戦後の沖縄を舞台に、3人の若者の人生を描いた真藤順丈さんの小説『宝島』(講談社)が、直木賞を受賞しました。真藤さんは東京生まれで、沖縄がルーツではありません。なぜこの小説を執筆しようと思ったのでしょうか。「沖縄人になって書くと覚悟するまで時間がかかった」という、作品に込めた思いを伺いました。
2月26日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木 理)
http://radiko.jp/#!/ts/FMJ/20190226201906
■戦後の沖縄に「戦後日本の青春時代」を感じた
『宝島』というタイトルには、こんな思いが込められています。
真藤:サブタイトルに「ヒーローズ・アイランド」と書いているように、「トレジャー・アイランド」との差別化でありつつ、「沖縄の宝は何か」を物語の最後まで時間をかけて探っていくような話でもあります。そして、沖縄には「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」という言葉があり、「命こそが宝」という意味で、そこがいちばん大きな理由です。
自身のルーツが沖縄がではないぶん、本の執筆にあたっては、これまでの作品より4、5倍、フィールドワークや取材を重ねたそうです。「取材をして基本的な足腰の力をつけ、あとは想像力でした。小説家としての仕事はそこからかなと思います」と振り返りました。そもそも、なぜ沖縄をテーマに小説を書こうと思ったのでしょうか?
真藤:ジャーナリストの方々が積み重ねてきた沖縄の資料を読むなかで、「沖縄の戦後時代に今の日本ができあがっていくなか、どこでゆがんでしまったのか」「どこで何を失ったから、今こうなっているのか」という成り立ちを探ってみたかった。その過程で、戦後の沖縄に、戦後の日本の青春時代みたいなものを感じました。その青春時代を青春小説というかたちで書くことで、何か追いかけたけど手に入れられなかったものや、失ってしまったもの、面影を追いかけるようなところと、現代の問題をひとつひとつ重ね合わせられる部分が多いのではないかと考えました。
■沖縄人になって書くという覚悟が必要だった
『宝島』の執筆途中に2年間ほど書けなかった時期があったそうです。
真藤:この作品を立ち上げた時点で、かなり激しい仕事になると覚悟していたつもりでしたが、書き進めていくと、その覚悟が足りなかったと感じました。作品の登場人物が大きくなるなかで、その思いがだんだん自分のなかに膨らんできて。小説家だから、どの時代のどの土地の話を書いてもいいはずなのに、外国のことは書けても、沖縄のことになると、なぜ腰が引けてしまうのだろう。それを自分で考え直すことが必要になり時間がかかりました。
青木:腰が引けてしまう感覚の正体は何だったのでしょうか。
真藤:それまで歴史的に沖縄と大和(やまと・沖縄県外)の関係性もあるし、この小説で書いた話が現在まで全て続いているからだと思います。基地問題や日米問題など全てケリがついていない。そんな現在まで続いている話のなかに僕がいるからだと思い、それをどう捉えていくのか、自分があやふやなままエンタテインメント小説に消化していいのだろうか、そういう思いがありました。
青木:真藤さんの「僕がいる」という位置が、沖縄人ではなく大和だから腰が引けてしまった部分があったと。
真藤:腰が引けるというか、どういう距離感で書くのかがつかめませんでした。実際に大和人(やまとんちゅう)がその時代の沖縄に来て、その大和人の目線で小説を書こうかとも思っていたけど、それだと自分が表現したいところまでは行けないと思う部分があって。だから、沖縄人(うちなんちゅう)になって書くという覚悟を固めるまでに時間がかかりました。
■沖縄の問題をどれだけ自分事として考えるかが重要
先日、沖縄県名護市辺野古の新基地移設を問う県民投票が行われ、開票の結果、52パーセントの投票率で72パーセントの反対票が集まりました。真藤さんは、この結果をどう捉えているのでしょうか。
真藤:県民投票は私も固唾をのんで見守っていました。沖縄の人たちから反対されている基地がどれほど脆弱かをアメリカはある程度わかっていて、それがあっての沖縄返還もあったと思います。その時代のことを『宝島』で書いたように、世の中を変えてきた沖縄の人たちの声、デモクラシーが、今回の県民投票でもちゃんと正しいかたちで前に出てくる土地だなと感じました。
青木:真藤さんが2年間もの時間をかけて捉え直さないとこの作品を書ききれなかったくらい、大和人である私たちが沖縄のことを考えないと、今の状況は変わらない気がします。
真藤:そうですね。あとは自分たち県外の人間が、どれだけ自分事として考えていけるか、どれだけ沖縄のことに関して議論を重ねていけるか、そういうことだと思います。
■『宝島』以後の意識の変化
あるインタビューで真藤さんは『宝島』を書く前と、書いた後で人生観が変わったと話しています。以前は、自分の好きな小説や映画に耽溺していたい気持ちが強かったものの、「そうも言っていられない」という気持ちになったとか。
真藤:どこか社会とつながっている人間のひとりとして、エンタテインメントの小説だとはいえ、政治的なことに限らず社会に対する問題意識を反映していかないと、今後はやっていけないと思うようになりました。自分の好きなジャンルにはまり込むような作品もあってもいいけど、自分たちが感じている疑問に声をあげて、「この世の中はおかしいだろ」という問題意識を出していくようなものもあってもいい。その両方をやりたいと感じています。
今後のテーマとして「戦中戦後の日系アメリカ人」「現在の技能実習生」「親子の貧困問題」などを取り上げるとしながらも「あくまでエンタテインメント小説として楽しんで読んでもらえることを前提とした作品を届けたい」と話していました。真藤さんの魂がこもった『宝島』、ぜひ手にとってみてください。
【この記事の放送回をradikoで聴く】
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
2月26日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木 理)
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■戦後の沖縄に「戦後日本の青春時代」を感じた
『宝島』というタイトルには、こんな思いが込められています。
真藤:サブタイトルに「ヒーローズ・アイランド」と書いているように、「トレジャー・アイランド」との差別化でありつつ、「沖縄の宝は何か」を物語の最後まで時間をかけて探っていくような話でもあります。そして、沖縄には「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」という言葉があり、「命こそが宝」という意味で、そこがいちばん大きな理由です。
自身のルーツが沖縄がではないぶん、本の執筆にあたっては、これまでの作品より4、5倍、フィールドワークや取材を重ねたそうです。「取材をして基本的な足腰の力をつけ、あとは想像力でした。小説家としての仕事はそこからかなと思います」と振り返りました。そもそも、なぜ沖縄をテーマに小説を書こうと思ったのでしょうか?
真藤:ジャーナリストの方々が積み重ねてきた沖縄の資料を読むなかで、「沖縄の戦後時代に今の日本ができあがっていくなか、どこでゆがんでしまったのか」「どこで何を失ったから、今こうなっているのか」という成り立ちを探ってみたかった。その過程で、戦後の沖縄に、戦後の日本の青春時代みたいなものを感じました。その青春時代を青春小説というかたちで書くことで、何か追いかけたけど手に入れられなかったものや、失ってしまったもの、面影を追いかけるようなところと、現代の問題をひとつひとつ重ね合わせられる部分が多いのではないかと考えました。
■沖縄人になって書くという覚悟が必要だった
『宝島』の執筆途中に2年間ほど書けなかった時期があったそうです。
真藤:この作品を立ち上げた時点で、かなり激しい仕事になると覚悟していたつもりでしたが、書き進めていくと、その覚悟が足りなかったと感じました。作品の登場人物が大きくなるなかで、その思いがだんだん自分のなかに膨らんできて。小説家だから、どの時代のどの土地の話を書いてもいいはずなのに、外国のことは書けても、沖縄のことになると、なぜ腰が引けてしまうのだろう。それを自分で考え直すことが必要になり時間がかかりました。
青木:腰が引けてしまう感覚の正体は何だったのでしょうか。
真藤:それまで歴史的に沖縄と大和(やまと・沖縄県外)の関係性もあるし、この小説で書いた話が現在まで全て続いているからだと思います。基地問題や日米問題など全てケリがついていない。そんな現在まで続いている話のなかに僕がいるからだと思い、それをどう捉えていくのか、自分があやふやなままエンタテインメント小説に消化していいのだろうか、そういう思いがありました。
青木:真藤さんの「僕がいる」という位置が、沖縄人ではなく大和だから腰が引けてしまった部分があったと。
真藤:腰が引けるというか、どういう距離感で書くのかがつかめませんでした。実際に大和人(やまとんちゅう)がその時代の沖縄に来て、その大和人の目線で小説を書こうかとも思っていたけど、それだと自分が表現したいところまでは行けないと思う部分があって。だから、沖縄人(うちなんちゅう)になって書くという覚悟を固めるまでに時間がかかりました。
■沖縄の問題をどれだけ自分事として考えるかが重要
先日、沖縄県名護市辺野古の新基地移設を問う県民投票が行われ、開票の結果、52パーセントの投票率で72パーセントの反対票が集まりました。真藤さんは、この結果をどう捉えているのでしょうか。
真藤:県民投票は私も固唾をのんで見守っていました。沖縄の人たちから反対されている基地がどれほど脆弱かをアメリカはある程度わかっていて、それがあっての沖縄返還もあったと思います。その時代のことを『宝島』で書いたように、世の中を変えてきた沖縄の人たちの声、デモクラシーが、今回の県民投票でもちゃんと正しいかたちで前に出てくる土地だなと感じました。
青木:真藤さんが2年間もの時間をかけて捉え直さないとこの作品を書ききれなかったくらい、大和人である私たちが沖縄のことを考えないと、今の状況は変わらない気がします。
真藤:そうですね。あとは自分たち県外の人間が、どれだけ自分事として考えていけるか、どれだけ沖縄のことに関して議論を重ねていけるか、そういうことだと思います。
■『宝島』以後の意識の変化
あるインタビューで真藤さんは『宝島』を書く前と、書いた後で人生観が変わったと話しています。以前は、自分の好きな小説や映画に耽溺していたい気持ちが強かったものの、「そうも言っていられない」という気持ちになったとか。
真藤:どこか社会とつながっている人間のひとりとして、エンタテインメントの小説だとはいえ、政治的なことに限らず社会に対する問題意識を反映していかないと、今後はやっていけないと思うようになりました。自分の好きなジャンルにはまり込むような作品もあってもいいけど、自分たちが感じている疑問に声をあげて、「この世の中はおかしいだろ」という問題意識を出していくようなものもあってもいい。その両方をやりたいと感じています。
今後のテーマとして「戦中戦後の日系アメリカ人」「現在の技能実習生」「親子の貧困問題」などを取り上げるとしながらも「あくまでエンタテインメント小説として楽しんで読んでもらえることを前提とした作品を届けたい」と話していました。真藤さんの魂がこもった『宝島』、ぜひ手にとってみてください。
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