待機児童の解消などを目的に、政府が導入を進めてきた「企業主導型保育所」に、トラブルが相次ぎ批判の声が上がっています。先月、内閣府の有識者委員会が改善策を公表しました。
企業主導型保育所はどんな施設で、どのようなトラブルが起きているのか? 子どもたちや親の安全と安心を守るために必要なことは何なのか? 企業主導型保育所の実態に詳しい、ジャーナリストの小林美希さんと考えました。
【4月3日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190403202018
■乱立する企業主導型保育所…利用率は6割
企業主導型保育所は、2016年に内閣府が所管となってはじまった施設です。保育所は大体が厚生労働省の所管ですが、企業主導型保育所は特別に内閣府が待機児童の目玉対策として作った認可外保育所です。
安田:企業主導型保育所の運営費はどうやって賄われているんですか?
小林:一般的な認可保育所は補助がありませんが、企業主導型保育所は企業が支払う厚生年金保険の保険料が上乗せされ、それが運営費として賄われています。
企業主導型保育所は、企業が従業員のために作る場合もありますが、その定員の半分までは地域枠として一般の子どもも受け入れ可能なため、待機児童の目玉政策になっています。
この施設は、認可保育所と違って自由な裁量を持つので、従業員の働き方に応じた施設運営ができます。たとえば、7時より前から子どもを預かる早朝保育や22時以降も預かる夜間保育、日曜・祝日も保育所を開けるなど柔軟な運営を行っています。
安田:いま、全国でどのくらい企業主導型保育所があるのですか?
小林:すでに6万人分の施設が整備され、2500カ所くらいの保育所があります。加えて、現在1500カ所の保育所が作られようとしています。合計するとかなりの数にはなるのですが、実際の利用率は低い状況で、全体の6割程度しか利用されていません。
安田:企業主導型保育所はニーズと合ってないということでしょうか?
小林:その通りです。そのために、さまざまな問題が起こっています。象徴的なものとして、昨年11月に世田谷区の企業主導型保育所が突然休園したというニュースがありました。需要のない場所に作ってしまったので、なかなか子どもが集まらず、経営が苦しくなり、突然撤退してしまうなどのケースが後を絶たず問題になっています。
■保育について理解していない、ずさんな運営
企業主導型保育所の質にも多くの問題があるようで、施設に監査が入るとその7割に問題があったといいます。
小林:必要な保育士の人数に達していない、食物アレルギーにきちんと対応していない、保育計画をつくっていない、幼児用のトイレがないなど、保育が全くわかっていないような施設がたくさん見受けられました。素人が参入してしまい、質どころではないような状況なので、いつどこで事故などが起こるかという心配の声が各地であがっています。
企業主導型保育所は、年間で運営費として平均3000万円ほど、最初の施設整備費に1億円ほどの補助が出るといわれています。そのため、子どもたちの安心や安全を守るよりも、利益を目当てに参入する企業が多く生まれたのでは、と小林さんは分析しました。
では、企業主導型保育所を作る場合には、どのようなプロセスが必要なのでしょうか。
小林:内閣府から委託を受けた児童育成協会が、申請を受け付けて審査をします。しかし、その申請はパソコンで送れる電子申請で、本来あるような面談の審査もなく、実際に施設を訪れて建物をチェックするようなことも行われず審査が進んでしまう。実際に運営する人の姿が見えない状態で申請を受け、かなりゆるい基準で通してしまう状況があります。
また、通常の認可保育所であれば、市区町村が窓口となり、その地域のニーズを把握した上で設置しますが、企業主導型保育所は税金を財源にしておらず、市区町村の関与なく設置を進められるため、結果的に地域のニーズとのミスマッチが起こっています。
小林:企業主導型保育所の見直しとして、市区町村の関与を強めるべきだという声が非常に大きく、私もそれに同意です。しかし、あくまで企業に任せるということになってしまい、市区町村の関与の強度は弱まっています。
■改善策として「市区町村の関与を強めるべき」
先月、内閣府の有識者委員会が公表した企業主導型保育所の改善策はどんな内容だったのでしょうか。
小林:企業主導型保育所の監査や審査を自治体と連携することや、空き施設とのマッチングをするという内容もありました。大きなところでは、保育を専門としている企業が新設する条件を「実績5年以上」に限定すること。また、定員20人以上の保育事業者が運営する企業主導型保育所は、子どもに対しての保育士の割合が50パーセントでもいいとされていましたが、75パーセントに引き上げました。ただ、75パーセントでもどうかなと思います。その改善案の前に設置されたものはすでに稼働しているので、骨抜きの対応になってしまったと感じています。
安田:50パーセントでよかった、という基準があったこと自体が驚きです。
小林:かなり危険な状態だと各方面から声があがったのですが、今回の改善案は保育事業者に限られてしまいました。
では、企業主導型保育所で子どもたちの安心・安全を保つために、これから何が必要なのでしょうか。
小林:先ほども言いましたが、やはり地域の保育を理解する市区町村の関与を強めるべきだと思います。また、認可するにも厳しいハードルを設けることも必要です。待機児童を解消したいという官邸の手柄のために、急ピッチで進められたという見方ができるものになっています。親は認可保育所に子どもを預けたいという声が非常に大きいので、企業主導型保育所を作ったとしても認可保育所に移行していけるような道筋をつくることが必要。認可保育所を最低ラインとするような基準で安心して子どもを預けられる仕組みを整備することがいちばんではないかと思います。
安田は「官邸の都合が主眼ではなく、子どもの安心・安全が全ての中心であり、それを踏まえてどう整備すべきかを考える必要がある」と考えを述べました。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
企業主導型保育所はどんな施設で、どのようなトラブルが起きているのか? 子どもたちや親の安全と安心を守るために必要なことは何なのか? 企業主導型保育所の実態に詳しい、ジャーナリストの小林美希さんと考えました。
【4月3日(水)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/水曜担当ニュースアドバイザー:安田菜津紀)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190403202018
■乱立する企業主導型保育所…利用率は6割
企業主導型保育所は、2016年に内閣府が所管となってはじまった施設です。保育所は大体が厚生労働省の所管ですが、企業主導型保育所は特別に内閣府が待機児童の目玉対策として作った認可外保育所です。
安田:企業主導型保育所の運営費はどうやって賄われているんですか?
小林:一般的な認可保育所は補助がありませんが、企業主導型保育所は企業が支払う厚生年金保険の保険料が上乗せされ、それが運営費として賄われています。
企業主導型保育所は、企業が従業員のために作る場合もありますが、その定員の半分までは地域枠として一般の子どもも受け入れ可能なため、待機児童の目玉政策になっています。
この施設は、認可保育所と違って自由な裁量を持つので、従業員の働き方に応じた施設運営ができます。たとえば、7時より前から子どもを預かる早朝保育や22時以降も預かる夜間保育、日曜・祝日も保育所を開けるなど柔軟な運営を行っています。
安田:いま、全国でどのくらい企業主導型保育所があるのですか?
小林:すでに6万人分の施設が整備され、2500カ所くらいの保育所があります。加えて、現在1500カ所の保育所が作られようとしています。合計するとかなりの数にはなるのですが、実際の利用率は低い状況で、全体の6割程度しか利用されていません。
安田:企業主導型保育所はニーズと合ってないということでしょうか?
小林:その通りです。そのために、さまざまな問題が起こっています。象徴的なものとして、昨年11月に世田谷区の企業主導型保育所が突然休園したというニュースがありました。需要のない場所に作ってしまったので、なかなか子どもが集まらず、経営が苦しくなり、突然撤退してしまうなどのケースが後を絶たず問題になっています。
■保育について理解していない、ずさんな運営
企業主導型保育所の質にも多くの問題があるようで、施設に監査が入るとその7割に問題があったといいます。
小林:必要な保育士の人数に達していない、食物アレルギーにきちんと対応していない、保育計画をつくっていない、幼児用のトイレがないなど、保育が全くわかっていないような施設がたくさん見受けられました。素人が参入してしまい、質どころではないような状況なので、いつどこで事故などが起こるかという心配の声が各地であがっています。
企業主導型保育所は、年間で運営費として平均3000万円ほど、最初の施設整備費に1億円ほどの補助が出るといわれています。そのため、子どもたちの安心や安全を守るよりも、利益を目当てに参入する企業が多く生まれたのでは、と小林さんは分析しました。
では、企業主導型保育所を作る場合には、どのようなプロセスが必要なのでしょうか。
小林:内閣府から委託を受けた児童育成協会が、申請を受け付けて審査をします。しかし、その申請はパソコンで送れる電子申請で、本来あるような面談の審査もなく、実際に施設を訪れて建物をチェックするようなことも行われず審査が進んでしまう。実際に運営する人の姿が見えない状態で申請を受け、かなりゆるい基準で通してしまう状況があります。
また、通常の認可保育所であれば、市区町村が窓口となり、その地域のニーズを把握した上で設置しますが、企業主導型保育所は税金を財源にしておらず、市区町村の関与なく設置を進められるため、結果的に地域のニーズとのミスマッチが起こっています。
小林:企業主導型保育所の見直しとして、市区町村の関与を強めるべきだという声が非常に大きく、私もそれに同意です。しかし、あくまで企業に任せるということになってしまい、市区町村の関与の強度は弱まっています。
■改善策として「市区町村の関与を強めるべき」
先月、内閣府の有識者委員会が公表した企業主導型保育所の改善策はどんな内容だったのでしょうか。
小林:企業主導型保育所の監査や審査を自治体と連携することや、空き施設とのマッチングをするという内容もありました。大きなところでは、保育を専門としている企業が新設する条件を「実績5年以上」に限定すること。また、定員20人以上の保育事業者が運営する企業主導型保育所は、子どもに対しての保育士の割合が50パーセントでもいいとされていましたが、75パーセントに引き上げました。ただ、75パーセントでもどうかなと思います。その改善案の前に設置されたものはすでに稼働しているので、骨抜きの対応になってしまったと感じています。
安田:50パーセントでよかった、という基準があったこと自体が驚きです。
小林:かなり危険な状態だと各方面から声があがったのですが、今回の改善案は保育事業者に限られてしまいました。
では、企業主導型保育所で子どもたちの安心・安全を保つために、これから何が必要なのでしょうか。
小林:先ほども言いましたが、やはり地域の保育を理解する市区町村の関与を強めるべきだと思います。また、認可するにも厳しいハードルを設けることも必要です。待機児童を解消したいという官邸の手柄のために、急ピッチで進められたという見方ができるものになっています。親は認可保育所に子どもを預けたいという声が非常に大きいので、企業主導型保育所を作ったとしても認可保育所に移行していけるような道筋をつくることが必要。認可保育所を最低ラインとするような基準で安心して子どもを預けられる仕組みを整備することがいちばんではないかと思います。
安田は「官邸の都合が主眼ではなく、子どもの安心・安全が全ての中心であり、それを踏まえてどう整備すべきかを考える必要がある」と考えを述べました。
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