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少年時代になぜかヒロインを演じたいと… 女方の覚悟を決めた俳優・篠井英介を待っていた「上演まで9年」の壁

少年時代になぜかヒロインを演じたいと… 女方の覚悟を決めた俳優・篠井英介を待っていた「上演まで9年」の壁

俳優の篠井英介が、自身の出演する舞台『欲望という名の電車』について語った。

篠井が登場したのは、クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』。この番組は毎週ひと組、クリスが今、声を届けたい人を迎える30分のトークプログラム。月曜から木曜はラジオでオンエアし、翌金曜には放送した内容に加えて、限定トークも含むポッドキャストを配信している。

ここでは、2月16日(月)にオンエアしたトーク内容をテキストでお届けする。

・ポッドキャストページ








なぜかヒロインを演じてみたいと思った

篠井が出演する『欲望という名の電車』は、3月12日(木)から22日(日)に東京芸術劇場シアターイースト、4月4日(土)、5日(日)に大阪・近鉄アート館で上演。19年ぶりに女主人公、ブランチ・デュボア役を演じる。

クリス:篠井さんにとって、肝入りの作品ですよね。

篠井:大げさな言い方ですけど、人生でいちばん好きでいちばんやりたい作品。おかげさまで3回やらせていただく機会があって。でも、もう終わりにしようと思っていたんですけど、あまりにも好きで。

クリス:終わりにしようと思ったのはどういう心境から?

篠井:やはり年齢的なものですね。体力、気力、もちろんお客様に対しての見た目もありますけど、なかなか大変なお役なので「これ、もたないな」「もう、無理無理」と思って諦めてたんですけど、なんて言うんでしょうね。欲が出てきたというか、「もう1回ぐらいやれちゃうんじゃないの?」なんて自分でちょっと思って、こういう企画になってしまったのですが。

篠井が、今作の原作となるテネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』に出会ったのは、学生時代のころだったという。

篠井:中学生ぐらいのときに、杉村春子さんの文学座の舞台でこの作品を目にすることができて、そこで衝撃を受けて。中学生の男の子がなんででしょうね。金沢まで、いわゆる旅公演で来てくれたんです。なので生でも観ましたし、あとNHKさんの舞台中継をテレビでも見ることができました。

クリス:それまでに本(戯曲)は読んでいらして?

篠井:はい、読んでいました。演劇少年だったので。図書館に行くと戯曲コーナーというのがわずかにあるわけですね。そこにあるような演劇関係の本は手当たり次第に読んでいたので、この作品も読んでいて「これ、けっこうすごいかもしれない。僕、すごく好きかもしれない」って思って。

クリス:そんなこと中学校のときにもうお感じになって。

篠井:ませてますよね。それで舞台が来るっていうことで、ワクワクして観に行って。やっぱりすごくて感動を得て。本当に不思議なことに、なぜか杉村春子さんがなさっているヒロイン、ブランチ・デュボアをやりたいと思ったんですね。

クリス:杉村春子さんが演じられたブランチ役は、どんなふうに衝撃だったんですか。

篠井:もちろん、ストーリーが大変によくできた名戯曲であるっていうことと、杉村さんの演技が、日本人が日本語で日本のお客様に見せるお芝居になっている。いわゆる西洋の、アメリカの戯曲なのにもかかわらず、観ていくうちにどこの国のどんな人たちのものかも忘れる、没入させてくれる。そのくらいにある種「杉村節」というような素晴らしい日本語のセリフをおっしゃって、見事でしたね。今もお手本にしてるんですよ。

人間の裏面をえぐった部分も垣間見られる作品

篠井は、テネシー・ウィリアムズの原作をどういう作品と捉えているのだろうか。

篠井:陰と陽で言えば、ミュージカルコメディとか楽しい喜劇っていうようなものではなくて、その逆を行くような、人間の恥部というか汚れたようなところ。そういう陰性の、人間の裏面をえぐったようなところもあるので、なかなか好き嫌いもあるかもしれないです。僕は日本舞踊をやったり歌舞伎をやったり、当時は古きよきミュージカルの時代でしたので、大好きだったんですね。それを好きな少年がこれを観て、人間の裏面を描くものもひとつの芸術なんだ、ひとつの大事な演劇の役目なんだっていうことに目が覚めるような思いでした。

この作品のヒロイン役を男性が演じることは、海外でも前例がないのではないか、と篠井は言う。

篠井:日本ではもちろん僕ひとりですし、賛否あると思うんですけど、男であるからそれを演じる女優さんの個性とか生々しい現実っていうものが1回なくなったゼロからをお客様に観ていただいて、お客様がお芝居を観ながらそのブランチという人に肉付けをしていってくださるっていう見方ができると僕も幸せだな、そういうふうに観ていただけるといいなっていつも思います。

クリス:女性とか男性というのは個性というかたちで捉えられる時代ですけども、それを取っ払って、あるいはそこに甘えすぎないかたちで篠井さんが演じられるんですよね。

篠井:そうですね。女性であることに甘えられませんからね。自分が男性であるからには。

クリス:テネシー・ウィリアムズは、実は壮絶な家庭環境であったり、時代背景もあるでしょうけど、本人の苦労が作品に投影されているというところもあるんでしょうかね。

篠井:多分にあると思います。この方はもうほとんど私小説を書くように戯曲を書き、登場人物のすべてが自分の中の分身。人間って自分ひとりの中にも善も悪も持ってるし、人によっていろんな態度を変える、役者さんみたいなことをみなさんそれなりに生きていくうちにはしてらっしゃる。彼の中にはそういうものを全部、登場人物たちに投影していると思いますし、それを出していく。それこそ昔『夕鶴』なんてお芝居があって、おとぎ話の『鶴の恩返し』の鶴が羽を抜いて反物を織っていくように、きっと紡いできた戯曲たちなんだと思います。

女方で現代演劇でやっていく覚悟と、思わぬ壁

若いころに衝撃を受けたこの戯曲を、ついに舞台化するチャンスを得た篠井。しかし、そこには思わぬ壁が立ちはだかったという。

篠井:一度OKがアメリカからも出て、著作権をちゃんと取得しまして。それでやることになり、稽古が始まる、そしてもうお切符も売っているときに、そこで向こうの著作権者が「どうもこの篠井英介は男であるらしい」と(笑)。

クリス:そのタイミングでですか。

篠井:外国の人から見たら名前で性別を判断できなかったんだと思います。

クリス:まさかと思ったのかもしれませんよね。

篠井:でも、どこからか情報が入り「どうも男がやるらしい」と。もう30何年も前ですから今とは文化状況が違うので、「ジェンダーを取り違えてやるなんてことは、このリアリズム演劇の金字塔たる名作にありえない。やめろ、ダメだ」と言われて。

クリス:悔しいですね。

篠井:残念だったんですけど、そのとき僕、ずっと女方で現代演劇でやっていこうっていう覚悟がありましたから、やっぱり「ああ、こういうことってあるんだよな」と思ってました。ちょっと達観してしまいました。悲しかったですけど、「こういうことと戦っていくんだな」ってすごく思いました。

クリス:それが1992年ですか。

篠井:そうです。そこから実際の上演までに9年かかって。そのあいだ、著作権を手配してくださる日本側のエージェントさんに毎年訊きに行ってました。クリスマスのころに「どうですかね、そろそろ。やっちゃダメですかね?」とか言って。すごく気にしてくださっていて、「いつかやらせてあげたい」っていうふうに思ってくださっていたと思いますけど。

クリス:実際に上演できるまで、どんな9年だったんですか。

篠井:現代演劇のなかで女優さんに交じって女性の役をやって、お芝居の役に立ちたい。別に自分だけが悪目立ちしたいわけじゃない。僕が女をやる専門の俳優であるということで、みなさんお願いしますっていうふうに言ってきたし、自主公演という別のかたちで自分で女方の舞台を企画してプレゼンテーションをしてきたので、いくらかそういう認識が広がったのと、社会的なジェンダーとかに対する文化の理解が変わってきたってことは言えると思います。そのころ、ちょうど。

クリス:「こういうこともあるんだな」って思ったっていうことは、当初から腹をくくって、それでやっていくぞっていうお気持ちが強くあったということですね。

篠井:そういう気持ちでしたね。

篠井英介の最新情報は吉住モータースの公式サイトまで。

クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』は、J-WAVEで月曜~木曜の13時よりオンエア。ポッドキャストでも配信中。

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13:00-13:30