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お金持ちのツケを、弱い者が払うのか? 資本主義の矛盾を『人新世の資本論』著者・斎藤幸平が語る

お金持ちのツケを、弱い者が払うのか? 資本主義の矛盾を『人新世の資本論』著者・斎藤幸平が語る

『人新世の資本論』の著者で、大阪市立大学大学院経済学研究科准教授の経済思想家・斎藤幸平に、環境問題と経済の関係について話を訊いた。

斎藤が登場したのは『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』(ナビゲーター:別所哲也)のワンコーナー、あらゆるものの本質に迫る「Allbirds MORNING INSIGHT」の6月17日(木)の放送だ。

発展途上国に問題を押し付けてきた、資本主義の矛盾

32万部を突破した『人新世の資本論』は、「新書大賞2021」1位となった。斎藤は、資本主義のアンチテーゼがテーマの書籍が1位に選ばれたことに驚きつつ、コロナ禍の影響もあり「この社会をおかしいんじゃないかなと感じている方が少し増えてきていて、この本を手に取ってくださっているのかなと感じています」と語った。

タイトルに用いられている、あまり聞き馴染みのない「人新世」という言葉は、地質学の概念だそう。

斎藤:「いま地球の表面を取り出してみると、全部なんらかの人間の経済活動が生み出したものが覆っちゃっている」という意味なんです。たとえばビルや道路、農地、ダム、ゴミ捨て場とか、みんな人間が生み出したものが地球全体を覆っちゃっているんですよ。なぜそうなったのかというと、資本主義は無限の経済成長、つまりGDPをどんどん増やしていくことを目指して市場規模を拡大していきました。その際に途上国とかから安い労働力や自然をどんどん収奪して利用した。開発にともなういろいろなコストというのを、そういう地域に押し付けてきたんです。

現在の日本などの先進国の豊かさは、途上国にいろいろな問題を押し付けてきたことで成り立っている。しかし「人新世」の時代になり「押し付ける外部」がなくなってしまったことで、日本国内にも問題が起き始めていると解説した。

斎藤:日本の国内にも非正規労働者がたくさん増えて、経済格差が拡大していったり、さっき言ったみたいに台風とかいろいろな問題が気候変動の影響も先進国を襲うようになってしまう。でも膨張を止められない資本主義というのが、最大の矛盾なんです。

未来の若者たちに払わせることになるツケ

番組では過去に気候正義を求める団体「Fridays For Future Japan」が「日本政府へ2030年までに石炭火力発電からの卒業を求めます」という動画をリリースしたことを紹介。別所は斎藤にこういった若年層のアクションについてどう思うかを尋ねた。 斎藤:彼らが怒るのも当然だと思うんです。若い人たちはまだ二酸化炭素をほとんど出していないにもかかわらず、これからずっと気候変動が深刻化する世界を生きていかないといけない。しかも経済成長もずっと停滞しているので、経済成長の恩恵もほとんど受けていないんですよね。これから私たちの上の世代の豊かな生活のツケを彼らが支払わされるということに、すごく怒りや違和感があると思うんです。

斎藤は、欧米、特にアメリカでは資本主義よりも社会主義を支持する若者の増加が顕著だと解説。「資本主義そのものを変えていかないと、格差や気候変動の問題に解決策がないのではないかというのは、若い世代のほうがむしろ強く感じている」とも話した。

ミレニアル世代に続いて登場した「Z世代」の若者たちのなかで、2019年に欧米で「バース(出産)・ストライキ」が訴えられた。彼らの主張は「安全な社会が保たれなければ、子どもも生みたくはない」というものだ。

別所:未来の子どもたちに責任を転嫁させたくない、ということとつながりますが、これは「転嫁」という視点で考えると、資本主義が抱えているリスクというのはなんなんでしょうか。
斎藤:若者たちには時間的に転嫁していく。つまりいま二酸化炭素を排出している世代は、気候変動を受けなくて、未来の世代が受けるという不平等な構造があるんです。それを前にして、先進国の若者たちが自分たちのせいで途上国の人たちが影響を受ける、これは「空間的転嫁」というんですが、二酸化炭素を輩出しているのって圧倒的に先進国のしかもお金持ちの人たちなんです。当然お金持ちの人たちって車を何台も持っていたりとか、旅行もたくさんするし、お肉もたくさん食べるし、飛行機にたくさん乗る。だから彼らの生活のツケというのを実は子どもたちだけじゃなくて、途上国の人たちにも(押し付けている)。途上国の人たちはつつましやかな生活をしているので二酸化炭素をそんなに出していないんですが、そうした人たちが最初にハリケーンや水不足、熱波の影響を受けるようになってしまう。だからこれはすごく根本的な問題が。強い者たちは生き延びて、弱い者たちはほとんどこの問題に加担していないのにもかかわらず、その影響をモロに受ける。それを是正していきませんか、という概念が「気候正義」という概念なんです。

斎藤は「本当はこの問題を考える上で、私たちはそういった影響を最も受ける弱い立場の人たちの意見を訊かないといけないんだけれども、いまの政治を見るとどうしても大企業とかお金持ちの人たちの意見というのが強い」と指摘した。

SDGsは、小さなアクションで満足してはいけない

斎藤は『人新世の資本論』のなかで「SDGsを免罪符にしてはならない」と指摘。「エコバッグを持つ」「洋服をリサイクルする」など、持続可能な社会を目指して個人で取り組めるアクションは大事だと理解を示しつつも、「そういう本当に小さなアクションで、もし人々が満足してしまったら、この気候変動の問題って全然解決しない」とコメントした。

斎藤:だって代わりに石炭火力発電所とかからモクモクと二酸化炭素が出ていたら、僕らがいくらリサイクルしたって意味がない。企業も「うちの商品はリサイクルしてます、環境に優しい素材を使ってますよ。だから、もっと買ってくださいね」といった、PRやブランド化でSDGsが使われてしまったら、結局それを真に受けて我々はもっと商品を買ってしまうかもしれない。ここでの根本的な問題というのは、結局先進国の人たちがいままで通りの生活を続けるための「ちょっとしたSDGs的なことをやってます」というアピールや免罪符になってしまっているんです。実はいまの問題というのは私たちの生活そのもののあり方の必然的な帰結であって、これを本質的に変えていかないといけないんだっていう根本的問題から目を背けてしまうという作用があるんじゃないか、ということを私は危惧しています。

受け入れるべき「脱成長」

現代社会のリスクとして、環境問題が一番わかりやすいと話す斎藤。地震などの災害と違い、気候変動は人為的リスクが増大しており、しかも弱い立場の人たちに経済成長のコストとしてリスクを押し付けている構図になっているという。

「資本主義が使命を終えたのではないか」と話す斎藤は、有限な地球の中で無限の経済成長をするのは、もう不可能ではないかと指摘して、成長にブレーキをかける「脱成長」という立場を受け入れないといけないと訴えた。

斎藤:脱成長をするのであれば、いまあるものをみんなでシェアしていかなければいけない。僕はそれを「コモン」という風に呼んでいます。たとえば教育や、公共交通手段、水、電気といったものを全部商品にしちゃってきていたんですが、それをもっとみんなで管理して、みんなで平等に分かち合うような社会にしていくべきなんです。そのほうがこれからさまざまな、100年に1度、1000年に1度みたいないろいろな災害がやってくる時代には、私たちがもっと安定して平等に生きられる社会になっていくんじゃないかと。僕はコモンという概念に基づいた社会を「コミュニズム」と呼んでいます。脱成長コミュニズムに移行することが、人類が21世紀に生存していくための一番いい道なんじゃないかと考えているんです。
別所:これはかなり大きな意識改革が必要なんじゃないでしょうか。
斎藤:もちろんです。
別所:どう生きていくべきなのか。そして文明で築き上げた人間が作った拡張した世界をどう変えていくべきなのか。またぜひいろいろ教えていただければと思います。

『J-WAVE TOKYO MORNING RADIO』のワンコーナー「Allbirds MORNING INSIGHT」では、あらゆる世界の本質にインサイトしていく。放送は月曜~木曜の8時35分頃から。

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2021年6月24日28時59分まで

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月・火・水・木曜
6:00-9:00