J-WAVEで放送中の番組『INNOVATION WORLD』(ナビゲーター:川田十夢)のワンコーナー「LEXUS ROAD TO INNOVATION」。各界のクリエイター、イノベーターに話を聞くコーナーだ。
12月4日(金)のオンエアでは、ユーミンこと松任谷由実が登場。12月1日にリリースしたニューアルバム『深海の街』について、たっぷりと語った。
まずは番組アシスタントを務めるAI(人工知能)「Tommy」が、過去の取材記事や作品などのデータをもとに、松任谷の性格分析をおこなった。
Tommy:松任谷由実さんは分析が好きで、物静かなタイプです。伝統と成功することの両方にあまりこだわりません。自分の価値観と慣習を再検討する寛容さや、権威に挑戦する覚悟があります。また、自分の才能を誇示することにあまりこだわらず意志決定します。
松任谷:当たってます。
川田:あらま。「自分の才能を誇示しない」とありますけど。
松任谷:誇示しなくても通っちゃったからじゃないかな(笑)。
川田:僕、ユーミンのそういうところがすごく好きなんですよね。天才であることを隠さないというか。変に謙遜しちゃっても、それはウソじゃないですか。
松任谷:そうですよね。
川田:だから、すごく気持ちよくて参考にしています。
松任谷:最初は、自分で言わないと誰も言ってくれないと思って言い出したんですけれど、通っちゃいました(笑)。
川田:ユーミンが天才であることは周知のことですからね。
川田:全体の解析結果を見て感じたのは、ユーミンは「私がいちばん」ってことですね。
松任谷:うんうん。
川田:はい。いちばん出てくる言葉であり、人称もそうでした。「あなた」を歌う人もいれば、「僕」のことを歌う人もいるけど、ユーミンは「私」なんですよね。それがユーミンだなって思うところです。松任谷さんになってからも、「私」が出てくる言葉の1位でした。ちなみに松任谷さんになると、「走る」という言葉をよく使われていましたが、荒井さんのときは全然使っていないので、なんとなく心象風景の中でこの時代はそんなに焦ってないのかなって印象があります。僕の勝手な解釈ですが。
松任谷:「走る」って言葉と連動するように多くなっている言葉ってありますか?
川田:荒井さんの時代は「帰る」って動詞をよく使っているけれど、松任谷さんの時代になると、「来る」とか「待って」とかの動詞を使うようになっています。
松任谷:それは結婚したということと関係あるのかなあ。
川田:内的には、あるのかもしれないですね。
川田が分析していて一番大きな違いだと感じたのは、荒井由実時代は「愛」よりも「恋」について歌っていたことだ。
松任谷:(笑)。立場とか年齢によって、恋について書くのは、はばかられるふうになっていったのかもしれませんね。でも、自分では「愛」という言葉にマスキングさせて、「恋」を歌っている場合もあるかもしれないですね。
川田:メタファーとして。なるほど。他にも、荒井さんのときは「彼方(かなた)」をよく使っていましたが、松任谷さんになってからは、「彼」という言葉がよく登場するようになりました。そして、荒井さんのときは「四季」という言葉をそのまま使っていたんですけど、松任谷さんになると、「春」「夏」「秋」「冬」とそれぞれの季節をじっくり歌っているという印象ですね。季節に関する解像度みたいなものが上がったのかなという印象です。
松任谷:荒井由実は、茫洋(ぼうよう)としていましたね。特にファーストアルバム『ひこうき雲』は、「雨」とか「霧」とか「雲」とかが、やたら多くないですか(笑)?
川田:多いです。
松任谷:あと、「さんずい」の文字が多いと言われますね。
川田:「海」とか「波」とか、水様性の言葉はどの時代もよく使われていました。
松任谷:「流れる」とかもありますよね。
川田:このアルバムはコロナ禍で制作された作品だと伺いました。ユーミンって現代的な人だと僕は思うので、目の前にあるものを感じたままに、メタファーもありながら、歌にされている。今のこの空気がこのアルバムには宿っているように感じています。分析をすると、これまでずっと1位だった「私」が下がって、「君」という言葉が1位だったんです。
松任谷:ほう。ただ、それは1枚のアルバムだから、過去の全てのアルバムとの比較はなかなか難しいですよね。
川田:そうですね。パーセンテージは変わってくるので。でも、「君」が一番だったことが僕としてはエポックだなと感じました。あと、「歩き出そう」というメッセージが色濃く出ているなという印象を受けました。
松任谷:新型コロナが影響していると思います。
川田:これまで「歩く」って言葉もよく使っていたんですけど、「歩き出そう」っていう、背中を押してくれるような言葉はあまり使われていなかったので、すごく印象に残っています。
松任谷:「歩く」と「歩き出そう」ではメッセージ性が全然違うと思いますね。『深海の街』で、今まで使ってこなかった「白骨」という言葉を入れたフレーズがあるんですけど、それをとても気に入っています。
松任谷は川田の渡した資料を持ち帰り、じっくり読むとコメントした。川田は今回の解析結果をまとめ、ユーミンは「いつの時代も“私”を通じて世界の本当のこと、夢みたいなことを大きな愛を持って歌い続けている人」と表現。それを聞いた松任谷は「『我思う、ゆえに我あり』ですよね」と語った。
松任谷:コロナ禍になって、わりとすぐに古典を読んだんです。その中で読んだ、鎌倉時代に書かれた『方丈記』 の内容が本当に悲惨で。火山が噴火するわ、飢饉だわ、地震はあるわ。戦もあるし、京の街には死体がゴロゴロころがっているような、日本が最悪だったときのお話じゃないかな。しまいには自分のことも笑っちゃって終わるような話なんだけど、無常観を認めることで、そこはかとない力が湧いてくるような感じがするんですよ。最悪な時代をサバイバルした人たちがいるから私たちがいるっていう、その根底からの勇気みたいなものが伝わってきました。
川田:ユーミンの曲を聴いていて、古典に接続するタイミングがあるというか。人類の帰納を読み解くというか。
松任谷:ありますね。歌の中にも書いたのだけど、振り返れば必ずわかるって。それはヴィヴィアン・ウエストウッドがファッション誌について語った言葉が頭にあったりもしたんですけど。
川田:流行と歴史みたいな重たいものが共存しているのがユーミンだなと思いますね。
松任谷:そう言ってもらえるとうれしいです。いろんなスパイラルがあって、それがどこかで一致したりね。
松任谷は『深海の街』について、「決して明るくなくダークだけど、ポップ」と表現し、今だからこそ多くの人の心に刺さる作品じゃないかと思いを語る。
川田:このアルバムはどんな人に聴いてもらいたいですか?
松任谷:『深海の街』は自分のために作ったんです。今、自分が極上だと思えるもの。これだけやってきたから、そこに感応してくれる人が必ずいるはずだと。どんな職業や年齢の人でも、私を追求することで、あるときパーンと一般性を帯びるんじゃないかなと。今までの経験でもそう思ってるんだけど。だから、この期に及んでミュージシャンとして、貪欲に音楽的成長を求める。その姿勢を汲み取ってもらえれば、勇気が出ると思います。
川田:コロナ禍だから家で作ったんですもんね。でも、家の中とは思えないほどカラフルだと感じましたし、長く聴けるアルバムだと思いました。
松任谷:ありがとう。
川田:今はユーミンの夢みたいなライブが観られない状況が続いていますよね。
松任谷:音楽を続けるっていうことで、世界的にライブはいずれある程度は普通に再開できるときが来ると思うけれど、パフォーマーもオーディエンスも意識は変わるでしょうね。オンラインライブと決定的に違うことに改めて気付くと思います。どちらもいい点はあるんですけど。画面上で強制的にある映像を見せられるのと、勝手に参加するのとでは全然違うと思います。だから、みんながそこをすごく意識しながらライブに足を運ぶんじゃないかな。もちろん好きな時間にたくさんの人がライブを観られるのは(配信ライブの利点として)あるんだけど。
川田:ユーミンは生のライブに勝てるものはないんですかね。
松任谷:(オンラインとオフラインの)両方でやり方はあると思います。
川田:両方の可能性を探究するわけですね。
松任谷:そうですね。
各界のイノベーターやクリエイターを迎えて仕事へのこだわりや、描く未来について語り合う「LEXUS ROAD TO INNOVATION」は毎週金曜日の20時25分頃からオンエア。
12月4日(金)のオンエアでは、ユーミンこと松任谷由実が登場。12月1日にリリースしたニューアルバム『深海の街』について、たっぷりと語った。
才能を誇示しなくても「通っちゃった」
今回はプログラマーである川田が、松任谷がこれまで歌ってきた「言葉」を解析。松任谷も「興味深いです」とトークはスタートした。まずは番組アシスタントを務めるAI(人工知能)「Tommy」が、過去の取材記事や作品などのデータをもとに、松任谷の性格分析をおこなった。
Tommy:松任谷由実さんは分析が好きで、物静かなタイプです。伝統と成功することの両方にあまりこだわりません。自分の価値観と慣習を再検討する寛容さや、権威に挑戦する覚悟があります。また、自分の才能を誇示することにあまりこだわらず意志決定します。
松任谷:当たってます。
川田:あらま。「自分の才能を誇示しない」とありますけど。
松任谷:誇示しなくても通っちゃったからじゃないかな(笑)。
川田:僕、ユーミンのそういうところがすごく好きなんですよね。天才であることを隠さないというか。変に謙遜しちゃっても、それはウソじゃないですか。
松任谷:そうですよね。
川田:だから、すごく気持ちよくて参考にしています。
松任谷:最初は、自分で言わないと誰も言ってくれないと思って言い出したんですけれど、通っちゃいました(笑)。
川田:ユーミンが天才であることは周知のことですからね。
「荒井由実」「松任谷由実」で違うところは?
川田は松任谷の48年間の活動すべてのアルバムに収められている言葉を独自プログラミングで解析。松任谷のアルバムを、「荒井由実時代」「松任谷由実時代(最新アルバム『深海の街』まで)」「最新アルバム『深海の街』」に分類し、その時代で紡ぎ出された言葉をタイポグラフィで紹介した。松任谷由実さんことユーミンとはじめまして。シンガー・ソング・タグ・クラウドを携えて1対1で会話する貴重な機会、かなり刺激を受けました。ルックスも、お選びになる言葉も、アティチュードも、ぜんぶかっこ良かった。ニューアルバム『深海の街』とは永い付き合いになりそう。今夜20時からJ-WAVE。 pic.twitter.com/rBNJtS4ZMe
— 川田十夢 (@cmrr_xxx) December 3, 2020
川田:全体の解析結果を見て感じたのは、ユーミンは「私がいちばん」ってことですね。
松任谷:うんうん。
川田:はい。いちばん出てくる言葉であり、人称もそうでした。「あなた」を歌う人もいれば、「僕」のことを歌う人もいるけど、ユーミンは「私」なんですよね。それがユーミンだなって思うところです。松任谷さんになってからも、「私」が出てくる言葉の1位でした。ちなみに松任谷さんになると、「走る」という言葉をよく使われていましたが、荒井さんのときは全然使っていないので、なんとなく心象風景の中でこの時代はそんなに焦ってないのかなって印象があります。僕の勝手な解釈ですが。
松任谷:「走る」って言葉と連動するように多くなっている言葉ってありますか?
川田:荒井さんの時代は「帰る」って動詞をよく使っているけれど、松任谷さんの時代になると、「来る」とか「待って」とかの動詞を使うようになっています。
松任谷:それは結婚したということと関係あるのかなあ。
川田:内的には、あるのかもしれないですね。
川田が分析していて一番大きな違いだと感じたのは、荒井由実時代は「愛」よりも「恋」について歌っていたことだ。
松任谷:(笑)。立場とか年齢によって、恋について書くのは、はばかられるふうになっていったのかもしれませんね。でも、自分では「愛」という言葉にマスキングさせて、「恋」を歌っている場合もあるかもしれないですね。
川田:メタファーとして。なるほど。他にも、荒井さんのときは「彼方(かなた)」をよく使っていましたが、松任谷さんになってからは、「彼」という言葉がよく登場するようになりました。そして、荒井さんのときは「四季」という言葉をそのまま使っていたんですけど、松任谷さんになると、「春」「夏」「秋」「冬」とそれぞれの季節をじっくり歌っているという印象ですね。季節に関する解像度みたいなものが上がったのかなという印象です。
松任谷:荒井由実は、茫洋(ぼうよう)としていましたね。特にファーストアルバム『ひこうき雲』は、「雨」とか「霧」とか「雲」とかが、やたら多くないですか(笑)?
川田:多いです。
松任谷:あと、「さんずい」の文字が多いと言われますね。
川田:「海」とか「波」とか、水様性の言葉はどの時代もよく使われていました。
松任谷:「流れる」とかもありますよね。
「私」を通じて世界を描く
ニューアルバム『深海の街』の解析結果では、「私」ではなく「君」が1位に。川田はどう分析するのか。川田:このアルバムはコロナ禍で制作された作品だと伺いました。ユーミンって現代的な人だと僕は思うので、目の前にあるものを感じたままに、メタファーもありながら、歌にされている。今のこの空気がこのアルバムには宿っているように感じています。分析をすると、これまでずっと1位だった「私」が下がって、「君」という言葉が1位だったんです。
松任谷:ほう。ただ、それは1枚のアルバムだから、過去の全てのアルバムとの比較はなかなか難しいですよね。
川田:そうですね。パーセンテージは変わってくるので。でも、「君」が一番だったことが僕としてはエポックだなと感じました。あと、「歩き出そう」というメッセージが色濃く出ているなという印象を受けました。
松任谷:新型コロナが影響していると思います。
川田:これまで「歩く」って言葉もよく使っていたんですけど、「歩き出そう」っていう、背中を押してくれるような言葉はあまり使われていなかったので、すごく印象に残っています。
松任谷:「歩く」と「歩き出そう」ではメッセージ性が全然違うと思いますね。『深海の街』で、今まで使ってこなかった「白骨」という言葉を入れたフレーズがあるんですけど、それをとても気に入っています。
松任谷は川田の渡した資料を持ち帰り、じっくり読むとコメントした。川田は今回の解析結果をまとめ、ユーミンは「いつの時代も“私”を通じて世界の本当のこと、夢みたいなことを大きな愛を持って歌い続けている人」と表現。それを聞いた松任谷は「『我思う、ゆえに我あり』ですよね」と語った。
『深海の街』は、自分が極上だと思えるものを作った
ニューアルバム『深海の街』のオープニングナンバーは『1920』。松任谷は今から100年前と100年後を想像ながら書いたものだと語る。松任谷:コロナ禍になって、わりとすぐに古典を読んだんです。その中で読んだ、鎌倉時代に書かれた『方丈記』 の内容が本当に悲惨で。火山が噴火するわ、飢饉だわ、地震はあるわ。戦もあるし、京の街には死体がゴロゴロころがっているような、日本が最悪だったときのお話じゃないかな。しまいには自分のことも笑っちゃって終わるような話なんだけど、無常観を認めることで、そこはかとない力が湧いてくるような感じがするんですよ。最悪な時代をサバイバルした人たちがいるから私たちがいるっていう、その根底からの勇気みたいなものが伝わってきました。
川田:ユーミンの曲を聴いていて、古典に接続するタイミングがあるというか。人類の帰納を読み解くというか。
松任谷:ありますね。歌の中にも書いたのだけど、振り返れば必ずわかるって。それはヴィヴィアン・ウエストウッドがファッション誌について語った言葉が頭にあったりもしたんですけど。
川田:流行と歴史みたいな重たいものが共存しているのがユーミンだなと思いますね。
松任谷:そう言ってもらえるとうれしいです。いろんなスパイラルがあって、それがどこかで一致したりね。
松任谷は『深海の街』について、「決して明るくなくダークだけど、ポップ」と表現し、今だからこそ多くの人の心に刺さる作品じゃないかと思いを語る。
川田:このアルバムはどんな人に聴いてもらいたいですか?
松任谷:『深海の街』は自分のために作ったんです。今、自分が極上だと思えるもの。これだけやってきたから、そこに感応してくれる人が必ずいるはずだと。どんな職業や年齢の人でも、私を追求することで、あるときパーンと一般性を帯びるんじゃないかなと。今までの経験でもそう思ってるんだけど。だから、この期に及んでミュージシャンとして、貪欲に音楽的成長を求める。その姿勢を汲み取ってもらえれば、勇気が出ると思います。
川田:コロナ禍だから家で作ったんですもんね。でも、家の中とは思えないほどカラフルだと感じましたし、長く聴けるアルバムだと思いました。
松任谷:ありがとう。
とにかく音楽を続けたい。オンラインとオフラインで可能性を追求
松任谷はこれからビジョンについて「とにかく音楽を続けたい」と語気を強める。川田:今はユーミンの夢みたいなライブが観られない状況が続いていますよね。
松任谷:音楽を続けるっていうことで、世界的にライブはいずれある程度は普通に再開できるときが来ると思うけれど、パフォーマーもオーディエンスも意識は変わるでしょうね。オンラインライブと決定的に違うことに改めて気付くと思います。どちらもいい点はあるんですけど。画面上で強制的にある映像を見せられるのと、勝手に参加するのとでは全然違うと思います。だから、みんながそこをすごく意識しながらライブに足を運ぶんじゃないかな。もちろん好きな時間にたくさんの人がライブを観られるのは(配信ライブの利点として)あるんだけど。
川田:ユーミンは生のライブに勝てるものはないんですかね。
松任谷:(オンラインとオフラインの)両方でやり方はあると思います。
川田:両方の可能性を探究するわけですね。
松任谷:そうですね。
各界のイノベーターやクリエイターを迎えて仕事へのこだわりや、描く未来について語り合う「LEXUS ROAD TO INNOVATION」は毎週金曜日の20時25分頃からオンエア。
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川田十夢