
(画像素材:PIXTA)
沖縄・名護市に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEでオンエア中のコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2025年4月28日(月)〜5月1日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に名護市を訪れ、そこに暮らす人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
山口:僕が名護市に行ったのは3月の中頃でした。沖縄に泳ぎに行こうと思ったのに現地に着くとすごく寒かったです。羽田から飛行機に乗るときにも、多くの人がダウンジャケットを着て、マフラーを巻いて、背中にはカイロを貼っていました。沖縄の寒波は10年に1度あるかないかだそうです。沖縄の人も皆、ダウンを着ていました。
現地の方に「沖縄にもダウンジャケット売っているんですね」と言うと、「最近は気候の変動が激しいんです。でも恐らく、あと2〜3日もすると、暑くてたまらない日が訪れますよ」と仰いました。
沖縄には「紅型(びんがた)」という染め物の総称がある。
山口:沖縄で紅型染めの職人をやっている藤崎さんという方にお話しを伺いました。藤崎さんの工房は、名護市の東側の海沿いにあります。そこに何があるかというと辺野古です。辺野古基地を作っている現場の目の前が藤崎さんの工房でした。
そこには護岸工事のための、ポールがたくさん建っています。それと大きな建設用の船がたくさん浮かんでいました。藤崎さんに「こういうのはいつくらいからやってらっしゃるんですか?」と聞くと、「お正月を過ぎてくらいから米軍基地建設が本格的に始まりました」ということでした。
昔の写真を見せてくださって、「辺野古の海にも島がいくつか浮かんでいて、とってもキレイだったんだけど、工事が始まってしまうと、なかなか海に行こうかなという気にはなれませんね」と仰っていました。
紅型は鮮明な色彩、大胆な配色、図形の素朴さが特徴だ。顔料と植物染料を使い、多彩な模様を描き出す。
山口:藤崎さんの工房で、たくさんの反物を見せてもらいましたけど、自分で京都まで生地を選びに行って、生地に合わせてオリジナルの柄をお作りになって、着物を染められるそうです。振袖から着物までをたったひとりで染めていらっしゃいます。
「どういう柄がお好きなんですか?」と訊きますと、庭に咲いてる花や木をモチーフにすることがほとんどなのだそうです。藤崎さんが仰るにはお父さん方もお母さん方も紅型の染め職人か陶器職人をやっていらっしゃったそうです。それ故、伝統的な紅型の柄もたくさんお持ちなんだとか。
山口さんは工房の中で「変わったお花の絵」を見つけたそうだ。
山口:藤崎さんに「こういうお花があるんですか?」と聞いてみると、「これはアマゾンレディというお花ですよ」と仰いました。僕は見たことがなかったのですが、松田聖子さんが結婚式のときに、ブーケとして持たれたお花だそうです。
松田聖子さんがアマゾンレディのブーケを持ったことで一時ブームになり、新しく沖縄の紅型染にも使われるようになったそうです。やっぱり松田聖子さんの影響は大きいですね。着物の柄というのも、歌謡曲などから影響を受けて変化していくものなんだなと思いました。
子どもたちが音楽を通じてさまざまな能力を伸ばし、豊かな心を育むための教育方法に「音教(おんきょう)」というものがある。
山口:赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときからいろんな音楽を聴かせてあげると、聴力が発達します。お母様、お父様が赤ちゃんのそばでお話をすると、言語能力が発達するとも言われていますね。
今の時代、保護者の方が携帯ばかりを見て、お話をすることが少なくなりました。今こそ、大きな声で赤ちゃんに向かって話をしてあげて、聞く力をつけてあげないといけないと思います。
名護市では令和2年10月から「ブックスタート」という活動が始まった。
山口:「妊娠してますよ」とお医者さんに言われると、母子手帳をもらいます。母子手帳というのは母体の状態、それから出生後のお子さんの健康管理……例えば受けた予防接種の記録なんかをずっと記録していくものなので、大切に保管していないといけません。
この母子手帳をもらったときに恐らくほとんどの市町村で、「ご懐妊おめでとう」という言葉と併せて、本をプレゼントされると思います。これは「ブックスタート」と言って、1992年にイギリスのバーミンガム大学が「子どもの好奇心・思考力を養い、そして本を読む楽しみを感じてもらう。それが教育の第一歩なんだ」と始めたものです。ミルクを飲むのと同じように、本を読むというのを、自然に行う。たくさんのことに興味を持つことも、好奇心を植え付けていくひとつの手法なんだと思います。
沖縄の名護市では第1冊目の本として「程順則ものがたり」がプレゼントされるそうだ。
山口:程順則さんという方は名護市にいらっしゃった方ですが、江戸時代のはじめに琉球の久米島に生まれました。5回も中国にわたり、晩年は名護の親方として、みなさんが平安に暮らせるようにと、塾を開いていたそうです。そんな程順則さんは、中国を訪れた際に、これをみんなで読んで欲しいと「六諭衍義」という本を持って帰ってこられたそうです。
6つの教えが書いてある本なんですけど、1番には「親孝行をしなさい」と書かれてあります。2番目は「年上の人を尊敬しなさい」、3番目は「故郷の人たちと仲よくしなさい」、4つ目は「子どもたちを正しく教え導きなさい」、5つ目は「自分の運命に従いなさい」、そして最後の6つ目は「悪いことはしてはいけない」。「この6つを守っていれば何をしても大丈夫」と教えてくれる本です。
程順則はこの本を当時の将軍様である徳川吉宗のところまで届けさせたそうだ。
山口:それを読んだ吉宗が「これは素晴らしい本だ。全国でこの本を広めましょう」と感銘を受け、寺子屋などでも「六諭衍義」が教えられるようになったそうです。
僕も「程順則ものがたり」が欲しくて、本屋さんで聞いたのですが「売っている本ではないので、うちでは取り扱ってないんです」と仰いました。ただとてもいい本なので、ぜひ読んでみてください。お父さん・お母さんへの親孝行、悪いことをしてはいけないなど人間が基本的に大切にすべきことが描かれています。そんなことを思いながら、沖縄のおいしい料理を食べることも素敵なことだと思います。
山口:昔は何でも「採れたて・新鮮」がおいしいと言われていました。ただ最近は熟成という技術が発達しています。お刺身やお寿司にも熟成という高度な技術が活かされていますね。新鮮なものが好きか、それとも熟成したものが好きか。それは好き嫌いによりますが、僕も21日間くらい熟成したマグロというのは本当においしいと感じるようになってしまいました。
ステーキのお肉に関しても同じです。新鮮なお肉をおいしいと感じる方も多いと思いますが、お肉をゆっくりと寝かせて熟成させた方が、旨味成分が出てくると言われています。僕は今回、名護にありますザ・リッツ・カールトン沖縄の鉄板焼き「喜瀬」でお食事をしてきました。
沖縄にはブランド牛「もとぶ牛」というものがある。
山口:喜瀬ではもとぶ牛を、女性のシェフが上手に焼いてくださいました。お肉を食べる前にからし菜を出してくださいました。からし菜って、焼くとおいしいんです。東京でもからし菜を買うことはできますが、鉄板焼きでからし菜を出してもらった経験はないような気がします。
もちろんお肉もおいしいです。「口の中でお肉が溶けていく感じがします」とシェフに伝えると、即座に「やんばるで育てられているもとぶ牛は、融点がほかの牛肉に比べて低いんです」と仰いました。
もとぶ牛は餌の中に沖縄のオリオンビールの粕を使ったオリジナルの発酵肥料が混じっているそうだ。
山口:それをすることで、不飽和脂肪酸というのが一般的な国産牛よりも多くなるそうです。融点が低い。つまりちょっとお肉を噛むと、口の中でジュワーっと溶けていくようになっているんです。
それにしても鉄板焼きでおいしかったのは花ニラです。お花が綺麗な星型になっていますが、内側は白、外側は紫なので、「スプリングスターフラワー」と呼ばれているそうです。イギリスの庭なんかにいくと、花ニラはたくさん植えてあるそうですね。
僕が食べたのはまだつぼみの段階でしたが、花ニラに沖縄の塩を振って、軽く鉄板焼きにしてくださいました。僕はニラがあまり得意ではないのですが、歯応えがシャキシャキとしていて、ステーキの付け合わせにピッタリでした。
山口さんはもうひとつ、沖縄ならではの料理を味わったそうだ。
山口:青いパパイヤのサラダも出していただきました。パパイヤは暑くなってくると、野菜ではなく果物として食べられるようになってしまうかと思いますが、ちょうどハンドボールサイズくらいのパパイヤがいっぱいなっていました。
沖縄本島ではサラダ用にと青パパイヤがたくさん売られています。サラダにしてもおいしいですが、ちょっと熟したのをチャンプルーにすると最高なのだそうです。青い海を見ながら、ゴルフをする。そして終わったらオリオンビールを飲みながらパパイヤサラダ、もとぶ牛のステーキを食べる。そんなおいしいものを食べていると海外のハワイに行かないで、沖縄で十分という気分にもなります。
名護はこれから暖かくなって、もう暑いかもしれないですが、ゴルフをプレイした後にオリオンビールともとぶ牛。そんなのはまるで極楽のような世界だと思います。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEでオンエア中のコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。放送日は2025年4月28日(月)〜5月1日(木)。同コーナーでは、独自の文化のなかで育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口さんが解説する。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが実際に名護市を訪れ、そこに暮らす人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
「紅型(びんがた)」という染め物
沖縄本島北部に位置し、総面積は210.90平方キロメートルと県内の総面積の約9%を占める名護市。竹富町、石垣市に次いで広大な面積を有している。「山原(やんばる)」と呼ばれる山や森林などが多く、美しい自然を満喫できる観光スポットやレジャー、リゾートホテルが多いのも特徴だ。
現地の方に「沖縄にもダウンジャケット売っているんですね」と言うと、「最近は気候の変動が激しいんです。でも恐らく、あと2〜3日もすると、暑くてたまらない日が訪れますよ」と仰いました。
沖縄には「紅型(びんがた)」という染め物の総称がある。
山口:沖縄で紅型染めの職人をやっている藤崎さんという方にお話しを伺いました。藤崎さんの工房は、名護市の東側の海沿いにあります。そこに何があるかというと辺野古です。辺野古基地を作っている現場の目の前が藤崎さんの工房でした。

首里染色館にて(写真:山口謠司)
昔の写真を見せてくださって、「辺野古の海にも島がいくつか浮かんでいて、とってもキレイだったんだけど、工事が始まってしまうと、なかなか海に行こうかなという気にはなれませんね」と仰っていました。
紅型は鮮明な色彩、大胆な配色、図形の素朴さが特徴だ。顔料と植物染料を使い、多彩な模様を描き出す。
山口:藤崎さんの工房で、たくさんの反物を見せてもらいましたけど、自分で京都まで生地を選びに行って、生地に合わせてオリジナルの柄をお作りになって、着物を染められるそうです。振袖から着物までをたったひとりで染めていらっしゃいます。
「どういう柄がお好きなんですか?」と訊きますと、庭に咲いてる花や木をモチーフにすることがほとんどなのだそうです。藤崎さんが仰るにはお父さん方もお母さん方も紅型の染め職人か陶器職人をやっていらっしゃったそうです。それ故、伝統的な紅型の柄もたくさんお持ちなんだとか。

首里染色館にて(写真:山口謠司)
山口:藤崎さんに「こういうお花があるんですか?」と聞いてみると、「これはアマゾンレディというお花ですよ」と仰いました。僕は見たことがなかったのですが、松田聖子さんが結婚式のときに、ブーケとして持たれたお花だそうです。
松田聖子さんがアマゾンレディのブーケを持ったことで一時ブームになり、新しく沖縄の紅型染にも使われるようになったそうです。やっぱり松田聖子さんの影響は大きいですね。着物の柄というのも、歌謡曲などから影響を受けて変化していくものなんだなと思いました。

(ザ・リッツ・カールトン沖縄の部屋の窓から望む 写真山口謠司)
母子手帳と一緒にプレゼントされるもの

『程順則ものがたり』@名護博物館 写真:山口謠司
山口:赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいるときからいろんな音楽を聴かせてあげると、聴力が発達します。お母様、お父様が赤ちゃんのそばでお話をすると、言語能力が発達するとも言われていますね。
今の時代、保護者の方が携帯ばかりを見て、お話をすることが少なくなりました。今こそ、大きな声で赤ちゃんに向かって話をしてあげて、聞く力をつけてあげないといけないと思います。
名護市では令和2年10月から「ブックスタート」という活動が始まった。
山口:「妊娠してますよ」とお医者さんに言われると、母子手帳をもらいます。母子手帳というのは母体の状態、それから出生後のお子さんの健康管理……例えば受けた予防接種の記録なんかをずっと記録していくものなので、大切に保管していないといけません。
この母子手帳をもらったときに恐らくほとんどの市町村で、「ご懐妊おめでとう」という言葉と併せて、本をプレゼントされると思います。これは「ブックスタート」と言って、1992年にイギリスのバーミンガム大学が「子どもの好奇心・思考力を養い、そして本を読む楽しみを感じてもらう。それが教育の第一歩なんだ」と始めたものです。ミルクを飲むのと同じように、本を読むというのを、自然に行う。たくさんのことに興味を持つことも、好奇心を植え付けていくひとつの手法なんだと思います。
沖縄の名護市では第1冊目の本として「程順則ものがたり」がプレゼントされるそうだ。
山口:程順則さんという方は名護市にいらっしゃった方ですが、江戸時代のはじめに琉球の久米島に生まれました。5回も中国にわたり、晩年は名護の親方として、みなさんが平安に暮らせるようにと、塾を開いていたそうです。そんな程順則さんは、中国を訪れた際に、これをみんなで読んで欲しいと「六諭衍義」という本を持って帰ってこられたそうです。
6つの教えが書いてある本なんですけど、1番には「親孝行をしなさい」と書かれてあります。2番目は「年上の人を尊敬しなさい」、3番目は「故郷の人たちと仲よくしなさい」、4つ目は「子どもたちを正しく教え導きなさい」、5つ目は「自分の運命に従いなさい」、そして最後の6つ目は「悪いことはしてはいけない」。「この6つを守っていれば何をしても大丈夫」と教えてくれる本です。
程順則はこの本を当時の将軍様である徳川吉宗のところまで届けさせたそうだ。
山口:それを読んだ吉宗が「これは素晴らしい本だ。全国でこの本を広めましょう」と感銘を受け、寺子屋などでも「六諭衍義」が教えられるようになったそうです。

沖縄のブランド牛「もとぶ牛」を味わう
「人間のおいしさの感覚というのは時代と共に変わっている」と山口さんは指摘する。山口:昔は何でも「採れたて・新鮮」がおいしいと言われていました。ただ最近は熟成という技術が発達しています。お刺身やお寿司にも熟成という高度な技術が活かされていますね。新鮮なものが好きか、それとも熟成したものが好きか。それは好き嫌いによりますが、僕も21日間くらい熟成したマグロというのは本当においしいと感じるようになってしまいました。
ステーキのお肉に関しても同じです。新鮮なお肉をおいしいと感じる方も多いと思いますが、お肉をゆっくりと寝かせて熟成させた方が、旨味成分が出てくると言われています。僕は今回、名護にありますザ・リッツ・カールトン沖縄の鉄板焼き「喜瀬」でお食事をしてきました。
沖縄にはブランド牛「もとぶ牛」というものがある。
山口:喜瀬ではもとぶ牛を、女性のシェフが上手に焼いてくださいました。お肉を食べる前にからし菜を出してくださいました。からし菜って、焼くとおいしいんです。東京でもからし菜を買うことはできますが、鉄板焼きでからし菜を出してもらった経験はないような気がします。
もちろんお肉もおいしいです。「口の中でお肉が溶けていく感じがします」とシェフに伝えると、即座に「やんばるで育てられているもとぶ牛は、融点がほかの牛肉に比べて低いんです」と仰いました。
もとぶ牛は餌の中に沖縄のオリオンビールの粕を使ったオリジナルの発酵肥料が混じっているそうだ。
山口:それをすることで、不飽和脂肪酸というのが一般的な国産牛よりも多くなるそうです。融点が低い。つまりちょっとお肉を噛むと、口の中でジュワーっと溶けていくようになっているんです。

もとぶ牛のステーキです! 写真:山口謠司
僕が食べたのはまだつぼみの段階でしたが、花ニラに沖縄の塩を振って、軽く鉄板焼きにしてくださいました。僕はニラがあまり得意ではないのですが、歯応えがシャキシャキとしていて、ステーキの付け合わせにピッタリでした。
山口さんはもうひとつ、沖縄ならではの料理を味わったそうだ。
山口:青いパパイヤのサラダも出していただきました。パパイヤは暑くなってくると、野菜ではなく果物として食べられるようになってしまうかと思いますが、ちょうどハンドボールサイズくらいのパパイヤがいっぱいなっていました。
沖縄本島ではサラダ用にと青パパイヤがたくさん売られています。サラダにしてもおいしいですが、ちょっと熟したのをチャンプルーにすると最高なのだそうです。青い海を見ながら、ゴルフをする。そして終わったらオリオンビールを飲みながらパパイヤサラダ、もとぶ牛のステーキを食べる。そんなおいしいものを食べていると海外のハワイに行かないで、沖縄で十分という気分にもなります。

沖縄本島の山々を望む 写真:山口謠司
この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。