私たちは「お金」と、どう付き合うべきなのか。「ゴールドマンサックス」に16年間在籍し、現在は、中高生にむけた金融教育などに従事する田内 学さんをゲストに迎え、「お金」の価値、そしてその先にある豊かな生き方について話を聞いた。
田内さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」。ここでは、12月9日(木)のオンエア内容をテキストで紹介する。
田内:変わったところで言うとドラマになった「ドラゴン桜」の原作の監修協力などもさせてもらったりしています。
別所:なるほど! 日本では金融やお金に対する教育が「あったかな?」という感じなんですが、海外では投資に関する学びを、学校や家庭でもするものですか?
田内:日本だと、おそらく投資から学び始めると思うんですけど、その前にお金と自分の生活がどう関わっているのかを知る必要があります。そして、お金を使った先、誰かに働いてもらってお金を使えたり、逆に誰かのために働くことでお金を得ることができるということを理解しないといけないなと。そういったお金の社会の繋がりを学べる機会は海外の方が多い気がします。
田内さんが今年9月に刊行した著書『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)。別所はそのタイトルに「言われてみたら確かにそうだよな」と納得し、お金・資本主義・経済学をさまざまな角度から解説する本について、トークを進めていく。 別所:専門用語がズラリと並ぶような内容ではないんですが、こうした経済学の本をまとめられたのは何故ですか?
田内:経済って専門用語で語られることが多いんですけど、そうするとそれだけで納得した気になってしまうんですよね。例えば、GDPがどうかとか、経済効果があるとか。でもそれが誰のためになっているのかということはあまり語られていない。このままで日本は大丈夫かなという心配があったんですよね。
別所:確かに、僕たちもこうやって番組に携わって情報として伝える数値というのはあるんですけど、それだけでいいのかなって。その向こう側ですよね、大事なのは!
田内:そうですね。東京五輪も経済効果があるとかいろいろ言われていたんですけど、実際、蓋を開けてみると誰のためにやっていたんだろうという議論がなされたりしていて……。一体、経済効果やGDPが増えることが本当に生活に繋がっているのかが分からないですし、お金と社会の関係ってよく語られるんですけど、お金を通して人がどう結びついているのかとか、そういったところにスポットを当てて考えないといけないなと思います。
田内:僕は「ゴールドマンサックス」で長い間トレーディングをしていて、お金ついてすごく考えてきました。気づいたのは、お金で解決する問題というのは実は存在していないということ。お金というのは誰かに問題を解決してもらう「チケット」でしかないんですよね。例えば無人島に行くときには、チケットを持って無人島に行かなくて実際に問題を解決してくれそうな道具を持っていく。実際に僕らがお金を使うときも、チケットを使えるのはその向こう側に問題を解決してくれる人がいて、働く人がいるからこそ。チケットと言い換えることで、それに気づくことができるかなと。
別所:確かに電車で移動するときも、電車に乗るためにお金を払って乗るわけですけど、電車そのものがなかったり、運転してくれる人がいなかったら自分で行きたい目的地にはいけないですもんね!
田内:そうなんです! コロナ禍で気づいたことだと思うんですけど昨年、医療サービスなどが十分に受けられないとき、政府が予算を増やそうとしたわけですけど、予算を増やしたところで医療従事者がいなければ意味がないんですよね。
別所:ワクチンを打つと言っても打ってくれるお医者さまがいなければ意味がない。これ、予算の確保と労働力の確保ということの関係がお話でも見えてきた気がします。
予算の確保と労働力の確保という別所の問題提起から、田内さんは、「もっと身近なことでも言えると思っていて」と話し、年金問題をテーマに解説していく。
田内:例えば、皆さんが投資に興味を持つようになったキッカケって年金問題があると思うんですよ。これもある意味、予算を確保して将来、安心して暮らそうということだと思うんです。この年金問題の根本にある問題というのは、少子高齢化で将来働く人がいないことですよね。将来みんなで分け合うであろう生産物は将来の少ない労働者たちによって作られるものだから、お金をどんだけ増やしても生産力が上がらなければ意味がないんです。だから少子化を根本的に解決しなければいけないし、生産効率が上がるようなことに投資のお金が向かないとただの椅子取りゲームみたいになってしまう。
別所:そうですね。少ないパイを奪い合うことに結局なってものすごく高価になってしまうかもしれないですね。チケットをたくさん持っていても、1万円で出来ることが100万円出さないと出来ないみたいな。本質はお金の先にあるサービスだったり、大切な人の動きをどう増やすかですね。
田内:まさに、おっしゃる通りだと思います。
別所:おお! ちょっと田内さんに近づけたかな、別所哲也!
別所:中高生向けに金融教育と言っても、デジタル社会における、NFTとかメタバースとかが出てきたり、子供たちはゲームをしていたり……。田内さんがおっしゃる、「金は問題解決するためのチケット、その先に本質がある」ということに意味があると思うんですが、これから通貨や紙幣の価値はどうなるんでしょうか。
田内:電子マネーというのは決済が楽になるし、そういう意味でいうと働く人の労力って減ると思うので普及してくれていいと思うんですけど。じゃあ、NFTとかいろいろ暗号資産、仮想通貨というのが果たしてどんな意味を持つのか。現在、取引している方たちは、そのもの自体の価格が上がるから取引してる方が多いように思うんです。本来、投資はその先の価値を考えるものなんですが、みんなが買っているからという理由で買ってしまって、お金自体が目的になってしまっていることがあって。お金はあくまでも手段でしかないのに、その手段を使って生活をどう豊かにしていくかというのを、改めて考えなきゃいけないのかなと思いますね。
別所:いやあ、でもね、リアルライフにおいても、老後のお金が2000万必要と言われたようなニュースがあったじゃないですか。ドキドキしちゃってる人が多いと思うんですよ。どうしてそのお金を工面するのかって。
田内:そうですよね。だからまさに、財布の中のお金を増やすことが必要になってくるんですが、自分ひとりで生きていけるわけではないので、投資先に何があるのかというのを考える必要があると思います。ここで言う投資は為替を買ったり売ったりすること、もしくは次に値上がりする株などを見つけることではなく、将来どういう社会になって欲しいのか、将来のために働いてくれる人や会社に対して投資するお金が向かっていくことが大事なのかなと思います。
田内:僕らは“お買い得”って言葉をよく使うことがあると思うんですね。例えば、1万円の定価で中には10万円分入っていた福袋を買うとする。すると10万円の価値のものを1万円で買ったから9万円お買い得だと思うんですけども、実際には気に入る服が入っていないということも多いと思います。これって自分の生活を豊かにしているわけではないですよね。いま僕らが感じている“お買い得”って価格で考えてしまっているから、作る企業側もいいものを安く作っても、安いから安物だと思われるわけです。すると作る側もいかに高く見せるか、いかにブランディング、マーケティングをして高いものだとお客さんに思ってもらうかというのが大事になってしまって、お客さんのためのものを作ろうとならなくなってしまうんですよね。
別所:本質だな、やっぱりそこが。ズレちゃうんだな。
田内:ズレちゃいますよね。だからそうならないためには、やっぱり消費者である僕たちが自分にとって幸せになるものって何だろうとか、それを作ってくれる会社はどこだろうと考えないといけない。
別所:でも生活者は気づき始めていて、だからソロキャンプとか自分の大切なQOLっていうのをね? 本質的に健康やウェルビーイングも含め、まさに考え始めているのかもしれませんね。
田内:そういう時期に来てると思います。
『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の6時30分頃から。
(構成:笹谷淳介)
田内さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」。ここでは、12月9日(木)のオンエア内容をテキストで紹介する。
お金と人の結びつきにスポットを当てる
中高生にむけた金融教育を行う田内さん。「高校の社会科の教科書を書いたり、学生向けの講演会などでお金について、投資よりも前にお金ってそもそも何だろうというところからお話したり」と自身の活動を語る。田内:変わったところで言うとドラマになった「ドラゴン桜」の原作の監修協力などもさせてもらったりしています。
別所:なるほど! 日本では金融やお金に対する教育が「あったかな?」という感じなんですが、海外では投資に関する学びを、学校や家庭でもするものですか?
田内:日本だと、おそらく投資から学び始めると思うんですけど、その前にお金と自分の生活がどう関わっているのかを知る必要があります。そして、お金を使った先、誰かに働いてもらってお金を使えたり、逆に誰かのために働くことでお金を得ることができるということを理解しないといけないなと。そういったお金の社会の繋がりを学べる機会は海外の方が多い気がします。
田内さんが今年9月に刊行した著書『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)。別所はそのタイトルに「言われてみたら確かにそうだよな」と納得し、お金・資本主義・経済学をさまざまな角度から解説する本について、トークを進めていく。 別所:専門用語がズラリと並ぶような内容ではないんですが、こうした経済学の本をまとめられたのは何故ですか?
田内:経済って専門用語で語られることが多いんですけど、そうするとそれだけで納得した気になってしまうんですよね。例えば、GDPがどうかとか、経済効果があるとか。でもそれが誰のためになっているのかということはあまり語られていない。このままで日本は大丈夫かなという心配があったんですよね。
別所:確かに、僕たちもこうやって番組に携わって情報として伝える数値というのはあるんですけど、それだけでいいのかなって。その向こう側ですよね、大事なのは!
田内:そうですね。東京五輪も経済効果があるとかいろいろ言われていたんですけど、実際、蓋を開けてみると誰のためにやっていたんだろうという議論がなされたりしていて……。一体、経済効果やGDPが増えることが本当に生活に繋がっているのかが分からないですし、お金と社会の関係ってよく語られるんですけど、お金を通して人がどう結びついているのかとか、そういったところにスポットを当てて考えないといけないなと思います。
問題を解決するのは「お金」ではなく「人」
『お金のむこうに人がいる』の入り口になっているのは“お金の価値”について。田内さんは本の中で紙幣の価値を「チケット」と表現している。その理由とは?田内:僕は「ゴールドマンサックス」で長い間トレーディングをしていて、お金ついてすごく考えてきました。気づいたのは、お金で解決する問題というのは実は存在していないということ。お金というのは誰かに問題を解決してもらう「チケット」でしかないんですよね。例えば無人島に行くときには、チケットを持って無人島に行かなくて実際に問題を解決してくれそうな道具を持っていく。実際に僕らがお金を使うときも、チケットを使えるのはその向こう側に問題を解決してくれる人がいて、働く人がいるからこそ。チケットと言い換えることで、それに気づくことができるかなと。
別所:確かに電車で移動するときも、電車に乗るためにお金を払って乗るわけですけど、電車そのものがなかったり、運転してくれる人がいなかったら自分で行きたい目的地にはいけないですもんね!
田内:そうなんです! コロナ禍で気づいたことだと思うんですけど昨年、医療サービスなどが十分に受けられないとき、政府が予算を増やそうとしたわけですけど、予算を増やしたところで医療従事者がいなければ意味がないんですよね。
別所:ワクチンを打つと言っても打ってくれるお医者さまがいなければ意味がない。これ、予算の確保と労働力の確保ということの関係がお話でも見えてきた気がします。
予算の確保と労働力の確保という別所の問題提起から、田内さんは、「もっと身近なことでも言えると思っていて」と話し、年金問題をテーマに解説していく。
田内:例えば、皆さんが投資に興味を持つようになったキッカケって年金問題があると思うんですよ。これもある意味、予算を確保して将来、安心して暮らそうということだと思うんです。この年金問題の根本にある問題というのは、少子高齢化で将来働く人がいないことですよね。将来みんなで分け合うであろう生産物は将来の少ない労働者たちによって作られるものだから、お金をどんだけ増やしても生産力が上がらなければ意味がないんです。だから少子化を根本的に解決しなければいけないし、生産効率が上がるようなことに投資のお金が向かないとただの椅子取りゲームみたいになってしまう。
別所:そうですね。少ないパイを奪い合うことに結局なってものすごく高価になってしまうかもしれないですね。チケットをたくさん持っていても、1万円で出来ることが100万円出さないと出来ないみたいな。本質はお金の先にあるサービスだったり、大切な人の動きをどう増やすかですね。
田内:まさに、おっしゃる通りだと思います。
別所:おお! ちょっと田内さんに近づけたかな、別所哲也!
将来のために投資する先を見極めることが重要
12歳の娘を持つ別所は、電子マネーの普及でお金の重さや大切さを伝えづらくなってきたと話した上で、通貨や紙幣の価値について聞いた。別所:中高生向けに金融教育と言っても、デジタル社会における、NFTとかメタバースとかが出てきたり、子供たちはゲームをしていたり……。田内さんがおっしゃる、「金は問題解決するためのチケット、その先に本質がある」ということに意味があると思うんですが、これから通貨や紙幣の価値はどうなるんでしょうか。
田内:電子マネーというのは決済が楽になるし、そういう意味でいうと働く人の労力って減ると思うので普及してくれていいと思うんですけど。じゃあ、NFTとかいろいろ暗号資産、仮想通貨というのが果たしてどんな意味を持つのか。現在、取引している方たちは、そのもの自体の価格が上がるから取引してる方が多いように思うんです。本来、投資はその先の価値を考えるものなんですが、みんなが買っているからという理由で買ってしまって、お金自体が目的になってしまっていることがあって。お金はあくまでも手段でしかないのに、その手段を使って生活をどう豊かにしていくかというのを、改めて考えなきゃいけないのかなと思いますね。
別所:いやあ、でもね、リアルライフにおいても、老後のお金が2000万必要と言われたようなニュースがあったじゃないですか。ドキドキしちゃってる人が多いと思うんですよ。どうしてそのお金を工面するのかって。
田内:そうですよね。だからまさに、財布の中のお金を増やすことが必要になってくるんですが、自分ひとりで生きていけるわけではないので、投資先に何があるのかというのを考える必要があると思います。ここで言う投資は為替を買ったり売ったりすること、もしくは次に値上がりする株などを見つけることではなく、将来どういう社会になって欲しいのか、将来のために働いてくれる人や会社に対して投資するお金が向かっていくことが大事なのかなと思います。
自分にとって幸せになるものを考える
別所は最後に、「暮らしが豊かになる基準」について田内さんに聞いた。田内:僕らは“お買い得”って言葉をよく使うことがあると思うんですね。例えば、1万円の定価で中には10万円分入っていた福袋を買うとする。すると10万円の価値のものを1万円で買ったから9万円お買い得だと思うんですけども、実際には気に入る服が入っていないということも多いと思います。これって自分の生活を豊かにしているわけではないですよね。いま僕らが感じている“お買い得”って価格で考えてしまっているから、作る企業側もいいものを安く作っても、安いから安物だと思われるわけです。すると作る側もいかに高く見せるか、いかにブランディング、マーケティングをして高いものだとお客さんに思ってもらうかというのが大事になってしまって、お客さんのためのものを作ろうとならなくなってしまうんですよね。
別所:本質だな、やっぱりそこが。ズレちゃうんだな。
田内:ズレちゃいますよね。だからそうならないためには、やっぱり消費者である僕たちが自分にとって幸せになるものって何だろうとか、それを作ってくれる会社はどこだろうと考えないといけない。
別所:でも生活者は気づき始めていて、だからソロキャンプとか自分の大切なQOLっていうのをね? 本質的に健康やウェルビーイングも含め、まさに考え始めているのかもしれませんね。
田内:そういう時期に来てると思います。
『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の6時30分頃から。
(構成:笹谷淳介)
この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。
番組情報
- J-WAVE TOKYO MORNING RADIO
-
月・火・水・木曜6:00-9:00
-
別所哲也