提供:株式会社奥村組
「建設LOVE! 奥村くみ」──俳優・森川葵が社員に扮する建設会社・奥村組のCMシリーズは、今やすっかりお馴染みだ。しかし、こうしたポップな広報は、堅実なBtoB事業が中心のゼネコン業界では極めて異例の施策だった。
業界では、歴史的に各社とも活発なPR活動を行ってこなかった背景があり、創業100年超の奥村組も長らくトラブル時のマスコミ対応を主に行う「守りの広報」に徹してきたが、ある時期から知名度向上、イメージアップを目的とした積極的な広報活動を行う「攻めの広報」に転換。今や「同業他社から参考にしたい広告ナンバーワン」に輝くまでに至った。
老舗を突き動かした“悔しさ”とは? 元MBSアナウンサー・野嶋紗己子が、自らも体を張ってPRを行う奥村太加典社長に「攻めの広報」の流儀を聞いた
野嶋:かつて奥村組は「守りの広報」だったそうですね。BtoBビジネスで、かつ官公庁をお取引先としている以上、ゼネコンは構造的に大なり小なり「守りの広報」にならざるを得ないと推察します。
奥村:おっしゃる通りです。費用対効果がはっきりしないことにはお金を使わず、問題発生時のマスコミ対応にのみ注力していました。かつての奥村組は公共事業の比率が非常に高く、民間も固定のお客様が大半を占めていました。そのため、広報活動をする必要性が長らくなかったのです。しかし近年になって民間の受注比率が伸長し、ゼネコンにはじめて案件を依頼される企業との接点も増えていきました。そうなると、企業のご担当者様が奥村組を知らなければ、なかなか工事の受注に至りません。そんな事情から広報の必要性は高まりつつありました。
野嶋:「攻めの広報」への決定的な転機はなんだったのでしょう?
奥村: 1つ目のきっかけは、名古屋方面の民間建築案件を受注するべく、発注者様へ見積書を提出した時のことです。この時、当社よりも売上高が大きく、知名度の高い東京の会社も見積書を提出していたのですが、私たちのほうが好条件だったにもかかわらず、選ばれたのは東京の会社でした。それがすごく悔しくて。知名度・ネームバリューを高めなければ、他社との民間建築案件の受注競争に後れを取ってしまうと危機感を覚えました。
野嶋:なるほど。
奥村:その後しばらくして、2つ目のきっかけとなる出来事がありました。奥村組は1986年に日本初の実用免震ビル「奥村組技術研究所管理棟」を竣工し、建物そのものを人工的に揺らして免震装置の性能を確認する実験を竣工時から概ね10年ごとに実施しています。国内でいち早く実用免震ビルを建設した当社だからこそできる実験ですので、これを広くPRしたいと考えていましたが、自社で各メディアに声をかけた程度では芳しい反応を得られませんでした。ところが、竣工30年目の2016年に実験を行うタイミングで広告代理店にPRを委託したところ、多数のテレビ・新聞・雑誌に取り上げられ、多くの反響をいただきました。そこではじめて広報の大きな効果を実感し、「『攻めの広報』に変えよう!」とスタンスを切り替えたんです。
奥村:何かいいPRの機会はないかと各所に働きかけていたところ、2018年1月に開催される「第37回 大阪国際女子マラソン」協賛の提案が舞い込んできたのです。その話は早急にYesかNoかを判断しなければなりませんでした。費用対効果がどれほど期待できるのか、社名露出がどれくらいあるのかといった検証をする時間もなく、もう「えいや!」という気持ちで協賛することにしたんです。
野嶋:とにかく、まずはやってみようと。
奥村:「大阪国際女子マラソン」の協賛は、3時間に及ぶ中継番組の中でCMを10分間放映できるパッケージでした。30秒CMに換算すると20本分です。しかし、当社には放映するCMがありませんでした。また、CMを作ったとしても同じものを何度も流したら、視聴者の方に飽きられてしまう。そこで、最初から複数本のCMを作ろうとなり「奥村くみ」シリーズが誕生しました。
野嶋: CMがショートドラマのようなストーリー仕立てになっていたのは、そういった理由からだったのですね。
奥村:初回放映時、森川さんは22歳でした。ちょうど大卒新入社員の年齢です。また、彼女は高校でインテリアを勉強されており、建設業との親和性もありました。こうした背景も踏まえ、森川さん扮する若手社員・奥村くみが成長していく姿を描いたシリーズとして、ほぼ毎年新作を公開しています。
野嶋:初回放映から8年目を迎え、シリーズ最新作でくみちゃんは現場所長に昇進しましたよね。過去作に出演した俳優・山中崇さんも「育休中の先輩」として登場するなど、感慨深くなる設定やストーリーだと感じます。
野嶋:吉田選手を起用したCMは、どのように生まれたのですが?
奥村:吉田選手は知人から紹介いただいたのですが、実際にお会いしたら、非常に紳士で礼儀正しく、また“根っからの野球小僧”という印象を受けたんです。その人柄が奥村組の信条である「堅実経営」「誠実施工」にマッチすると考えてオファーしました。
野嶋:森川さんもそうですが、吉田選手も奥村組の作業服を着ているのが印象的です。
奥村:吉田選手はすごく筋肉質で、奥村組の作業服のLLサイズがピタッと合うんですよ。タレントさんをCM起用する場合、様々な事情から企業の制服着用が難しいケースも少なからずあるのですが、森川さんも吉田選手も当社の作業服を着続けてくださっているのはうれしいことです。
奥村:五輪4大会連続出場のレジェンドマラソンランナー・福士加代子さんとの1km走対決です。ハンディキャップはもらいましたが、あくまでも真剣勝負ということで。最初に話を聞いたときは「えっ、マジ!?」と驚きました。
野嶋:リアルな反応ですね(笑)。たしかに、社長自らがここまで体を張る企業のPRは珍しいものです。ご自身で提案されたのでしょうか?
奥村:いやいや、広報課からの提案です。私が常日頃から広報課に「予算を削れるところは削れ!」と口酸っぱく言っているものですから、その言葉を逆手に取った広報課は「社長が出演すれば一番安く済みます」と話を持ってくるんです。だから、断れないんです(笑)。
野嶋:また、ギター弾き語りのライブイベント「J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE」にも協賛されていますね。これもまた異例な組み合わせだと思います。
奥村:「大阪国際女子マラソン」でスポーツ協賛をしているので、文化・芸術方面も何かお手伝いしたいと思い協賛することにしました。
野嶋:どのような反響がありましたか?
奥村:お取引先の方からライブを見てみたいとお声がけいただいたり、空港利用時にグランドスタッフの方から「奥村組さんは『ギタージャンボリー』協賛されてるんですか?私ファンなんです」と言われたりと、いろんなところで反応がありましたね。
野嶋:「攻めの広報」を展開したことで、どんな効果が得られたのでしょう。
奥村:営業活動において、以前は東日本での知名度が低く「当社は大阪に本社を置く総合建設会社で……」などと説明しなければならなかったのですが、今では東京の方にも「奥村組の●●と申します」と言えば通じるようになりました。また、初めてお会いする企業のご担当者様に「いいCMやってますね!」とうれしい言葉をかけてもらうこともあり、知名度の向上を肌で感じています。
野嶋:知名度がアップしたことで新しく受注できた、ということもあるのでしょうか?
奥村:そうですね。実際にCMを放映してから、過去に全くお取引のなかった企業・法人からお声掛けいただく機会が増えました。
野嶋:「広報の力」を実感するお話ですね。
奥村:野嶋さんがおっしゃるように建設業界は今、深刻な人手不足の状況です。採用予定人数に達しない「定員割れ」となる会社も多いのですが、当社は概ね定員を満たすことができているので、CMなどの広報活動が役立っているように感じます。
野嶋:それはすごいですね!奥村組の広報では、以前の建設業界の「3K(きつい・汚い・危険)」というネガティブなイメージを払拭するため建設業界を挙げて推進している「新3K+K(給料がよい・休暇が取れる・希望がもてる+かっこいい)」を打ち出し、業界全体のイメージアップにも努めてらっしゃいますよね。その成果もあったのでしょうか。
奥村:はい、かつての3Kのイメージからはかなり変わってきたと思います。国土交通省OBで外郭団体におられる方が大阪の工業高校をリクルートで回っていたとき、先生から「奥村組さんのCMのおかげで親御さんの建設業界に対するイメージが変わったので助かってます」と言われたそうです。実際に人事部からは、内定者の辞退率が下がっているとの報告も受けています。
奥村:同業他社との差別化を図るために、これまでにSNS用ショート動画の制作や、吉田選手と私による手紙のやり取りを掲載した産経新聞の広告、京浜東北線の中吊り広告枠を独占する「トレインジャック」など様々な企画を実施しました。とはいえ、同じことを続けていても意味がないので、新しい広報のやり方を常に模索しています。
野嶋:手を変え品を変え新しいことを仕掛けていく背景には、おもしろさを追求する社長の「関西魂」もあったりするのでしょうか?
奥村:そうかもしれません。私自身、CMはクスッと笑えるものでないとダメだと思ってるんですよ。ありきたりなCMでは埋もれてしまう。だから今後も、奥村組は他とはちょっと違うCMを作っていきたいと考えています。
奥村:大切にしているのは「自社の自慢だけをしないこと」です。
野嶋:企業の広報活動というと、つい自社のPRに集中してしまいそうなものですが。
奥村:地方自治体の方は必ずしも全国規模のゼネコンに目を向けていません。その土地に根差した建設会社さんとの関係をより重視する傾向が強いのです。自然災害発生時、地元の建設会社は緊急車両が通行できるように道路上のがれきの撤去などを行い、インフラの復旧にあたります。我々ゼネコンも被災地に向かいますが、遠方となると、どうしても到着までに時間を要してしまう。そんな中で、いち早く重機とともに現場に駆け付けるのが地元の建設会社さんです。それゆえに、地方自治体と地元の建設会社さんの関係性は強固なのです。こうした地方の建設会社と地域の方々の関係に配慮した上で、奥村組のPRをしつつ、建設業界全体のイメージが向上するような広報を心掛けています。
野嶋:一社勝ちではなく「三方よし」の精神を大切にされているのですね。では最後に、これからの展望をお願いします。
奥村:これからも「新しい広報」の手法を考案し、業界の中で一番先に実践していきたいです。やはり、みなさん注目されるのは一番手であって、リリースが少しでも遅れたら二番煎じになってしまう。「真似した」と言われるのは嫌ですから、現状に満足せず「攻め」の姿勢を貫いていこうと思います。
野嶋:奥村組がどんな斬新な「攻めの広報」を繰り出してくるのか、楽しみにしています!
奥村:はい、ぜひ期待していてください!
(取材・文=小島浩平、撮影=竹内洋平)
「建設LOVE! 奥村くみ」──俳優・森川葵が社員に扮する建設会社・奥村組のCMシリーズは、今やすっかりお馴染みだ。しかし、こうしたポップな広報は、堅実なBtoB事業が中心のゼネコン業界では極めて異例の施策だった。
業界では、歴史的に各社とも活発なPR活動を行ってこなかった背景があり、創業100年超の奥村組も長らくトラブル時のマスコミ対応を主に行う「守りの広報」に徹してきたが、ある時期から知名度向上、イメージアップを目的とした積極的な広報活動を行う「攻めの広報」に転換。今や「同業他社から参考にしたい広告ナンバーワン」に輝くまでに至った。
老舗を突き動かした“悔しさ”とは? 元MBSアナウンサー・野嶋紗己子が、自らも体を張ってPRを行う奥村太加典社長に「攻めの広報」の流儀を聞いた
「受注に至らない悔しさ」が転機に
免震技術のパイオニアとして知られる建設会社・奥村組は、1907年(明治40年)に幕を開けた老舗企業だ。高い技術力を持ち、日本初の実用免震ビルを手掛けるなどの実績を持つ同社は、業界内でも「堅い企業」という評価を受けてきたと奥村社長は語る。野嶋:かつて奥村組は「守りの広報」だったそうですね。BtoBビジネスで、かつ官公庁をお取引先としている以上、ゼネコンは構造的に大なり小なり「守りの広報」にならざるを得ないと推察します。
奥村:おっしゃる通りです。費用対効果がはっきりしないことにはお金を使わず、問題発生時のマスコミ対応にのみ注力していました。かつての奥村組は公共事業の比率が非常に高く、民間も固定のお客様が大半を占めていました。そのため、広報活動をする必要性が長らくなかったのです。しかし近年になって民間の受注比率が伸長し、ゼネコンにはじめて案件を依頼される企業との接点も増えていきました。そうなると、企業のご担当者様が奥村組を知らなければ、なかなか工事の受注に至りません。そんな事情から広報の必要性は高まりつつありました。

<奥村太加典◎おくむら・たかのり:1962年生まれ。1986年入社。関西支社次長、東京支社営業部長、常務取締役を経て2001年より現職。2020年から24年6月まで全国建設業協会会長を務める。>
奥村: 1つ目のきっかけは、名古屋方面の民間建築案件を受注するべく、発注者様へ見積書を提出した時のことです。この時、当社よりも売上高が大きく、知名度の高い東京の会社も見積書を提出していたのですが、私たちのほうが好条件だったにもかかわらず、選ばれたのは東京の会社でした。それがすごく悔しくて。知名度・ネームバリューを高めなければ、他社との民間建築案件の受注競争に後れを取ってしまうと危機感を覚えました。
野嶋:なるほど。
奥村:その後しばらくして、2つ目のきっかけとなる出来事がありました。奥村組は1986年に日本初の実用免震ビル「奥村組技術研究所管理棟」を竣工し、建物そのものを人工的に揺らして免震装置の性能を確認する実験を竣工時から概ね10年ごとに実施しています。国内でいち早く実用免震ビルを建設した当社だからこそできる実験ですので、これを広くPRしたいと考えていましたが、自社で各メディアに声をかけた程度では芳しい反応を得られませんでした。ところが、竣工30年目の2016年に実験を行うタイミングで広告代理店にPRを委託したところ、多数のテレビ・新聞・雑誌に取り上げられ、多くの反響をいただきました。そこではじめて広報の大きな効果を実感し、「『攻めの広報』に変えよう!」とスタンスを切り替えたんです。
成長する社員「奥村くみ」。印象的なCMが生まれたワケ
野嶋:奥村組初のテレビCMは、「建設LOVE 奥村くみ」というシリーズです。こちらのCMはどのような経緯で生まれたのでしょうか?奥村:何かいいPRの機会はないかと各所に働きかけていたところ、2018年1月に開催される「第37回 大阪国際女子マラソン」協賛の提案が舞い込んできたのです。その話は早急にYesかNoかを判断しなければなりませんでした。費用対効果がどれほど期待できるのか、社名露出がどれくらいあるのかといった検証をする時間もなく、もう「えいや!」という気持ちで協賛することにしたんです。
野嶋:とにかく、まずはやってみようと。

<野嶋紗己子◎のじまさきこ:2019年 慶應義塾大学を卒業後、MBS(毎日放送)にアナウンサーとして入社。報道・情報番組のサブキャスターや経済番組の司会、ラジオパーソナリティなどを務めたのち、2024年1月より独立。フリーのMC・モデレーターとして活動を開始。ビジネスメディア「PIVOT」ではMC・プロデューサーを務め、経済・テクノロジー(AI)・金融など幅広いテーマで年間150本以上の対談やイベントに携わり、政治家や企業トップ、研究者、投資家らと議論を重ねている。J-WAVEでは『JAM THE PLANET』の月曜日ナビゲーター。>
野嶋: CMがショートドラマのようなストーリー仕立てになっていたのは、そういった理由からだったのですね。
奥村:初回放映時、森川さんは22歳でした。ちょうど大卒新入社員の年齢です。また、彼女は高校でインテリアを勉強されており、建設業との親和性もありました。こうした背景も踏まえ、森川さん扮する若手社員・奥村くみが成長していく姿を描いたシリーズとして、ほぼ毎年新作を公開しています。
野嶋:初回放映から8年目を迎え、シリーズ最新作でくみちゃんは現場所長に昇進しましたよね。過去作に出演した俳優・山中崇さんも「育休中の先輩」として登場するなど、感慨深くなる設定やストーリーだと感じます。
【奥村くみのCM動画】
奥村組初のテレビCMとして2018年1月より放映開始となった「奥村くみ」シリーズ。俳優の森川葵が建設を愛する若手社員・奥村くみを演じ、毎年新作を公開(※2021年を除く)。2025年8月にオンエアされた最新作(「くみ、所長になる」篇、「育休中の先輩」篇)では、入社8年目にして現場所長へステップアップしている。
建設LOVE 奥村くみ くみ、所長になる篇 (15秒)
建設LOVE 奥村くみ 育休中の先輩篇(15秒)
現役メジャーリーガーを起用したCMも話題に
成功事例を得たあとも、奥村組は「攻め」の手をゆるめなかった。2024年1月には、現役メジャーリーガー・吉田正尚選手をイメージキャラクターに抜擢した。野嶋:吉田選手を起用したCMは、どのように生まれたのですが?
奥村:吉田選手は知人から紹介いただいたのですが、実際にお会いしたら、非常に紳士で礼儀正しく、また“根っからの野球小僧”という印象を受けたんです。その人柄が奥村組の信条である「堅実経営」「誠実施工」にマッチすると考えてオファーしました。
野嶋:森川さんもそうですが、吉田選手も奥村組の作業服を着ているのが印象的です。
奥村:吉田選手はすごく筋肉質で、奥村組の作業服のLLサイズがピタッと合うんですよ。タレントさんをCM起用する場合、様々な事情から企業の制服着用が難しいケースも少なからずあるのですが、森川さんも吉田選手も当社の作業服を着続けてくださっているのはうれしいことです。
【吉田選手のCM動画】
吉田選手にとって初のCM出演となった本作。その内容は、吉田選手が奥村組の建設現場を訪問し、そこで感じ取った同社の社員たちの堅実さ・誠実さ・熱意をモノローグ調で語るというものだ。
【奥村組】吉田正尚選手出演CM「やるぞ」篇(30秒)
【奥村組】吉田正尚選手出演CM「やれる」篇(30秒)
自らも体を張ってPR…五輪出場ランナーとガチ対決!
野嶋:このほか、社長の中で印象的だったPR活動は何でしょうか?奥村:五輪4大会連続出場のレジェンドマラソンランナー・福士加代子さんとの1km走対決です。ハンディキャップはもらいましたが、あくまでも真剣勝負ということで。最初に話を聞いたときは「えっ、マジ!?」と驚きました。
野嶋:リアルな反応ですね(笑)。たしかに、社長自らがここまで体を張る企業のPRは珍しいものです。ご自身で提案されたのでしょうか?
奥村:いやいや、広報課からの提案です。私が常日頃から広報課に「予算を削れるところは削れ!」と口酸っぱく言っているものですから、その言葉を逆手に取った広報課は「社長が出演すれば一番安く済みます」と話を持ってくるんです。だから、断れないんです(笑)。
【福士さんとの1km走対決動画】
「第42回 大阪国際女子マラソン」の特別企画として、福士加代子さんと奥村社長の1km走対決が実現。2004年アテネ五輪から2016年リオオデジャネイロ五輪まで4大会連続でオリンピック出場を果たしたレジェンドアスリートと、還暦ランナー社長の勝負の行方はいかに。
1kmガチ対決!!福士加代子×奥村組 奥村太加典社長【第42回大阪国際女子マラソン記念対談】#2
奥村:「大阪国際女子マラソン」でスポーツ協賛をしているので、文化・芸術方面も何かお手伝いしたいと思い協賛することにしました。
野嶋:どのような反響がありましたか?
奥村:お取引先の方からライブを見てみたいとお声がけいただいたり、空港利用時にグランドスタッフの方から「奥村組さんは『ギタージャンボリー』協賛されてるんですか?私ファンなんです」と言われたりと、いろんなところで反応がありましたね。
約10億円の広報費用 ─ 肌で感じる成果
奥村組の広告宣伝費は約10億円。奥村社長によれば、建設業界における同規模程度の企業と比較した場合、かなり多くの予算を広告宣伝に割いているという。「大阪国際女子マラソン」の協賛から8年。広報活動へ注力を続けた成果は、確かな形となって表れているようだ。野嶋:「攻めの広報」を展開したことで、どんな効果が得られたのでしょう。
奥村:営業活動において、以前は東日本での知名度が低く「当社は大阪に本社を置く総合建設会社で……」などと説明しなければならなかったのですが、今では東京の方にも「奥村組の●●と申します」と言えば通じるようになりました。また、初めてお会いする企業のご担当者様に「いいCMやってますね!」とうれしい言葉をかけてもらうこともあり、知名度の向上を肌で感じています。
野嶋:知名度がアップしたことで新しく受注できた、ということもあるのでしょうか?
奥村:そうですね。実際にCMを放映してから、過去に全くお取引のなかった企業・法人からお声掛けいただく機会が増えました。
野嶋:「広報の力」を実感するお話ですね。
業界自体のイメージも塗り替えた「新3K+K」
野嶋:また、昨今の建設業界では人手不足が叫ばれていますが、「攻めの広報」を仕掛けたことで採用面においてポジティブな変化はありましたか?奥村:野嶋さんがおっしゃるように建設業界は今、深刻な人手不足の状況です。採用予定人数に達しない「定員割れ」となる会社も多いのですが、当社は概ね定員を満たすことができているので、CMなどの広報活動が役立っているように感じます。

奥村:はい、かつての3Kのイメージからはかなり変わってきたと思います。国土交通省OBで外郭団体におられる方が大阪の工業高校をリクルートで回っていたとき、先生から「奥村組さんのCMのおかげで親御さんの建設業界に対するイメージが変わったので助かってます」と言われたそうです。実際に人事部からは、内定者の辞退率が下がっているとの報告も受けています。
「同業他社から参考にしたい広告のナンバーワン」に
独自の広告戦略は業界内でも注目を集める。建築雑誌「日経アーキテクチュア」(日経BP)2024年9月26日号掲載の主要建設会社を対象とした「参考にしたい同業他社の広告」に関する調査の結果で、奥村組は1位に輝いている。この結果に奥村社長は「大変ありがたく、名誉なことだと感じています」と喜びつつ、視線は既に次の一手を見据える。奥村:同業他社との差別化を図るために、これまでにSNS用ショート動画の制作や、吉田選手と私による手紙のやり取りを掲載した産経新聞の広告、京浜東北線の中吊り広告枠を独占する「トレインジャック」など様々な企画を実施しました。とはいえ、同じことを続けていても意味がないので、新しい広報のやり方を常に模索しています。
野嶋:手を変え品を変え新しいことを仕掛けていく背景には、おもしろさを追求する社長の「関西魂」もあったりするのでしょうか?
奥村:そうかもしれません。私自身、CMはクスッと笑えるものでないとダメだと思ってるんですよ。ありきたりなCMでは埋もれてしまう。だから今後も、奥村組は他とはちょっと違うCMを作っていきたいと考えています。
PR施策は「三方よし」の精神を大切に
「攻めの広報」で建設業界におけるPRの常識に風穴を開ける奥村組。そのラジカルな取り組みの根底にある、大切にしていることは何なのか――。野嶋が尋ねたところ、奥村社長からはこんな答えが返ってきた。奥村:大切にしているのは「自社の自慢だけをしないこと」です。
野嶋:企業の広報活動というと、つい自社のPRに集中してしまいそうなものですが。
奥村:地方自治体の方は必ずしも全国規模のゼネコンに目を向けていません。その土地に根差した建設会社さんとの関係をより重視する傾向が強いのです。自然災害発生時、地元の建設会社は緊急車両が通行できるように道路上のがれきの撤去などを行い、インフラの復旧にあたります。我々ゼネコンも被災地に向かいますが、遠方となると、どうしても到着までに時間を要してしまう。そんな中で、いち早く重機とともに現場に駆け付けるのが地元の建設会社さんです。それゆえに、地方自治体と地元の建設会社さんの関係性は強固なのです。こうした地方の建設会社と地域の方々の関係に配慮した上で、奥村組のPRをしつつ、建設業界全体のイメージが向上するような広報を心掛けています。
野嶋:一社勝ちではなく「三方よし」の精神を大切にされているのですね。では最後に、これからの展望をお願いします。
奥村:これからも「新しい広報」の手法を考案し、業界の中で一番先に実践していきたいです。やはり、みなさん注目されるのは一番手であって、リリースが少しでも遅れたら二番煎じになってしまう。「真似した」と言われるのは嫌ですから、現状に満足せず「攻め」の姿勢を貫いていこうと思います。
野嶋:奥村組がどんな斬新な「攻めの広報」を繰り出してくるのか、楽しみにしています!
奥村:はい、ぜひ期待していてください!
(取材・文=小島浩平、撮影=竹内洋平)
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