(画像素材:PIXTA)
広島に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2025年12月22日(月)〜12月24日(水)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に広島を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
・ポッドキャストページ
山口:炊きたてのほかほかご飯。湯気の中に真っ白い粒々のご飯。匂いを嗅ぐだけで、“やっぱりご飯っておいしいな”と思います。今日はご飯をよそう、おしゃもじ(飯杓子)の話をしたいと思います。
おしゃもじ。元々は杓子(しゃくし)と言いました。もっと古く、この「杓」というのが何だったのかと遡ると、天皇あるいは貴族が持っていた「笏(しゃく)」のことを指します。貴族がなぜ笏を持っていたのかというと、カンニング用の棒だったのです。
挨拶をするときに、言葉を覚えていられないので、笏にご挨拶の内容を書いてペタっと貼っておきました。そして挨拶文を読むんですね。それが進化して杓子となりました。
「しゃもじ」とは女房言葉だ。女房言葉とは、宮中に仕える女官が使った隠語的な言葉のことを言う。
山口:女房は貴族に仕える人たちです。源氏物語に出てくる紫式部、清少納言も女房です。彼女たちが使っていた言葉が女房言葉。「灼(しゃく)」に「お」と「もじ」をつけて「おしゃもじ」となりました。
「おしゃもじ」を打ちならすと「カチカチ」という音がします。これが“勝ちを連想させて縁起がいい”となり、必勝祈願の験担ぎとしても使われるようになりました。
厳島神社に行くと、おしゃもじがいっぱいある。人気のお土産として購入する人も多い。
山口:おしゃもじ、願い事を書いて厳島神社に奉納することができますね。このおしゃもじは、宮島にいた誓真(せいしん)さんというお坊さんが、弁財天が持っている楽器の琵琶を形にして宮島のお土産にしようと考案されたそうです。1800年頃のことですね。ご飯を「召し取る(=飯取る)」ことから、福をすくい上げ、幸せや勝運を招くとされています。
1894年に日清戦争、1904年に日露戦争が始まると、祈願をして、このしゃもじを買って身につけていれば、“敵を召し取る”ことができるという宣伝文句で、ものすごく売れたそうです。
そして、厳島神社のしゃもじを2つ買って鳴らしてみてください。「カチカチ」と音がしますね。勝利に近づくという意味で、広島カープの応援団の方は、宮島しゃもじを持って、球場でカチカチしていらっしゃいます。来年は広島カープ、優勝できるかな。敵を召し取ってカチカチと。
山口:皆さんスパゲッティお好きですか? スパゲッティ、おいしいですよね。麺類はお昼にぴったりです。そしてパスタはどんな味付けをしてもおいしいと思います。ボンゴレロッソ。これはトマトソースに、あさりをベースにしたものです。ロッソというのは赤で、ボンゴレはあさりです。僕はときどき食べたくなります。
それからボンゴレビアンコ…これはあさりを白ワインで煮たものですね。あさりってパスタに合いますね。ただ、あさりと聞けば、日本では酒蒸しでしょう。やっぱりお酒に合う貝なんでしょうね。
広島で頂いたあさり、すごくおいしかったんです。スープで頂きました。大野あさりと言います。多くの方は広島駅の方から厳島神社に行かれると思いますが、厳島神社というのは厳島にありますから、船で本島から渡らないといけません。厳島神社に渡る前の海の部分。廿日市と厳島の間、水路で育つあさりのことを大野あさりと呼ぶんですね。味わってみると「何、これ?」と、驚くほどの味の濃いスープでした。
山口さんはその前に蛤も味わったそうだ。
山口:「蛤とあさり、どんな風に違うの?」と現地の方に聞くと「全然違いますよ」と仰いました。皆さんは違いをはっきりわかりますか?
まず、見た目、触った感じで蛤とあさりは違います。蛤は貝がツルツルしています。一方、あさりはザラザラです。身を食べるなら蛤、スープならあさり。あさりは、身はほとんど食べませんね。もちろんボンゴレロッソ、ボンゴレビアンコは身が入っているものもありますが、僕は身を食べない方がおいしいと思っています。スープだけがおいしいですね。
山口さんは「ワインやお酒、アルコールと一緒にあさりのスープを作るとこれはおいしい」と力を込める。
山口:一方、蛤でスープを作ってもあさりほどの強烈な旨みは感じられません。蛤は身を食べるものであって、スープのお出汁としてはあまり向かないものだと思います。それぞれ何を作るか、持ち味が違うんですね。
大野あさりは、国が地域ブランドを守るために設けた地理的表示(GI)保護制度に登録された名産品です。大野あさりを育てているのは、自然の栄養が豊富な「大野瀬戸」。大野瀬戸は、廿日市市の本土側とその対岸にある宮島の間の水路です。そして大野瀬戸には、宮島の弥山からの渓流と、永慶寺川からの水も流れ込んでいます。その2つの水の流れと、そして瀬戸内に入ってくる海流が作り出す養分で育ったのが、この大野あさりなんです。
大野あさりの出汁で作ったスープ、そしてボンゴレビアンコにボンゴレロッソは最高においしくて、何杯でもおかわりしたくなるような味でした。締めのスイーツはもちろん広島名物「もみじ饅頭」でした。
山口:牡蠣は「海のミルク」と呼ばれていますね。レモンをかけて、タバスコをかけて、トゥルっといただく。カボスか柚子にお醤油をちょっとかけて食べるのもいいですね。焼いた牡蠣もおいしいです。僕はお酒を飲みませんけども、牡蠣を食べるのだったら白ワインでしょう。ところで、江戸時代、文学の世界で大きな業績を残した頼山陽(編集部註:らいさんよう|江戸時代後期の文学者、儒学者、歴史家)という人がいます。この方は広島育ちですが、牡蠣が大好きでした。
広島育ちの頼山陽は、その当時から「唯一、広島が牡蠣の養殖をしているんだ」と、どこへ行っても、広島の牡蠣はおいしいよと宣伝をしていたんです。
竹の葉を海中に刺しておくと、牡蠣が自然について、そこで育っていくそうだ。
山口:牡蠣の養殖には竹の葉っぱを使っていたんですね。寒くなると牡蠣がつくので、水の中に手を入れて、こぶしを曲げて、海の中を探すと、牡蠣が獲れました。それを獲って食べるのはものすごく寒いときでした。ただ新鮮なものは塩の味を借りる必要もなく、何もつけなくてもおいしかったんですね。でも「調理をするのならば」と言って、頼山陽は桂皮(シナモン)と生姜をつけて食べていたんです。
今こんな食べ方をすることってあまりないと思います。でも、僕はやってみました。シナモンに生の生姜、今だったら新生姜がございます。粉で構いませんので、シナモンを牡蠣にササっとかけて食べてみてください。すごくおいしいんです。
もちろん柚子醤油とかポン酢、レモンでいただくのもおいしいです。けれども、シナモンと生の生姜と牡蠣がこんなに合うとは思いませんでした。頼山陽が言っていることは嘘ではございませんので、ぜひ皆さん試してみてください。
「故郷の牡蠣はおいしかった」と頼山陽は言っておりますが、僕の故郷である長崎・佐世保にも牡蠣はあります。「九十九島牡蠣」という名称で知られていますが、小ぶりの岩牡蠣です。今頃はおいしい季節です。友人が「今度ドラム缶いっぱいに送ってやるけん」と言っていました。届くのが待ち遠しいです。
そして頼山陽は広島弁でこんな風に言っていたそうです。「わしゃぶち、牡蠣に目がないじゃけ」。僕もその気持ちがよくわかります。
(構成=中山洋平)
この内容をお届けしたのは、J-WAVEのワンコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2025年12月22日(月)〜12月24日(水)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に広島を訪れ、そこで営む人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
・ポッドキャストページ
「宮島しゃもじ」が人気。しゃもじの意外な由来とは?
瀬戸内海や中国山地の豊かな自然に育まれ、良質な食材の宝庫である広島。名物と言えば、やはり「牡蠣」と「お好み焼き」は有名だろう。日本三景の1つである「宮島・厳島神社」や、情緒溢れる下町「尾道」も有する。宮島では伝統工芸の「宮島しゃもじ」がお土産として人気だ。山口:炊きたてのほかほかご飯。湯気の中に真っ白い粒々のご飯。匂いを嗅ぐだけで、“やっぱりご飯っておいしいな”と思います。今日はご飯をよそう、おしゃもじ(飯杓子)の話をしたいと思います。
おしゃもじ。元々は杓子(しゃくし)と言いました。もっと古く、この「杓」というのが何だったのかと遡ると、天皇あるいは貴族が持っていた「笏(しゃく)」のことを指します。貴族がなぜ笏を持っていたのかというと、カンニング用の棒だったのです。
挨拶をするときに、言葉を覚えていられないので、笏にご挨拶の内容を書いてペタっと貼っておきました。そして挨拶文を読むんですね。それが進化して杓子となりました。
「しゃもじ」とは女房言葉だ。女房言葉とは、宮中に仕える女官が使った隠語的な言葉のことを言う。
山口:女房は貴族に仕える人たちです。源氏物語に出てくる紫式部、清少納言も女房です。彼女たちが使っていた言葉が女房言葉。「灼(しゃく)」に「お」と「もじ」をつけて「おしゃもじ」となりました。
「おしゃもじ」を打ちならすと「カチカチ」という音がします。これが“勝ちを連想させて縁起がいい”となり、必勝祈願の験担ぎとしても使われるようになりました。
厳島神社に行くと、おしゃもじがいっぱいある。人気のお土産として購入する人も多い。
山口:おしゃもじ、願い事を書いて厳島神社に奉納することができますね。このおしゃもじは、宮島にいた誓真(せいしん)さんというお坊さんが、弁財天が持っている楽器の琵琶を形にして宮島のお土産にしようと考案されたそうです。1800年頃のことですね。ご飯を「召し取る(=飯取る)」ことから、福をすくい上げ、幸せや勝運を招くとされています。
1894年に日清戦争、1904年に日露戦争が始まると、祈願をして、このしゃもじを買って身につけていれば、“敵を召し取る”ことができるという宣伝文句で、ものすごく売れたそうです。
そして、厳島神社のしゃもじを2つ買って鳴らしてみてください。「カチカチ」と音がしますね。勝利に近づくという意味で、広島カープの応援団の方は、宮島しゃもじを持って、球場でカチカチしていらっしゃいます。来年は広島カープ、優勝できるかな。敵を召し取ってカチカチと。

(厳島神社はいつ来ても、荘厳! 写真=山口謠司)
広島で食べた「大野あさり」
広島にはブランドあさり「大野あさり」がある。山口:皆さんスパゲッティお好きですか? スパゲッティ、おいしいですよね。麺類はお昼にぴったりです。そしてパスタはどんな味付けをしてもおいしいと思います。ボンゴレロッソ。これはトマトソースに、あさりをベースにしたものです。ロッソというのは赤で、ボンゴレはあさりです。僕はときどき食べたくなります。
それからボンゴレビアンコ…これはあさりを白ワインで煮たものですね。あさりってパスタに合いますね。ただ、あさりと聞けば、日本では酒蒸しでしょう。やっぱりお酒に合う貝なんでしょうね。
広島で頂いたあさり、すごくおいしかったんです。スープで頂きました。大野あさりと言います。多くの方は広島駅の方から厳島神社に行かれると思いますが、厳島神社というのは厳島にありますから、船で本島から渡らないといけません。厳島神社に渡る前の海の部分。廿日市と厳島の間、水路で育つあさりのことを大野あさりと呼ぶんですね。味わってみると「何、これ?」と、驚くほどの味の濃いスープでした。

(あさり漁に出るお船たち 写真=山口謠司)
山口:「蛤とあさり、どんな風に違うの?」と現地の方に聞くと「全然違いますよ」と仰いました。皆さんは違いをはっきりわかりますか?
まず、見た目、触った感じで蛤とあさりは違います。蛤は貝がツルツルしています。一方、あさりはザラザラです。身を食べるなら蛤、スープならあさり。あさりは、身はほとんど食べませんね。もちろんボンゴレロッソ、ボンゴレビアンコは身が入っているものもありますが、僕は身を食べない方がおいしいと思っています。スープだけがおいしいですね。
山口さんは「ワインやお酒、アルコールと一緒にあさりのスープを作るとこれはおいしい」と力を込める。
山口:一方、蛤でスープを作ってもあさりほどの強烈な旨みは感じられません。蛤は身を食べるものであって、スープのお出汁としてはあまり向かないものだと思います。それぞれ何を作るか、持ち味が違うんですね。
大野あさりは、国が地域ブランドを守るために設けた地理的表示(GI)保護制度に登録された名産品です。大野あさりを育てているのは、自然の栄養が豊富な「大野瀬戸」。大野瀬戸は、廿日市市の本土側とその対岸にある宮島の間の水路です。そして大野瀬戸には、宮島の弥山からの渓流と、永慶寺川からの水も流れ込んでいます。その2つの水の流れと、そして瀬戸内に入ってくる海流が作り出す養分で育ったのが、この大野あさりなんです。
大野あさりの出汁で作ったスープ、そしてボンゴレビアンコにボンゴレロッソは最高においしくて、何杯でもおかわりしたくなるような味でした。締めのスイーツはもちろん広島名物「もみじ饅頭」でした。
牡蠣×シナモンという江戸時代の食べ方
広島の名産物といえばやっぱり「牡蠣」だろう。山口:牡蠣は「海のミルク」と呼ばれていますね。レモンをかけて、タバスコをかけて、トゥルっといただく。カボスか柚子にお醤油をちょっとかけて食べるのもいいですね。焼いた牡蠣もおいしいです。僕はお酒を飲みませんけども、牡蠣を食べるのだったら白ワインでしょう。ところで、江戸時代、文学の世界で大きな業績を残した頼山陽(編集部註:らいさんよう|江戸時代後期の文学者、儒学者、歴史家)という人がいます。この方は広島育ちですが、牡蠣が大好きでした。

(頼山陽史跡資料館 写真=山口謠司)
竹の葉を海中に刺しておくと、牡蠣が自然について、そこで育っていくそうだ。
山口:牡蠣の養殖には竹の葉っぱを使っていたんですね。寒くなると牡蠣がつくので、水の中に手を入れて、こぶしを曲げて、海の中を探すと、牡蠣が獲れました。それを獲って食べるのはものすごく寒いときでした。ただ新鮮なものは塩の味を借りる必要もなく、何もつけなくてもおいしかったんですね。でも「調理をするのならば」と言って、頼山陽は桂皮(シナモン)と生姜をつけて食べていたんです。
今こんな食べ方をすることってあまりないと思います。でも、僕はやってみました。シナモンに生の生姜、今だったら新生姜がございます。粉で構いませんので、シナモンを牡蠣にササっとかけて食べてみてください。すごくおいしいんです。
もちろん柚子醤油とかポン酢、レモンでいただくのもおいしいです。けれども、シナモンと生の生姜と牡蠣がこんなに合うとは思いませんでした。頼山陽が言っていることは嘘ではございませんので、ぜひ皆さん試してみてください。
「故郷の牡蠣はおいしかった」と頼山陽は言っておりますが、僕の故郷である長崎・佐世保にも牡蠣はあります。「九十九島牡蠣」という名称で知られていますが、小ぶりの岩牡蠣です。今頃はおいしい季節です。友人が「今度ドラム缶いっぱいに送ってやるけん」と言っていました。届くのが待ち遠しいです。
そして頼山陽は広島弁でこんな風に言っていたそうです。「わしゃぶち、牡蠣に目がないじゃけ」。僕もその気持ちがよくわかります。
(構成=中山洋平)
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