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本木雅弘の死生観を変えた写真詩集とは?  映画『おくりびと』の原点を語る

本木雅弘の死生観を変えた写真詩集とは? 映画『おくりびと』の原点を語る

俳優の本木雅弘が、出演作『黒牢城』で訪れたカンヌ国際映画祭でのエピソードや、還暦を記念したフォトブックに込めた思いを語った。

本木が登場したのは、クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』。この番組は毎週ひと組、クリスが今、声を届けたい人を迎える30分のトークプログラム。月曜から木曜はラジオでオンエアし、翌金曜には放送した内容に加えて、限定トークも含むポッドキャストを配信している。

ここでは、6月1日(月)にオンエアしたトーク内容(ポッドキャストのエピソード1)をテキストでお届けする。

・ポッドキャストページ

カンヌで感じた、映画を迎える観客の熱気

5月にフランスで開催された第79回カンヌ国際映画祭で、本木が出演する黒沢 清監督の最新作『黒牢城』がカンヌ・プレミア部門に選出。現地で公式上映された(日本では6月19日(金)から公開)。

映画『黒牢城』本予告【6月19日(金) 全国公開】

クリス:カンヌはどうでしたか?

本木:街全体が映画そのもの、そして作り手に対して興味を持ってくださっている方たちが集まっているので、そういう熱気と包容力みたいなものがあって。コート・ダジュールの心地よい気候のなか、なおかつフランス人タイムな感じで夜中まで盛り上がっている街の雰囲気でした。

カンヌでの上映時のスタンディングオベーションはよく話題になるが、本木は黒沢監督ならではの受け止め方が印象に残っているという。

本木:日本ではネットニュースにするときに「何分のスタンディングオベーションがあった」っていう文言が出ますよね。それがひとつの売りになっていますけど、クラシックのコンサートと同じで、まずそれが礼儀みたいなところがあって。だけど監督はわりと冷静で、ちょっと辛辣なところがあるので「これには義理拍手が入っている」っていうのをチェックしていて。(黒沢作品の)過去7回の上映のなかで「今回は本当に祝福されている感じがする」とおっしゃったんですね。

クリス:それは黒沢監督の感覚的な受け取り方で?

本木:そうですね。そういう意味では、それなりに響いたっていうことなんじゃないかなと思います。

主人公に感情移入できる誘導はしない

カンヌ滞在中は、上映の前後も含め、映画のプロモーションで多くの取材を受けたという本木。『黒牢城』は「戦国心理ミステリー」として紹介されることもあるが、「黒沢監督の持ち味はもう少し薄暗いところにある」と本木は表現する。

本木:実際には人間の滑稽さとかをのぞきながら、そこから見えてくる真実とか、違和感みたいなものをすくい取るっていう、わりと地味な映画なんですよね。

クリス:これまでの黒沢監督の作品もそうですもんね。人間の立ち位置によってまったく違う見え方をするであろう物語で。今回の『黒牢城』は、本木さん演じる武将・荒木村重が主人公ですけど。

本木:主人公と言いながら、主人公に感情移入できるようにっていう誘導の仕方をしないんですよね。カメラもある一定の距離を持って、常に全体を俯瞰するので、観客も少し前のめりになって、想像しながら自分で読み進めていかないと観られない映画みたいなところが、魅力でもありながら、奥深さでもあります。

30年ぶりの再会から生まれたフォトブック

映画の話題に続いて、クリスは本木が2025年に還暦を迎えたことについて触れた。6月12日(金)に発売となる、還暦を記念したフォトブック『awai 刹那と永遠のまにまに』(トゥーヴァージンズ)は、写真家・中村一弘との再会から生まれたそう。

本木:さかのぼると、中村さんとは27歳のときに出会っていて、ひょんなきっかけから一緒にインドを旅することになりまして。男ばかり5人だったんですけれども。

クリス:それはお仕事ではなくて?

本木:仕事にするつもりはなく、だけどカメラマンだったり、美術を志している子だったり、洋服が好きな子だったりっていう面々で行ったので、何にするわけではないですけど、おのずと撮影をしながらインドを旅していたんです。それを結果的に、ある写真集にまとめたという経緯がありまして。インドを旅したなかで、いわゆるヒンドゥー教の聖地で自分の遺体が焼かれてガンジス川に流されると、すべての業から解き放たれるっていう意味合いのもと、多くの人たちが焼かれに来るわけなんですけど、そういうのが白昼にさらされているわけですよね。そこは、生と死が同一に存在しているっていうのを日常生活のなかで目の当たりにする文化だったんです。それに衝撃を受けて本を作りまして。それが、のちに『おくりびと』っていう映画につながっていくんです。

その旅のあと、本木と中村は互いに結婚や子育てなどを経て、じっくり会う機会はないまま約30年が過ぎたそう。再会のきっかけになったのは、映画『黒牢城』の京都での撮影だったという。

本木:中村さんは京都出身で、たまたま僕が京都で『黒牢城』の撮影で2カ月滞在しているので、もし中村さんが帰郷するタイミングがあるんだったら会えるんじゃない? っていう話で。そこでひさしぶりに再会したんです。尽きぬ話をして、最後に彼が「30年ぶりに、今度は還暦になった本木くんをもう1回撮らせてもらえないか」という話をもらい、そこから撮影が始まりました。

死生観が変わった藤原新也の1冊

本木が20代のころにインドへ向かった背景には、藤原新也の写真詩集『メメント・モリ』(朝日新聞出版)との出会いがあったという。欧米への憧れから旅を重ねていた本木は、この本によってそれまでとは違う視点に触れたと語る。

本木:『メメント・モリ』の中で、ある川辺で人間の死体が転がっていて、それをカラスやら犬がついばんでる写真があったんです。『メメント・モリ』全体で、そういった人間の普段、闇に隠されてしまうような現実が、逆に体温というか、熱を持って紹介されていたことにすごく衝撃を受けて。そんな場所が存在するのか、と。

クリス:日本に生きてる現代では体感できないことですもんね。

本木:そういう興味のもと、インドに行ってみようってなったんですよね。

クリス:実際にインドに行ってみられて、死生観とか、自分の中のことは変わりましたか?

本木:変わりましたね。帰って早々にあらためて仏教のことや、自分たちの国の死のあり方みたいなもの、手塚治虫さんの『ブッダ』とか、漫画の方式でブッダがどういうふうにブッダたりえたか、みたいな話も読んだりして、徐々に日本人の精神性みたいなところに近づいていったのはありますね。

自分そのものが「“あわい”だな」

フォトブック『awai 刹那と永遠のまにまに』には、本木自身の文章も収められている。当初は文章を載せる考えは強くなかったが、アートディレクターから「メモ書きでもいいから、自分で何かをつづったほうが伝わる」と言われたことがきっかけになった。

本木:「還暦おじさんのつぶやきでいいんで」って言われて(笑)。書いてたらどんどん硬くなっちゃった部分もあって、少し軽めに、カジュアルに書いてみようみたいなこともありましたけど。自分をかえりみるいい機会にはなったかなっていう。

クリス:振り返るって大事だなって、今思いました。

本木:実際、誰もが瞬間瞬間を生きているわけですけども、それこそ過去と現在のあわい……今回のフォトブックも『awai』ですけども、物と物、時間と時間、人と人、あるいは季節と季節のあいだのことを指すんですけど、正確に言うと単なる境界線のことではなく、そのふたつのものが移行するときに混じり合っているとか溶け合っている瞬間。そのひとときのことを正確に言うと「あわい」ということなので。実際、自分の中にも、自分の感情ってある意味、過去の産物を引きずっているし、それがある種、発酵して未来への思いにつながっていくみたいなところなので。自分そのものが、あわいだな、みたいなね。

「あわい」という言葉をめぐり、人と人のあいだで何かが生まれる感覚にも通じるものがあると話す。その流れで本木は、そうした思いを形にすることについて語った。

本木:いろんな思いとかがコミュニケーションをしているあいだに生まれるけれど、それを自分なりの形にしていくっていうのはなかなか追いつかないことがありますよね。私も自分が長年抱えている、人間のどうしようもなさ。表に自分をさらす仕事のなかで、自分が本当にやりたいことなのか、本当の自分の姿はどのくらいポンコツなのか、そういうことを自分でジャッジしながらも、自分はデジタルが苦手でSNSをやっていないので、現代的にみなさんと交信ができない。なので、その代わりにという感じで「最近こんなんです」というのを、ファンの方も含め、同時代を生きているみなさんに何か共有できたらなと。それが形になった、という感じですかね。

本木雅弘の最新情報はフロムファーストプロダクションの公式サイトまで。

クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』は、J-WAVEで月曜~木曜の13時よりオンエア。ポッドキャストでも配信中。

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2026年6月8日28時59分まで

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13:00-13:30