劇団ゴジゲンの主宰である松居大悟がナビゲートする、J-WAVEで放送中の『JUMP OVER』。ラジオ、映画、演劇、音楽などの枠を越えた企画を発信し続けている。
2月17日(水)、24日(水)の放送は、クリープハイプの尾崎世界観がゲスト。ここでは17日のオンエアから、松居が「何度も言おう」と思っているふたりの出会いや、尾崎の小説『母影』について語り合った部分を紹介する。
尾崎:だけど、その舞台は行けなくて、また舞台をやるってなったときにそのことを覚えていて、それでツイッターでつぶやいたんですよね。
松居:当時、尾崎くんがクリープハイプのツイッターをやってて、俺のアカウントと相互フォローで。尾崎くんとDMをしたりしてた。
尾崎:それで舞台を観に行ったときに「歌ってくれ」って言われて。夜勤明けでね。この話はもう80回くらいしてるよね。飽きてるよみんな(笑)。
松居:あはは(笑)!
尾崎:俺らよりファンの人のほうがうまく話せるよ。「そのとき、ギターがなかったから、劇団員の人が持って来てくれたんですよね」「あと、ギャラはなくてTシャツをもらったんですよね」って(笑)。でも、あれ懐かしいよね。うれしかったですよ。同世代の人が全く違うことで自分のやりたい表現をやってるってことで。
松居:まさに俺もそう。クリープハイプは些細な日常にある小さな感覚を、切実にみんなの感覚にしてくれている。そことかがとてもいいから、この劇団に合うなって思って流したら、実際に尾崎くんと出会えて。それで「来年からメジャーデビューするんです」って言うところで「一緒にやろう」ってなって、クリープハイプが売れていったことが、自分の中で大きくて。いまだにやっぱり……あれがあるから今の俺がいるっていうのは、ファンが知っていても何度も言おうと思って。
松居:曲って人と会ったりするから生まれるって(石崎)ひゅーいは言ってたんだけど。クリープハイプはどうなんですか? 曲作りのペースというか。
【関連記事】石崎ひゅーい、楽曲は「人と会うこと」で生まれる。松居大悟が訊く制作の話
尾崎:曲は作らなくなったな。特にライブができない時期は、その時間で曲を作ることに抵抗はあって。その時間で作る曲っていうのは健全じゃないなと。
松居:ライブができないからその分、みたいな。
尾崎:そうそう。そういうふうにやっていくと、結局、内にこもってしまうんじゃないかと思って。その分、別の作品にぶつけたいと思って取り組んだのが小説で。必ず1年間沈んでしまうと思うから何か逆転するようなことをしたいと思って書いて、それはあったな。でも今は曲を作りたいと思って作ってるし。
松居:それはメンバーで? それとも尾崎くんだけで?
尾崎:自分ひとりで作って、スタジオで詰めていくっていういつもの作業工程なんだけど、本当にライブもしないで音楽から離れてたことって音楽を始めてからなかったから、単純に「音楽をやらなかったらどうなるか」って自分の資料として知りたくて。でも、何もなかったね。やらなかっただけだったとわかって。
松居:音楽やらなかったら何かを始めるかと思ったら、ただやらなかったと。
尾崎:そう。別に音楽を止めても意味ないなんだってことが分かったのがすごい発見だったかな。
松居:スタジオとかも入ってなかった?
尾崎:レコーディングするときは入ってたけど、前みたいな感じではなかったかな。
尾崎は「ファンの人たちの力をすごく感じた時期だった」と続ける。
尾崎:何も発信できないのにずっと有料会員でいてくれる人とか、申し訳ないとしか思えない。
松居:でも、会員限定でクリープハイプの宅飲みを配信したりしてたよね。
尾崎:そういうのはしたけど、オッサンがリモートで飲んでるだけだから。でも、こっちもそれ(ファンの存在)に救われるし、それがプレッシャーでもあるんだけど、その人たちに対しては「何とかしたい」って思った。
松居:むしろ気持ち的に優しくなったってこと?
尾崎:優しくなったし、あとどこに向けていいのかがわかって。わりと周りの人たちは「こういうときだから」って無料で不特定多数の人に開放したりしてたけど、それって誰にやってるのかの実態がないと思って。全く興味がなかった人も知ってくれるきっかけになるんだけど、本当にめちゃくちゃ好きでずっと応援してた人と同じような届き方になるから。それって届いてるのかなって思ったときに、今新規の人を開拓したいと思えなくて。今いる人たちにだけやろうと思って。
松居:めちゃくちゃいいな。
尾崎:今落ちていく分には仕方がないけど、落ちていくにしても本当にコアな人たちに対してだけっていうのは心掛けたね。今が確かめ合うチャンスだなって思ったかな。
松居:大事にしてくれている人を大事にしたりとかってことだよね。それはとてもいいね。
尾崎:いい機会でした。
【あらすじ】
小学校でも友だちをつくれず、居場所のない少女は、母親の勤めるマッサージ店の片隅で息を潜めている。お客さんの「こわれたところを直している」お母さんは、日に日に苦しそうになっていく。カーテンの向こうの母親が見えない。少女は願う。「もうこれ以上お母さんの変がどこにも行かないように」。
新潮社公式サイトより
松居:僕は『母影』が掲載されている『新潮』(新潮社)を読んで。でも、その前に尾崎くんと会っているときに、「新作を書いてるけど難しい」って言ってて、僕の小説『またね家族』(講談社)の最初のゲラのようなものを尾崎くんに読んでもらったりしてるときとかに、「今こんなの書いてる」と話してたのは全然違う話だったから。
尾崎:それはダメになっちゃって。
松居:だからこの小説のストーリーを書いてることは全然知らないから、めちゃくちゃびっくりした。『母影』はとんでもなく苦しい展開になっていくんだけれど、主人公の女の子の視点によって自分の倫理観を問われているような感じがして、すごく前向きだなと思ったんですよね。
物事の捉え方次第で感想が変わる話で、「悲しいことが起きないでくれと思う俺がよくないんじゃないか」と突きつけられるような感覚もあったという。尾崎は「今、言ってもらったのはすごくうれしい」と、作者としての思いを述べる。
尾崎:「かわいそうな親子の話で嫌な気持ちになった」って感想をもらうこともあるんだけど、それはその人はそういうような視点を持っているからなんだろうね、きっと。自分はそっちには行かないよ、あくまで他人事として見るって態度で小説を読んでくれてるんだなって思って。それはそれでひとつの読み方で「ああ、そうか」と思って面白く受けとめるんだけど、松居くんみたいに自分の感覚をうまく揺らがせてそこに入ってくれるのは、さらにうれしいかな。主人公の女の子も本当に苦しい現実なんだけど、変な捉え方でそこをうまく乗りこなしていくというか、最終的にどんなに苦しい状況でも、それは一般的な世の中の尺度で測っていることだから。
松居は「彼女の物差しがとてつもなく尊い気がして、それを自分も持っていたのかな」と感想を述べる。
松居:尾崎くんが小説デビューした『祐介』(文藝春秋)って、前に又吉(直樹)さんと話したんだけど、「デビュー作で自分に近い話をすると『自伝だろ』と言われて、結局2作目が勝負になってくる」みたいなこと聞いていて、尾崎くんは2作目としてこれをテーマに選んだのはなんでなの?
尾崎:やっぱり自分から遠い人物を描くのは最低限の目標だったし、実際一個前の話でやってみたけど無理で、それはかなり難しいテーマだったし。でも、もう一回チャレンジしようと思ってこのテーマにして。この設定が自分の中では強かったから、設定を頼りになんとか最後までとは考えてた。どういう気持ちでと言うよりは、これをやらなきゃいけないっていう。理由もなく目標としてた。
松居:最初は主人公の女の子の心情なのかカーテンで揺れる影みたいなビジュアルなのか、着想はなんだったの?
尾崎:それはライブ前に整体院に行ってて、そこで女の子が実際にお留守番をしてるのを見て、この子の視点で「もし、いかがわしいことをお母さんがしていたらどうかな」とか、自分は汚い思考があるからそういうことを考えていって。
松居:すごいな。
【翌週の放送】尾崎世界観×松居大悟が「小説におけるカメラアングル」を語る
2月17日(水)、24日(水)の放送は、クリープハイプの尾崎世界観がゲスト。ここでは17日のオンエアから、松居が「何度も言おう」と思っているふたりの出会いや、尾崎の小説『母影』について語り合った部分を紹介する。
ふたりの出会いは、ファンの人のほうがうまく話せる
松居と尾崎の出会いは2011年までさかのぼる。当時、劇団ゴジゲンの舞台の開演前のBGMでクリープハイプの曲が使われていることを、尾崎が耳にしたことで意識したのだとか。尾崎:だけど、その舞台は行けなくて、また舞台をやるってなったときにそのことを覚えていて、それでツイッターでつぶやいたんですよね。
松居:当時、尾崎くんがクリープハイプのツイッターをやってて、俺のアカウントと相互フォローで。尾崎くんとDMをしたりしてた。
尾崎:それで舞台を観に行ったときに「歌ってくれ」って言われて。夜勤明けでね。この話はもう80回くらいしてるよね。飽きてるよみんな(笑)。
松居:あはは(笑)!
尾崎:俺らよりファンの人のほうがうまく話せるよ。「そのとき、ギターがなかったから、劇団員の人が持って来てくれたんですよね」「あと、ギャラはなくてTシャツをもらったんですよね」って(笑)。でも、あれ懐かしいよね。うれしかったですよ。同世代の人が全く違うことで自分のやりたい表現をやってるってことで。
松居:まさに俺もそう。クリープハイプは些細な日常にある小さな感覚を、切実にみんなの感覚にしてくれている。そことかがとてもいいから、この劇団に合うなって思って流したら、実際に尾崎くんと出会えて。それで「来年からメジャーデビューするんです」って言うところで「一緒にやろう」ってなって、クリープハイプが売れていったことが、自分の中で大きくて。いまだにやっぱり……あれがあるから今の俺がいるっていうのは、ファンが知っていても何度も言おうと思って。
コロナ禍でファンへの思いが強くなった
音楽活動を掘り下げた部分では、尾崎がファンへの思いを語った。松居:曲って人と会ったりするから生まれるって(石崎)ひゅーいは言ってたんだけど。クリープハイプはどうなんですか? 曲作りのペースというか。
【関連記事】石崎ひゅーい、楽曲は「人と会うこと」で生まれる。松居大悟が訊く制作の話
尾崎:曲は作らなくなったな。特にライブができない時期は、その時間で曲を作ることに抵抗はあって。その時間で作る曲っていうのは健全じゃないなと。
松居:ライブができないからその分、みたいな。
尾崎:そうそう。そういうふうにやっていくと、結局、内にこもってしまうんじゃないかと思って。その分、別の作品にぶつけたいと思って取り組んだのが小説で。必ず1年間沈んでしまうと思うから何か逆転するようなことをしたいと思って書いて、それはあったな。でも今は曲を作りたいと思って作ってるし。
松居:それはメンバーで? それとも尾崎くんだけで?
尾崎:自分ひとりで作って、スタジオで詰めていくっていういつもの作業工程なんだけど、本当にライブもしないで音楽から離れてたことって音楽を始めてからなかったから、単純に「音楽をやらなかったらどうなるか」って自分の資料として知りたくて。でも、何もなかったね。やらなかっただけだったとわかって。
松居:音楽やらなかったら何かを始めるかと思ったら、ただやらなかったと。
尾崎:そう。別に音楽を止めても意味ないなんだってことが分かったのがすごい発見だったかな。
松居:スタジオとかも入ってなかった?
尾崎:レコーディングするときは入ってたけど、前みたいな感じではなかったかな。
尾崎は「ファンの人たちの力をすごく感じた時期だった」と続ける。
尾崎:何も発信できないのにずっと有料会員でいてくれる人とか、申し訳ないとしか思えない。
松居:でも、会員限定でクリープハイプの宅飲みを配信したりしてたよね。
尾崎:そういうのはしたけど、オッサンがリモートで飲んでるだけだから。でも、こっちもそれ(ファンの存在)に救われるし、それがプレッシャーでもあるんだけど、その人たちに対しては「何とかしたい」って思った。
松居:むしろ気持ち的に優しくなったってこと?
尾崎:優しくなったし、あとどこに向けていいのかがわかって。わりと周りの人たちは「こういうときだから」って無料で不特定多数の人に開放したりしてたけど、それって誰にやってるのかの実態がないと思って。全く興味がなかった人も知ってくれるきっかけになるんだけど、本当にめちゃくちゃ好きでずっと応援してた人と同じような届き方になるから。それって届いてるのかなって思ったときに、今新規の人を開拓したいと思えなくて。今いる人たちにだけやろうと思って。
松居:めちゃくちゃいいな。
尾崎:今落ちていく分には仕方がないけど、落ちていくにしても本当にコアな人たちに対してだけっていうのは心掛けたね。今が確かめ合うチャンスだなって思ったかな。
松居:大事にしてくれている人を大事にしたりとかってことだよね。それはとてもいいね。
尾崎:いい機会でした。
小説『母影』…自分から遠い人物を描くのは、最低限の目標だった
作家としても活躍する尾崎。小説『母影』は第164回芥川賞候補作となり、単行本も刊行されたばかりだ。【あらすじ】
小学校でも友だちをつくれず、居場所のない少女は、母親の勤めるマッサージ店の片隅で息を潜めている。お客さんの「こわれたところを直している」お母さんは、日に日に苦しそうになっていく。カーテンの向こうの母親が見えない。少女は願う。「もうこれ以上お母さんの変がどこにも行かないように」。
新潮社公式サイトより
松居:僕は『母影』が掲載されている『新潮』(新潮社)を読んで。でも、その前に尾崎くんと会っているときに、「新作を書いてるけど難しい」って言ってて、僕の小説『またね家族』(講談社)の最初のゲラのようなものを尾崎くんに読んでもらったりしてるときとかに、「今こんなの書いてる」と話してたのは全然違う話だったから。
尾崎:それはダメになっちゃって。
松居:だからこの小説のストーリーを書いてることは全然知らないから、めちゃくちゃびっくりした。『母影』はとんでもなく苦しい展開になっていくんだけれど、主人公の女の子の視点によって自分の倫理観を問われているような感じがして、すごく前向きだなと思ったんですよね。
物事の捉え方次第で感想が変わる話で、「悲しいことが起きないでくれと思う俺がよくないんじゃないか」と突きつけられるような感覚もあったという。尾崎は「今、言ってもらったのはすごくうれしい」と、作者としての思いを述べる。
尾崎:「かわいそうな親子の話で嫌な気持ちになった」って感想をもらうこともあるんだけど、それはその人はそういうような視点を持っているからなんだろうね、きっと。自分はそっちには行かないよ、あくまで他人事として見るって態度で小説を読んでくれてるんだなって思って。それはそれでひとつの読み方で「ああ、そうか」と思って面白く受けとめるんだけど、松居くんみたいに自分の感覚をうまく揺らがせてそこに入ってくれるのは、さらにうれしいかな。主人公の女の子も本当に苦しい現実なんだけど、変な捉え方でそこをうまく乗りこなしていくというか、最終的にどんなに苦しい状況でも、それは一般的な世の中の尺度で測っていることだから。
松居は「彼女の物差しがとてつもなく尊い気がして、それを自分も持っていたのかな」と感想を述べる。
松居:尾崎くんが小説デビューした『祐介』(文藝春秋)って、前に又吉(直樹)さんと話したんだけど、「デビュー作で自分に近い話をすると『自伝だろ』と言われて、結局2作目が勝負になってくる」みたいなこと聞いていて、尾崎くんは2作目としてこれをテーマに選んだのはなんでなの?
尾崎:やっぱり自分から遠い人物を描くのは最低限の目標だったし、実際一個前の話でやってみたけど無理で、それはかなり難しいテーマだったし。でも、もう一回チャレンジしようと思ってこのテーマにして。この設定が自分の中では強かったから、設定を頼りになんとか最後までとは考えてた。どういう気持ちでと言うよりは、これをやらなきゃいけないっていう。理由もなく目標としてた。
松居:最初は主人公の女の子の心情なのかカーテンで揺れる影みたいなビジュアルなのか、着想はなんだったの?
尾崎:それはライブ前に整体院に行ってて、そこで女の子が実際にお留守番をしてるのを見て、この子の視点で「もし、いかがわしいことをお母さんがしていたらどうかな」とか、自分は汚い思考があるからそういうことを考えていって。
松居:すごいな。
【翌週の放送】尾崎世界観×松居大悟が「小説におけるカメラアングル」を語る
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