。あとはアメリカの政治の分断とか、そういうものを、なんとなく物語に乗せているように感じるんです。「人の言うことを鵜呑みにしない」とか、「自分で考えて自分で判断するんだ」みたいなことが、物語にさらっと乗っているような感じがして。そういうのが今のところいちばん面白いポイントですね。

「夢」がキーになってくる物語

中村さんは、『夏帆─The Tale of KAHO─』について、村上作品を初めて読む人にも勧めやすい1冊だと語る。

中村:最初に僕が読んだ印象で「これ、村上春樹の文章だったっけ?」くらいの、主人公が女性っていうのはもちろんあるんですけど、主観的というよりはすごく客観的な物語というか。たとえば、初期の村上春樹がなんとなく苦手っていう人たちがいるんでけど、書き方として“村上春樹臭”とかがほとんどしない物語なんです。癖のないおいしいお酒のような。

燃え殻:すごく癖の強いものではなく、初見の人にも受け入れやすいような、おいしいってみんなが思うような具合になってる。

中村:そういう気がします。

燃え殻:中村さんは、この1冊で心に残ったテーマとかキーワードはありますか?

中村:各章でわりと「夢」が印象的に用いられるというか、絵本作家の主人公が夢で見たことを絵本にしていったりするんですよ。夢で起こったことをモチーフにしていて、各章で夢がすごくキーになってくるんです。今、僕自身が勝手に「夢のほうが現実なんじゃないか」って思っているタイミングなんですが(笑)。

燃え殻:すごいタイミングですね。

中村:そういった意味でも夢の挿入というか、夢の使い方・使われ方がとっても印象的ですね。

燃え殻:ちょっと読んでみたくなったかもしれない。

中村:読んでみてください。

SNOW SHOVELING BOOKS & DIALOGUEの最新情報は公式ホームページまで。

小説家・燃え殻による、東京の真夜中に綴るトークラジオ『BEFORE DAWN』の放送は毎週金曜の26時から。 Spotifyなどのポッドキャストでも配信中。

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