提供:奥村組
2025年は、阪神・淡路大震災から30年の節目の年だ。未曾有の大地震が近畿圏に甚大な被害をもたらすなか、兵庫県神戸市に建つ2棟の「免震建物」がほとんど無被害で済んだことをご存知だろうか。
それを機に普及していった免震技術。現在では市庁舎やオフィスビル、集合住宅、病院など、様々な建物に導入されている。今では身近な存在となったが、どんな仕組みなのか、どんな効果を発揮するのか、具体的には知らないという人も多いのでは。
そこで今回は、免震技術のパイオニアである建設会社・奥村組への取材を実施した。俳優・モデルのJ-WAVEナビゲーター・中田絢千が同社の技術研究所に足を運び、研究開発に携わる社員に取材。さらに、実際の実験が行われる施設も見学し、免震技術が生活者にもたらす価値を深掘りしていった。
中田:はじめに、免震技術とはどのようなものか教えてください。
小山:免震技術とは文字どおり、地震の揺れから「免れる」ための技術です。建物の下に免震層(絶縁層)を設け、揺れを建物に伝わりにくくすることを目的としています。
中田:「耐震」という言葉も一般的によく聞きますが、どう違うのでしょうか?
小山:耐震技術は、建物自体の強度を高めて建物全体で地震のエネルギーを受け止めるように設計する技術です。一方の免震技術では、免震層が地震のエネルギーをほとんど吸収します。免震層内には積層ゴム支承やダンパー(減衰装置)といった免震装置が設置されており、これらが地震のエネルギーを吸収・緩和するクッションとなって、建物の揺れを緩やかにしていくという仕組みです。
中田:建物そのものではなく、建物下の免震層がカギを握っているんですね。では、免震建物は、そこで生活・活動する人にとってどのような効果やメリットがあるのかも伺いたいです。
小山:建築基準法では、日本が過去に経験した震度6強~7の大きな地震が発生しても、倒壊・崩壊しないように設計することが求められています。しかし、建築基準法に則った建物だとしても、2016年の熊本地震のように震度7の地震が相次いで発生することまで想定した設計を行っていませんので、短期間のうちに断続的に大きな地震が発生した場合、倒壊・崩壊には至らなくても、建物内がグチャグチャになってしまう……ということもあり得るんです。
中田:そうなんですね……。
小山:免震建物であれば、ゆっくりと緩やかに揺れ、耐久性にも優れていますので、万が一立て続けに大きな地震に見舞われたとしても、被害が比較的少なくて済み、水道や電気と言ったインフラの復旧状況にもよりますが、建物内で生活を続けられる可能性が高いんです。
中田:もしも被災した場合でも継続して自宅で暮らせることは、生活者として心強いですね。
中田:奥村組さんは免震技術のパイオニア企業だとお聞きしました。なんでも、他社に先駆けて1980年代初頭から免震技術の研究開発に着手されていたとか。
小山:はい。免震技術の生みの親として知られる建築構造学者の多田英之先生の指導のもと、免震技術を建物に採り入れる研究を進め、1986年に日本初の実用免震ビルとなる「奥村組 技術研究所 管理棟」を完成させました。しかし、1995年の阪神・淡路大震災までは、なかなか普及には至りませんでした。というのも、当時の建設業界において免震技術は「これはすごい技術だ」と評価される一方、実績面に乏しく「構造的に本当に大丈夫なの?」という声もあり、評価が二極化していたんですよ。
中田:阪神・淡路大震災は、多くの建物が倒壊するなど、甚大な被害が出た災害です。事前に調べてみたのですが、内閣府のデータによると、全壊した家屋は約10万5000棟、半壊は約14万4000棟にものぼったとか。そんななかで、免震建物の被害状況はどのようなものだったのでしょうか?
小山:阪神・淡路大震災で特に被害を受けた神戸市には2棟の免震建物が建っていました。この2棟はいずれも被害がほとんどなく、震災後も利用できる状態だったんです。このことによって一躍脚光を浴びた免震技術は、急速に広まっていき、市庁舎や病院といった重要施設に使われるようになりました。最近では倉庫、超高層の集合住宅、ニッチなところだと、貴重な美術品を飾る展示ケースなど、多岐にわたって活用されています。
中田:病院が免震建物であれば、患者さんは安心して医療行為を受けられそうですね。
小山:そうですね。最近建てられた大きな病院は、その多くが免震技術を採用しているんです。2024年1月1日に起きた能登半島地震の被災地にも、免震技術を採用した病院がありました。その病院では、もともとあった建物の隣に免震棟を新設していたそうで、震災発生後は医療従事者と患者さん全員が免震棟に避難し、電気が通った環境下で医療行為を受けられたようです。
中田:実際に災害時において、命を守ることに繋がっているんですね。
小山:管理棟では、建物そのものを人工的に揺らす実験を、竣工時、19年目、30年目と、おおむね10年毎に計3回行っています。前回の実験は2016年でしたので、次の実験は2026年を予定しています。
中田:建物を人工的に揺らすって、すごい!
小山:実験では、油圧ジャッキにより建物の側面を10cmグッと押し込んだあとに、パッと離した反動で建物をユッサユッサと自由振動させる……というものです。
中田:なぜそのような実験を行っているのでしょうか?
小山:管理棟の免震層には、一基あたり100トン程度の重量を支えている積層ゴムが合計25基設置されています。積層ゴムは時間の経過とともにその特性が変化し、表面が固くなります。管理棟に設置された積層ゴムは、年季の入ったいわばビンテージものです。その固さの変化を把握するとともに、長期間経過しても、設計当時に想定した免震性能が確保されているか、十分に安全であるかを確認するために行っているんです。ちなみに、自由振動実験では震度6弱相当の揺れを起こすのですが、建物内で社員が執務をしている状況で行っています。
中田:えっ、社員の方たちが仕事をしているタイミングで震度6弱の揺れが起こるんですか? 抜き打ちで!?
小山:いやいや、館内アナウンスなどで事前に予告しています(笑)。
中田:さすがにそうですよね(笑)。いずれにしても、免震技術の効果を社員の方が身をもって体感されているのは素晴らしいなと思いました。まさにリアルで大掛かりな防災訓練のようにも感じます。
小山さんが案内してくれたもう一つの技術研究所内施設が、耐震実験棟だ。ここでは、3次元振動台や長周期振動台などの国内最高レベルの性能を誇る装置を用いて、耐震、免震、制振の効果を検証している。
小山:3次元振動台は、4m×4mのテーブル「振動台」に地震を模擬した揺れを起こして、その上に建物の模型・ミニチュアを建てて検証する装置です。
中田:その上にもう一つ、台が乗っていますね。
小山:こちらは長周期振動台という装置で、巨大地震によって発生する周期が長くゆっくりとした大きな揺れ「長周期地震動」を忠実に再現します。以前は地震といえばガタガタと小刻みに激しく揺れるものと想定していたのですが、阪神・淡路大震災で観測された地震により、地面が大きく揺れ動くことが分かりました。その揺れを再現しなければ、今後起こり得る大地震に対応できないということで導入に至ったんです。
中田:そっか。地震の揺れもワンパターンではないですもんね。
小山:そうなんです。阪神・淡路大震災以降、日本全国で網羅的に地震の観測を行うようになり、集まった膨大なデータから「地震とはこんなにも多種多様なのか」と気付かされました。その中で長周期地震動が度々観測されたので、今こうしてその対策を研究しているわけです。
小山:免震建物は阪神・淡路大震災以降、たしかに急速に増加しましたが、それでも日本全国でまだ6000棟弱しかありません。免震技術には、既存の非免震建物に免震装置を取り付けて免震化する「免震レトロフィット」と呼ばれる技法(奥村組東京本社ビルも同技法で免震化)もありますが、それでも免震建物が十分に普及しているとは言えないのが現状です。
中田:普及が進みづらい理由は、例えばどういったことがあるのでしょうか。
小山:まずは、免震建物を設計できる技術者が少ないことなどが挙げられます。加えて、耐震と比べて初期投資が高くなる傾向にあることも理由と言えるでしょう。
中田:有用な技術だからこそ、もっと広まっていってほしいですね。
小山:本当にそう思います。新しい地震を観測する度に免震技術の有用性を実感します。同時に「改善すべき点」も新たに浮かび上がります。それらをすくい上げ、研究開発を続けていくことで、生活者にとってより良い免震技術を作り上げたいです。
中田:では、最後の質問です。現在、南海トラフ地震や首都直下地震への関心が高まっていますが、こうした将来起こる可能性の高い巨大地震に向けて、奥村組さんではどのような技術開発を行っているのか教えてください。
小山:南海トラフ地震や首都直下地震では、長周期地震動による被害が懸念されています。長周期地震動が発生すると、免震建物の変位および免震装置の負荷が大きくなるので、それに対応し、免震層の過大な変位を抑制するVOD® というダンパーを開発しました。現在も、VOD®のさらなる高度化も含めた研究開発を進めています。こういった研究開発を継続していくことで、未曾有の巨大地震にも耐えうる付加価値の高い建物・施設を提供していきたいと考えています。
中田:今回お話を伺う中で、免震技術は建物そのものだけでなく、建物を利用する人々やその人たちの生活、暮らしの根幹を守るものだということを知り、大変勉強になりました。また、この技術が私たちの身近な施設にも採り入れられているとのことから、「この建物は免震なのかな?」と、普段の建物そのものの見方も変わりそうな気がします。そして、暮らしの安全に直結する技術だからこそ、より身近に一般的なものとなって、これから先多くの方へ広がっていってほしいとも感じました。
(取材・文=小島浩平、撮影=竹内洋平)
2025年は、阪神・淡路大震災から30年の節目の年だ。未曾有の大地震が近畿圏に甚大な被害をもたらすなか、兵庫県神戸市に建つ2棟の「免震建物」がほとんど無被害で済んだことをご存知だろうか。
それを機に普及していった免震技術。現在では市庁舎やオフィスビル、集合住宅、病院など、様々な建物に導入されている。今では身近な存在となったが、どんな仕組みなのか、どんな効果を発揮するのか、具体的には知らないという人も多いのでは。
そこで今回は、免震技術のパイオニアである建設会社・奥村組への取材を実施した。俳優・モデルのJ-WAVEナビゲーター・中田絢千が同社の技術研究所に足を運び、研究開発に携わる社員に取材。さらに、実際の実験が行われる施設も見学し、免震技術が生活者にもたらす価値を深掘りしていった。
<茨城県つくば市にある、奥村組の技術研究所。写真に映る「管理棟」は、鉄筋コンクリート造の地上4階建て。1985年に実用建物として日本で初めて免震構造評定を取得し、1986年に竣工した>
「耐震」と「免震」はどう違う?
地震大国の日本で暮らす以上、震災は決して他人事ではない。災害時の対応も大切だが、建物に施す地震対策技術も気になるところだ。いったいどんな技術で、どのように私たちの安全を守っているのか? 奥村組の建築研究グループで免震技術に関する研究開発を行う小山慶樹さんに話を聞いた。中田:はじめに、免震技術とはどのようなものか教えてください。
小山:免震技術とは文字どおり、地震の揺れから「免れる」ための技術です。建物の下に免震層(絶縁層)を設け、揺れを建物に伝わりにくくすることを目的としています。
中田:「耐震」という言葉も一般的によく聞きますが、どう違うのでしょうか?
小山:耐震技術は、建物自体の強度を高めて建物全体で地震のエネルギーを受け止めるように設計する技術です。一方の免震技術では、免震層が地震のエネルギーをほとんど吸収します。免震層内には積層ゴム支承やダンパー(減衰装置)といった免震装置が設置されており、これらが地震のエネルギーを吸収・緩和するクッションとなって、建物の揺れを緩やかにしていくという仕組みです。
<管理棟の下にある免震装置>
小山:建築基準法では、日本が過去に経験した震度6強~7の大きな地震が発生しても、倒壊・崩壊しないように設計することが求められています。しかし、建築基準法に則った建物だとしても、2016年の熊本地震のように震度7の地震が相次いで発生することまで想定した設計を行っていませんので、短期間のうちに断続的に大きな地震が発生した場合、倒壊・崩壊には至らなくても、建物内がグチャグチャになってしまう……ということもあり得るんです。
中田:そうなんですね……。
小山:免震建物であれば、ゆっくりと緩やかに揺れ、耐久性にも優れていますので、万が一立て続けに大きな地震に見舞われたとしても、被害が比較的少なくて済み、水道や電気と言ったインフラの復旧状況にもよりますが、建物内で生活を続けられる可能性が高いんです。
中田:もしも被災した場合でも継続して自宅で暮らせることは、生活者として心強いですね。
<中田絢千(なかた・あやか):俳優、モデル。J-WAVEでは早朝の番組『JUST A LITTLE LOVIN’』をナビゲート中。今回の取材にあたり「私の父は摩擦材関連の仕事をしていたため、こういった実験施設がある工場などにも幼いながら訪れた記憶があり……なんとなく懐かしさも感じています」と語った>
1986年に日本初の実用免震ビルが完成
震災から建物そのものだけでなく、建物にいる人々の営みも守る免震技術。そのパイオニア企業としての第一歩を奥村組が踏み出したのは、今から40年ほど前に遡る。1985年に技術研究所が大阪から茨城県つくば市へ移転するにあたり、当時の技術者たちの間で「何か新しいことをしよう」という機運が高まり、「日本第1号の免震ビル建設」を目指したことが始まりだった。中田:奥村組さんは免震技術のパイオニア企業だとお聞きしました。なんでも、他社に先駆けて1980年代初頭から免震技術の研究開発に着手されていたとか。
小山:はい。免震技術の生みの親として知られる建築構造学者の多田英之先生の指導のもと、免震技術を建物に採り入れる研究を進め、1986年に日本初の実用免震ビルとなる「奥村組 技術研究所 管理棟」を完成させました。しかし、1995年の阪神・淡路大震災までは、なかなか普及には至りませんでした。というのも、当時の建設業界において免震技術は「これはすごい技術だ」と評価される一方、実績面に乏しく「構造的に本当に大丈夫なの?」という声もあり、評価が二極化していたんですよ。
中田:阪神・淡路大震災は、多くの建物が倒壊するなど、甚大な被害が出た災害です。事前に調べてみたのですが、内閣府のデータによると、全壊した家屋は約10万5000棟、半壊は約14万4000棟にものぼったとか。そんななかで、免震建物の被害状況はどのようなものだったのでしょうか?
小山:阪神・淡路大震災で特に被害を受けた神戸市には2棟の免震建物が建っていました。この2棟はいずれも被害がほとんどなく、震災後も利用できる状態だったんです。このことによって一躍脚光を浴びた免震技術は、急速に広まっていき、市庁舎や病院といった重要施設に使われるようになりました。最近では倉庫、超高層の集合住宅、ニッチなところだと、貴重な美術品を飾る展示ケースなど、多岐にわたって活用されています。
<株式会社奥村組 技術本部 技術研究所 建築研究グループ 小山慶樹(こやま・よしき)さん。免震建物などの構造設計や監理を経て、免震・制振構造の技術開発を担当。最近では、免震建物の巨大地震対策を行うVOD®を開発している。>
小山:そうですね。最近建てられた大きな病院は、その多くが免震技術を採用しているんです。2024年1月1日に起きた能登半島地震の被災地にも、免震技術を採用した病院がありました。その病院では、もともとあった建物の隣に免震棟を新設していたそうで、震災発生後は医療従事者と患者さん全員が免震棟に避難し、電気が通った環境下で医療行為を受けられたようです。
中田:実際に災害時において、命を守ることに繋がっているんですね。
実際に免震ビルを揺らす実験も!
「免震のパイオニア」であり続けるためには、継続的な技術研鑽が欠かせない。奥村組では、技術の安全性や効果を確かめるべく、技術研究所内の各施設で様々な実験を日々行っている。なかでも、1986年に竣工した日本初の実用免震ビル「管理棟」では特色ある実験を10年毎に実施していると、小山さんは説明する。小山:管理棟では、建物そのものを人工的に揺らす実験を、竣工時、19年目、30年目と、おおむね10年毎に計3回行っています。前回の実験は2016年でしたので、次の実験は2026年を予定しています。
中田:建物を人工的に揺らすって、すごい!
小山:実験では、油圧ジャッキにより建物の側面を10cmグッと押し込んだあとに、パッと離した反動で建物をユッサユッサと自由振動させる……というものです。
小山:管理棟の免震層には、一基あたり100トン程度の重量を支えている積層ゴムが合計25基設置されています。積層ゴムは時間の経過とともにその特性が変化し、表面が固くなります。管理棟に設置された積層ゴムは、年季の入ったいわばビンテージものです。その固さの変化を把握するとともに、長期間経過しても、設計当時に想定した免震性能が確保されているか、十分に安全であるかを確認するために行っているんです。ちなみに、自由振動実験では震度6弱相当の揺れを起こすのですが、建物内で社員が執務をしている状況で行っています。
中田:えっ、社員の方たちが仕事をしているタイミングで震度6弱の揺れが起こるんですか? 抜き打ちで!?
小山:いやいや、館内アナウンスなどで事前に予告しています(笑)。
中田:さすがにそうですよね(笑)。いずれにしても、免震技術の効果を社員の方が身をもって体感されているのは素晴らしいなと思いました。まさにリアルで大掛かりな防災訓練のようにも感じます。
小山さんが案内してくれたもう一つの技術研究所内施設が、耐震実験棟だ。ここでは、3次元振動台や長周期振動台などの国内最高レベルの性能を誇る装置を用いて、耐震、免震、制振の効果を検証している。
<「他ではやっていない実験に取り組んでいるので、失敗も多いです。『またダメだった……』という落胆を幾度となく乗り越えなければならない大変さがあります。また、自分の仕事が建物の安全、ひいてはそこで生活を営む人々の命を守ることに繋がっているというプレッシャーもあります」と責任の大きさも感じていると語った>
中田:その上にもう一つ、台が乗っていますね。
小山:こちらは長周期振動台という装置で、巨大地震によって発生する周期が長くゆっくりとした大きな揺れ「長周期地震動」を忠実に再現します。以前は地震といえばガタガタと小刻みに激しく揺れるものと想定していたのですが、阪神・淡路大震災で観測された地震により、地面が大きく揺れ動くことが分かりました。その揺れを再現しなければ、今後起こり得る大地震に対応できないということで導入に至ったんです。
中田:そっか。地震の揺れもワンパターンではないですもんね。
小山:そうなんです。阪神・淡路大震災以降、日本全国で網羅的に地震の観測を行うようになり、集まった膨大なデータから「地震とはこんなにも多種多様なのか」と気付かされました。その中で長周期地震動が度々観測されたので、今こうしてその対策を研究しているわけです。
巨大地震に向けて、どんな対策をしているのか?
免震建物は現在、東京、神奈川、名古屋、大阪、仙台を中心に建てられている。とはいえ、課題も少なくないと小山さんは言う。小山:免震建物は阪神・淡路大震災以降、たしかに急速に増加しましたが、それでも日本全国でまだ6000棟弱しかありません。免震技術には、既存の非免震建物に免震装置を取り付けて免震化する「免震レトロフィット」と呼ばれる技法(奥村組東京本社ビルも同技法で免震化)もありますが、それでも免震建物が十分に普及しているとは言えないのが現状です。
中田:普及が進みづらい理由は、例えばどういったことがあるのでしょうか。
小山:まずは、免震建物を設計できる技術者が少ないことなどが挙げられます。加えて、耐震と比べて初期投資が高くなる傾向にあることも理由と言えるでしょう。
中田:有用な技術だからこそ、もっと広まっていってほしいですね。
小山:本当にそう思います。新しい地震を観測する度に免震技術の有用性を実感します。同時に「改善すべき点」も新たに浮かび上がります。それらをすくい上げ、研究開発を続けていくことで、生活者にとってより良い免震技術を作り上げたいです。
中田:では、最後の質問です。現在、南海トラフ地震や首都直下地震への関心が高まっていますが、こうした将来起こる可能性の高い巨大地震に向けて、奥村組さんではどのような技術開発を行っているのか教えてください。
小山:南海トラフ地震や首都直下地震では、長周期地震動による被害が懸念されています。長周期地震動が発生すると、免震建物の変位および免震装置の負荷が大きくなるので、それに対応し、免震層の過大な変位を抑制するVOD® というダンパーを開発しました。現在も、VOD®のさらなる高度化も含めた研究開発を進めています。こういった研究開発を継続していくことで、未曾有の巨大地震にも耐えうる付加価値の高い建物・施設を提供していきたいと考えています。
中田:今回お話を伺う中で、免震技術は建物そのものだけでなく、建物を利用する人々やその人たちの生活、暮らしの根幹を守るものだということを知り、大変勉強になりました。また、この技術が私たちの身近な施設にも採り入れられているとのことから、「この建物は免震なのかな?」と、普段の建物そのものの見方も変わりそうな気がします。そして、暮らしの安全に直結する技術だからこそ、より身近に一般的なものとなって、これから先多くの方へ広がっていってほしいとも感じました。
<奥村組 技術研究所では、免震技術以外にも、様々な研究を行っている。写真は、生物多様性の保全に関する研究の拠点である「ビオトープ」>
この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。