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スガ シカオ×尾崎世界観が対談。“体を通じて感じたこと”が歌詞に与えた影響

スガ シカオ×尾崎世界観が対談。“体を通じて感じたこと”が歌詞に与えた影響

クリープハイプの尾崎世界観とスガ シカオが、体験が作詞に及ぼす影響を語り合った。

ふたりがトークしたのは、J-WAVEで放送中の『Mercedes-Benz THE EXPERIENCE』(ナビゲーター:スガ シカオ)。その時代、その場所で、どんな音楽を聴きたいか―――時代を越えて、国境を越えて、ナビゲーターのスガ シカオが旅好き・音楽好きのゲストと共に音楽談義を繰り広げる、空想型ドライブプログラムだ。放送日は11月28日(日)。

想像ではなく、体験によって作詞の芯が生まれた

クリープハイプの『オレンジ』がお気に入りだというスガは、J-WAVEの番組で同曲をかけたところ、とあるフェスで尾崎からお礼を言われたのだと振り返った。スガは尾崎と地元も近く、歌詞や考えにも共感できるところがあるという。

この日、尾崎は「2008年から2009年にかけての東京」をテーマにセレクト。当時、バンドとしてメジャーデビューする前で、工場でアルバイトもしながらインディーズでリリースしたCDの売れ行きが少しずつ軌道に乗り始めてきた頃だった。1曲目にはOasisの『Stand By Me』を選曲した。

尾崎:高校生のときに買ったアルバムです。今回は20代中盤でバンドとしてやっていけそうな自分に、高校生の頃に聴いていた音楽を聴かせようというテーマで選びました。高校の頃、上野のABABにHMVが入っていたんですよ。
スガ:知ってるよ(笑)。行ってた場所が同じなんだから。
尾崎:あはは(笑)。そこで輸入盤だと安いので1600円くらいで買って、ライナーノーツもないので自分の想像力で補いながら純粋に「音楽が格好いい」と憧れて聴いていました。20代前半はバイトもしてライブハウスにノルマを取られてバンドの嫌な面も知っていきましたが、高校生のような純粋な気持ちで音楽に夢を見始めたときだったので、もう1度この曲を聴いてみようという感じですね。

メンバーの入れ替わりを経てきたクリープハイプ。尾崎が1人だけになったときもあった。

スガ:作詞はその頃から得意だったの?
尾崎:いや、全然書けなくて、「反吐が出るような時計の針が進んで」みたいな歌詞を書いていました。今になると「何をやっているんだ」と思うような。
スガ:ああ、そう。どこで「これはちゃんと歌詞になったな」と思えたのはいつくらい?
尾崎:19歳のときに『美人局』という曲を作ったんですね。そのときにエロを歌い始めて、歌詞に盛り込んだときに「形になった」と思いましたね。
スガ:俺なんて24歳で働き始めてちゃんとお金を稼ぐようになってから、「ちょっと発言してもいいかな」と思えるようになって歌詞が書けるようになったんだよね。だからそれは、想像だけじゃなくてエロの経験値が少しついたからなんだろうね。
尾崎:たしかに体を通して感じるものがあったのかもしれないですね。それは収入というのも同じですよね。なるほど。
スガ:それまで俺らは想像でしか物を書いていなかったけど、書くものの芯が生まれた。
尾崎:たしかに言葉を無理やり借りてきてとりあえず置いている感覚でした。
スガ:俺もそうだった。まともな歌詞がほとんど書けなかった。
尾崎:それはしっくりきますね。

自分と違う人間を描いた小説『母影』執筆の難しさ

2008年は東京には赤坂サカスが、千葉県浦安市にはシルク・ドゥ・ソレイユの常設劇場がオープン。また未成年の喫煙防止対策として顔写真付きICカード「taspo(タスポ)」が導入された。歌舞伎町のシンボルだった新宿コマ劇場は2008年大晦日で閉館。2009年2月には滝田洋二郎監督の『おくりびと』が第81回アカデミー賞最優秀外国語映画賞に選ばれた。

また2009年にはマイケル・ジャクソンが死去し、世界中の音楽業界に衝撃が走った頃。スガはマイケルのことを「実はそこまで好きじゃない」と語る。

スガ:世界中がみんな好きじゃん。俺なんて根っこがブラックミュージックだから、プリンスやマイケル・ジャクソンは歴史上通らなくてはいけない通過点。プリンスは死ぬほど通ったけど、マイケルはそれほどだった。これもよくない東東京(ひがしとうきょう)の血なんだけど、みんなが「いい」って言ってると、「そう?」ってなっちゃうんだよね(笑)。
尾崎:なりますよね。昔から僕もそうです。
スガ:よくないよね。ちゃんとフラットに聴けば好きになっていたかもしれないのに。

尾崎の半自伝的小説『祐介』で心を掴まれたスガは、小説家としての尾崎も大好きだと語る。以前、スガと尾崎の東京スカパラダイスオーケストラの加藤隆志の3人で飲んでいた際に、尾崎はちょうど小説を書いていた最中だったが、最終的にその小説はボツになってしまった。

尾崎:3年くらい書いて最後までいったんですけど、「こういう風に直してください」って言われた内容が直しようがなかったので「これはボツってことだな」と自分で判断しました。その悔しさで書いたのが『母影』ですね。
スガ:『母影』は難しいテーマにいったよね。
尾崎:『祐介』が自分のバンドの話だったので、次は自分が体験していない話が書きたいと思いました。

【『母影』あらすじ】
小学校でも友だちをつくれず、居場所のない少女は、母親の勤めるマッサージ店の片隅で息を潜めている。お客さんの「こわれたところを直している」お母さんは、日に日に苦しそうになっていく。カーテンの向こうの母親が見えない。少女は願う。「もうこれ以上お母さんの変がどこにも行かないように」。 (新潮社のサイトより)

スガ:小説家の多くは自分が見ていないものをどれだけリアルに書けるかがポイントだと思うけど、小学生の女の子が主人公で性を見つめるというのは、散々いろんなことを経験してきてる奴がそこに戻るのは難しいと思う。
尾崎:かなり難しかったです。持っているものをどんなに捨てても気付いたら備わってしまう。それが邪魔でした。でも知識がないと書けないし、捨てすぎちゃいけない。
スガ:音楽は蓄積からくるものがほとんどじゃない? 今まで聴いてきた音楽や言葉が自分の中に積み重なって自分なりの作品ができるけど、全部捨てることなんてない。
尾崎:それをやるのは1つの目標だったので、やってみてよかったですね。でも途中で「無理だな」となりました。先は見えているけど間に何かがある行き止まり感があって、道が途切れている感じなんですよね。「先を書きたいのに」という。
スガ:この感じを書きたいけど、この感じを小学生は絶対にわかるわけがないみたいなね。
尾崎:自分がやりたいことが明確にあるのにそれが成立してはいけないのが大変でした。
スガ:すっげー難しいね! でもそれが芥川賞候補までいくからすごい。
尾崎:でもスガさんが気にかけてくださることがモチベーションになりました。
スガ:本当? 俺なんて『祐介』すごい読んだよ。
尾崎:でもそこまで共感してもらえるのは東東京の血があるからですね(笑)。

【関連記事】尾崎世界観、小説『母影』の主人公を“自分から遠い人物”にした理由は? 松居大悟が聞く

「初期の作品がよかった」と言われることについて

クリープハイプは12月8日(水)にアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』をリリースする。アルバムを制作している中で尾崎は、スガの2枚目のアルバム『FAMILY』をよく聴いていたと振り返る。

尾崎:「クリープハイプは初期のほうがよかったよな」と言われるのが気になっていて。
スガ:誰でも言われるんだよ。嫌だよね。
尾崎:嫌なんですよね。また言われるかなと思っていて、アルバムが完成に近付く喜びと同時に憂鬱もありました。そこでスガさんの初期の作品を聴いて、「やっぱり格好いいな」と思いました。これはリスナー側の気持ちもわかる。スガさんも今と歌い方が違う。「スガさんもそうなんだ」と、自分も新しいものを開き直って作ろうと思えました。
スガ:初期のクリープハイプのイメージとヒットした『栞』のイメージ。ずっと背負っていかなきゃいけない。多くの人にそれを求められるし、新しいこともしないといけない。これはしょうがないよね。
尾崎:やるしかないですよね。逆に「初期がよかった」と言われるのは正常なことなのかもしれないですね。変わっている証拠だと思う。

この日の最後にGreen Dayの『Good Riddance』をセレクトした尾崎。この曲は1997年にリリースされた。

尾崎:高校生のときにGreen Dayのライブを観に行きました。最後にアンコールをやりたくないからなのか、ドラムセットをボコボコに壊していて、「アンコールないのか」と思っていたら最後に弾き語りでこの曲をやってくれました。
スガ:なるほどね。
尾崎:この曲のコードでCadd9が出てくるんですけど、この曲で覚えました。よくクリープハイプの曲でCadd9が出てくるのでかなり影響を受けていますね。

スガはデビュー当時からクリープハイプを聴いてきたが、『栞』から大きくシフトが変わったと感じてきた。『栞』は尾崎が作詞作曲を手がけ、スガ シカオやあいみょんらが歌った楽曲だ。

スガ:尾崎君の中に違う人が生まれた気がした。
尾崎:曲を作っている時期に父親がガンになったんです。今は元気になっているんですけど、「死ぬかもしれない」と思ったときに音楽への向き合い方が変わりました。
スガ:そうなんだ。言い方が悪いけど、薄汚いことを得意とする作り手がね。
尾崎:言い方悪いですね(笑)。
スガ:エロでもキレイなエロじゃなくてドロっとした据えた感じを得意とする作家が、みんなが歌ったり前向きなラジオなキャンペーンソングを手がけたりするのはすごく難しい。俺もそう。やればできるんだけど、「やっちゃいけない」と止めちゃう自分がいる。
尾崎:スガさんもそうですか?
スガ:俺もそうだよ。だから尾崎がやると知って心配だったんだけど、曲があがったときに「マジヤバいぞ、この曲」ってビックリした。(ディレクターの)塚越さんが「いいよね?」とか言っているから「いいどころじゃないよ!」って大騒ぎしたの。そのときに尾崎世界観がもう1人生まれたと思った。そうしたら『栞』は大変なことになったよね。

クリープハイプの最新情報は、公式サイトまで。

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2021年12月5日28時59分まで

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毎週日曜
21:00-21:54