2016年6月、イギリスは欧州連合(EU)からの離脱を巡る国民投票を実施。EU離脱派が51.9パーセントを占めたため、2017年3月にこの内容をEUに通知し離脱交渉をはじめました。その後、イギリスとEU間でEU離脱協定案がまとまりましたが、それをイギリス議会が否決。3月29日がEU離脱の期限となるなか、その動向が注目されています。世界中が注目するイギリスのEU離脱問題の最新情報と気になる今後の展開について、毎日新聞編集局次長の小倉孝保さんに訊きました。
3月26日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木 理)
http://radiko.jp/#!/ts/FMJ/20190326201847
■EU離脱問題は異常なくらい混乱
小倉さんは、「EU離脱問題は異常なくらい混乱している」と話します。
小倉:イギリスは3月29日にEUから離脱しなくてはいけない。昨年11月にイギリスとEUで離脱協定案を合意した内容を、1月と2月にイギリス議会に通そうとしましたが、いずれも否決されました。そのため、英メイ首相は同じ離脱協定案をもう1度イギリス議会にかけて、「この案が通らなかったらイギリスはEUから当分離脱できないかもしれない。もしくは、何の合意もないままEUを離脱して大混乱になるかもしれない。だからこの離脱案を通してほしい」と訴えました。しかし、このメイ首相の案が通りそうもない流れになったので、先日、メイ首相は議会の強行離脱派の主導者を呼んで説得しようとしたのですが、どうもその主導者たちはうなずかなかったようです。
そのため、イギリス議会は「メイ首相に指導力がないから、離脱案の内容について議会で話し合いをさせてほしい」と訴え、3月27日にEUへの離脱に対して、「この案であればEU離脱を支持できる」という代替案を、いわば人気投票で決定することになりました。
小倉:この人気投票の話が出て、イギリス議会は一体どうなったんだっていう話ですよね。メイ首相は3回目として離脱協定案を通そうとしている。でも、議会は「俺たちは俺たちだけで、どの案だったら通せそうか、どの案が支持できそうかを作るから」と。おそらくそこでは「2回目の国民投票をやろう」という振り出しに戻す案から、「貿易などは今まで通りEUとの関係を維持しながら、緩やかな離脱をする」という案まで、いろいろな案が出てくると思います。そのなかには、合意なき離脱をすすめる案も含まれるかもしれませんが、それを支持する議員は少数になっているので、合意なき離脱案が通ることはないと思います。
そんな議会の動きがあるなか、メイ首相は「議会がどんな案を出したとしても拘束力はないから、私たちの政権はそれにとらわれない」と発言しています。
小倉:たしかにメイ首相からすると、勝手に議会で案を決めることは自分のやり方ではありません。あくまでEUと交渉するのはメイ首相なんです。メイ首相はEU首脳がどれだけこの問題に頑なで、ほとんど譲歩はできないという状況かも一番知っています。イギリス議会がいろいろな案を持ってきて、EU首脳に「これでお願いします」と提案しても、なかなかうまくはいかないと思います。
青木:ただ、EUはイギリスが離脱してヨーロッパ経済が混乱することは望まないだろうから、イギリス議会がそれなりの案を持ってきたら「交渉しようか」とはなりませんか?
小倉:条件次第でしょうね。今の離脱協定案よりEUが受け入れやすい内容だったら受け入れられます。それならすぐに意思表示ができる。でも、イギリス側はその案で大丈夫なのかという問題は残るだろうし、イギリス社会の分断や国会の混乱は大きくなるとは思います。
■「合意なき離脱」はあり得ない
混乱を極めるイギリスのEU離脱問題。では、これからどう進むのでしょうか。
小倉:僕は「合意なき離脱」はあり得ないと考えています。それをなんとか回避するために、イギリスだけでなく、ヨーロッパの首脳も知恵を絞っている。イギリス人の外交官や識者らと話していると「EU側に譲歩を引き出すための武器として『合意なき離脱はあり得る』というワードを使っている」と話しているし、本音ではイギリス側も「合意なき離脱」はあり得ないと考えている。だからお互いが、最後はこの状況をうまく回避する方策を考えるのではいか。それがなかったら、ヨーロッパの主導者たちは無責任極まりないと思います。
そのため、EU離脱の期限は3月29日とされていましたが、4月12日に先送りされています。
青木:今後は「2回目の国民投票をする」もしくは「緩やかな離脱をする」という印象ですが、そうなるのでしょうか。
小倉:そう思います。以前、私は「2回目の国民投票はない」と言っていましたが、ここにきてひょっとしてあり得るかなと感じています。
青木:2回目の国民投票があると、EU残留が多数派になりますよね。
小倉:そうですね。昨年11月の世論調査でも6対4くらいで残留派が優勢になっています。1回目の国民投票では「EUから離脱したらこんなにいいことがある」と伝えるメディアも多かったし、議会でもそれを言う人がたくさんいました。でも、それをずっと言っていた人は離脱が決まったら議員を辞めてしまったり、「離脱したらEUに出している拠出金が戻ってくるから医療福祉に使える」と言っていたのに、ふたを開けるとそれほど使えるお金がなかったりと、現実問題が出てきています。そうなると、国民がいい話ばっかり聞かされてきたのに全くそうではなかったので、2回目の国民投票があれば残留派が多数になると思います。
今回の問題を見て、最後に小倉さんはこう話します。
小倉:独裁者的な人が「合意なき離脱でもいいんだ」と強引に進めてしまうと大混乱が起きてしまいますが、民主主義であるイギリスはそれがないようにいろいろな段階をちょっとずつ踏みながらこの問題に向かっています。今、イギリスは大変な思いをしていて、それは民主主義的なやり方の痛みでもありますが、このやり方だからみんながその様子を見ることができる。その様子から、あらためて民主主義の面白さや強さを感じています。
果たしてEU離脱問題はどう決着するのでしょうか。今後の動向も目が離せません。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
3月26日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木 理)
http://radiko.jp/#!/ts/FMJ/20190326201847
■EU離脱問題は異常なくらい混乱
小倉さんは、「EU離脱問題は異常なくらい混乱している」と話します。
小倉:イギリスは3月29日にEUから離脱しなくてはいけない。昨年11月にイギリスとEUで離脱協定案を合意した内容を、1月と2月にイギリス議会に通そうとしましたが、いずれも否決されました。そのため、英メイ首相は同じ離脱協定案をもう1度イギリス議会にかけて、「この案が通らなかったらイギリスはEUから当分離脱できないかもしれない。もしくは、何の合意もないままEUを離脱して大混乱になるかもしれない。だからこの離脱案を通してほしい」と訴えました。しかし、このメイ首相の案が通りそうもない流れになったので、先日、メイ首相は議会の強行離脱派の主導者を呼んで説得しようとしたのですが、どうもその主導者たちはうなずかなかったようです。
そのため、イギリス議会は「メイ首相に指導力がないから、離脱案の内容について議会で話し合いをさせてほしい」と訴え、3月27日にEUへの離脱に対して、「この案であればEU離脱を支持できる」という代替案を、いわば人気投票で決定することになりました。
小倉:この人気投票の話が出て、イギリス議会は一体どうなったんだっていう話ですよね。メイ首相は3回目として離脱協定案を通そうとしている。でも、議会は「俺たちは俺たちだけで、どの案だったら通せそうか、どの案が支持できそうかを作るから」と。おそらくそこでは「2回目の国民投票をやろう」という振り出しに戻す案から、「貿易などは今まで通りEUとの関係を維持しながら、緩やかな離脱をする」という案まで、いろいろな案が出てくると思います。そのなかには、合意なき離脱をすすめる案も含まれるかもしれませんが、それを支持する議員は少数になっているので、合意なき離脱案が通ることはないと思います。
そんな議会の動きがあるなか、メイ首相は「議会がどんな案を出したとしても拘束力はないから、私たちの政権はそれにとらわれない」と発言しています。
小倉:たしかにメイ首相からすると、勝手に議会で案を決めることは自分のやり方ではありません。あくまでEUと交渉するのはメイ首相なんです。メイ首相はEU首脳がどれだけこの問題に頑なで、ほとんど譲歩はできないという状況かも一番知っています。イギリス議会がいろいろな案を持ってきて、EU首脳に「これでお願いします」と提案しても、なかなかうまくはいかないと思います。
青木:ただ、EUはイギリスが離脱してヨーロッパ経済が混乱することは望まないだろうから、イギリス議会がそれなりの案を持ってきたら「交渉しようか」とはなりませんか?
小倉:条件次第でしょうね。今の離脱協定案よりEUが受け入れやすい内容だったら受け入れられます。それならすぐに意思表示ができる。でも、イギリス側はその案で大丈夫なのかという問題は残るだろうし、イギリス社会の分断や国会の混乱は大きくなるとは思います。
■「合意なき離脱」はあり得ない
混乱を極めるイギリスのEU離脱問題。では、これからどう進むのでしょうか。
小倉:僕は「合意なき離脱」はあり得ないと考えています。それをなんとか回避するために、イギリスだけでなく、ヨーロッパの首脳も知恵を絞っている。イギリス人の外交官や識者らと話していると「EU側に譲歩を引き出すための武器として『合意なき離脱はあり得る』というワードを使っている」と話しているし、本音ではイギリス側も「合意なき離脱」はあり得ないと考えている。だからお互いが、最後はこの状況をうまく回避する方策を考えるのではいか。それがなかったら、ヨーロッパの主導者たちは無責任極まりないと思います。
そのため、EU離脱の期限は3月29日とされていましたが、4月12日に先送りされています。
青木:今後は「2回目の国民投票をする」もしくは「緩やかな離脱をする」という印象ですが、そうなるのでしょうか。
小倉:そう思います。以前、私は「2回目の国民投票はない」と言っていましたが、ここにきてひょっとしてあり得るかなと感じています。
青木:2回目の国民投票があると、EU残留が多数派になりますよね。
小倉:そうですね。昨年11月の世論調査でも6対4くらいで残留派が優勢になっています。1回目の国民投票では「EUから離脱したらこんなにいいことがある」と伝えるメディアも多かったし、議会でもそれを言う人がたくさんいました。でも、それをずっと言っていた人は離脱が決まったら議員を辞めてしまったり、「離脱したらEUに出している拠出金が戻ってくるから医療福祉に使える」と言っていたのに、ふたを開けるとそれほど使えるお金がなかったりと、現実問題が出てきています。そうなると、国民がいい話ばっかり聞かされてきたのに全くそうではなかったので、2回目の国民投票があれば残留派が多数になると思います。
今回の問題を見て、最後に小倉さんはこう話します。
小倉:独裁者的な人が「合意なき離脱でもいいんだ」と強引に進めてしまうと大混乱が起きてしまいますが、民主主義であるイギリスはそれがないようにいろいろな段階をちょっとずつ踏みながらこの問題に向かっています。今、イギリスは大変な思いをしていて、それは民主主義的なやり方の痛みでもありますが、このやり方だからみんながその様子を見ることができる。その様子から、あらためて民主主義の面白さや強さを感じています。
果たしてEU離脱問題はどう決着するのでしょうか。今後の動向も目が離せません。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。