権力が隠蔽する不正に新聞記者が迫る映画『新聞記者』が公開中です。この映画の原案を担当した東京新聞の望月衣塑子さんを迎え、報道の在り方について考えました。
7月2日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木 理)
■官房長官記者会見に目が向いた理由
望月さんは1975年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、中日新聞社に入社。千葉県や神奈川県、埼玉県の県警、東京地検特捜部などの事件を担当。その後、森友学園と加計学園をめぐる問題(モリカケ問題)の取材チームなどを務めてきました。
官房長官記者会見で菅官房長官との攻防が話題になる望月さんに対し、青木は警察や検察に食い込んで特ダネを書く記者が、表舞台となる官房長官の会見の質問で注目されることに疑問があるといいます。
望月:社会部の私からすると政治部の肌感覚がわからなくて、2年前のモリカケ問題の時に「なぜ、こんなに追求が弱いのか」と思いました。そこから自分で官房長官の記者会見に行くようになりました。他の社会部の記者から見れば、「相変わらず望月さんのスタイルだよね」と思っただろうし、社会部では特捜部の会見時に私はしつこく質問をする方ではありましたけど、もっとしつこい記者もたくさんいました。それと同じ感覚を官邸に持ち込みましたが、そのときに、政治部の記者からすると「今までの作法と違う訊き方だよね」という違和感やハレーションが生まれて、そこに注目が集まりました。
■難航した映画『新聞記者』の制作
望月さんの著書『新聞記者』(KADOKAWA)が原案となったのが、先日公開された映画『新聞記者』です。
この作品は、一人の新聞記者の姿を通して報道メディアは権力にどう対峙するのかを問いかける衝撃作で、主演はシム・ウンギョンさんと松坂桃李さんが務めています。
原案者である望月さんは、この映画をどう捉えているのでしょうか。
望月:映画化を提案されたときに、原案にするにしてもモリカケ問題や伊藤詩織さんの問題などを書いている一方で、安部政権はメディアだけではなく芸能の世界も含めていろいろチェックを入れているだろうから、これを映画化するのは厳しいだろうと思い、最終的に作り上げるところまでは至らないと思っていました。
脚本など多方面で制作が難航しつつも、ようやく公開に至りました。
望月:『新聞記者』の本を原案にしつつ、この数年に起きた第二次安部政権の中でのいろいろな問題を思い起こさせるようなものを、エンターテインメント性を高めつつ現実にあった出来事と交錯させているような作品に仕上がりました。単純に「問題だ!」と言っている以上に、いろんな想像力を膨らませつつ、「そうだよね」「こういうことがあったよね」と振り返りながら、我が身ごとに置き換えて捉えられる映画です。社会性もあるけど、映画としても楽しめると思います。
■なぜメディアは政権に萎縮するのか
政権や権力者がメディアを押さえつけることはどこの国でも見受けられますが、日本のメディアは他国以上に萎縮しているのではないかと二人は話します。
青木:なぜメディアはこんなに萎縮、自粛ムードなってしまうのでしょうか?
望月:日本は総務省が電波法を握ってしまっている現状があります。他の国はそんなことはないのに、日本はロシアや中国のように構造的な電波法を総務省が握っていることが、問題の大きな根っことしてあります。NHKに至っては予算も人事も握られているので、その関係性の中で停止されることはないにせよ、でも何年か前に当時の高市早苗総務大臣が(停波もありうるって)言いましたよね。
青木:場合によっては放送法に基づき停波を命じる可能性があると言及していました。
望月:歴代の総務大臣が言えなかったセリフを高市さんが言ったということを、私は意図的だと感じました。それによって、言われた側は本来はもっと抗議もしていいし、もっと抵抗を示さなくてはいけないのですが、「あ、停波だって……」というムードに包まれてしまった。だから、根本的にこの構造を変えれば、大きく変化があると思います。
一方、新聞社はテレビ局のように直接規制するような法律はありませんが、萎縮してしまう新聞社や、政権の応援団ともとれる新聞社も見受けられる状況です。
望月:第二次安倍政権になってから、選択的なコメントを出したり、テレビに出演したりしている。それが社会部記者からすると、「あっちのメディアは散々取り上げていいのか?」と思うけど、政治部記者からすると「自分が食い込んでいるからこそ、このテレビに出てくれた」とか「このインタビュー会見を掲載できた」とか社内アピールになっていて、そういう記者側の気持ちをたくみに上手く使って、良くも悪くもメディアの分断化を一気に進めてしまっている。それにメディアも抗うどころか、半分くらいは乗ってしまっているところがあります。
■今の社会や政治を真正面から切り込む映画
映画『新聞記者』を観終わった青木は「エンターテインメントとしてはよくできていたけど、すっきりしなくてちょっと暗さを感じた」と話し、それは先ほど望月さんが言った日本のメディア状況を表しているかも知れないと言及します。
望月:何度も脚本を練る中で、プロデューサーの河村光庸さんは「今の社会や政治を真正面から切り込む映画にしたいから、単純に「よかった」と思う以上に、観終わった人それぞれにメッセージが残るようなものを作りたい、と話していました。そこに、最後を含めて「あなたならどうするんですか?」という問いかけを突きつけているから、すっきりしなくても忘れられない映画になると思います。
映画『新聞記者』を観て、報道メディアと権力のあり方を考えてみては。
【書籍情報】 角川新書
書名:新聞記者
著者名:望月衣塑子
発売日:2017年10月12日
定価:(本体800円+税) ※電子書籍も発売中
ISBN:978-4-04-082191-7
発行:株式会社KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321707000063/
【映画『新聞記者』】
主演:シム・ウンギョン/松坂桃李
出演:本田翼、岡山天音、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司
監督:藤井道人『デイアンドナイト』
エグゼクティブ・プロデューサー:河村光庸
原案:望月衣塑子『新聞記者』(角川新書) 河村光庸
公開中/全国150館にて
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
7月2日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木 理)
■官房長官記者会見に目が向いた理由
望月さんは1975年、東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、中日新聞社に入社。千葉県や神奈川県、埼玉県の県警、東京地検特捜部などの事件を担当。その後、森友学園と加計学園をめぐる問題(モリカケ問題)の取材チームなどを務めてきました。
官房長官記者会見で菅官房長官との攻防が話題になる望月さんに対し、青木は警察や検察に食い込んで特ダネを書く記者が、表舞台となる官房長官の会見の質問で注目されることに疑問があるといいます。
望月:社会部の私からすると政治部の肌感覚がわからなくて、2年前のモリカケ問題の時に「なぜ、こんなに追求が弱いのか」と思いました。そこから自分で官房長官の記者会見に行くようになりました。他の社会部の記者から見れば、「相変わらず望月さんのスタイルだよね」と思っただろうし、社会部では特捜部の会見時に私はしつこく質問をする方ではありましたけど、もっとしつこい記者もたくさんいました。それと同じ感覚を官邸に持ち込みましたが、そのときに、政治部の記者からすると「今までの作法と違う訊き方だよね」という違和感やハレーションが生まれて、そこに注目が集まりました。
■難航した映画『新聞記者』の制作
望月さんの著書『新聞記者』(KADOKAWA)が原案となったのが、先日公開された映画『新聞記者』です。
この作品は、一人の新聞記者の姿を通して報道メディアは権力にどう対峙するのかを問いかける衝撃作で、主演はシム・ウンギョンさんと松坂桃李さんが務めています。
原案者である望月さんは、この映画をどう捉えているのでしょうか。
望月:映画化を提案されたときに、原案にするにしてもモリカケ問題や伊藤詩織さんの問題などを書いている一方で、安部政権はメディアだけではなく芸能の世界も含めていろいろチェックを入れているだろうから、これを映画化するのは厳しいだろうと思い、最終的に作り上げるところまでは至らないと思っていました。
脚本など多方面で制作が難航しつつも、ようやく公開に至りました。
望月:『新聞記者』の本を原案にしつつ、この数年に起きた第二次安部政権の中でのいろいろな問題を思い起こさせるようなものを、エンターテインメント性を高めつつ現実にあった出来事と交錯させているような作品に仕上がりました。単純に「問題だ!」と言っている以上に、いろんな想像力を膨らませつつ、「そうだよね」「こういうことがあったよね」と振り返りながら、我が身ごとに置き換えて捉えられる映画です。社会性もあるけど、映画としても楽しめると思います。
■なぜメディアは政権に萎縮するのか
政権や権力者がメディアを押さえつけることはどこの国でも見受けられますが、日本のメディアは他国以上に萎縮しているのではないかと二人は話します。
青木:なぜメディアはこんなに萎縮、自粛ムードなってしまうのでしょうか?
望月:日本は総務省が電波法を握ってしまっている現状があります。他の国はそんなことはないのに、日本はロシアや中国のように構造的な電波法を総務省が握っていることが、問題の大きな根っことしてあります。NHKに至っては予算も人事も握られているので、その関係性の中で停止されることはないにせよ、でも何年か前に当時の高市早苗総務大臣が(停波もありうるって)言いましたよね。
青木:場合によっては放送法に基づき停波を命じる可能性があると言及していました。
望月:歴代の総務大臣が言えなかったセリフを高市さんが言ったということを、私は意図的だと感じました。それによって、言われた側は本来はもっと抗議もしていいし、もっと抵抗を示さなくてはいけないのですが、「あ、停波だって……」というムードに包まれてしまった。だから、根本的にこの構造を変えれば、大きく変化があると思います。
一方、新聞社はテレビ局のように直接規制するような法律はありませんが、萎縮してしまう新聞社や、政権の応援団ともとれる新聞社も見受けられる状況です。
望月:第二次安倍政権になってから、選択的なコメントを出したり、テレビに出演したりしている。それが社会部記者からすると、「あっちのメディアは散々取り上げていいのか?」と思うけど、政治部記者からすると「自分が食い込んでいるからこそ、このテレビに出てくれた」とか「このインタビュー会見を掲載できた」とか社内アピールになっていて、そういう記者側の気持ちをたくみに上手く使って、良くも悪くもメディアの分断化を一気に進めてしまっている。それにメディアも抗うどころか、半分くらいは乗ってしまっているところがあります。
■今の社会や政治を真正面から切り込む映画
映画『新聞記者』を観終わった青木は「エンターテインメントとしてはよくできていたけど、すっきりしなくてちょっと暗さを感じた」と話し、それは先ほど望月さんが言った日本のメディア状況を表しているかも知れないと言及します。
望月:何度も脚本を練る中で、プロデューサーの河村光庸さんは「今の社会や政治を真正面から切り込む映画にしたいから、単純に「よかった」と思う以上に、観終わった人それぞれにメッセージが残るようなものを作りたい、と話していました。そこに、最後を含めて「あなたならどうするんですか?」という問いかけを突きつけているから、すっきりしなくても忘れられない映画になると思います。
映画『新聞記者』を観て、報道メディアと権力のあり方を考えてみては。
【書籍情報】 角川新書
書名:新聞記者
著者名:望月衣塑子
発売日:2017年10月12日
定価:(本体800円+税) ※電子書籍も発売中
ISBN:978-4-04-082191-7
発行:株式会社KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321707000063/
【映画『新聞記者』】
主演:シム・ウンギョン/松坂桃李
出演:本田翼、岡山天音、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司
監督:藤井道人『デイアンドナイト』
エグゼクティブ・プロデューサー:河村光庸
原案:望月衣塑子『新聞記者』(角川新書) 河村光庸
公開中/全国150館にて
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
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