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虐待していないのに疑われる事例も…「揺さぶられっ子症候群」問題を考える

虐待していないのに疑われる事例も…「揺さぶられっ子症候群」問題を考える

「揺さぶられっ子症候群」という診断を根拠に虐待を疑われ、親子分離や刑事訴追をされる問題がある。この問題について取材する『私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群』(講談社)の著者で、ジャーナリストの柳原三佳さんを迎え、この問題について考えた。

【11月12日(火)『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木 理)】
(音源は2019年11月19日28時59分まで)


■「揺さぶられっ子症候群」ではないのに…

「揺さぶられっ子症候群」は赤ちゃんを強く揺さぶることで脳が傷付き、3兆候(急性硬膜下血腫、脳浮腫、網膜出血)が見られること。欧米ではSBS(Shaken Baby Syndrome)と呼ばれ、日本では「乳幼児揺さぶられ症候群」が正式名称となる。

赤ちゃんを強く揺さぶること自体は悪いことである。しかし、その一方で「揺さぶられっ子症候群」を疑われて刑事事件に発展するケースがあるという。

柳原さんは、赤ちゃんの脳に外傷ができてしまった場合に、「揺さぶられっ子症候群」によって亡くなったり、重度障害になったりしたのか、あるいは事故などそれ以外の要因でそういった外傷になったのかは不透明な場合が多いと言う。

柳原:(「揺さぶられっ子症候群」を疑われた)多くの親御さんを取材すると、赤ちゃんがつかまり立ちから後ろに転倒して急変して、病院で診断を受けたら脳に出血が見られたり、赤ちゃんがベッドやソファから落ちてしまい脳に損傷があったり、そういった事故によるパターンが見受けられました。

柳原さんは、2016年に大阪市東淀川区のマンションに起きた「揺さぶられっ子症候群」の疑いによる事件で、2019年10月に大阪高裁で逆転無罪判決が言い渡された事例を紹介した。

柳原:この事件は、ある親の代わりにその親の祖母が生後2カ月の赤ちゃんの面倒を見ていたら、急に顔が青ざめて、その3カ月後に赤ちゃんが死んでしまったという内容です。つまり病気の可能性があるわけです。ところが「祖母が赤ちゃんを強く揺さぶったのではないか」と疑いを掛けられてしまいました。

その祖母は傷害致死の疑いで逮捕、起訴された。

柳原:その赤ちゃんは病院から脳に「揺さぶられっ子症候群」の3兆候のひとつとなる急性硬膜下血腫が見られたという診断を受けたばかりに、病院から児童相談所に通報され、警察が捜査に動きました。ここでポイントなのは、日本で大阪府警だけ虐待捜査班があるので、極端に大阪ではそういった事件が多いということです。
青木:実際に多くの虐待が叫ばれているので、虐待捜査班があること自体は悪いことではないですよね。
柳原:それはもちろんです。子どもの命を考えれば大事なことであり、大前提として子どもの虐待はあってはならないことです。しかし、そこに冤罪が混ざることは別の話だと思います。客観的な証拠もなく、目撃者もいないなか、単に赤ちゃんの脳にこの3兆候があるだけで、機械的に「揺さぶられっ子症候群」だと決めつけられてしまう。これが日本で非常に問題になっています。

この事件で虐待だと判断したのは小児科の医師だったという。

柳原:3兆候をベースに警察や検察が虐待に詳しい医師として小児科の医師に相談を持ちかけました。その医師も普段から子どもの虐待を防ぐために努力されている方ではありますが、小児科の立場であり、その赤ちゃんの兆候だけで「虐待に間違いない」と判断してしまいました。その意見から警察や検察はその祖母を訴追しました。
青木:脳の障害であれば小児科ではなく脳神経外科が診断しなかったのでしょうか?
柳原:私はそこが一番問題だと思います。この祖母が大阪地裁の一審で懲役5年6月(求刑懲役6年)言い渡されました。しかし、その判決はおかしいということで、専門家による「SBS検証プロジェクト」が大阪高裁の裁判から祖母の弁護団として関わりました。その弁護団が小児科ではなく脳神経外科の複数の医師に赤ちゃんの脳のCT画像を診断しもらうと、赤ちゃんは(「揺さぶられっ子症候群」の3兆候に該当する)急性硬膜下血腫ではなかったという診断が下され、大阪高裁の判決では「小児科医は完全に診断を読み誤った」ということになりました。


■最低でも脳神経外科や放射線技師による診断が必要

児童相談所は、赤ちゃんの脳に「揺さぶられっ子症候群」の3兆候があった場合は虐待の疑いがかけられ、一時保護として親と赤ちゃんはスピーディーに分離させられると柳原さんは解説する。

柳原:赤ちゃんの脳に出血があるのは事実だから、ひょっとしたら「揺さぶられっ子症候群」かもしれないと考えて子どもを保護することはよいとしても、それが殺意(や悪意)を持っていたかどうかまでは判断できません。

この判断は非常に難しい問題だとしつつ、柳原さんはこう続ける。

柳原:小さい子どもがテーブルに登って飛び降りるなど、ちょっと目を離したときにそういった事故は起こりうるものだと思います。また、病気の可能性もあります。その事故や病気を全て虐待にされてしまうと、親としては本当につらいことです。

柳原さんが取材するなか、「揺さぶられっ子症候群」により虐待の疑いを掛けられるも無実を訴えている親も多いと話す。

柳原:私が「揺さぶられっ子症候群」の問題についての記事を執筆すると、「私も同じような思いをしている」と多くの方からメールをもらいます。そういう人たちを繋ぐネットワークをつくり、当事者の会を立ち上げました。みなさんが定期的に集まり、それぞれの体験を話し合っています。その会話のパターンは同じで、子どもがケガをしたとオロオロしているときに、いきなり警察がきて有無を言わさず家宅捜索が行われるような流れです。

過去に「揺さぶられっ子症候群」を疑われた親のなかには、子どもが児童相談所から戻ってきた際に、自分の行動に非がないことを証明するために自宅に監視カメラを設置する場合もあったという。

柳原:そういったことが、“自分は虐待した親”として長年のトラウマになるわけです。刑事訴追されなくても、自分はずっと疑われているのではないかという恐怖のなかで暮らしている親もいます。

「揺さぶられっ子症候群」の診断を誤らないためにも柳原さんは「最低限でも脳の専門家である脳神経外科や、CT画像を解析できる放射線技師の複数の意見を求めるべきであり、その診断によって刑事訴追をするべきだ」と言及した。

「揺さぶられっ子症候群」について専門家の視点を交えて究明した、柳原さんの『私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群』もぜひ手にとってほしい。

J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/ 

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