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教師に追い詰められ生徒が自殺する「指導死」は、なぜなくならないのか?

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教師に追い詰められ生徒が自殺する「指導死」は、なぜなくならないのか?

教師の指導に追い詰められ、自ら命を絶ってしまう「指導死」。どうすればなくすことができるのでしょうか。「指導死」親の会の共同代表・大貫隆志さんと一緒に考えました。

【5月15日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
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■「恫喝」「暴行」なのに「不適切な指導」と表現されてしまう

茨城県の高萩市教育委員会は5月6日、市内の中学校に通っていた中学3年の女子生徒が、4月30日に自殺していたことを明らかにしました。女子生徒の自宅には、所属する卓球部顧問の男性教諭から「ばかやろう」「殺すぞ」などの暴言を受け、複数の部員の肩を小突いたといった内容の文書が見つかっています。

大貫さんは報道に対し、「また同じようなことが起こってしまったと思いました。残念です」と無念さを口にしました。卓球部顧問の男性教諭は、「行き過ぎた指導だった」と話し、自身の行為を認めています。

安田:この「不適切な指導」や「行き過ぎた指導」はたびたび耳にしますが、理不尽な暴言や暴力は、果たして指導と呼べるのでしょうか。
大貫:一般社会で同じようなことを行えば、暴言や暴行、恫喝などのニュアンスで伝えられるべきことだと思います。しかし、こういった事件のときには、「行き過ぎた指導」「不適切な指導」くらいで、どうしても「指導」という言葉がついてまわることが問題だと思います。


■体罰ではなくても追い詰められることはある

指導死とは、指導を直接の原因とした子どもの自殺、もしくは指導を背景要因とした子どもの自殺を指す言葉です。

大貫:これは2007年に私が作った言葉で、私自身も指導死の遺族です。2000年に次男を自殺で失っています。
安田:差し支えなければ、その内容を詳しく教えていただけますか?
大貫:ある日、昼休みに学校で友だちからお菓子をもらって食べたことから、一緒にお菓子を食べた生徒たちが大勢の教員に囲まれて指導を受けることになりました。その翌日に学校から電話が入り「来週行われる臨時学年集会で全員の前で決意表明をするように」と指示を受け、それを聞いた40分後に自宅マンションから飛び降りて命を絶ちました。

「指導によって追い詰められた」と聞くと体罰を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、教師が手を挙げなくても生徒を追い詰めることがあると知ることが大切です。

指導死に関して、自治体や国の正式な調査統計は現時点では存在しませんが、教育評論家の武田さち子さんが事例を集めています。

大貫:それによると、いちばん古い記録が1952年、それから数えると103件が該当。平成の約30年間においては、そのうちの82件が記録されています。これは指導死の疑いや、それによる自殺未遂のケースも含みます。
安田:ただ、しっかりとした調査が公の機関で行われていないとなると、うやむやになった事例など武田さんの統計にはあがってないものもあるのではないでしょうか?
大貫:相当あると思います。1952年から今までで103件、平成で82件と考えると、報道にのぼる、親が声をあげるなどして表面化するケースが増えてきているのではないかと思います。


■指導死にはどんなケースがあるのか

実際に指導死には、どんなことが深く関係しているのでしょうか。

大貫:武田さんのデータによると、殴る蹴るなどのいわゆる体罰が確認されたケースは全体の10パーセントに過ぎません。部活動がらみの指導死は20パーセントです。桜宮の事件(2012年に大阪市立桜宮高校の男子バスケットボール部の主将が顧問から体罰を受けて自殺した事件)が非常にセンセーショナルに伝えられたこともあり、部活動を背景に暴力が絡んだものが指導死のイメージになりがちですが、実態は反対で、ほとんどが指一本触れられていない。また、普通の学校生活のなかで起きた出来事を背景としています。

身体的な暴力を伴わずとも子どもたちを追い詰めたケースには、どんなものがあるのでしょうか。

大貫:たとえば広島で始まった、いわゆる「ゼロトレランス教育」。これは「寛容度ゼロ」と直訳していますが、ある特定の問題行動に対しては問答無用で特定の懲罰や指導を加えるということです。子どもたちに対して非常に懲罰的な指導が一般化し、場合によっては生徒が小部屋に閉じ込められて朝から晩まで自習や反省文を書くことを強いられる。それが2週間も続いたケースも報告されています。
安田:そういった「ゼロトレランス教育」が生徒たちを追い詰める重圧になっていることは間違いないですよね。それ以外でも大貫さんたちの活動では、指導死を「冤罪型」「安全配慮義務違反型」など具体的に定義されていますよね?
大貫:いろいろなケースの指導死があるなか、そのなかでも目立つのが、本当はやっていないことに対して教師に「やっただろう」と言われ、生徒が説明してもわかってもらえずに指導を受けてしまう「冤罪型」があります。これは平成のケースの中で16パーセントを占めています。加えて、指導の最中に生徒がある一定時間ひとりきりにされてしまい、その瞬間にその部屋にある物を使って自殺をしたり、外に出て鉄道自殺をしてしまったりする安全配慮が不十分でないケースを「安全配慮義務違反型」と呼んでいます。これも16パーセントを占めています。この両方のケースを併せ持つ事例もあり、それらを合わせると全体の30パーセントを占め、人数にすると25名となります。この25名は、ちゃんと生徒の言い分を聞いたり、生徒をひとりにさせないという当たり前のことをするだけで救える命でした。


■「指導死の場合、まともな調査が行われない」

桜宮の事件で注目を集め問題視されながらも繰り返される指導死。なぜ、過去の教訓が活かされないのでしょうか。

大貫:指導死の場合、まともな調査が行われない傾向があります。いじめで自殺が起きた場合は、いじめ防止対策推進法に則って第三者委員会の調査をしなくてはならない。また、いじめを背景としない自殺に関しては、子どもの自殺が起きたときの背景調査の指針を文部科学省が出していて、これに則った対応をしていきます。その指針でも調査をするようにとは書いてあるが、法的な拘束力はありません。そのためにいろいろな言い訳をしながら調査を行わないケースが残念ながら多くあります。平成のケースにおいて、約30パーセントしか調査委員会は開かれていません。

今年3月、大貫さんは指導死を防止するための要望書を文部科学省に手渡しました。

大貫:教師の不適切な言動によって子どもたちが自殺をしたり、自殺未遂に至ったり、学校に行きたくても行けなくなったり。そういったことが頻発しています。そのことに関して、いじめの法律に相当するような調査をきちんと行ってほしいと要望しました。加えて、教師の不適切な言動とは一体何なのか、どういうことをすればダメなのか、そういったことを文部科学省としてきちんと示してほしいとお願いをしました。


■子どもたちが自然に考えを言える環境を

教育現場での防止策について、「『今の指導がもう少し違ってもいいのではないか』と思っている教師はたくさんいると思うが、残念ながらその声が小さい」と大貫さんは言及しました。

大貫:どちらかというと、強面の「学校の治安は私が守る」という教師が使命感に燃えて行動しています。そちらの方が評価が高いので、その声の方が大きくなってしまう。変化を求めている小さな声の先生と私たちが連携をしていき、より良い生徒指導を作っていきたいと考えています。また、教師と保護者がどのようにつながっていけるのか、どれだけ豊かなごく自然な会話ができるのか、そういったことがカギを握ると思います。

最後に大貫さんは、リスナーに向けてメッセージを送りました。

大貫:子どもたちは小さい頃から「先生の言うことは聞きなさい」と教えられて育ちます。でも指導死の観点からするとそれは非常に危険なことで、本気でそう思っている生徒ほど危険にさらされてしまいます。親は子どもたちに対して「我慢強い子になりなさい」「不満を言わない子になりなさい」「人のせいにしないで自分で考えて行動しなさい」など押しつけをしていきますよね。それをきちんと守れる子ほど、つらいとか悲しいとか理不尽な思いで苦しんでいることを言えなくなります。子どもたちがごく自然に「疲れた」「いやだ」「先生ヘンだ」と言えるような家庭環境を作れると、子どもの命を守りやすいかなと思います。

まずは、ひとりひとりが指導死をきちんと理解すること。それが指導死をなくすための第一歩ではないでしょうか。

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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