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環境のために「我慢・節制する」と考えがちだけど…独立研究者・森田真生が提案する発想の転換

環境のために「我慢・節制する」と考えがちだけど…独立研究者・森田真生が提案する発想の転換

“独立研究者”の森田真生さん。今回はそんな彼の最新著書『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』(集英社)を紹介するとともに、これからの生き方のヒントを探った。

森田さんが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」。ここでは、11月18日(木)のオンエア内容をテキストで紹介する。

数学は「思考の可能性の限界」を追求している学問

京都拠点に活動する森田さん。番組はそんな森田さんへ京都の朝の様子を伺いながら、数学をコアにした著書の執筆、公演活動を展開される「独立研究家」としての仕事内容について話を聞いていく。

別所:森田さんは自身のことを「独立研究家」と名乗られているんですが、この理由とは一体?

森田:理由は、特にどこの組織に所属しないで研究をしているので、独立をしてインディペンデントで研究をしていますというのを「独立研究者」と名乗っていますね。

別所:具体的にはどんな研究をされているんですか?

森田:今回、紹介していただける本の『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』というタイトルなんですが、究極的には僕たちはどう生きるかということを考えているところですね。

別所:数学がそもそものご専門だったんですか?

森田:そうですね。大学では数学を学んで、これまで書いてきた本も数学を軸としたものが多いんですよ。地球ってすごく不思議な星というか、そこで生きていること自体、不思議なことだと思うんですが、生き方の可能性やものを考える可能性の限界を考えようとしたときに、数学というのは思考の可能性の限界を追求している学問だと思うんです。だから僕は考える際の最初の軸というのは数学にあるなと思っています。

別所:数学って僕なんかから見ると、必ず答えがあるという前提がある気がしますけど……。

確かに別所が話すように数学は、問題さえ解ければ答えがある学問。しかし森田さんは数学の歴史を学ぶことでその考え方は変わるという。

森田:それは学校で数学を学ぶときの残念なところで。実際は「数学をする」ことはどういうことなのか、というゲームの内容が変わり続けているという歴史があるんですよね。

別所:なるほど。と言うと?

森田:数学の内容も変わっていますし、目的も変わっていて、だから1つの正解がずっとあるわけではないんです。そもそもゲームってそういうものだと思うんですけど、目的がだんだん変わっていっちゃったり、昔は意味がなかったはずのことがすごく意味のあるものになっていったり、そのダイナミックな展開がすごく面白いなと思うんですけどね。

別所:その数学の本質がみんなに伝わっていくといいですね!

生態系と向き合い、生きる知恵を得る場所「鹿谷庵」

森田さんは昨年、学び・教育・研究・遊びを融合するという実験の場である「鹿谷庵(ろくやあん)」を立ち上げた。

森田:これは昨年の秋に立ち上げました。先ほど、数学っていうのが人間の知っていた意味の世界を広げたり、揺さぶったりしてきたんじゃないかという話をしたんですけど、現在は数学だけじゃなくて地球の環境も大きく変化し始めていますよね。人類が経験したことのない速度で気候や生態系のバランスが変化していっている。そういうことが人間の発想や感性をかなり大きく変えていくんじゃないのかなというように僕は思っていて。そういう生き物の変化や生態系の様子を通していろんなことを学んでいく場所を作ろうと思って、立ち上げたんです。

別所:「鹿谷庵」という名前は、どんな意味をこめて?

森田:本当に小さな古い古民家なんです。なので、庵って感じなんです(笑)。あまり迷わず「庵」にしましたね(笑)。

生態系の様子を通してとは、一体どういう実験や研究をされているのだろうか。

森田:今回の本の中に舩橋真俊さんという科学者が登場するんですけど、彼が「生態系のリテラシー」という言葉を使っていて。生態系を読み取る力とでも言うんでしょうか。例えば、僕は最近、庭の苔の手入れを頑張っているんですけど、苔ってすごく面白くて! 落ち葉が落ちてくるだけで、苔にとっては屋根が崩落してくるくらいの環境の大変動なんです。そうやって苔の目線になってみると、当たり前のようにあった芝が苔の邪魔をしているんじゃないかと気になり始めてきて、芝を抜こうかと思い始めるわけです。

しかし、不都合と感じたものを排除していくと、大抵あとから痛い目を見ることになる。生態系は、さまざまなつながりがあるからだ。

森田:知り合いの苔に詳しい知人にちょっと相談をしたら、「芝を抜くのはやめた方がいいです」と言われて(笑)。芝は確かに苔にとっては驚異なんだけど、その芝の周りに集まる水分が苔にとって重要な湿度を供給してくれている場合があって、敵でもあるんだけどずっと一緒にいると支え合う関係もあるわけですね。そうやって不都合なものがあったらすぐ排除しないほうがいいんだなとか、全く役に立たないものはこの世界にあるわけではないんだなということは生態系と向き合っている中で、読み取ることができる、知恵みたいなものっていうんですかね。そういうことを育むようなことをやりたいというのが「鹿谷庵」。実際、裏庭で複雑な生態系を作ろうということでいろんな植物を植えてみたり、野菜を育てたりとか、それこそ苔の観察会をやったりとか、そういうのを子供たちと大人も混ざりながらやったりしています。

環境の問題の最前線は、心の問題に通ずる

森田さんの最新著書『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』のキーワードは「アプリシエイト」。別所が森田さんに意味を訊いた。

森田:「アプリシエイト」には味わうとか認めるとか感謝するとかいろいろなニュアンスが入っている言葉ですごくいい言葉だなと思うんです。やっぱり環境のことを考えるときにどうしても「今までやり放題だったことを我慢しましょう」とか「節制しましょう」「欲望を少し抑えましょう」という考え方になりがちな気がするんですけど、それよりもむしろ「新しい喜びを見つけ出していこう」という方向に発想を変えられないかなという風に思っていて。

別所:なるほど。

森田:環境と人間の心って深く繋がっていますよね。今日だって別所さんとの最初の会話は「秋」という環境の話から始まったわけです。環境を分かち合う中で僕たちの心が通じ合ったりしているし、月を見上げてなんとなくほっとしたりするし、月とか花とか季節から心って切り離せない。だから環境が壊れていくということは心が崩れていくということを必然的にもたらすと思うんですよね。環境の問題の最前線は実は心の問題なんじゃないのかなと思っていて。どうしたら気候変動を止められるかという話も大事なんですけど、どうしたら環境が変化していく中で僕たちの心がそれに持ち堪えられるかということがすごく重要なテーマなんじゃないかなと思うんです。

別所:いやあ、普段から無難な会話としてお天気のお話はするけど、最近ではもう不安要素も入っていますもんね、お天気の話で。

森田:そうですそうです!

環境と心は繋がっていると話す森田さんへ、別所はパンデミックの中で指摘された大都市への疑問符についても質問する。

森田:これからの人の大半は都市に住んでいくと思うので、都市型の生活がマズイということだけになってしまうと心は壊れていってしまうと思うんですね。特に子どもたちは、自分たちは都市で暮らさなきゃいけないのに、都市を批判されてしまうとどうしたらいいのかなって。エコロジカルに考えるというのは、緑だけだという発想からもう少し自由になる必要があるんじゃないかなと思っていて。

別所:と言うと?

森田:例えば、鉄筋コンクリートの鉄なんかも非常に深い宇宙の歴史というか、宇宙の始まりのころに星が爆発して、それが宇宙空間に散らばって、それと生き物や海の水とかが相互作用しながら出来上がっていった物質で。いろいろなものが相互作用しながら生み出された鉄という物質に対して、僕たちはアプリシエイトする、感謝して認め味わうことができると思うんですよ。都市空間というのは複雑な構造物がたくさんありますから、それを人間だけのためじゃなくて、せっかくこれだけ複雑な構造物があるのであれば、蛙がもう少し登りやすい壁を作ってあげようとか、鳥がもう少し巣を作りやすいように工夫してあげようとか、これだけ複雑な空間を作ったんだから人間だけじゃない生き物が楽しめるようにしようという工夫をしていくと、都市という場所も非常にエコロジカルなキャパシティが広い空間になるんじゃないかなと僕は思っているんです。

別所:確かに、鳥たちはバイタリティ溢れていて、鉄筋コンクリートでも。カラスたちも巣を作ったりしますからね。

森田:思わぬところでも適応していくので。もう少し彼らが生活をしやすいように手伝いをするというか。

別所:今、エコロジーというか環境を考えるときにグリーンというキーワードから私たち自身もちょっと卒業する必要性があるかもしれませんね。

森田:そうですね。地上を緑が覆うようになったのはすごく最近のことというか、4億年とか5億年くらいのことなので、生命の歴史というのはグリーンじゃなかったというか。海の中だったり、地上の緑だけではないわけなのでもう少し発想を広げてもいいかもしれないですね。

森田さんの最新情報は公式サイトまで。

『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の6時30分頃から。

(構成:笹谷淳介)

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