音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
浅野いにおが「女性キャラクターを描く」ときの意識は? 吉岡里帆が聞く

浅野いにおが「女性キャラクターを描く」ときの意識は? 吉岡里帆が聞く

漫画家・浅野いにおが、映画化した『零落』にまつわるエピソードや、自身のライフスタイルについて語った。

浅野が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『UR LIFESTYLE COLLEGE』(ナビゲーター:吉岡里帆)。3月12日(日)のオンエア内容をテキストで紹介する。

中年漫画家の“リアル”を描いた漫画が映画化

浅野いにおはこれまで『おやすみプンプン』(小学館)、『ソラニン』(小学館)、『うみべの女の子』(太田出版)など、さまざまな漫画作品を発表。現在は『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で『MUJINA IN TO THE DEEP』を連載中だ。

浅野の原作が映画化された作品『零落』は、3月17日(金)より公開される。監督は竹中直人、脚本は劇団ペンギンプルペイルパイルズの倉持 裕が担当している。
吉岡:映画はご覧になられましたか?

浅野:もちろん。漫画の原作が映像化されるのはこれで3作目で、今までの経験でもそうなんですけども、違和感があまりないというか。だいたい全部満足しているんですよ。今回も原作の『零落』(小学館)はクセのある内容ではあったんですけども、監督が竹中直人さんということで、ある程度お任せというかお好きにやってくださいという体ではあったんです。作品の本質というか、中心の部分は全然変わらずに制作してくださったので、非常にありがたかったですね。

【関連記事】竹中直人「最高の作品だった」 浅野いにお原作『零落』映画化の経緯を語る

吉岡:すごく原作愛を感じましたね。私も過去に映像化された『ソラニン』と『うみべの女の子』の原作も読んでいるんですけども、みなさん浅野さんの作品へのリスペクトがすごく強いっていうのが、映画からビシビシ感じました。ビジュアルももちろんなんですけど、カット割まで一緒だったりするので、ここまで忠実に作っていくんだと感じましたし、今回も驚くシーンがありましたね。

浅野:もともと僕の漫画自体がちょっと映像的な構図だったり見せ方をしているってのもあると思います。ただ、正直みんな気にし過ぎかなっていう(笑)。

吉岡:本当に再現度がずっと高いですよね。『零落』がどのような作品なのか、改めて教えていただけますか?

浅野:主人公はヒット作を描いたことがある、40代ぐらいの漫画家です。その後、ヒット作を描かないといけないというプレッシャーに加えて家庭、夫婦の事情などもあり、若干心が彷徨ってしまう時期にぶつかった話になっています。全体を通してけっこう鬱々とした内容なので、みんながみんな面白く読めるかというと、そういうわけではないと思います。普段、漫画とかエンターテインメントでは取りこぼしがちな中年の鬱屈みたいなものを1回描いてみたいなという気持ちがあり、描いていた漫画ですね。

吉岡:浅野さんご自身が漫画家なので、読者の1人としては「こういうことを思って過ごされていたのかしら」と想像する方がたくさんいらっしゃると思います。ご自身のエッセンスはどれぐらい入っていますか?

浅野:全力です(笑)。ある意味、リアリティのあるもの。自分は昔からリアル志向なので、なるべく説得力があるものにしたかったし、どこの部分とは言いませんがかなり色濃く自分の実際の生活を反映した内容にはなっているかなと思います。

吉岡:自分自身もエンターテインメントとか人が作るものの世界の仕事をしてる1人として、ファンタジーや虚構も大事だと思うんです。だけど、やっぱり自分自身を切り刻んで自分から抽出したものをなかなか超えることはないというか。

浅野:そうなんですよね。

吉岡:実体験したことを私が表現するときは痛みが伴うし、やりたくないし、見せたくないんだけど、誰よりも自分が理解者でもあるんですよね。『零落』を描かれた浅野さんはすごく強い人だなと私は感じました。

浅野:よく言えば強い。あまり恥ずかしいって感覚もなくなってきちゃっているんですよね(笑)。吉岡さんのおっしゃっているように、自分もずっとフィクションを描いてきた身分ですけども、現実に起きていることのほうがドラマチックだったり面白かったりってのは、特に30代のころはよく感じていました。ドキュメンタリー番組を観ている感覚というか、事実であるということを上回るのはなかなかできない。30代で僕はSFっぽい漫画を描いていたんですけど、まったく反対方向にある現実のような漫画の面白さも片隅にはあったんです。それで、描かざるを得ないという感じでSFの漫画をガッツリ1年近く休んで『零落』を描きました(笑)。

吉岡:(休んでいた)SFっぽい漫画というのは『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』ですね。「今だ」と思われて、描き始めたということでしょうか?

浅野:そうですね。だし、実生活で起きたことに対してもある程度自分のなかで消化ができて、客観的に見られるような時期になったから描けたってこともあると思います。

【関連記事】斎藤工「心あたりしかない」 浅野いにおが描く、年齢を重ねた人の“零落という感覚”に共感

女性キャラクターを描くにあたっての意識

男女に対する“らしさ”を意識せず、行動や思考は個々の性格によるものだという認識を持つ浅野。女性キャラクターを描く際には、特定のモデルを意識することは少なかったそうだ。

浅野:自分が思うがままに描いているというか、なんだったら自分の内面を女性キャラクターに入れてしまっても成立する感じなんですよね。だったんですけど、変な話、最近は女性に対する偏見がようやくできてきたというか(笑)。思ったとおりの動きをする人もいるんだなってことがわかったんです。それも人それぞれだとは思うんですけども。個人的な好み、自分が女性に求めちゃうのって、自立しているところなんですよ。自分が仕事人間だからってのもあると思うんですけど、相手にも仕事をしていてほしいというか、お互いが自立していることがベストだと思っちゃうタイプなんです。『零落』の主人公と妻との関係性にも近いんですけども、そうなってくると「一緒にいる理由って何だろう?」と思っちゃうじゃないですか(笑)。

吉岡:そうですよね。『零落』では、まさに妻との平行線をずっと描いていますよね。妻はちゃんと自立しているし、むしろ仕事への愛が深いというか。

浅野:そこの部分ではおそらく共感し合っているんでしょうけども、夫婦、ペアとしての意味が失われちゃっている。そういうことに直面している時期も(自分には)あったんですよね。

吉岡:生ですねえ。

浅野:実感してみないとなかなかわからなかったりするんですよね。

吉岡:特に、喧嘩のシーンにそれを感じました。たぶん、どっちにも思う正義があって、自分自身の意見を相手にぶつけることがベストだと思っているというか。でも、実はそれが破滅の第一歩になるという。だからと言って、何も言わずに、鉄仮面のまま過ごせばいいかと言えば、絶対そうじゃないんですよね。

浅野:ある程度は仮面夫婦じゃないですけど、装ってプライベートで荒波を立てないようにしているんでしょうね。おそらく2人とも仕事が第1位になっているだろうから。それも時間が経つと沸点に達してぶつかっちゃうこともあるんですけど、そのときには手遅れなんですよ、みたいなね(笑)。

吉岡:貴重なお話でした。

楽器のパーツ集めが趣味

番組では、ゲストのライフスタイルにも注目。浅野は自宅のこだわりについて語った。

浅野:うーん、そんなに家具も詳しくないしインテリアも凝らないようにとは思っているんですが、スタッフの出入りがあるんですよね。僕、プライベートと仕事をまったくわけていないんですよ。

吉岡:そうなんですね。

浅野:自宅と仕事場をわけている時期もあったんですけど、結局どちらかにいることになってしまうんですよね。数年前からまとめて、自宅兼仕事場にしました。リビングが仕事場で、そこにスタッフも来るんですよ(笑)。新人の頃は狭いワンルームで漫画を描いていたんですけど、机の横にベッドがあって、疲れたらそのまま寝ちゃうみたいな感じでした。その感じがいまだに忘れられないというか、それと同じような生活をどこかで求めているようなところがあるんですよ。

吉岡:その状態が心地よいと感じている?

浅野:そうなんですよ。今も自分の机の真裏にソファーが置いてあって、そこでほぼ寝ているんです(笑)。

吉岡:健康の部分が気になります(笑)。

浅野:健康はね、最悪だと思います(笑)。逆に気にしないというか、ストレスをかけないのが一番だと思っているんですよね。楽なようにしています。

吉岡:今、暮らしのなかで欲しいものはありますか?

浅野:物欲は昔から強いので欲しいものがいっぱいあったはずなんですけど、最近は買えるものは買ってしまったんですよね。

一方で、コロナ禍になったことで購入欲が刺激されたモノもあったそうだ。

浅野:僕、もともと楽器がすごく好きなんですよ。ここ3年ぐらいで何百万円分かの楽器を買いました。

吉岡:楽器は高いですよね。

浅野:際限がないんですよね。ギターが好きでやっていたんですけども、ギターってどちらかというとバンドでやるものじゃないですか。歳取ってくると人も集まらないので、1人でテクノみたいなものを作るようになってくるんですよ。

吉岡:はい(笑)。

浅野:テクノはシンセサイザーを使うんですけど、シンセサイザーっていろんなパーツで構成されているんですね。パーツを組み立てて、自分好みのシンセサイザーを作れるものは昔からあるんですけども、最近それがコンパクトになって規格も統一されて使いやすくなったんです。僕も買ったんですけど、それが世界的にちょっと流行っているみたいなんですよね。

吉岡:いくらぐらいするんですか?

浅野:一つひとつはピンキリなんですけど、安くても数万円、高くて10万円ぐらいします。ただ、1個だけだと音は出ないので、それを何十個も並べるんですよ。(シンセサイザーは)僕の仕事場の棚にあるんですけども、全部合わせるとたぶん300万円ぐらいです。

吉岡:ひゃ~! すごい!

浅野:音は出るようになっているんで満足はしているんですけど、それが趣味らしい趣味ですね。

『UR LIFESTYLE COLLEGE』では、心地よい音楽とともに、よりよいライフスタイルを考える。オンエアは毎週日曜18時から。

この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。

  • 新規登録簡単30
  • J-meアカウントでログイン
  • メールアドレスでログイン
radikoで聴く
2023年3月19日28時59分まで

PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

番組情報
UR LIFESTYLE COLLEGE
毎週日曜
18:00-18:54