J-WAVEで放送中の『GOLD RUSH』(ナビゲーター:渡部 建)のワンコーナー「CURIOUSCOPE」。8月3日(金)のオンエアでは、最近の青春マンガの胸キュン告白シーンの傾向について、人気ライターで、早稲田大学助教として少女マンガ研究をメインとしたサブカルチャー関連講義を担当するトミヤマユキコさんに伺いました。
■バリエーション豊富な告白がトレンド
まずは、昨今の青春マンガのトレンドについて訊きました。
トミヤマ:今どきの少女マンガは、告白成功後の時間を描くことも多いですね。
渡部:告白がゴールじゃない?
トミヤマ:そうです。なので、告白が最大のクライマックスではないこともあります。その場合は、何回か告白シーンが出てきたり、同じカップルでも最初は女子から男子に告白し、そのあとに男子から女子に告白してというような告白が描かれたりと、かなりバリエーションが豊富ですね。それから、伝統的な“俺様ドS王子様”が「お前は俺のものだ」と言うような作品は、もう昔からの様式美なので、これはいつの時代も変わらずある“ド安定”です。典型的なシンデレラストーリーも好まれています。
そんな最近の少女マンガから、トミヤマさんおすすめの作品を選んでいただきました!
■河原和音『青空エール』(集英社)
渡部:これは映画にもなりましたよね!
トミヤマ:高校球児の山田大介くんと、同じ高校の吹奏楽部に通う小野つばさちゃんの恋愛ストーリーです。つばさちゃんが最初に大介くんのことを好きになるので、告白するんです。彼は「オレ 絶対 彼女つくんないから!! 甲子園に行けるまで誰ともつきあわないから!! 強くなるから絶対!!」って言うんですけど、こういう高校球児どうですか?
渡部:これは、どういうことなんですか? いわゆる「我慢したい」と。「甲子園行ったら……。そのかわり待っててくれよ」ということなんですか?
トミヤマ:これは「誰とも付き合わない」」宣言が、結果としてちょっと告白になってきちゃっているというパターンです。「付き合ってください」と言って振られてはいますが、嫌いと言われているわけでもないというのもあって。
渡部:「誰とも付き合わない」って宣言しているわけですからね。でも、大介くんが言って、つばさちゃんのリアクションのカットは成功した顔ですもんね。
トミヤマ:笑顔でやり過ごすんですけど、心の中では「大介くんを好きになったことを無駄にしたくない、ひとりで強くなるんだ」という形で、振られているけれど何とか前向きに切り替えている、これが4巻です。このマンガは19巻まであるので、もう一回告白シーンがあります。またつばさちゃんから「好きだ」と言って大介くんが答えます。「待っててくれる? 甲子園出れるまでオレのこと。誰とも付き合わないで 他の男好きにならないで 待っててくれる?」と。
渡部:これは何なんですか。
トミヤマ:野球に全てをささげた優秀な選手です。自分で4巻の時点で「誰とも付き合わない」と宣言するわけだから、わがままでマッチョな男かなと思ったら「待っててくれる?」と、一応相手に委ねてるという。
渡部:結果、大介くんは甲子園に行くんですか?
トミヤマ:行くんですよ!
渡部:これを映画では竹内涼真くんと土屋太鳳ちゃんが演じたわけですか。いいですね~。なかなか複雑で巧みですね。
トミヤマ:告って了解して終わりってわけじゃないところが、面白いところですね。
■安藤ゆき『町田くんの世界』(集英社)
トミヤマ:これはですね、「勉強ダメ」「運動ダメ」「機械に弱い」というめちゃくちゃ不器用な町田一くんという男の子が出てきます。彼は人間にすごく興味があって、人とのやりとりだけはむちゃくちゃ得意という男の子なんです。ただ、恋を知りません。彼は猪原奈々ちゃんというクラスメイトを好きになっていき、告白するんですけど、「俺は猪原さんの心が欲しい……心は誰に渡すものでもないんだって 頭ではわかっているのに 人の心はその人だけのものだって なのに 俺は猪原さんの心がほしい 猪原さんが好きだから ……矛盾してるね」と。
渡部:高校生ですよね? だいぶ病んでる感じがしますけど。
トミヤマ:町田くんは人間のことを、いい意味で考えすぎなので、高校生でこういう告白ができてしまうんです。
渡部:猪原奈々ちゃんから、なにかリアクションはあるんですか?
トミヤマ:「ずっと前から とっくに私の心は町田くんのものだよ」と返事をして、実は両思いだったという展開ですね。
渡部:うわー! これがまた「私も好きだよ」じゃないんですね。
トミヤマ:大人の人が読んでもけっこうグッとくる告白だと思うんです。誰かを好きになるということは、もしかしたら誰かからなにかを奪ってしまうことかもしれないという、恋愛が避けがたく持っている暴力性みたいなものに、高校生の時点で気がついて、ちょっと怯えながら「矛盾してるね」と、愛を伝えるという。これは大人の男から見てもかなり……。どうですか?
渡部:いろいろ悟ってますよね。わかってますよね。
トミヤマ:勉強になるんですよ、『町田くんの世界』を読むと。
渡部:ただ、闇雲に人を好きになるって、そうですよね。奪うことですもんね。
トミヤマ:そこに「なぜ高校生で気づいているのか?」ということも含めて、大人の方にも本当に読んでほしい作品です。映画化が決定しておりまして、町田くんが誰かというのが、まだ発表されていないんですよ。
渡部:“トミヤマ予想”では誰ですか?
トミヤマ:町田くんはメガネをかけているので、メガネが似合わないとマズいので、中肉中背という感じで、神木隆之介さんとか……。
渡部:神木くん! 誰もが欲しがる。たぶん立て込んでますよ。
トミヤマ:でも、『3月のライオン』で、いいメガネしちゃったんでね。
渡部:じゃあ、誰になるかも注目ですね。
■やまもり 三香『椿町ロンリープラネット』(集英社)
トミヤマ:頑張り屋の女子高生・大野ふみちゃんという子がいます。家がむちゃくちゃ貧乏で、借金返済のために住み込み家政婦として働くことになります。時代小説家の木曳野暁先生のところで働くというこで、おじいちゃんのところだと思って行くんですけど、すげえイケメンなんですよ。暁先生も「ふみ」という人が来るんで、おばあちゃんが来ると思ったら女子高生が来るという。恋愛のフラグが全く立っていない同居もの。ここからふみちゃんが暁先生のいろんな魅力に気づいてしまい、初めての“ガチ恋”に向かって走っていく。
渡部:「住み込み家政婦女子高生」っていうキャッチもいいですね! ちなみに、告白はどんな感じなんですか?
トミヤマ:ふみちゃんはシンプルに「先生のことが好きなんです」と言うんですけど、暁がなんて答えたかというと「人を好きになることが どういうことかいまいちよくわからないが お前の笑った顔は好きだ 泣いてる時はどうにかしてやりたいと思う 完璧じゃないがこれだけじゃ不満か?」
渡部:うわー、すごい。暁はいくつくらいの人ですか?
トミヤマ:28歳です。
渡部:若いじゃない。
トミヤマ:ふみちゃんは嬉し泣きで返事をするという。いいでしょ? これ、なんで私がおすすめしているかというと、「いまいちよくわからないが」というところがいいなと思うんです。だってこの人、28歳のいい年した大人で、小説家をやっている人なんですよ。言葉の仕事をしている人でしょ? なのに「いまいちよくわからないが」という、言葉にできない気持ち。これだけ言葉でやってきた人間が告白のシーンになると「いまいちよくわからないが」と言い出す。
渡部:普通の男が真似しちゃダメなやつですね。「いまいちよくわからないけど好きだ」って言ったら怒られますよ。この設定だとアリですね。
トミヤマ:時代小説家だからいいという。
渡部:改めて、なかなか素晴らしい3作品ですけど、どんな選考基準だったんですか?
トミヤマ:今回は、男子が「好き」から「付き合う」とすぐに行かず、好きである理由を自分なりに分析しようとしたり、「好き」という気持ちを押し付けるんじゃなく、相手の意思を確認、尊重しようとしているのに好感が持てるのでは、と思って選びました。王子様に選ばれて愛されるみたいなシンデレラストーリーじゃなくて、「いいのか?」の「?」の形で訊いてくれる、女の子にちゃんと主体性を持たせているのがいいかなと。
トミヤマさんおすすめの3作品、ぜひ手にとってみてください!
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【番組情報】
番組名:『GOLD RUSH』
放送日時:毎週金曜 16時30分-20時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/goldrush/
■バリエーション豊富な告白がトレンド
まずは、昨今の青春マンガのトレンドについて訊きました。
トミヤマ:今どきの少女マンガは、告白成功後の時間を描くことも多いですね。
渡部:告白がゴールじゃない?
トミヤマ:そうです。なので、告白が最大のクライマックスではないこともあります。その場合は、何回か告白シーンが出てきたり、同じカップルでも最初は女子から男子に告白し、そのあとに男子から女子に告白してというような告白が描かれたりと、かなりバリエーションが豊富ですね。それから、伝統的な“俺様ドS王子様”が「お前は俺のものだ」と言うような作品は、もう昔からの様式美なので、これはいつの時代も変わらずある“ド安定”です。典型的なシンデレラストーリーも好まれています。
そんな最近の少女マンガから、トミヤマさんおすすめの作品を選んでいただきました!
■河原和音『青空エール』(集英社)
渡部:これは映画にもなりましたよね!
トミヤマ:高校球児の山田大介くんと、同じ高校の吹奏楽部に通う小野つばさちゃんの恋愛ストーリーです。つばさちゃんが最初に大介くんのことを好きになるので、告白するんです。彼は「オレ 絶対 彼女つくんないから!! 甲子園に行けるまで誰ともつきあわないから!! 強くなるから絶対!!」って言うんですけど、こういう高校球児どうですか?
渡部:これは、どういうことなんですか? いわゆる「我慢したい」と。「甲子園行ったら……。そのかわり待っててくれよ」ということなんですか?
トミヤマ:これは「誰とも付き合わない」」宣言が、結果としてちょっと告白になってきちゃっているというパターンです。「付き合ってください」と言って振られてはいますが、嫌いと言われているわけでもないというのもあって。
渡部:「誰とも付き合わない」って宣言しているわけですからね。でも、大介くんが言って、つばさちゃんのリアクションのカットは成功した顔ですもんね。
トミヤマ:笑顔でやり過ごすんですけど、心の中では「大介くんを好きになったことを無駄にしたくない、ひとりで強くなるんだ」という形で、振られているけれど何とか前向きに切り替えている、これが4巻です。このマンガは19巻まであるので、もう一回告白シーンがあります。またつばさちゃんから「好きだ」と言って大介くんが答えます。「待っててくれる? 甲子園出れるまでオレのこと。誰とも付き合わないで 他の男好きにならないで 待っててくれる?」と。
渡部:これは何なんですか。
トミヤマ:野球に全てをささげた優秀な選手です。自分で4巻の時点で「誰とも付き合わない」と宣言するわけだから、わがままでマッチョな男かなと思ったら「待っててくれる?」と、一応相手に委ねてるという。
渡部:結果、大介くんは甲子園に行くんですか?
トミヤマ:行くんですよ!
渡部:これを映画では竹内涼真くんと土屋太鳳ちゃんが演じたわけですか。いいですね~。なかなか複雑で巧みですね。
トミヤマ:告って了解して終わりってわけじゃないところが、面白いところですね。
■安藤ゆき『町田くんの世界』(集英社)
トミヤマ:これはですね、「勉強ダメ」「運動ダメ」「機械に弱い」というめちゃくちゃ不器用な町田一くんという男の子が出てきます。彼は人間にすごく興味があって、人とのやりとりだけはむちゃくちゃ得意という男の子なんです。ただ、恋を知りません。彼は猪原奈々ちゃんというクラスメイトを好きになっていき、告白するんですけど、「俺は猪原さんの心が欲しい……心は誰に渡すものでもないんだって 頭ではわかっているのに 人の心はその人だけのものだって なのに 俺は猪原さんの心がほしい 猪原さんが好きだから ……矛盾してるね」と。
渡部:高校生ですよね? だいぶ病んでる感じがしますけど。
トミヤマ:町田くんは人間のことを、いい意味で考えすぎなので、高校生でこういう告白ができてしまうんです。
渡部:猪原奈々ちゃんから、なにかリアクションはあるんですか?
トミヤマ:「ずっと前から とっくに私の心は町田くんのものだよ」と返事をして、実は両思いだったという展開ですね。
渡部:うわー! これがまた「私も好きだよ」じゃないんですね。
トミヤマ:大人の人が読んでもけっこうグッとくる告白だと思うんです。誰かを好きになるということは、もしかしたら誰かからなにかを奪ってしまうことかもしれないという、恋愛が避けがたく持っている暴力性みたいなものに、高校生の時点で気がついて、ちょっと怯えながら「矛盾してるね」と、愛を伝えるという。これは大人の男から見てもかなり……。どうですか?
渡部:いろいろ悟ってますよね。わかってますよね。
トミヤマ:勉強になるんですよ、『町田くんの世界』を読むと。
渡部:ただ、闇雲に人を好きになるって、そうですよね。奪うことですもんね。
トミヤマ:そこに「なぜ高校生で気づいているのか?」ということも含めて、大人の方にも本当に読んでほしい作品です。映画化が決定しておりまして、町田くんが誰かというのが、まだ発表されていないんですよ。
渡部:“トミヤマ予想”では誰ですか?
トミヤマ:町田くんはメガネをかけているので、メガネが似合わないとマズいので、中肉中背という感じで、神木隆之介さんとか……。
渡部:神木くん! 誰もが欲しがる。たぶん立て込んでますよ。
トミヤマ:でも、『3月のライオン』で、いいメガネしちゃったんでね。
渡部:じゃあ、誰になるかも注目ですね。
■やまもり 三香『椿町ロンリープラネット』(集英社)
トミヤマ:頑張り屋の女子高生・大野ふみちゃんという子がいます。家がむちゃくちゃ貧乏で、借金返済のために住み込み家政婦として働くことになります。時代小説家の木曳野暁先生のところで働くというこで、おじいちゃんのところだと思って行くんですけど、すげえイケメンなんですよ。暁先生も「ふみ」という人が来るんで、おばあちゃんが来ると思ったら女子高生が来るという。恋愛のフラグが全く立っていない同居もの。ここからふみちゃんが暁先生のいろんな魅力に気づいてしまい、初めての“ガチ恋”に向かって走っていく。
渡部:「住み込み家政婦女子高生」っていうキャッチもいいですね! ちなみに、告白はどんな感じなんですか?
トミヤマ:ふみちゃんはシンプルに「先生のことが好きなんです」と言うんですけど、暁がなんて答えたかというと「人を好きになることが どういうことかいまいちよくわからないが お前の笑った顔は好きだ 泣いてる時はどうにかしてやりたいと思う 完璧じゃないがこれだけじゃ不満か?」
渡部:うわー、すごい。暁はいくつくらいの人ですか?
トミヤマ:28歳です。
渡部:若いじゃない。
トミヤマ:ふみちゃんは嬉し泣きで返事をするという。いいでしょ? これ、なんで私がおすすめしているかというと、「いまいちよくわからないが」というところがいいなと思うんです。だってこの人、28歳のいい年した大人で、小説家をやっている人なんですよ。言葉の仕事をしている人でしょ? なのに「いまいちよくわからないが」という、言葉にできない気持ち。これだけ言葉でやってきた人間が告白のシーンになると「いまいちよくわからないが」と言い出す。
渡部:普通の男が真似しちゃダメなやつですね。「いまいちよくわからないけど好きだ」って言ったら怒られますよ。この設定だとアリですね。
トミヤマ:時代小説家だからいいという。
渡部:改めて、なかなか素晴らしい3作品ですけど、どんな選考基準だったんですか?
トミヤマ:今回は、男子が「好き」から「付き合う」とすぐに行かず、好きである理由を自分なりに分析しようとしたり、「好き」という気持ちを押し付けるんじゃなく、相手の意思を確認、尊重しようとしているのに好感が持てるのでは、と思って選びました。王子様に選ばれて愛されるみたいなシンデレラストーリーじゃなくて、「いいのか?」の「?」の形で訊いてくれる、女の子にちゃんと主体性を持たせているのがいいかなと。
トミヤマさんおすすめの3作品、ぜひ手にとってみてください!
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【番組情報】
番組名:『GOLD RUSH』
放送日時:毎週金曜 16時30分-20時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/goldrush/
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