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「ポン酢」の「ポン」ってなに? 国語辞典の奥深さを、サンキュータツオが解説

画像素材:PIXTA 

「ポン酢」の「ポン」ってなに? 国語辞典の奥深さを、サンキュータツオが解説

お笑いコンビ「米粒写経」のサンキュータツオが、国語辞典の魅力について語った。

サンキュータツオが登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『VOLVO CROSSING LOUNGE』(ナビゲーター:アン ミカ)。ここでは10月15日(金)のオンエアをテキストで紹介する。

同じ「リンゴ」でも辞書によって説明が違う

サンキュータツオは1976年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、早稲田大学大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程修了。漫才コンビ・米粒写経として活躍しながら、一橋大学や早稲田大学などで非常勤講師を務める、日本初の学者芸人だ。『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』、『ヘンな論文』(ともに角川学芸出版)など、ユニークな視点で執筆された著書が話題になった。

今回は最新刊となる『国語辞典を食べ歩く』(女子栄養大学出版部)について語った。

アン:私は幼少期に韓国にいたので第一言語は韓国語です。日本語を覚えるのに広辞苑とかを読んでいたんですけど、こんなに辞典でひとつの言葉の表現や着眼点が違うんだと面白さにハマりました。食べ物の名前だったり、普段から使っている意外なトリビアというか、そういうものがわかったり。
サンキュータツオ:国語辞典は出版社によって記述の仕方が違うんです。どうしてもみなさんは辞典について「正しい意味が載っているんじゃないか」と誤解するんです。
アン:そう思ってました。
サンキュータツオ:まあ「正しい意味」というのがそもそも存在しないので「この辞典ではどう説明しているのかな」と読むのが、もともと僕は好きだったんです。
アン:おいくつぐらいからそんなことをされていたんですか?
サンキュータツオ:二十歳ぐらいからですかね。そういうことをしていたら食べ物にまつわる言葉とか食材、料理、包丁みたいな道具とか、あとは「もぐもぐ食べる」といった擬音語、そういう切り口で「ちょっと連載してみませんか」という話を雑誌『栄養と料理』(女子栄養大学出版部)からいただいたんです。それで6年半ぐらいやったものが今回この本にまとまったという感じです。
アン:国語辞典で「リンゴ」ってひくと「バラ科」とかそういったことが書いてあるけど、漢字の違う書き方や例文が載っていたり、辞典によって個性が違うんですよね。
サンキュータツオ:「リンゴを誰かに説明してください」と言われることってないじゃないですか。
アン:確かに。世界中みんな知ってますし。
サンキュータツオ:でも、たとえばそれこそ外国人留学生とかが「リンゴがどういう動詞とつながるか」と訊いたときに「食べる」は出てくるんですけど「かじる」がなかなか出てこないんですよね。そういったときに用例に「リンゴをかじる」と入っていたら「あ、かじるという動詞をとるんだ」ということもわかるわけですよね。これは外国人だけじゃなくて小学生や中学生でもわかるので大きい情報です。植物としてのリンゴを説明する辞典もあれば、リンゴの種類を説明する辞典もあって、それが編集方針として固まっていて、それがたまたま具体的に出ている項目ということなんです。
アン:国語辞典って編集方針の哲学によってこんなに変わるんだと、本当に面白くて勉強になります。
サンキュータツオ:国語辞典は本当に面白いんです。
アン:世の中って面白い視点で見ようと思ったら、いろいろなものが面白がれるということなんですね。
サンキュータツオ:そういうことです。

ポン酢の「ポン」とは?

『国語辞典を食べ歩く』では、複数の辞典で比較した内容を掲載。サンキュータツオは例のひとつとして「ポン酢」をピックアップした。

サンキュータツオ:「ポン酢ってなに?」って説明しろと言われたら、なんの「ポン」なんだろうと思いますよね。
アン:確かに「ポン」てなんだろう。自分としてはポンカンとか柑橘類のポンなのかなと思っていたけど、違いますか?
サンキュータツオ:実はこれ、オランダ語なんです。オランダ語の「pons(ポンス)」からきていて、それを書いてある辞典もあります。たとえばフルーツポンチの「ポン」も実は同じ語源だったんじゃないかみたいな、言葉の興味が広がっていくきっかけになるような辞典もあるんです。日本語ってどこから由来した言葉なのかという来歴がはっきりしているものがあるので、それをたどっていくきっかけになるのも国語辞典なんです。
アン:ポン酢について、語源プラス、どう作られるのかを書いているのもありますね。
サンキュータツオ:食べ物の項目に関しては「自分で作ってみよう」という人がいるので、再現できるように書いている辞典もあるんです。日本人でポン酢をわざわざ引くはずはないから、ポン酢という項目を引く人は「どうやって作ったらいいんだろう」ということを知りたくて調べているんじゃないかと。
アン:そこまで考えてくれるんだ。
サンキュータツオ:読む人のニーズに合わせた書き方をしている辞典があるので。そういった違いも意味の記述から読み取れるんです。
アン:意外な語源や友だちと会話するときに使える知恵がいっぱい入っていますよね。

渋谷から落語文化を発信

サンキュータツオは落語イベント「渋谷らくご」を毎月第二金曜日から5日間または6日間、定期的に開催。落語ファンはもちろん初心者も楽しめることをコンセプトにしている。

サンキュータツオ:渋谷のユーロスペースのオーナーから「劇場をどうしてもやりたいんだ」とお願いされて。渋谷は人がたくさん集まる場所にはなっているけれども、文化を発信する場所が減ってきているので、劇場からこういう演芸、落語、講談、浪曲を発信していきたい、ただ「最近の人たちのことがわからないのでお願いします」ということで、僕に白羽の矢が立ったということです。
アン:若いファッションや飲食の街の印象が強いと思いますが、ここで「渋谷らくご」をされて年齢層とかはどうですか?
サンキュータツオ:だいぶ若いですね。
アン:うれしいですね。
サンキュータツオ:年齢は問わないんですが、やっぱり若いうちにこういうのに触れておくと、そのときはわからなくてもそんなに偏見を持たずに触れられるじゃないですか。そういう場所になってもらえればいいなと思っています。
アン:キュレーターとして初心者でも楽しめるような工夫をされていると聞いていますが、具体的には?
サンキュータツオ:落語って誰が聴いてもわかるようになっているんですけど、伝統芸能というイメージから、ちょっと「難しいんじゃないか」と思う方が多いんです。
アン:「わからないのに行っていいのか」とかね。
サンキュータツオ:「着物を着て観に行かなきゃいけないんじゃないか」と思っている人もいるかもしれません。まずは「なにも勉強しなくていいし、誰でもわかるよ」ということを言い続けています。実際に劇場に来ていただいた公演の見どころを解説する小冊子を配ったり、演者の名前にフリガナをつけたり。
アン:そっか。漢字が多くて「なんて読むのかな」からつまずく人もいるかもしれない。
サンキュータツオ:フリガナをふってプロフィールと簡単な人物紹介もつけます。あとは同世代の人が出ていたら親しみやすいかなと思って、わりと若手中心の会になっています。
アン:初心者の方たちが「渋谷らくご」で落語に触れた反応はどうですか?
サンキュータツオ:「こんなに面白いものだとは思わなかった」とよく言われます。ファンタジーなものじゃなくて「日本語が理解できる人だったら誰でも楽しめるんだとわかった」とよく言っていただけるので、それはとてもうれしいことです。

「渋谷らくご」の詳細は公式サイトまで。

『VOLVO CROSSING LOUNGE』では、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをゲストに迎えて、大人の良質なクロストークを繰り広げる。オンエアは毎週金曜23時30分から。

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2021年10月22日28時59分まで

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VOLVO CROSSING LOUNGE
毎週金曜
23:30-24:00