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ウクライナの人のために、私たちができることは。現地取材したジャーナリストが語る

ウクライナの人のために、私たちができることは。現地取材したジャーナリストが語る

ジャーナリストでドキュメンタリー作家の小西遊馬さんが、現地で取材をした“ウクライナの今”を語った。

小西さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『START LINE』(ナビゲーター:長谷川ミラ)のワンコーナー「AWESOME COLORS」。ここでは、4月1日(金)のオンエアをテキストで紹介する。

ウクライナの現状を伝えるために現地入り

24歳のジャーナリスト・小西さんは、以前に香港の民主化運動を取材した経験を持つ。小西さんはウクライナの現状を取材するために、3月11日にポーランドから陸路でウクライナに入国。3月16日から首都キーウで取材を続け、3月31日に帰国した。

小西さんがウクライナの取材を決断した理由は何だったのだろう?

小西:もともと、僕は他の取材を終え帰国し、メンタル的に余裕がなかったので、ウクライナのことを意図的にシャットアウトしていたところがあったんですね。しかし、日本のメディアがほとんどウクライナに入っていないことに気付いて「これはまずい」と思ったんです。僕にやれることがきっとあると思い、キーウに向かいました。
長谷川:どういったルートでキーウに入ったんですか?
小西:ポーランドに着いて、国境沿いの街から列車でウクライナに入りました。

帰国する際は別路を利用したという。

小西:僕はキーウにずっと滞在していたのですが、リヴィウという比較的爆撃を受けていない、安全だと思われている地方都市に列車で向かったんですね。しかし、着く直前にリヴィウが爆撃を受け始め、電車の窓から(都市で)煙が上がっているのが見えました。

当初はリヴィウで一泊後、電車で移動する予定だったが、都市から出られない可能性を考慮し滞在を断念した。

小西:その日のうちに夜行バスに乗ったら、なんとポーランド側に難民たちを逃がすバスでした。難民の方々と一緒にポーランドに向かう形で帰ることになりました。

長谷川は「キーウの市民が現在どんな生活をしているのか」を訊く。

小西:仕事ができない状態のなか必需品を買いにスーパーへ行き、その合間にいろんなボランティアに参加していました。前線の兵隊のためにごはんを作って運んだり、体が不自由で家から出られない老人の方に薬を届けたりといったボランティアがありました。
長谷川:電気、ガス、水道といったライフラインは、あるところにはあるという状況だったのでしょうか?
小西:キーウのライフラインはどれもありましたね。
長谷川:爆撃の予測がつけられないなか、現地の人々はどういう感覚で1日の行動を選択していたのでしょうか?
小西:非常に複雑で説明しがたい部分があります。まず1つは、時間帯です。現在は空爆よりもミサイルでの攻撃になっていて、日中に射出されると撃ち落とすことができるんですね。双方のミサイルの発射は明け方とか夜に入りだしたときになるので、まずその時間帯は外に出ないことがすごく重要でした。
長谷川:さきほどおっしゃっていたボランティアの方々は、ウクライナの方々を指しているんですよね?
小西:メインはそうですね。ただ、ポーランドからウクライナに入ってきた僕のように、いろんな国の方がいました。

ウクライナ国民たちはロシアに対してどのような感情を抱いているのだろう?

小西:ロシア人の方々に対する怒りはそれほどないように思います。というのも、(ロシアが)情報統制されている現状をウクライナ国民が理解しているからです。ただ、プーチン大統領に対してはものすごく怒っていました。

ウクライナで直面した命の危機

小西さんがウクライナに滞在しているあいだ、身の危険を感じた瞬間がたくさんあったそうだ。

小西:ジャーナリストの方々は何人か亡くなられているんですけども、そのうちのひとりは爆撃を近くで受け、爆風で命を落としています。僕はその3時間前に、まったく同じ場所にいました。爆撃のニュースを夜に観たとき、何もしゃべれませんでしたね。爆撃を受けた場所は、僕が滞在していたところから500メートルぐらいの地点でした。
長谷川:近いですね。
小西:「いつ亡くなってもおかしくない」と感じましたね。

ウクライナの取材では、身分証の提示を求められる。小西さんはそこでも命の危機に瀕したという。

小西:確認をするウクライナの兵士の方がマシンガンを持っていたんですけども、「お前は誰だ!」と叫んだんですね。その兵士の挙動がおかしいと感じたので理由を訊いてみたら、兵隊になった息子が2日前に亡くなったと。そういうメンタルの状態でマシンガンを持ったまま対応されると、こちら側からすればすごく恐怖を感じるわけです。
長谷川:なるほど。兵士の家族にもどんどん被害者が増えている現状があるんですね。
小西:そうですね。身内が亡くなった状態で職務に就いている状況は、非常に危険だと思いますね。
長谷川:聞くところによると、取材そのものが難しくなってきているそうですね。
小西:はい。ゼレンスキー大統領のコンサルタントみたいな方が「もしかするとジャーナリストがスパイ的な役割を果たしてしまうかもしれない」といった発言をしたんですね。

ジャーナリストやブロガーが公開した写真から軍事施設等が特定されるリスクを踏まえ、現地取材が難しくなったそうだ。

小西:カメラを持って外に出るだけで止められたりしました。
長谷川:日本のメディアがウクライナにいないから現地入りしたものの、ウクライナ側はスパイを恐れて取材を断る。もどかしいですね。
小西:そうですね。ただ、責めることはできないです。戦闘が長期化して市民の方々にも鬱憤が溜まって、そのはけ口がない。そうなってくると、どうしても内輪でもめがちです。

怒りのはけ口をウクライナ人同士で出し合っていると小西さんは語る。

小西:国外に行った人たちに「なんで逃げたんだ」、逃げた側は「なんで残っているんだ」といった揉め合いが始まっています。しょうがないけれど、切なく思います。

ウクライナの人々に対してできることは何か

小西さんはウクライナの取材を通じて感じたことを語った。

小西:改めて思ったことは「人間は環境によってどうにでもなる」です。平和な場所だと「誰も傷つけないように」と思えるんですけども、異なる環境が押し寄せたとき、自分を制するのは難しいんだなと感じました。
長谷川:そういった側面は、現地に行かないと見えてこないですね。
小西:環境や関わる人によって、人は変わります。

ウクライナの人たちのためにできることはあるのだろうか。

小西:僕が一番必要だと思った支援は、(国外へ)逃げていった人たちへの支援だと思っています。仕事もなく逃げていった人たちは、問題の長期化によってウクライナに戻ってきているんですね。
長谷川:戻る方がいるんですか。
小西:仕事がなく出費ばかり続く状況によって、泣く泣くウクライナに戻る方はいらっしゃいます。そういった方が長く安全な場所にいられるよう、できることはまだまだあるんじゃないかなと思います。
長谷川:戻って仕事があるんですか?
小西:オンラインで働ける方々の場合、僕が聞いた限りでは違う国で働ける環境を提供する企業もありますが、個人で働いていた人たちはキーウで服を売ったりレストランをやられている方が多いです。
長谷川:ということは、ウクライナ全土が爆撃を受けているわけではないということでしょうか?
小西:全土ではないです。少なくとも、僕が滞在していたキーウの場合、日中は爆撃があるエリアもあったのですが、コーヒーを飲みに行ったり公園へ散歩に行ったりする人たちもいます。
長谷川:戦争のなかに日常があるということですね。
小西:そうですね。日常を過ごすことで「自分たちが戦時下にいる」ということを少しでも忘れたい気持ちがあるのだと思います。

『START LINE』のワンコーナー「AWESOME COLORS」では、自分らしく輝くあの人のストーリーをお届け。放送は毎週金曜日の18時10分から。

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