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クリープハイプ・尾崎世界観、子どもの頃を振り返る。1位を狙うより、ビリを避けていた

クリープハイプ・尾崎世界観、子どもの頃を振り返る。1位を狙うより、ビリを避けていた

J-WAVEで放送中の番組『VOLVO CROSSING LOUNGE』(ナビゲーター:アン ミカ)。2月12日(金)のオンエアでは、クリープハイプの尾崎世界観が登場。ミュージシャンだけでなく、作家としても高い評価を受ける尾崎の表現に迫った。

小説を書いて知った“はっきり結果が出る”喜び

先日、尾崎は第164回芥川賞候補作となった単行本『母影』(新潮社)を刊行した。残念ながら受賞は逃したが、候補に選ばれて嬉しかったと話す。

アン:候補作になったと聞いたときはどういう心境でしたか?
尾崎:すごくうれしかったですね。音楽の世界って明確に認められることがなくて、なんとなくお客さんが増えて大きな会場でライブができたっていう達成感はあるんですけど、白黒つくことがない。そこに救われている部分はあるんですけど、モヤモヤした気持ちがあって。今回、『母影』が芥川賞候補に選ばれたというはっきりとした結果が出たことがすごくうれしくて、そこから1カ月ちょっとは幸せな気持ちで過ごして、受賞は逃したという明確な結果が出て、表現者としてもちろん悔しいですけど、幸せな時間でしたね。
アン:候補作になったことだけでもうれしいですよね。
尾崎:でも、いざ(受賞作が発表される)その瞬間になったときに、恥ずかしくて情けないって気持ちがありましたね。
アン:ファンからすれば受賞してほしいという気持ちがありますからね。

アンが「音楽や作家の制作過程で、それぞれ入り込むようなスイッチはあるか?」と質問すると、尾崎は「スイッチはあるが、明確に切り替えはしない」と答える。

尾崎:スイッチを同時押ししたりします(笑)。一個ずつ切り替えるというよりは、音楽の要素も残しつつ文章を書こうとか、そうやってうまく組み合わせていますね。完全に切り替えてしまうともったいないとも思っていて、せっかく自分がやっている要素があるのであれば、使えるものは全部使って、どんな手を使ってでも勝ちにいこうって感じですね。

主人公を子どもにした理由

『母影』の主人公は女の子だ。2回読んだアンは「子どもが書く日記のような文体で書かれている」と感じ、なぜ子どもの視点で物語を書こうと思ったのかを尋ねた。尾崎が日々感じてきた、心と体がうまく結びつかない感覚が活かされているという。

【あらすじ】
小学校でも友だちをつくれず、居場所のない少女は、母親の勤めるマッサージ店の片隅で息を潜めている。お客さんの「こわれたところを直している」お母さんは、日に日に苦しそうになっていく。カーテンの向こうの母親が見えない。少女は願う。「もうこれ以上お母さんの変がどこにも行かないように」。
新潮社公式サイトより)

尾崎:特にライブをやっていると、自分の理想でこういうふうに歌を歌いたいっていうときに、脳みその中で考えていることと体がリンクしない瞬間が多いんですね。歳を重ねてきて、知識がどんどん積み上がってくるから、理想は高くなっていく。自分の体とのバランスが崩れてくることが多くて、かなりストレスを感じていました。
アン:なるほど。
尾崎:レコーディングをしていてもそうなんです。何度も歌い直して、歌えば歌うほどそのズレを感じて体も硬くなっていって。その感覚をいつか作品にしたいと思ったときに、語彙の少ない子どもの視点をあえて選択することによって、逆に今まで言えなかったことが言えるんじゃないかなと思いました。
アン:子どものときは、大人ほど語彙が少ない中で思いを人に伝えようとしたり、自分で納得しようとしたり、ときには理解できないからいいわって大事なことをやり過ごしたりしますよね。『母影』を読んで、そういう感覚をなぜ尾崎さんはこんなに言葉にできるんだろうって。童心に帰るって残酷な部分があるじゃないですか。そういうところまでこんなに描くんだと思いました。でもその残酷さのおかげで人って成長できるんですよね。
尾崎:そうですよね。すごくそれは思っていました。友だちに対しても、よくないけど比べてしまって、「この人は自分より上だ」「この人は自分より下だ」って無意識のうちに思っていたんですよ。学校だと、勉強でも徒競走でも明確に差が出てくる。学校にいるとそれはしょうがないことで。

尾崎は子ども時代を「ビリにならないように生きていた」と振り返る。

尾崎:徒競走でも、「今日は親が観に来ているから1位になろう」って頑張るのではなくて、「親が観に来ているから最下位だけにはなっちゃいけない」って思いながら走る子どもでした。1位になるよりもとにかく親に恥をかかせないようにって考える変な子どもだったんです。
アン:気を遣う子どもだったんですか?
尾崎:友だちに対してもそうだったし。でもそれって気遣いではないんですよね。その感情ってもっと汚いものなんですよね。
アン:その感情を汚いものだと形容して理解することが私はありませんが、そういうほうがピュアな気がします。
尾崎:こうやって言うのも自分に対しての言い訳でもあるんですよね。音楽をやっていても「尾崎さんって自分のことを全部歌にしていますよね」って言われるけど、そっちのほうがあとあと面倒くさくないってことがあるんですよね(笑)。「こんな人間だったんだ」って言われるより、「尾崎さんはこういう人だもんな」って(言われるようにしちゃう)クセが子どもの頃からありましたね。

『母影』は読者を試すような装置でもあると気づいた

自身の子どもの頃に抱いていた“気持ち悪さ”が、『母影』の主人公に投影されている部分があるという。

尾崎:主人公ってちょっと変な子どもですよね。大人びているというか。でも子どもって自分の意見を人にあまり言えないじゃないですか。言葉をあまり知らないので大人と対峙できないし、全部受信するしかない。子どもの頃って、入ってくるだけだから気持ち悪かったんですよね。
アン:子どもの頃はなんて言ったらいいかわからない気持ち悪さはあったし、その感情をどう整理していいかもわからなくて、でもお腹が空いたから忘れたとか、お姉ちゃんとけんかしたから忘れたとか、そういう感じで生きていたと思います。
尾崎:そうですね。うまく気をそらして。でも、どこか余裕のあるときに頭が爆発しそうな瞬間もあったし。
アン:それも違う表現で描かれていますよね。子どもって好奇心を放っておかないけど、子どもなりに気を遣ってやめる瞬間もあるじゃないですか。これ以上は掘らないでおこうとか。
尾崎:大人よりもあるかもしれないですね。
アン:そういう部分の押し引き具合とか、ふわふわした感じが『母影』には散りばめられていて。
尾崎:今、アン ミカさんが言ってくださっているのがすごくうれしくて。『母影』を読んで「かわいそうな少女とお母さんの物語だな」って読み方をする人が多いんですよ。自分に当てはめて読んでほしいなって気持ちもあるんですけど、なかなかそうならないことも多くて。だからその人自身を試すような装置でもあるのかなと思いました。「この人は自分に関係のないものだ」とある段階から決めて読む人と、そうじゃなくて物語の中に自分からどんどん入ってくれる人。感想を聞いていてもその人がわかってくる感じがしますね。

執筆活動もしつつ音楽活動も頑張りたい

2020年、クリープハイプは新型コロナウイルスの影響によりライブが中止になるなど活動が制限される中、「曲を作ることができたけど、ここで曲を作ることが負けのような気がした」と尾崎は話す。

尾崎:ライブができないから曲を作るっていうことがすごくシンプルな発想なんだけど、それで曲を作ったときに悔しさとかネガティブな気持ちが絶対に曲に流れ込むと思って。今まで音楽活動を「できない」って止めることをしたことがなかったんですよ。メジャーデビューしてからずっとライブもしてたし制作もしていたので。でも、こういう状況でただ活動を止めるのは嫌だから、小説を書いてみようということは決めて。だからメンバーに対して、何か小説で結果を出さなかった場合にどう言い訳していいかわからなかったので、小説を書くプレッシャーはありましたね。
アン:でも、こうして小説で結果を出されたわけですよね。今年の執筆の予定は?
尾崎:書きたいと思っているので、それをやりつつ音楽活動も頑張らなきゃと思っています。今も曲を作ってレコーディングの準備もしています。
アン:ファンは楽しみに待っていると思います。

クリープハイプは3月3日(水)に東京ガーデンシアターで振替公演となるライブ「大丈夫、一つになれないならせめて二つだけでいよう」を開催予定。

クリープハイプの最新情報は、公式サイトまたは、オフィシャルTwitterまで。

『VOLVO CROSSING LOUNGE』では、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをゲストに迎えて、大人の良質なクロストークを繰り広げる。オンエアは毎週金曜23時30分から。

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2021年2月19日28時59分まで

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番組情報
VOLVO CROSSING LOUNGE
毎週金曜
23:30-24:00