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「映画パンフレット」はどう作る? 『ミッドサマー』『めがね』の例をデザイナーに聞いた

映画『めがね』小道具の地図をそのまま使ったパンフレットがこちらのページ(番組SNSより)

「映画パンフレット」はどう作る? 『ミッドサマー』『めがね』の例をデザイナーに聞いた

デザイナーの大島依提亜さんが、映画パンフレット制作の裏側や、パンフレット制作への思いを語った。

大島さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『KURASEEDS』(ナビゲーター:山中タイキ、佐藤明美)。ここでは、8月18日(木)のオンエアをテキストで紹介する。

映画パンフ、邦画と洋画のスケジュールの違い

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もともとは映画制作を目指していたものの、デザインの道へと転身した大島さん。1999年より『かもめ食堂』や『ミッドサマー』『カモンカモン』『ちょっと思い出しただけ』など、多くのパンフレット制作に携わってきた。

映画館でも売り切れ続出になるような人気のパンフレットを数々生み出した大島さんだが、映画トータルでデザインを担当することもあるそうだ。さまざまなオーダーを受ける大島さんが、オファーを受けて最初にすることとは“映画を観ること”。しかし、邦画の場合はまたスケジュールが異なるようだ。

大島:邦画だとクランクイン前、撮影開始前から依頼されるケースがけっこう多いんですよ。要するに、ポスタービジュアルを撮影中に撮っちゃおうとか、台本に載せるロゴからお願いされるとか、あとは劇中に使われるタイトルなど。『ちょっと思い出しただけ』では、ものすごく重要なところでタイトルが入ることを知らずにロゴを作っていて、やり取りが複数回にわたったので、だいぶ慎重にやられてるなって感じたんですけど、ラッシュ(編集前の映像素材)を見て「これ、すごい重要なところじゃん、それは慎重になるよね」って思ったんですよね(笑)。あれがどういうロゴかによって、映画の印象が180度変わっちゃうくらいじゃないですか。「わ~」と思いました。

山中:J-WAVEでもおなじみ、松居大悟監督の『ちょっと思い出しただけ』のいちばん大事なところで出てくるロゴを、大島さんがデザインされたということですけど。どこで出てくるという詳細をあまり知らないまま手がけなきゃいけなかった、ということなんですよね。

佐藤:時間もないなかで作っていきますもんね。

【関連記事】伊藤沙莉が最もチャーミングに見える作品─池松壮亮×松居大悟が映画『ちょっと思い出しただけ』鼎談

小道具が生かせる、邦画のパンフレット

以前の放送で「映画のパンフレットは日本独自の文化だ」という話があったが、パンフレットというのは、映画のデザインのなかでいちばん最後にできるものなのだそう。なかには、公開数日前に納品されるものもあるようだ。大島さんのパンフレットデザインは、形もいろいろで面白いつくりとなっている。

作品中のモチーフを落とし込む研究をしながら、パンフレットをデザインする大島さん。アイデアはどのように決めているのだろうか。

大島:あからさまに非常に重要な小道具が出てくると「これは使えるじゃん」と思っちゃったりするんですけど、あんまり劇中にあるものを踏襲しすぎるのもちょっとなと最近思っていて、全体のイメージとして包むようなパンフレットがいいなと思っています。

大島さんは例として『かもめ食堂』を挙げた。作中ではフィンランド旅行中の女性(もたいまさこ)が、旅行用かばんをなくしてしまう……という場面が描かれているが、「なくなったスーツケースが映画を観終わった後にあった、という感じがいいので、映画の中で欠損しているモチーフを再現することもあるかもしれません」と話す。大島さんによると、これは“邦画がなせる業”なのだとか。

大島:(邦画は)小道具が残っていたりするので、本当にそのまま使えたりするんですよ。『めがね』のパンフレットのときも、(劇中、主人公が宿泊する宿に向かう際に見ていた)なんとなくいい加減な旅館までの地図が出てくるんですけど、それをすかさずゲットしてそのまんま載せるみたいな。劇中だとそんなにはっきり出ていなかったと思うんですけど、どういうものが書かれていたのかまじまじと見られたら、最高じゃないですか。だからそういう本物が使えるっていうのは邦画のよさですよね。

佐藤:パンフレットって映画を観る前に買う方もいると思うんですけど、始まる前に観てもちょっとわからないことが、観たあとにもう一度読むとわかるってことですよね。

山中:だから足りないところを埋めてくれるという役割もあったり、あと『めがね』という作品のなかでは、光石 研さんが使っている本当にちらっとしかでてこない地図、あえてそこを引っ張りだしてきて、そういった超小道具をパンフレットのなかに落とし込んで、僕らが見られるようにということで……。

佐藤:サブストーリーという感じになりますよね。

洋画は「何度もキャプチャを撮って研究」

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洋画のパンフレット制作は、邦画とは異なる制作方法をとっていると、大島さんは語る。劇中に出てくるパンフレットに使えそうな象徴的なモチーフを、何度もキャプチャを撮ってひたすら研究するのだそう。

大島:『ミッドサマー』とかは、実はオリジナル版には(作中のキーアイテムの)ルビ・ラダーという聖典の表紙が出てこないので、劇場版パンフレットは想像なんですけど、特装版のブルーレイディレクターズカット版には表紙が出てくるんですよ。なので、それをまじまじと見て再現しようとするんです(笑)。本編自体はだいたい通しで1,2回観て、断片的に幾度となく繰り返し見ます。

研究熱心な一方、大島さんが大事だと思っているのは、試写会の帰り道に電車のなかで観た映画を反芻している時間。そういうときに、いいアイデアに出会えることもあるそうだ。

最後に、大島さんの忘れられないパンフレットについて、語ってもらった。

大島:僕が高校時代に買ったもので、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』のパンフレットです。それまでも映画は観ていたんですけど、すごく子どもっぽい映画ばかり観ていて、この映画のパンフレットを買ったときに「大人になったなあ」って(笑)。それで、未だにずっと持っています。まさか今、ジム・ジャームッシュの映画のパンフレットをやることになると思っていなかったので、非常に感慨深いですね。

山中:ジム・ジャームッシュ監督の『ストレンジャー・ザン・パラダイス』。公開は1984年なんですけど、大島さんはリバイバル上映で入手したということです。90年代のミニシアターブームの頃、熱心にパンフレットを集めていたということで、大島さんの原点がここにもあるのかなというのが、見受けられる1つでもあるんですよね。

佐藤:大島さんはデザイナーになられてから、ジム・ジャームッシュ監督の作品のパンフレットをデザインされていて、昨年は大規模特集上映、「ジム・ジャームッシュ レトロスペクティブ 2021」では新ビジュアル12作品を手掛けたそうです。子どもの頃に影響を受けたものが、実際お仕事になっているというところがすごいですね。

パンフレットに関して大島さんは「映画を持ち帰ることができないからこそ、疑似的に持ち帰ることができるもの」と語っている。90年代のミニシアターブームのあと、下火になってきたといわれているパンフレットだが、「見た人がパンフレットの画像をSNSに上げて、感想を書いて、パンフレットが宣伝ツールとして機能している実感があります」とも語っている。

番組のInstagramでは、大島さんに伺った話を写真とともに投稿している。

【Instagramの投稿はこちら】

また、大島さんは9月2日(金)、LOFT9 Shibuyaで開催されるトークイベント、「CINEMORE presents A24 night!」に登壇予定。設立10周年を迎えた映画会社、A24の歴史を振り返り、今後注目の新作まで、その魅力に迫る。こちらのトークイベントはオンラインでも同時配信される。映画好きにはたまらないイベントを、チェックしてみては。

あなたの今日が最高1日になるように、暮らしを豊かにしてくれるヒント=種をあなたと一緒に見つけて育てていく番組『KURASEEDS』の放送は、月曜から木曜の朝5時から。

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2022年8月25日28時59分まで

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KURASEEDS
月・火・水・木曜
5:00-6:00