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デイケアで「わざと段差を作る」意味とは? 不便のメリット=不便益の研究者に話を聞いた

(画像素材:PIXTA)

デイケアで「わざと段差を作る」意味とは? 不便のメリット=不便益の研究者に話を聞いた

機械による自動化があちこちで進み、便利であることがよしとされる世の中だ。そんななかで、“不便”によるメリットを研究する人がいる。「不便益」研究者の川上浩司さんだ。その具体例は?

川上さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」。ここでは、1月26日(水)のオンエア内容をテキストで紹介する。

実は身近にあった“不便益”の具体例

京都先端科学大学の教授である川上さん。専門である“不便益”という言葉を初めて聞いた人も多いだろう。不便だから益が得られている事例を集めて、そのエッセンスを抽出して新しいモノやコトのデザインに活用しようという研究だそう。

私たちの生活にすでにある具体例として、川上さんはTwitterを挙げた。

川上:Twitterは140字という制約があります。制約があるって、普通なら不便なことですよね。だけど制約があるからこそ独特な文化が生まれたりもする。短くて全てを語りきれないから、受け取る方も想像を膨らませることがありますよね。普通、制約があることが不便なことなんですけど、僕たちはそれを活用しているんですよ。

別所:他には?

川上:俳句や短歌が流行っていますけど、あれもそうですよね。独特の制約があります。

川上さんによると、スポーツにも同じことが言えるのだそう。

川上:スポーツとかも、ルールがなければ面白くもなんともないと思うんですよね。

別所:そうか! 確かに、私たちの中でルールにしていると考えると、それは制限ですから。ある種、完全な自由ではないですもんね。

川上:そうです。だから不便にも色々な種類があるんですけど、その中のひとつに制約、自由にさせてもらえないというのがあって。そうすると人間はクリエイティブになったりするから面白いですよね。

“わざと不便にする”事例

この“不便益”、実は社会の中でも多くの試みが行われているよう。川上さんは「僕が勝手に“不便益認定”をしてるだけですけど(笑)」と前置きをしつつ、興味深い事例を教えてくれた。

川上:例えば、“バリアアリー”ということをやってるデイケアセンターがあるんですよ。バリアフリーの逆なので、“バリアアリー”。

別所:それはどういうこと?

川上:施設の中にあえて軽微なバリアを作るんです。ちょっとした段差を作ってみたり。そうすると入居者の人たちの日々の生活がちょっとした身体の訓練になって、身体能力が衰えるスピードを緩和するというんでしょうか。

別所:なるほど。バリアが何かあることによって、注意が生まれたり、努力をしたり。それが当たり前になることで健康効果、筋力が上がったりするわけですね。

川上:これ、実は健康だけじゃなくて頭にもいいらしくて。痴呆症の方のシェアハウスみたいなところで、あえて古い家屋で急な階段とかがあるシェアハウスがあるんですけど、そこだと痴呆症の副作用のようなものが出ない。徘徊とかが少なくなるとかあるらしいんです。

別所:それは日本の話でしょうか。

川上:大阪です。やっぱりバリアは身体だけじゃなく頭にもいいらしいですよ。

このような“わざと不便にする”という事例は、ヨーロッパにも存在する。

川上:ヨーロッパの主要5ヵ国で、“シェアードスペース”っていう実験が行われたことがあります。これは街の真ん中の道で信号機や標識、車線を全て取っ払って、このスペースを車も人もバイクも自転車も路面電車もシェアしなさい、というもの。

別所:ちょっとまた大胆な(笑)。要はそこには交通ルールが存在しないんですね。自由なのがルールなんですね?

川上:自由なので安全を担保するのは道路でも行政でもなく、あなたですよっていう。

別所:それで、どうなったんですか?

川上:結局、事故率は信号があるときと変わらずで、車の平均速度が下がったらしいです。

別所:すごい社会実験ですね。

川上:そうですね。でも残念なのが実験なので5年間で終わっちゃったんですけど、この実験をフランスでは未だにやっていると聞いています。

川上さんが提唱する、不便から得られる益8種とは?

不便から得られるメリットを川上さんは「不便から得られる益8種」として発表した。

1:能力低下を防ぐ
2:主体性が持てる


川上:1はさっきの“バリアアリー”の話がそうですよね。2は先ほどの“シェアードスペース”がいい例です。道を歩いている人にとったら、自分が(安全を)担保しているという主体性を持てるんです。

3:発見できる
4:工夫できる


川上:例えば、コロナ禍で通勤をせず家でじっとしてなさいということになっちゃったんですけど、そのときに気が付いたんです。通勤って不便なことなんだけど、その途中でいろんな物を発見したり、この店に入ってみようかなと行動してみたりできていたんですよね。面倒に思っていた、仕事場に移動しなくちゃいけないということが、逆に発見のチャンスをくれていた。

別所:発見だけじゃなく、歩くから健康にもいいですしね。4つ目は?

川上:4つ目は工夫できるってことです。何かを見つけたときに、ふらっとそれをできるということ。例えば、気になるお店を見つけて入ってみるのは、不便だと思っている通勤があるからできることですよね。

5:安心できる・信頼できる

川上:便利ってある種、ブラックボックスじゃないですか。人間は何もやらなくていいから、機械が勝手にやってくれますよみたいな感じで。

別所:あはは。確かにボタンをひとつ押したりとかね。

川上:でもそれだと中側は見えないわけです。でも不便なものって自分で手をかけてやるので、中がどうなっているかわかるから安心できるんです。

6:対象系を理解できる

川上:6つ目は対象系を理解できること。手間を掛けることで、機械やその中の仕組みを理解することができると思うんです。

別所:なるほど、メカニズムを理解できるというわけですね!

7:上達できる

川上:これはスポーツをやることと同じだと思うんですけど、自分で手間をかけなければいけないからこそ、上手くなっていけると思うんです。

別所:そうか! 便利だとボタンひとつでいろんなことができたりするけど、達成感がありますね、不便だと。解決していかなきゃいけないから。

川上:便利なワンプッシュボタン式で上達も何もないですよね。

8:俺だけ感がある

川上:最後は俺だけ感があるということ。これをできるのは俺だけというみたいな(笑)。

別所:あはは、なるほどね(笑)

“便利”と“不便”を共存させる社会へ

「便利・不便、どちらか一方を突き詰めるんじゃなくて、同居させることが重要だ」と話す川上さん。この考えについて別所が聞いた。

川上:便利でいいことを否定しているわけじゃなくて。それももちろんあっていいんですけど、「不便だったら残念」と思うんじゃなくて、そこに益があるか探してもらうと便利の益も不便の益も両方ゲットできるので。

別所:なるほどな。先生は、代替のあとにくる言葉が不便益になり得るともお考えなんですよね。

川上:そうですね。便利なものって人の代わりにやってくれるのがほとんどなんですけども、それってやっぱりつまらないですよね。なので、人とモノが一緒に働くというか、人の手間をかけることが意味を持つような、そういう世の中になっていってほしいなと思っています。

別所:ここ数年DIYやソロキャンプが流行っているのも人間が本能でそういう方向に帰ろうしているのかもしれないですね。

川上:そうだと思います。

別所:自分で工夫してできることっていうのに、脳が求めているというかね。

川上:何もするなということに辟易としちゃっているんだと思いますよ。

別所:最後に、“便利”と“不便”を共存させるこれからの社会、「不便益」をどう活用していくべきだと思いますか?

川上:僕らみたいに工学部畑の人間的には新しい物事を発想する、作り出すヒントにできるし、そうじゃなくても今ある物事を新しく見直す視点になると思っています。

『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の8時35分頃から。

(構成:笹谷淳介)

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