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岩井俊二、『ラストレター』の主題歌はイソップ童話から着想 「今の世界を映している」と思う理由

(C)2020「ラストレター」製作委員会

岩井俊二、『ラストレター』の主題歌はイソップ童話から着想 「今の世界を映している」と思う理由

1995年に公開された岩井俊二監督の映画『Love Letter』。中山美穂と豊川悦司が出演し当時の若者が大熱狂した。その後、アジア各国で公開され、いまだにロケ地になった北海道小樽には聖地巡礼をする若い女性の姿が後を絶たない。

そんな国際的にも人気の岩井が手掛けた待望の最新映画『ラストレター』。『Love Letter』から経た25年という年月と新作『ラストレター』に込めた思いを岩井に訊いた。

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【1月16日(木)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/木曜担当ニュースアドバイザー:堀 潤)】


■手書きの大切さが自分の中に戻ってきた

『ラストレター』は『Love Letter』や2017年にアニメ映画にもなった映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』にも通じるような、甘く切ないラブストーリーだ。

・『ラストレター』あらすじ

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裕里(松たか子)の姉の未咲が、亡くなった。裕里は葬儀の場で、未咲の面影を残す娘の鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内と、未咲が鮎美に残した手紙の存在を告げられる。未咲の死を知らせるために行った同窓会で、学校のヒロインだった姉と勘違いされてしまう裕里。そしてその場で、初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と再会することに。勘違いから始まった、裕里と鏡史郎の不思議な文通。裕里は、未咲のふりをして、手紙を書き続ける。その内のひとつの手紙が鮎美に届いてしまったことで、鮎美は鏡史郎(回想・神木隆之介)と未咲(回想・広瀬すず)、そして裕里(回想・森七菜)の学生時代の淡い初恋の思い出を辿りだす。ひょんなことから彼らを繋いだ手紙は、未咲の死の真相、そして過去と現在、心に蓋をしてきたそれぞれの初恋の想いを、時を超えて動かしていく―――
映画『ラストレター』公式サイトより)

『ラストレター』

堀は、この映画の原作であり岩井が執筆した小説『ラストレター』(文藝春秋)をもとにした中国版の映画『ラストレター』(『你好、之華』)を移動中の機内で泣きながら観ていたようで、「僕たちがどこかに置いてきた同じ切なさや漠然とした喪失感に対しての不安は国境を越えて共感を得るものだと感じた」と感想を述べた。

:なぜこのタイミングで『ラストレター』を作ろうと思ったのでしょうか?
岩井:ある女の人が夫とケンカになりスマホを壊されてしまい、そこから手紙を書くしか方法がなくなるというストーリーを思いついて、これは『Love Letter』のように面白い話になるかもしれないと思いました。それからワンシーンずつ増やすようなかたちで仕上げていきました。
:手紙を書くシーンは秘め事感があり観客側としてドキドキしました。書くことはものすごく思いがこもる作業なんですね。
岩井:そうですね。『Love Letter』の公開当時は手紙が当たり前の世の中だったので、手書きはそれほど思い入れがありませんでした。だから『Love Letter』では中山美穂さん演じる主人公の藤井 樹は手書きではなくワープロを使って手紙を書いているんです。当時の演出としては普通に手紙を書いているだけでは面白くないって発想でした。ところがそれから25年が経ち、あまり手書きをすることがなくなって、逆に手書きをすることの大切さが自分の中に戻ってきましたね。(『ラストレター』では)手書き以外の選択肢以外はなかった。これもまた時代の流れかもしれません。

岩井はいろいろなインタビューで、「『ラストレター』は自伝的な作品」と語っている。

岩井:この映画が直接的に自分の自伝なのかというと少し違うと思います。ただ、『ラストレター』で福山雅治さんが演じた小説家の鏡史郎に、『Love Letter』からの25年で創作してきた自分やたくさんの人と出会った経験など、自分の半生を重ねた部分があります。また、劇中には彼が過去に書いた小説が出てきます。その内容はほとんど語られないけど、大学時代に再会したみさきという女の子のエピソードが書かれているらしいという話は少し出てきます。

『ラストレター』

この小説は岩井が書いたもので存在するという。

岩井:本一冊分くらいの物語で、福山さんはこの物語を読んだうえで演技されています。鏡史郎は大学時代に彼女とあった深いいろんなことが走馬燈のようによぎっているんだけど、観客はそこを見ることができずもどかしい状態が続く。そういう二重構造になっています。その小説では僕の大学時代のエピソードもふんだんに出てくるので、そういったことを全部含めた意味で、今回の映画は自伝的要素が強いプロジェクトになったと思います。


■主題歌『カエルノウタ』の着想はイソップ童話から

岩井は『ラストレター』の主題歌となった、映画に出演する森 七菜が歌う『カエルノウタ』の作詞を手掛けている。



岩井:イソップ童話にカエルと子どもたちの短いエピソードがあります。子どもたちが池に向かって石を投げていると、水の中に住んでいるカエルたちがやってきて「人間にとって石投げは遊びかもしれないけど、カエルにとっては命に関わることだからやめてくれ」と言うような内容です。それを読んだときにすごく今の世界を映しているなと思い、すごく気になっていました。そのイメージを盛り込んで詩にしました。
:僕が分断をテーマにドキュメンタリー映画を撮っているタイミングで、岩井さんからこの歌のお話を伺いました。
岩井:そのとき、「私も分断をテーマにした詩を書いているかもしれない」と話をさせていただきましたよね。
:どうして分断がキーワードとして上がったのでしょうか?
岩井:先ほど話したイソップ童話では、片側では愉快にやっていることが、もう片方の世界では命に関わるような傷を負ったりすることがある。相当古い童話だけど、その頃からそういったふたつの異なる世界という考えがあったってことですよね。まさに今、SNSの中でも一人ひとりは軽い気持ちでつぶやく程度に言葉にするんだけど、その累積があるひとりをものすごく傷つけることがあるので、誰もがその罪から逃れられないような時代に入っているだろうし。その場所に住んでいる人たちにとって深刻なことなんだけど、遠く離れた側からするとその痛みや苦しみを実感しづらく、相当他人事になってしまっていることもたくさんあると思います。
:この歌の後半には残酷な世界でありながらも、先へ、待っているから、とそこにひとつの可能性を感じます。『ラストレター』の手紙のやり取りで僕があそこまで心を揺れ動かされたのは、自分のなかにそういう理想の未来があるからだとあらためて感じ、逆に今はその世界がないのかなとも感じました。


■『Love Letter』から25年が経ち思うこと

『ラストレター』の公開日、1月17日は1995年に阪神淡路大震災が発生した日。そして、その年に『Love Letter』は公開された。

:1995年から25年、東日本大震災などさまざまな災害や社会問題があり、そのたびに私たちは翻弄されてきました。岩井さんはどのような変化がありましたか。
岩井:『Love Letter』を編集しているさなかに阪神淡路大震災が起こって、なかなか編集が手につかないような状況が続いたことを覚えています。その後、3月20日には地下鉄サリン事件があり、3月25日に『Love Letter』を公開しました。今振り返るとすごいときに公開された映画だったんだなと。あのときですら時代の変わり目になるんだろうなと感じていました。戦争を体験していない我々世代からすると、戦争とまではいかないまでも今まで経験したことがなかい災害ですら時代の大きな節目になっていくように思っていました。さらに東日本大震災もあり、こういったことは人間の歴史において常にどこかにはあって、そう簡単には平和な生涯を過ごさせてはくれないものだなと実感せざるを得ない。そこに気付き出すと、日本はたまたま太平洋戦争以降に戦争はないけど、世界中ではあるわけで。

第二次世界大戦後の70年以上において、戦争、紛争、テロがなかった年は1年もないと言われている。

岩井:戦争を体験し、それを伝える世代がどんどんいなくなっていると言われるけど、片方で我々は常に今やSNSで、たとえばシリアの情勢など瞬時に世界の情報が生々しく入ってくるわけです。だから知る機会がすごくある。戦争世代がいなくなるから戦争から遠ざかっているかと言えば、決してそんなことはないというか。想像力をたくましくすれば、そういう情勢が起こる場所は日本から飛行機で丸一日かからないわけですからね。それくらい近い場所で起きているんだと考えると、身近にある危機だと思います。戦争においても日本が永久に守られるとは決して保証もなく、核兵器で考えても人間が生んだものとしてこの先使われない保証も全くない。日本国憲法にしても国連憲章にしても、いかに当時の人たちの核兵器に対する恐怖が反映されているかを考えると、当時の恐怖心たるやすごかっただろうし、それが今変わっているわけではないし、核兵器の数や種類は増えているわけなので。
:私たちはイソップ童話のカエル側の声に想像力を持ち、耳を傾けていなかったんだと気付くべきですね。

『ラストレター』

本編はもちろん、主題歌『カエルノウタ』にも注目しながら、岩井の思いを感じ取ってほしい。全国東宝系にて公開中。

J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時15分頃から。お聴き逃しなく。

場面写真:(C)2020「ラストレター」製作委員会

【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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