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特別養子縁組は“子どもが親を探す制度

なら国際映画祭エクゼクティブ・ディレクターを務める映画監督・河瀨直美

特別養子縁組は“子どもが親を探す制度" 映画『朝が来る』監督・河瀨直美が語る

J-WAVEで放送中の番組『VOLVO CROSSING LOUNGE』(ナビゲーター:アン ミカ)。11月6日(金)のオンエアでは、映画監督・河瀨直美がリモート出演。奈良で開催した「なら国際映画祭2020」の意義や、最新監督作品『朝が来る』について語った。

日本映画界を代表する監督

河瀨は、生まれ育った奈良県を拠点に映画を作り続け、1997年には初の商業作品『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭のカメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞。その後もカンヌをはじめ、世界各国の映画祭で多数の賞を受賞している。

2010年からは故郷の奈良にて「なら国際映画祭」を立ち上げ、後進の育成にも力を入れている。「東京2020オリンピック競技大会」の公式映画監督や、2025年の大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーにも就任した。

アン:海外での受賞歴はすさまじく、もちろん2007年『殯の森』でグランプリも受賞されていますし、2013年にはカンヌ国際映画祭のコンペティション部門の審査員に選出されています。日本人映画監督として初の快挙。
河瀨:新型コロナの前だったら「パリのほうが多いかな?」というぐらい向こうに滞在していました。フランス語はほとんどしゃべれないんですが、仲間が向こうに増え始めていたので、今は全然会えないから「どうしてるのかな?」と思います。もちろんLINEなどでやりとりもしているんですが、こんな時代になっちゃったんだね、という。
アン:だからこそ家で映画を観て自分以外の誰かの気持ちになって、映画がすごくたくさんの人に力を与える時期でもありますよね。
河瀨:おうちにこもらないといけないときがあったと思うんだけど、そういうときに映画やライブを観ながら勇気づけられた人は本当にたくさんいたんじゃないかなと思います。

東大寺での「なら国際映画祭2020」は、奉納・参拝したいという思いで

「なら国際映画祭2020」は9月、東大寺で開催された。アンは「河瀨監督が東大寺の門を開くのを拝見したときに鳥肌が立ちました」とコメントした。

アン:東大寺の門が開いたら奥に大仏さんが見えて、そこに真っ赤な絨毯が敷かれて、光が逆光になっていて……。今まで東大寺の大仏殿を使った映画祭はもちろんなかったんですよね。
河瀨:やってないと思います。今年は新型コロナの影響もあり、私たちはこれをイベントとは呼んでいなくて、「奉納・参拝したい」という思いがありました。そのあとから映画祭を始めたいということで、お願いをしたんです。レッドカーペットを敷くこと自体「イベントやんか」と言われればそうではあるんですけど、私たちの思いとして、大仏さまのお膝元で生きとし生けるものすべてがより良い方向にいくことを願いたいということだったんです。命に差はないし、みんな隔たりなくそこを歩き、大仏さまのお膝元において謙虚になるという形をとりたいと思ったので、音楽は一切かけませんでした。読経していただいて、虫の声があって、それがすごくよかったなと思います。
アン:気持ちよかったです。
河瀨:観相窓(かんそうまど)という、大仏様を拝顔する扉があの日は開いたんです。東大寺の重要な行事でしか開かない窓だったんですが、東大寺さまのはからいで、この日は開けていただきました。映画やエンターテインメントだけというふうにイメージされる人も多いんですが、芸術でありアートであり、それは人と人の生きる道を照らしていくものであるという観点から言うと、宗教や大仏さまについて東大寺さまがされていることは遠くないんじゃないかなというふうに、そういう思いで開けていただいたんじゃないかなと思うんです。

奈良で映画祭を開催する意義

「なら国際映画祭」を地元の奈良で映画祭を開催したことに、どんな意義を見出しているのか。

河瀨:日本はどうしても東京中心で情報が伝達されていく、そこで起こっていることが中心になっていくんですけど、日本はものすごく多様な文化を持っていて、各地域には各地域のお祭りがあって、奈良だったら奈良の、島根だったら島根の、地方にはそういうものがあるんです。でも、どうしても地方都市は経済優先の社会において二の次になりがちです。「自分の生きている場所こそが誇り」と思えたときに、そこからあらゆるムーブメントが起こると思っています。なので、私が現存している“カンヌで評価された映画監督"ということを活用していただいて、地元に生きる人たちがこの街を誇りに思うようなこと、特に若い世代にそれを感じてもらうことが「なら国際映画祭」の一番の意義かなと思っています。
アン:ふるさと納税でも「なら国際映画祭」を支持することができるんですよね。
河瀨:奈良市は1300年前から国際文化観光都市だったんです。大陸からみんながやってきて、ここで天平文化が花開いた。そこに国際映画祭がやってくる、世界中の映画人がやってくる可能性があるというこの映画祭に対して、奈良市さんがふるさと納税の支援先に「なら国際映画祭」を用意してくださっています。こういうことを支援したいという方は、ぜひ「なら国際映画祭」をチョイスしていただければと思います。
アン:日本の素敵な芸術家を育てていく役割を自分がちょっとでも担えていると思うと誇りですよね。

特別養子縁組は“子どもが親を探す制度"

河瀨の最新映画『朝が来る』が現在公開中だ。直木賞受賞作家・辻村深月によるヒューマンミステリー小説を映画化した作品で、永作博美、井浦 新、蒔田彩珠、浅田美代子ら実力派俳優が出演する。



【あらすじ】

一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり"を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか――? (映画『朝が来る』公式サイトより)

アン:河瀨監督としては初のミステリー作品なんですよね。
河瀨:公開から少し経ったんですが、観た人から「ミステリーじゃないよね、これ」という意見も多いんです。
アン:私もそう思いました。ミステリーというより「誰かだったかもしれない」と感じました。
河瀨:「誰しもに起こることだよね」ということですよね。社会のなかの見えないところで誰かがそうなっているかもしれない、ということに気づく物語でもあります。中学生、しかも初潮を迎えていない子が妊娠してしまう。中絶できる時期をすぎてしまって産むんだけれども、育てることができない。それで特別養子縁組という制度によって子どもがほしい夫婦のもとにいくんです。だけどこの子どもをあっせんするNPO法人の、本当の団体の代表が「これは夫婦が子どもをみつける制度じゃない。子どもが親を探している制度だから」って言ったんです。
アン:なるほど。逆だと思ってました。
河瀨:大人目線で言うと、子どもを授からない不妊治療の末に養子縁組と言うけど、そういう人たちが探しているのはもちろんそうかもしれないけど、子どもがこの先の人生をどんな環境で育まれていくのかということがすごく大事なので、子どものための制度なんです。
アン:そうですよね。
河瀨:子どもって誰もが幸せになる権利がある。世界中の子どもがそうだと思う。だけど不幸にも虐待などによって幼い命が落とされることもある。ぜひともこの制度を知ってもらいたいと思うし、保護してもらえるところが日本にはあるので、それを頼ることも知ってほしいなと思うんです。
アン:完成報告会見で、河瀨組に初出演の永作博美さんと井浦 新さんが、河瀨監督から役者さんへの指示について「無言の圧がすごかった」と言っているのを聞きました。

【関連記事】永作博美「夫婦として実際に泊まらせる気なのか?」 河瀨直美の監督作『朝が来る』の“役積み"とは

河瀨:無言の圧(笑)。
アン:それが意外でした。河瀨さんは思ったことをすぐにおっしゃられる方なので。
河瀨:現場で私は自分の気配を消すんですが、とにかく目は光らせているという感じかな。
アン:それをみんながひしひしと感じていたということですね(笑)。
河瀨:どこかで監督と目が合う、みたいなね(笑)。彼らが本気でその人になりきっていたら、べつに台詞が間違っていても決してNGは出さない。だけど、どこかで「演じているよね」というのはわかるから、そのときは「もう一回いこうか」と静かに言いにいきます(笑)。

『VOLVO CROSSING LOUNGE』では、さまざまなジャンルのプロフェッショナルをゲストに迎えて、大人の良質なクロストークを繰り広げる。オンエアは毎週金曜23時30分から。

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2020年11月14日28時59分まで

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