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糸井重里、乃木坂46・早川聖来と「アイドル論」の授業をするなら?

糸井重里、乃木坂46・早川聖来と「アイドル論」の授業をするなら?

コピーライターの糸井重里と乃木坂46の早川聖来、そしてAR三兄弟の川田十夢が「『何に悩めば良いのか』~自問自答からの自画自賛~」をテーマにトークした。

3人が出演したのは、2021年10月10日(日)の「J-WAVE INNOVATION WORLD FESTA 2021 supported by CHINTAI」。「INNOVATION WORLD FESTA」通称「イノフェス」は、「テクノロジーと音楽で日本をイノベーション!」をテーマにJ-WAVEが推進している大型クリエイティブ・フェスティバル。6回目を迎える今年のイノフェスは、「ACTION FOR A NEW ERA!」をテーマに、豪華トークセッションとテクノロジーで拡張したライブパフォーマンスをお届けした。

学びは人の話から生まれる

糸井が主宰する「ほぼ日」は、ウェブメディア「ほぼ日刊イトイ新聞」や紙手帳「ほぼ日手帳」などで知られる。そんな「ほぼ日」は、2021年6月に「ほぼ日の學校」をアプリで開設した。ふだん出会えないような人たちからいろんな話を聞ける、サブスクリプション型サービスだ。トーク冒頭、糸井は「ほぼ日の學校」開設経緯について自身の体験を語った。

糸井:僕自身、学校では好きな先生の話は雑談でも聞くんですけど、好きじゃない先生だと寝ていたり外を見たりしていました。勉強や学びってその人をまるごと学んでいることが後の自分を作ったと思う。嫌いな教科でも先生に魅力があると、「数学ってこんなふうに考えるのか」と学べた。学校以外でもスナックのバイトでキッチンの人が「駆け落ちをして今の女房と一緒にいるんだ」と話してくれて。そういうのが全部面白いんですよ。自分の学びって人からいただいたものばかりだったので、そういうものを集める学校ができないかなと思って。今はみんながアプリを持って、人に会って新しい何かを作ることができる。そういうものをうちで一手にまとめてやってみたいと思って始めました。
早川:私も拝見したんですが、いろいろな著名な方のお話が簡単に聞けるのですごいと思いました。デザインのアイデアとかも糸井さんが手掛けているんですか?
糸井:そうですね。最初の構成を考えるのに長い時間をかけました。総合したら4~5年やっていたんじゃないかな。「さあ始めるぞ」という前段階のコンセプトを考えるのに一番時間をかけましたね。

川田は「ほぼ日の學校」の中で、喜劇作家の三谷幸喜の授業が面白かったと語る。

川田:三谷さんは喜劇作家だから面白いものを膨らませているけれども、「そもそも三谷さんは何が面白いんですか?」という話から授業がスタートするんです。そこで三谷さんが昔観たテレビドラマの『十二人の怒れる男』が好きだという話をされていたんだけど、三谷さんは『12人の優しい日本人』を作られている。子どもの頃に見たものの影響がすごく大きいんですよね。あと、三谷さんも学校が嫌いなんですよね?
糸井:そうですね(笑)。
川田:学校は嫌いだけど、そこには“三谷学”があるんですよね。「困っている人が好き」という話もされていて、それを糸井さんがリアルタイムで聞いている。まさに教科書ができているという感じで見ていますね。

バーカウンターで隣り合わせになったからできる質問

糸井が聞き手として心掛けているのは「バーカウンターで隣合わせになった状況」だ。

糸井:たとえば早川さんと私が隣にいたら、「どこから来たんですか?」と言うかもしれないし「このお店は前から来ていますか?」と言うかもしれない。お互いに全然知らない人として話をする。普通のインタビューだと「どんな曲を出しているんですか?」なんて訊いたら「そんなことも知らないの?」となる。でもバーカウンターの隣り合わせなら、「歌手をしてらっしゃるんですか?」とイチから訊ける。そのことが一番、人と人が会ったときに訊きたいことだと思うんですよ。
早川:興味がなかったことまで興味があるようになるプロセスですね。
川田:飲みに行って深夜2時を回った頃に聞ける話を濃縮して聞いている感じなの。お酒を飲みに行くときってそれがモチベーションでしたからね。

川田は自身の経験を例に「どうやってこの立ち位置にたどり着いたのか訊かれることもあるんですが、夢を現実化したいだけだったから、細かい計算式も勉強と思ってこなかった」「その入り口が大事で『ほぼ日の學校』にはその入り口がたくさんある」と話す。

糸井:社内のある女性の友だちが「西野亮廣さんの講演会に行く」というので理由を訊いたら、「普段同じ人とばかり会っていて全然違うことをしている人の話を聞く機会がないから。別に西野さんでなくてもいいんだけど話を聞いてみたい」と言っていたそうなんです。普通に生活している人はだいたい同じ人と会っていますよね。だから、その人に新しい風を吹かせたり知恵の身が落ちたりすることはない。でも日本のどこにいても新しい果物に出会うみたいに何かが落っこちる場所をみんなが求めているのかなと思いました。そういう視点も「ほぼ日の學校」を始めるときには大きかったですね。
川田:糸井さんは言葉を使って世界を接続するから、その扱いや深さ、教養量って勉強していると思っていないんですよね。興味の赴くままに人と会話する。

早川聖来とアイドルの授業をやるなら?

トーク後半では、糸井が早川を相手に即興の「ほぼ日の學校」を行った。まず糸井は、乃木坂46というアイドルである早川に対して「踊りや歌についての質問はまずしない」と断言した上で「ずっと人から見られているとどう変わるのか」に興味があると話した。

早川:見られることによって見た目も変わりますし、考え方も子どもから圧倒的に大人になることが多いですね。
糸井:向こう側にどういう視線や考えがあるかを想像しながら生きる?
早川:「何を求められているんだろう」と常に考えて生きるようになりました。
糸井:嬉しい視線もあるし、「こう言ったらこう思われるだろうな」もありますよね。
早川:そうですね。常に人の顔色をうかがうことはすごく増えましたね。
糸井:普通なら耐えられないということになるんだけど、それを乗り越えられたのがアイドルですよね。むかし、木村拓哉くんと一緒に野球を見ていたら売り子の子がタバコの箱を出して「サインしてください」と言ったの。そこで木村くんがサインをしたから、理由を訊いたら「したかったから」と言ったんですよ。
早川:へえ!
糸井:つまり「タバコの箱は嫌だけど色紙はいい」とか「今はプライベートだから」とかいろいろなことを全部経過して、彼は「したかったからした」と20歳くらいのときに見つけちゃったんですよ。これしかアイドルをやっていく道ってないなと僕は思って。「したかったからした」って言ってみたいでしょ。
早川:言ってみたいです。でも私にはまだできない(笑)。大人に確認を取らなきゃとか。
糸井:男の子で髪の毛を伸ばしていたから、すでに「したかったからした」の世界にいきかけていたと思うんですけど、その分だけこっち側で十分に自分を殺していける自信もあるだろうし。そういうアイドル論を(早川と)やってみたいですね。
川田:そんな授業は見たことないですね。
糸井:重要なのは、みんながもっと好きになることだと思うんですよ。だからまだ「したかったからした」って言えないです、という話も含めて、みんなが「言えるようになれるといいですね」と思ってもらえたら嬉しいですよね。
川田:なるほど、こうやって学校ができるんですね。

風紀委員のいない放課後でもっと遊んだほうがいい

川田は「何かひとつ物差しがあると、別の学問や状況、国、文化圏に持ち出せる。外に持ち出しても壊れない物差しをいかに持てるか、それを持って話を持ち込めるか、それが教養の一番面白いところだと思う」と前置きをして、糸井の“物差し”について訊いた。

川田:糸井さんは誰と話しても何かしらの物差しを出しているんですよ。共通の物差しを察知して出して、それが橋になってより会話の濃度が濃くなる。
糸井:何度も思ったことが一番自分のベースになっています。「どの職業や生活の人も同じことを言っているな」と何度か思ったことがある。「先に人を騙さない」「先に相手を嫌わない」みたいなことをほぼ全ジャンルの人が言うんです。そうすると、「この人もきっとそれを思うだろうな」と大きなヒントになる。だから、たくさん考えた分量に合わせて自分ができていると信じることかな。うちで会議をするとき「それって鎌倉時代の人も喜ぶ?」という言い方をするんです。「AR」と言っても鎌倉時代の人はわからないけど、「人が歩いているときに桜の花が舞うんだよ」と伝えると鎌倉時代の人も喜ぶ。「AR」って言葉を使わなくても伝えられる。どんな人でも持っているものを先に探し出すことは心掛けているかな。
川田:その柔らかさをみんな持ってほしいですよね。今ってみんなで物差しを作ってそこから外れると「あの人は違う」となる。それがすごく寂しくて。人と違う物差しがあっても「その見方は素敵ですね」となるほうが柔らかい。
糸井:あとは、あんまり一生懸命考えなくていいことのほうが多いってことが大事じゃないかな。たとえばTシャツをジーンズの中に入れるか否か。今はどっち?
早川:私は前だけインとかしちゃいます。
糸井:そういうのって本当はどっちでもいいけど、他の人が「ちょうどいい」と思ってくれるところに収めたいんですよね。でも出しても入れても、自分が意思を持ってやっていることじゃなくて、相手の視線だけで決めてる。そんなケンカになるほど考えなくてもいいのに、世の中の人にはそれが耐えられなくて、「つぶあんか、こしあんか」と対立ゲームをする。そのゲームで遊びたければすればいいけど、本気でしなくていい。本当にどうでもいいことだらけだから泳がしておけばいい。「許せない」とか「こうでなくちゃ」という人が世の中を暗くしているんじゃないかな。今の世の中は風紀委員だらけ。もっと委員のいない放課後で遊びたいですよね。

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10月10日(日)