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役所の「オンライン化」の現状は? テクノロジーと街づくりを考える

役所の「オンライン化」の現状は? テクノロジーと街づくりを考える

テクノロジーで、街づくりはどう変化するか? 役所におけるオンライン化の現状は? メディアアーティストで筑波大学准教授の落合陽一と、つくば市政策イノベーション部長の森 祐介、「Business Insider Japan」編集長の伊藤 有が語り合った。

3人が登場したのは、10月9日(土)の「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2021 supported by CHINTAI」。「INNOVATION WORLD FESTA」通称「イノフェス」は、「テクノロジーと音楽で日本をイノベーション!」をテーマにJ-WAVEが推進している大型クリエイティブ・フェスティバル。3人のトークは、ポッドキャストでも配信中だ。

「スマートシティ」とはなにか? 社会の安全のために…

茨城県つくば市は現在、スーパーサイエンスシティ構想を進めている。スーパーシティについて、森は「先端技術やテクノロジーを使って街づくりをする取り組み」と解説した。

森:世界ではスマートシティと呼ばれることも多く、スマートシティとスーパーシティは同じようなものだと思います。キーワードはテクノロジーと街づくり。それを融合させて住民が抱えている地域の課題を解決するために今までの伝統的な手法ではできなかったことを科学技術の力で解決する取り組みです。

2020年、新型コロナウイルスによって、スマートシティに要求される前提が変化した。これまでは人々の生活を過ごしやすくするために街がどう変わるべきか、という話であったが、コロナ禍になるとそれまで必要ではなかったPCR検査やオンライン対応などがスマートシティに必要とされるようになってきたという。

落合:コロナ禍以前と使っている技術は一緒だけど、それまでは生活の利便性に使われていた技術が、コロナ禍後はコミュニティの安全性と公衆衛生のために使われることに対する正義が成り立つ世の中になったということだと思います。
森:本当にやることは同じなんですよね。ただフレーミングが変わっているというか。つくば市も子育て世代がたくさんいて、人口が増加している地域も多いけれど、高齢化率が60パーセントくらいになっている地区もあって、そういった方々は車での移動手段に委ねざるを得なかった。それを解決するために、一人の利用のパーソナルモビリティとオンデマンド型のバスを組み合わせて、病院に行くのに公共交通機関だと丸一日かかっているものを3時間くらいに縮めたり、病院の予約を入れたら移動の足も全部手配されて薬は薬局に寄らずに後でドローンが運んでくれたり、といったことをやろうとしていたんです。

コロナ禍になっても、手術など物理的に行わなければいけないことはある。「できるだけ混在しないように移動する」「病院の待ち時間を少なくする」ことにテクノロジーが使用される──という構造時代はコロナ以前と変わらないが、何に起因して取り組むのかが変化していくと、森は語った。

落合:つまり、便利だとか快適だという名目でスマートシティを進めていこうと思っていたんだけど、気づいたら命が危険だとか事業が継続できないとかいう目的でスマートシティを進めることになりました。

デジタル化の恩恵と限界…役所の事例

コロナ禍以降、多くのデジタル技術が街に導入され浸透しているが、一方でオンラインだけでは限界があるなど、現状の課題も少なくない。「Business Insider Japan」編集長の伊藤は、「仕事がZoomだけになると中間管理職はすごく大変なんですよ」と話す。

伊藤:他の人が何を考えているかわからなくなったり、話した相手にしか伝わっていなかったりして、ものすごく差異が起こりやすいんです。落合さんはどう考えられていますか?
落合:オンラインミーティングに最適化された時間の組み方は、今の世の中のフィジカル会議で組んでいた時間の組み方とは全く違うんですよね。僕は会社の定例ミーティングで1時間やっていたものを、30分×2回に分けて散りばめたりとか、学生のゼミも30分スロットにして4回に切り分けたりとか。リモートワークになると報告・連絡・相談の仕方がまるっきり変わるじゃないですか。つまり朝起きて始業のときに必要な情報があって、終業のときに必要な情報がないとテレワークはちゃんとできないんですよ。今までは全体で今日は何があってどうだったかっていうのを週一で定例して管理してよかったものが、それだとタスクが足りなくなって。細切れにしてミーティング時間を減らさないと一日中ミーティングすることになっちゃうから、時間のスロットの使い方を根本的に変えないといけない。そこに気がついて実行している企業が意外と少ないと思っています。

役所では、リモート化できるそれができるものとそうでないものがあると森は説明する。

森:市役所の中の仕事をどうするかと、市役所が市民に提供する行政サービスをどうするかという話があると思います。今、私が所属する政策イノベーション部で新しいことを企画・立案するところはリモートワークをやりやすいんですね。自分で頭を使って課題を分析して新しい施策を考えることについては場所を選ばない。その反面で集まったほうがコミュニケーションがスムーズにいく部分もあるので選択肢が増えました。一方で市民部のようなところは窓口サービスをしています。市民の方が実際に市役所に来てコロナ禍の臨時給付金の手続きをしたりするので、そういった窓口はリモートワークでできないわけです。ですから市役所の仕事はできるところとできないところがあります。

「対市民としても、できるものとそうでないものがある」と森は言う。そのひとつが引っ越しの際の転出届と転入届だ。

森:コロナ禍で転出の手続きは役所に来なくても郵送でできるようになりました。これは画期的だと思います。一方で転入は対面で本人の確認をしなければいけないと法令にあるので、それができません。コロナ禍でもそこは規制緩和されませんでした。そういった法令でできないから難しいものもあります。また、たとえば建築許可のようなものは書類があまりに複雑すぎて、電子化されていないものをベースに議論しないとできないこともあります。これは電子化が進めばできるようになるかもしれないけれど、現状はすぐにはできない。そういうものが混ざっている状況ですね。だからある人は選択肢が増えているけど、ある人にとっては選択肢がひとつも増えてなくて、ただコロナ禍で対面での接触リスクが増えているだけの場合もあります。

「チャレンジに寛容な社会」になることで、街づくりは変化する

目指すべき未来の街づくりについて、伊藤は「これからどれくらいの時間軸で街が変わっていくメージがあるか」と質問を投げかける。

森:つくば市の場合は、未来構想の市の総合戦略があるんです。2050年にこういうつくば市の姿があるといいよね、というもの。でも、それはぼんやりとした目標で、実現するために、年次計画や5カ年計画など毎年やることを考えています。昔の行政では、少しずつやりながら変えていくということが絶対にできなかったのですが、これからはどんどんそれを導入していかなければいけない、という話になっています。「アジャイル行政」と名がつくくらい。つまり、いったん取り入れたやり方が実は違うかもしれないと思ったときに、もっと違ういい方法があったのでやめます、もしくはこうしますと、市民に説明をして変えることが重要になります。そこで大事なのは、失敗してはいけない評価主義ではなくチャレンジした結果なのだと、行政も市民も寛容に思えるようになること。そうすれば、少しずつの変化でいろんな課題に対応できるようになると考えています。
落合:マーク・ザッカーバーグの「Done is better than perfect.」って言葉がありますよね。「完璧にするな。まず終わらせろ」って。清廉潔白な政治家を求める我々の世界にはすごくなじみが遠そうな気がしていて、つまりキャンセルカルチャーの真逆ですよね。できるかもしれないグラグラとしたプロセスを採用しないといけないっていう。

落合は「どうすれば傑作じゃないものを寛容に受け入れられるマインドを持てるのか」と考えたときに、「それが普通な年代が支配層になるしかない」と語る。

落合:そうすると、終わりはわかっているんですよね。2080年には確実にそうなっているんですよ。終わりのない仕事をする人だけが人口の全てになるから。そうしたらそれが普通になるんですけど、でも2080年にそうなるってわかってたら「そこから何十年、先取るんですか?」っていう説明しかしようがなくて、そうすると我々の社会では2050年にそれをやるんですか、2030年にやるんですかっていう進め方でしか、この世代を説得する要素はないと思います。だから冷静に考えてみてください、あらゆるものがアップデート可能なんですよ、と。それが当然だった世代は今このくらいの割合がいるんです、でもあなたが死ぬまで保ちますか、という話で説得していくしかないんじゃないですかね。

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10月9日(土)