頻発した自然災害や政治問題など、何かと暗い話題が目立った2019年。今なお解決していない問題も多いなか、2019年の出来事から私たちが今こそ考えなくてはいけないことは何なのか。12月11日(水)放送の『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」では、火曜担当ニュースアドバイザーでもあるジャーナリストの青木理をゲストに迎え、2019年のニュースを振り返った。
【12月11日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
■「桜を見る会」の追求は国の根幹や歴史に関わる
2019年に印象的だったのは、やはり全国各地で起きた台風による被害。千曲川の氾濫が記憶に新しい長野県出身の青木も、現地取材を行ったそう。
安田:今年は「スフィア基準」(被災者や難民などへの人道支援を行う際、最低限の基準を定めること)がようやく叫ばれてきました。国の主導で避難所の環境を改善するべきだという声や、ホームレスが台東区の避難所で拒否された出来事など、行政として自然災害にどう向き合うのかという課題が浮き彫りになりましたよね。
青木:もっと大きな視点で言えば、こんなにも大きな災害が続く根本にあるのは地球規模の気候変動。環境問題も、日本では将来を不安視している人も多い一方で、具体的な取り組みがほとんどなされていない現状があります。気候変動だけでなく僕が取材を続ける北朝鮮の核やミサイル問題も進展がないどころか、日本が足を引っ張っている。今年の漢字を、僕は「桜」にすべきだと思っているくらい(笑)
青木が揶揄したのは、首相が毎年春に主催する「桜を見る会」のことだ。国費を投入した国の公的行事であるにも関わらず、安倍総理大臣の後援会から多くの人が招かれていたこと、そして公文書である招待者名簿をシュレッダー破棄したことなど、ずさんな安倍政権のやり方には今なお多くの批判が集まっている。
安田:「桜の会」では「いつまで追求してるんだ。もっと重要なことがある」と言う人もいますが、根本的なことが問われていると思います。公文書管理にしても、今のうちに問い正さなければ前例が踏襲されてしまう。このままいくと、歯止めが利かなくなってしまう、と。
青木:一体、公文書とは何なのか。礎の部分がこんなに疎かにされて大丈夫なのかということですよね。右翼や左翼の問題ではありません。リベラルな立場からすれば、公文書は政府や行政という公権力の行使をチェックするための記録です。一方、右翼や保守の人は人間の行動や理性より、伝統的な知恵や歴史を重要視します。その伝統や歴史の素とは記録です。記録の根幹って公文書のはずなんですよね。
安田:そうですよね。
青木:安倍首相のおじいちゃんである、岸信介元首相が開いた1957年の「桜を見る会」では名簿が永久保存で残っています。名簿には、保護司の方や引揚者の団体の方などの名前がありました。まだまだ貧しいものの復興に向かう時代に、桜を見ながら総理を誰が囲んだのか。そういう、時代の背景を紐解く記録を残さなかったら伝統や歴史を紡げない。
安田:「(伝統や歴史、事実を)顧みる気も検証する気もない」と見られても致し方ないですよね。
■紛争地ジャーナリストたちにパスポートの返納や発給拒否が相次ぐ
ともにジャーナリストである安田と青木。ここで2人は、安田純平さんや常岡浩介さんなど、紛争地や危険地帯で取材をするジャーナリストたちが今年、外務省からパスポートの返納命令や発給拒否を受けている問題について話すことに。
【関連記事】なぜジャーナリストへのパスポート発給拒否が起こる? 当事者が警察・外務省からの圧力を告白
青木:こういうジャーナリストは、社会の異端者なので煙たがられるのはしょうがないことですが、異端者の存在で社会には幅ができる。異端者がいるから日本にいては知り得ないような出来事や情報を知れる。異端者は勝手だしワガママなんだけど、できるだけ許容していかないといけないと思います。
安田:危険地に行くジャーナリストに対して日本は、「迷惑をかけた奴が悪い」という自己責任や自業自得という価値観が残っています。
青木:社会の息苦しさや将来の不透明さがある中で、「なに好きなことやってんだよ」という思いがあるのでしょう。「好きなことやって俺たちに迷惑かけやがって」と。
紛争地や危険地帯に取材に行ったジャーナリストが、命を落としたり危険な目に遭ったりするのは日本以外の国でも起きている。しかし、そうしたジャーナリストに対する政府の考えや社会の空気は、その国によっても違う。青木はアメリカの例を引き合いにした。
青木:オバマ政権のときに、当時の米国務省がジャーナリストや通信社、新聞社の記者と会合を開いたんです。
安田:ちょうど、2014年から2015年にかけて、シリアなどでジャーナリストの殺害が相次いだときですね。
青木:そのときに当時の国務長官のケリーさんは、「紛争地で取材をするジャーナリストの危険をゼロにする唯一の方法は沈黙すること。つまり行かないこと。しかしそれは、圧制者や独裁者に力を与えてしまう。我々は現地で起きていることを知らなければならず、そのためにジャーナリストがいる。メディアは政府から独立しなければいけないが、もし協力できることがあれば言ってくれ」と言ったんです。アメリカはむしろ世界中で最も好戦的でいろいろな国でたくさんの人を不幸にしてきたけれども、政府がそういうことを語れる政権は強いなと。
安田:アメリカをベースに活動しているジャーナリストの友人に聞くと、「ジャーナリストが危険地で巻き込まれたときに自己責任と叩く概念が自分たちにない」と言っていました。
■ジャーナリズムや大手メディアが問われていること
紛争地取材をするジャーナリストに対し、日本で自己責任論が起こる理由を「ハズレ者を許さない、同質社会の悲哀」と表現する青木。一方で、日本におけるジャーナリズムやメディアを取り巻く現状についても危惧しているそう。
青木:僕のように大手メディアにいた人間からすると、日本のメディアが特権階級にあぐらをかいているという問題もあります。
安田:メディアも、ある種の権力ですもんね。
青木:本当に(行政を)チェックする権力ならいいけれども、実態は大手メディアが本当に伝えるべきことを伝えず、役割を果たしていないくせに、偉そうに「権力の監視」だとか「戦場ジャーナリズムの意義」だとか言っている。(紛争地ジャーナリストへの批判は)そこに対するSNSやネットの反発もあるんだろうな、と。
安田:自己責任論に向き合うということは、私たち自身も自己反省をどれだけしていけるかにも関わっていますよね。
安田純平さんらジャーナリストを取材に行かせない状態にしているパスポートの問題は、政府のジャーナリズムに対する考えを投影しているとも言える。日本社会に根強くある自己責任論の背景にあるのは、ただの「異端者への煙たさ」なのか。2019年の暗いニュースを振り返りつつ、今一度ひとりひとりが考えるべきだろう。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
【12月11日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
■「桜を見る会」の追求は国の根幹や歴史に関わる
2019年に印象的だったのは、やはり全国各地で起きた台風による被害。千曲川の氾濫が記憶に新しい長野県出身の青木も、現地取材を行ったそう。
安田:今年は「スフィア基準」(被災者や難民などへの人道支援を行う際、最低限の基準を定めること)がようやく叫ばれてきました。国の主導で避難所の環境を改善するべきだという声や、ホームレスが台東区の避難所で拒否された出来事など、行政として自然災害にどう向き合うのかという課題が浮き彫りになりましたよね。
青木:もっと大きな視点で言えば、こんなにも大きな災害が続く根本にあるのは地球規模の気候変動。環境問題も、日本では将来を不安視している人も多い一方で、具体的な取り組みがほとんどなされていない現状があります。気候変動だけでなく僕が取材を続ける北朝鮮の核やミサイル問題も進展がないどころか、日本が足を引っ張っている。今年の漢字を、僕は「桜」にすべきだと思っているくらい(笑)
青木が揶揄したのは、首相が毎年春に主催する「桜を見る会」のことだ。国費を投入した国の公的行事であるにも関わらず、安倍総理大臣の後援会から多くの人が招かれていたこと、そして公文書である招待者名簿をシュレッダー破棄したことなど、ずさんな安倍政権のやり方には今なお多くの批判が集まっている。
安田:「桜の会」では「いつまで追求してるんだ。もっと重要なことがある」と言う人もいますが、根本的なことが問われていると思います。公文書管理にしても、今のうちに問い正さなければ前例が踏襲されてしまう。このままいくと、歯止めが利かなくなってしまう、と。
青木:一体、公文書とは何なのか。礎の部分がこんなに疎かにされて大丈夫なのかということですよね。右翼や左翼の問題ではありません。リベラルな立場からすれば、公文書は政府や行政という公権力の行使をチェックするための記録です。一方、右翼や保守の人は人間の行動や理性より、伝統的な知恵や歴史を重要視します。その伝統や歴史の素とは記録です。記録の根幹って公文書のはずなんですよね。
安田:そうですよね。
青木:安倍首相のおじいちゃんである、岸信介元首相が開いた1957年の「桜を見る会」では名簿が永久保存で残っています。名簿には、保護司の方や引揚者の団体の方などの名前がありました。まだまだ貧しいものの復興に向かう時代に、桜を見ながら総理を誰が囲んだのか。そういう、時代の背景を紐解く記録を残さなかったら伝統や歴史を紡げない。
安田:「(伝統や歴史、事実を)顧みる気も検証する気もない」と見られても致し方ないですよね。
■紛争地ジャーナリストたちにパスポートの返納や発給拒否が相次ぐ
ともにジャーナリストである安田と青木。ここで2人は、安田純平さんや常岡浩介さんなど、紛争地や危険地帯で取材をするジャーナリストたちが今年、外務省からパスポートの返納命令や発給拒否を受けている問題について話すことに。
【関連記事】なぜジャーナリストへのパスポート発給拒否が起こる? 当事者が警察・外務省からの圧力を告白
青木:こういうジャーナリストは、社会の異端者なので煙たがられるのはしょうがないことですが、異端者の存在で社会には幅ができる。異端者がいるから日本にいては知り得ないような出来事や情報を知れる。異端者は勝手だしワガママなんだけど、できるだけ許容していかないといけないと思います。
安田:危険地に行くジャーナリストに対して日本は、「迷惑をかけた奴が悪い」という自己責任や自業自得という価値観が残っています。
青木:社会の息苦しさや将来の不透明さがある中で、「なに好きなことやってんだよ」という思いがあるのでしょう。「好きなことやって俺たちに迷惑かけやがって」と。
紛争地や危険地帯に取材に行ったジャーナリストが、命を落としたり危険な目に遭ったりするのは日本以外の国でも起きている。しかし、そうしたジャーナリストに対する政府の考えや社会の空気は、その国によっても違う。青木はアメリカの例を引き合いにした。
青木:オバマ政権のときに、当時の米国務省がジャーナリストや通信社、新聞社の記者と会合を開いたんです。
安田:ちょうど、2014年から2015年にかけて、シリアなどでジャーナリストの殺害が相次いだときですね。
青木:そのときに当時の国務長官のケリーさんは、「紛争地で取材をするジャーナリストの危険をゼロにする唯一の方法は沈黙すること。つまり行かないこと。しかしそれは、圧制者や独裁者に力を与えてしまう。我々は現地で起きていることを知らなければならず、そのためにジャーナリストがいる。メディアは政府から独立しなければいけないが、もし協力できることがあれば言ってくれ」と言ったんです。アメリカはむしろ世界中で最も好戦的でいろいろな国でたくさんの人を不幸にしてきたけれども、政府がそういうことを語れる政権は強いなと。
安田:アメリカをベースに活動しているジャーナリストの友人に聞くと、「ジャーナリストが危険地で巻き込まれたときに自己責任と叩く概念が自分たちにない」と言っていました。
■ジャーナリズムや大手メディアが問われていること
紛争地取材をするジャーナリストに対し、日本で自己責任論が起こる理由を「ハズレ者を許さない、同質社会の悲哀」と表現する青木。一方で、日本におけるジャーナリズムやメディアを取り巻く現状についても危惧しているそう。
青木:僕のように大手メディアにいた人間からすると、日本のメディアが特権階級にあぐらをかいているという問題もあります。
安田:メディアも、ある種の権力ですもんね。
青木:本当に(行政を)チェックする権力ならいいけれども、実態は大手メディアが本当に伝えるべきことを伝えず、役割を果たしていないくせに、偉そうに「権力の監視」だとか「戦場ジャーナリズムの意義」だとか言っている。(紛争地ジャーナリストへの批判は)そこに対するSNSやネットの反発もあるんだろうな、と。
安田:自己責任論に向き合うということは、私たち自身も自己反省をどれだけしていけるかにも関わっていますよね。
安田純平さんらジャーナリストを取材に行かせない状態にしているパスポートの問題は、政府のジャーナリズムに対する考えを投影しているとも言える。日本社会に根強くある自己責任論の背景にあるのは、ただの「異端者への煙たさ」なのか。2019年の暗いニュースを振り返りつつ、今一度ひとりひとりが考えるべきだろう。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
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