(画像素材:PIXTA)
石川・能登に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2026年8月24日(月)〜8月27日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に能登を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
・ポッドキャストページ
2024年1月1日に発生した能登半島地震では大きな被害を受けた。
山口:石川県は現在、震災復興のキャンペーンをしています。能登の登録店舗でクーポン券が使えます。「それを使って、みんなで一緒にランチをしましょう。輪島においしいお寿司屋さんがあるから、そこに参りましょう」ということになりました。
“もう一度行きたい”と思っていた能登半島に行ってまいりました。いしかわきもの文化大使をはじめ、石川県の伝統的なお着物を美しく着ていらっしゃる方や、着付け教室を開いていらっしゃる方など、皆さまとご一緒させていただきました。
中には、輪島ご出身の方もいらっしゃいました。「輪島に戻ってみたいと思っていたんだけれども、ひとりで行くには悲しすぎて。だから今回、みんなと一緒に出かけることができて、とてもありがたいと思っています」とおっしゃっていて、僕も同じ気持ちでした。皆さんとご一緒させていただいて、本当に感謝しています。
道中、山口さんたちは、車で砂浜を走行できる「千里浜なぎさドライブウェイ」を通った。
山口:砂浜の上をバスが駆け抜けるんですね。日本でも、砂浜の上を車で走行できるところはなかなかありません。
ここを通って、能登への道を進みます。でも、何年か先には、この砂浜がなくなってしまうかもしれないと言われています。侵食によって、砂浜が年々狭くなっているのだそうです。
加賀から輪島までは約160キロ、2時間半だと聞いておりましたが、その日は朝7時半に出たのに、なかなか着きません。
復旧工事でいっぱいでした。片側交互通行の区間が多く、行き交う車の大半は工事用の大きなトラック。そして、道沿いには草を刈る人、土砂を運ぶ人がいっぱい。お寿司屋さんに着いた頃には、お昼を過ぎてしまっていました。
“温かいものをいただきたい”と思っていた山口さんに、お店の人は、お寿司より先にみそ汁を出してくれたという。
山口:輪島塗のお椀から立ち上るのは、海の香り。“何が入っているんだろうな”とかき混ぜてみると、岩のりなんですね。色が真っ黒で、深い海の香りがするんです。野生味あふれる、海の力強い香り。食べていると、その力強さをおなかの中にいただくような感じがします。
能登半島の岩のりは荒波にもまれ、満潮になると海水に浸り、干潮になると空気と太陽を浴びる。“今のうちに成長するぞ、今のうちに成長するぞ”という感じで育っていくんですね。それをいただく——。
そう思うと、能登の岩のりは、クーポンでいただくには申し訳ないぐらいのおいしさと、たくましさをもらえるような気がしました。ぜひ、自分に元気をもらうために、能登の岩のりをいただいてみてください。
山口:“能登に行こう”という方は、ぜひ飛行機で行ってみてください。特に、ポケモンが大好きという方は「のと里山ポケモン・ウィズ・ユー空港」があります。大勢のお客さんがいらっしゃいました。2029年9月30日まで、期間限定の取り組みを予定しているそうです。空港の中にはポケモンの装飾やグッズがいっぱい。ポケモンが、能登半島の震災復興の力になってくれているんですね。
さて、東京ではなかなか聞くことができないホトトギスの鳴き声を、この空港で聞きました。そう思ったのですが、姿は見えませんでした。ただ、僕には鳴き声が聞こえるんですよ。かわいい鳴き声だけど、ホトトギスの口の中は真っ赤なんですよね。
血を吐くように鳴くとされるホトトギスに、自分の病を重ねた正岡子規は、ホトトギスを意味する「子規」を俳号にしたのですが、能登といえばのどぐろですね。こののどぐろというお魚は、口を開けてみると、中が真っ黒なんです。
のどぐろは、標準和名をアカムツといい、赤い体色が特徴的な魚だ。
山口:お目目が大きくて、かわいいんです。そして、煮ても焼いても、お刺身でもおいしい。「白身のトロ」と言われているように、脂がおいしいでしょう。
僕はのどぐろだと、塩焼きが一番好きです。炭火で焼くと、脂が適度に落ちて、皮がカリカリになる。レモンをかけると、脂がジュワッとなじんで、大根おろしを食べると口の中がさっぱりします。
2026年2月、近畿大学水産研究所は、のどぐろの完全養殖に世界で初めて成功したと発表した。
山口:2030年頃には、養殖ののどぐろがお魚屋さんに並ぶ予定ということですね。能登では皆さん、“のどぐろは煮付けが一番おいしい”と召し上がるそうです。
しょうゆとお酒とみりんと砂糖、そしてショウガで甘辛く炊くと、脂が煮汁にいっぱい溶けて、ご飯がとてもよく合います。
輪島には「白米千枚田」という、1,004枚の田んぼが連なる棚田がある。
山口:しかし、震災で大きな被害を受けてしまって、昨年、ようやく250枚の田んぼで米づくりができるようになったそうです。
“1,004枚の田んぼを復活させたい”ということで、皆さんのお知恵や、オーナー制度などを通じた支援を借りながら、この千枚田を復活させようという運動をしていらっしゃいます。
能登半島の海と山、おいしい水、そして復興に向けた力。それらが合わさってできたお米を一粒でも召し上がりたいと思う方がいらっしゃいましたら、ぜひ、千枚田の復興に力を貸して、そのお米をいただいてみてはいかがでしょうか。のどぐろの煮付けと千枚田のお米、食べたいですね。
山口:加賀野菜という言葉、お聞きになったことがありますか? 京野菜という言葉はよく聞きますね。石川県でも、金沢市近郊の加賀野菜、加賀市の加賀九谷野菜、能登の能登野菜というふうに、地域の野菜がブランド化されています。
能登野菜は18品目もあるんです。能登長なす、能登金時、能登大根、小菊かぼちゃ、沢野ごぼう、そして中島菜など……。中島菜は、11月から3月ぐらいまでの寒い時期に採れる、野沢菜に似た葉物野菜です。
地元では、中島菜をおひたしにして食べるという。
山口:なんかね、変わった味がするんですよ。見た目は野沢菜です。でも、野沢菜とはちょっと違って、さっぱりとしていて、スーッと鼻に抜けるような香りがするんです。
さて、今回、能登半島の「黒島地区」というところに行ってまいりました。今は、輪島市門前町黒島町という地名になっています。黒い瓦葺きの大きな家が並ぶ町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。でも、これらの建物の多くが震災で全壊、半壊してしまっています。
北島さんという方が、この町を案内してくださいました。震災前は300人いた住民が、今は50人しか残っていないということでした。それでも「この土地からは離れられない。先祖が代々守ってきたところなんだ」という思いをお持ちでした。この土地で育まれてきた野菜を、守っていかないといけない。こういう野菜を育ててくれるのは、この地方の土や空気、そして、この土地を守る人なんですね。
山口さんは、中島菜を練り込んだ「中島菜うどん」も味わった。
山口:色がとてもきれいで、翡翠のようなんです。冷やして食べると、心を洗うような、すっきりとした味がします。一番合うのは、輪島のたまりしょうゆです。たまりしょうゆに砂糖をちょっと入れて、中島菜うどんを食べると、夏の暑いときに、ミントとはまた違う、中島菜特有のスーッとした爽やかな味がします。
そして石川県に伝わるこういう言葉がございます。
能登の人は、おっとりしていて、優しくて、あっさりしていて、しつこくない。こういう土地を大事にしていかないといけないんだよ、ということです。
能登半島の復興は、まだまだこれからですけれども、その優しい土と、そこで育まれる野菜を守っていく。そのためにも、18品目ある能登野菜を少しずついただくことが、能登の復興につながる一歩になるだろうと思います。
(構成=中山洋平)
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2026年8月24日(月)〜8月27日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に能登を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
・ポッドキャストページ
輪島塗のお椀から立ち上る海の香り 岩のりに感じた力強さ
日本海に突き出し、古くから大陸との交流を通じて文化や技術がもたらされた能登半島。荒波が生み出した断崖や奇岩、海を望む棚田など、美しい風景が広がる。海と山に囲まれ、野菜・魚介・米など多彩な食材がそろう、いわば“食の宝庫”だ。2024年1月1日に発生した能登半島地震では大きな被害を受けた。
山口:石川県は現在、震災復興のキャンペーンをしています。能登の登録店舗でクーポン券が使えます。「それを使って、みんなで一緒にランチをしましょう。輪島においしいお寿司屋さんがあるから、そこに参りましょう」ということになりました。
“もう一度行きたい”と思っていた能登半島に行ってまいりました。いしかわきもの文化大使をはじめ、石川県の伝統的なお着物を美しく着ていらっしゃる方や、着付け教室を開いていらっしゃる方など、皆さまとご一緒させていただきました。
中には、輪島ご出身の方もいらっしゃいました。「輪島に戻ってみたいと思っていたんだけれども、ひとりで行くには悲しすぎて。だから今回、みんなと一緒に出かけることができて、とてもありがたいと思っています」とおっしゃっていて、僕も同じ気持ちでした。皆さんとご一緒させていただいて、本当に感謝しています。

(門前町黒島町)
山口:砂浜の上をバスが駆け抜けるんですね。日本でも、砂浜の上を車で走行できるところはなかなかありません。
ここを通って、能登への道を進みます。でも、何年か先には、この砂浜がなくなってしまうかもしれないと言われています。侵食によって、砂浜が年々狭くなっているのだそうです。
加賀から輪島までは約160キロ、2時間半だと聞いておりましたが、その日は朝7時半に出たのに、なかなか着きません。
復旧工事でいっぱいでした。片側交互通行の区間が多く、行き交う車の大半は工事用の大きなトラック。そして、道沿いには草を刈る人、土砂を運ぶ人がいっぱい。お寿司屋さんに着いた頃には、お昼を過ぎてしまっていました。
“温かいものをいただきたい”と思っていた山口さんに、お店の人は、お寿司より先にみそ汁を出してくれたという。
山口:輪島塗のお椀から立ち上るのは、海の香り。“何が入っているんだろうな”とかき混ぜてみると、岩のりなんですね。色が真っ黒で、深い海の香りがするんです。野生味あふれる、海の力強い香り。食べていると、その力強さをおなかの中にいただくような感じがします。
能登半島の岩のりは荒波にもまれ、満潮になると海水に浸り、干潮になると空気と太陽を浴びる。“今のうちに成長するぞ、今のうちに成長するぞ”という感じで育っていくんですね。それをいただく——。
そう思うと、能登の岩のりは、クーポンでいただくには申し訳ないぐらいのおいしさと、たくましさをもらえるような気がしました。ぜひ、自分に元気をもらうために、能登の岩のりをいただいてみてください。

(能登町、越坂)
のどぐろの煮付けと千枚田のお米 味わいたい能登の恵み
山口さんは、ポケモンの名を冠した世界初の空港「のと里山ポケモン・ウィズ・ユー空港」を利用したという。山口:“能登に行こう”という方は、ぜひ飛行機で行ってみてください。特に、ポケモンが大好きという方は「のと里山ポケモン・ウィズ・ユー空港」があります。大勢のお客さんがいらっしゃいました。2029年9月30日まで、期間限定の取り組みを予定しているそうです。空港の中にはポケモンの装飾やグッズがいっぱい。ポケモンが、能登半島の震災復興の力になってくれているんですね。
さて、東京ではなかなか聞くことができないホトトギスの鳴き声を、この空港で聞きました。そう思ったのですが、姿は見えませんでした。ただ、僕には鳴き声が聞こえるんですよ。かわいい鳴き声だけど、ホトトギスの口の中は真っ赤なんですよね。
血を吐くように鳴くとされるホトトギスに、自分の病を重ねた正岡子規は、ホトトギスを意味する「子規」を俳号にしたのですが、能登といえばのどぐろですね。こののどぐろというお魚は、口を開けてみると、中が真っ黒なんです。
のどぐろは、標準和名をアカムツといい、赤い体色が特徴的な魚だ。
山口:お目目が大きくて、かわいいんです。そして、煮ても焼いても、お刺身でもおいしい。「白身のトロ」と言われているように、脂がおいしいでしょう。
僕はのどぐろだと、塩焼きが一番好きです。炭火で焼くと、脂が適度に落ちて、皮がカリカリになる。レモンをかけると、脂がジュワッとなじんで、大根おろしを食べると口の中がさっぱりします。
2026年2月、近畿大学水産研究所は、のどぐろの完全養殖に世界で初めて成功したと発表した。
山口:2030年頃には、養殖ののどぐろがお魚屋さんに並ぶ予定ということですね。能登では皆さん、“のどぐろは煮付けが一番おいしい”と召し上がるそうです。
しょうゆとお酒とみりんと砂糖、そしてショウガで甘辛く炊くと、脂が煮汁にいっぱい溶けて、ご飯がとてもよく合います。
輪島には「白米千枚田」という、1,004枚の田んぼが連なる棚田がある。
山口:しかし、震災で大きな被害を受けてしまって、昨年、ようやく250枚の田んぼで米づくりができるようになったそうです。
“1,004枚の田んぼを復活させたい”ということで、皆さんのお知恵や、オーナー制度などを通じた支援を借りながら、この千枚田を復活させようという運動をしていらっしゃいます。
能登半島の海と山、おいしい水、そして復興に向けた力。それらが合わさってできたお米を一粒でも召し上がりたいと思う方がいらっしゃいましたら、ぜひ、千枚田の復興に力を貸して、そのお米をいただいてみてはいかがでしょうか。のどぐろの煮付けと千枚田のお米、食べたいですね。

(輪島市西脇町)
「能登はやさしや土までも」。土地と人が育む野菜
「加賀野菜」は、1945年以前から栽培され、現在も金沢で作られている15品目の野菜。石川県には、加賀野菜のほかにも、地域の風土を生かした野菜のブランドがある。山口:加賀野菜という言葉、お聞きになったことがありますか? 京野菜という言葉はよく聞きますね。石川県でも、金沢市近郊の加賀野菜、加賀市の加賀九谷野菜、能登の能登野菜というふうに、地域の野菜がブランド化されています。
能登野菜は18品目もあるんです。能登長なす、能登金時、能登大根、小菊かぼちゃ、沢野ごぼう、そして中島菜など……。中島菜は、11月から3月ぐらいまでの寒い時期に採れる、野沢菜に似た葉物野菜です。
地元では、中島菜をおひたしにして食べるという。
山口:なんかね、変わった味がするんですよ。見た目は野沢菜です。でも、野沢菜とはちょっと違って、さっぱりとしていて、スーッと鼻に抜けるような香りがするんです。
さて、今回、能登半島の「黒島地区」というところに行ってまいりました。今は、輪島市門前町黒島町という地名になっています。黒い瓦葺きの大きな家が並ぶ町並みは、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。でも、これらの建物の多くが震災で全壊、半壊してしまっています。

(門前町黒島町、北島さんと)
山口さんは、中島菜を練り込んだ「中島菜うどん」も味わった。
山口:色がとてもきれいで、翡翠のようなんです。冷やして食べると、心を洗うような、すっきりとした味がします。一番合うのは、輪島のたまりしょうゆです。たまりしょうゆに砂糖をちょっと入れて、中島菜うどんを食べると、夏の暑いときに、ミントとはまた違う、中島菜特有のスーッとした爽やかな味がします。

(千里浜なぎさモビレージ)
<能登はやさしや土までも>
能登の人は、おっとりしていて、優しくて、あっさりしていて、しつこくない。こういう土地を大事にしていかないといけないんだよ、ということです。
能登半島の復興は、まだまだこれからですけれども、その優しい土と、そこで育まれる野菜を守っていく。そのためにも、18品目ある能登野菜を少しずついただくことが、能登の復興につながる一歩になるだろうと思います。
(構成=中山洋平)
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