トンネルやダム、駅、商業施設──建設会社の仕事は、街と社会の維持・発展に欠かせないもの。大阪に本社を置く奥村組も1907年の創業以来、社会基盤を支えてきた老舗だ。しかし実は、奥村組の事業領域は本業の“建設事業”だけに留まらない。不動産賃貸事業に再開発事業、再生可能エネルギー事業、果ては水産業や農業まで、柔軟な発想力で、社会に新たな価値を創出すべくチャレンジを重ねている。
この10月には、産官学民の交流・連携によるイノベーションを生み出すことを目的とした新拠点「クロスイノベーションセンター」が誕生した。東京駅直結の超高層ビル・JPタワーの22階という東京のど真ん中に生まれた新オフィスに、J-WAVEナビゲーターのセレイナ・アンが潜入! 東京のおもしろさを発信する番組『GRAND MARQUEE』を日々お届けするセレイナも驚いたクリエイティブな工夫と、その根底にある“人ヘの想い”とは。
セレイナがインタビューしたのは、クロスイノベーションセンターの計画に携わった、奥村組 技術本部 技術戦略部 イノベーション担当部長兼DX・イノベーション課長の稲留康一さん。現在この場所では、技術開発を担う「技術本部」、情報通信技術の利活用を推進する「ICT統括センター」、採用活動を行う「人事部 採用グループ」、そして建設の枠を超えた新たな事業の開発に取り組む「新事業開発部」の4部門の社員が働いているそう。
セレイナ:建設以外の事業を立ち上げている部署もあるんですね! これまでに、どんな事業を開発してこられたのですか?
稲留:北海道石狩市で行っている木質チップやパーム椰子殻を燃やして発電するバイオマス発電事業や、長野県軽井沢市で行っている夏秋いちごの栽培・出荷事業などがあります。また、試験段階ですが、ふぐやバナメイエビの陸上養殖にも取り組んでいます。
セレイナ:発電事業に農業、水産業まで、建設会社の枠を超えた新事業の開発はまさに「イノベーション」ですね!
稲留:いずれの新事業も我々だけではなく、産官学民のさまざまな知見を持った方々と連携しながら進めています。そういった方々とより広く深く繋がり、連携することを目的に生まれたのが、このクロスイノベーションセンターなんです。JR東京駅から徒歩約1分でアクセスできる地を選んだのも、いろんな地域の方に足を運んでいただきやすいようにと考えたからです。
セレイナ:これからはこの新拠点で革新的な企画が生まれるんですね。
稲留:例えば、飲み屋さんでリラックスしながら話をしているときに、「こんなことができたらいいよね」と盛り上がることってありませんか? そんなコミュニケーションが活発に生まれる場にしたいと考えて、オフィス構造にもいろいろな工夫を凝らしました。
セレイナ:「都会的」「おしゃれ」という表層的なことだけでなく、アイデアを創出しやすくする狙いも込めているんですね。
そんな同エリアにおいて、目を引くのが、奈良県産の天然木を使用した休憩スペース「ならもくエリア」だ。
セレイナ:このスペースには、独自のこだわりがあるそうですね。
稲留:そうなんです。木造建築が多い日本において木材は関わりが深い素材ですし、木の香りにはリラックス効果があるとされていますよね。当社創業の地である奈良県の天然木を使って、心安らぐ空間を創出しています。特にこだわったのが、全長6メートルにも及ぶ吉野杉の一枚板で作ったカウンターです。
セレイナ:近づくと、木のいい香り。生の木の、スベスベした手触りも気持ちいいですね。
稲留:天然の素材の良さを活かすため、ニスなどを塗っていないんです。ただ、あまりに大き過ぎて、搬入時にすごく苦労しました(笑)。
セレイナ:そんなハプニングもあったとは(笑)。たしかに、こんなに大きな一枚板は初めて見ました。
稲留:カウンター側面のデザインにもこだわりました。実はこれ、奥村組のシンボルマークのモチーフでもある「人」をかたどっているんです。
セレイナ:あ、ほんとだ! 「人」がたくさん連なっていますね!
稲留:当社は「人こそ財産」と考え、人と人とのつながりを大切にしています。この「人」のマークは着色せず、素地のまま使っているので、表面の色合いや模様がそれぞれ微妙に異なっています。“多様な考え・個性を持つ人たちが、一つの大きなものを支えている”というメッセージを込めたんです。
セレイナ:奥村組さんのフィロソフィーが詰まったカウンターなんですね。
セレイナ:日替わりで場所を変えて働けば、その分、考え方が柔軟になりそうですよね。
稲留:おっしゃる通りです。新しい発想も生まれやすくなると考えています。
ディスカッションやプレゼンテーションを行う「Create Area」は、中央に特徴的な円形のソファーがある。全員の顔を見ながらリラックスして会話ができるスペースだ。
セレイナ:この円形のソファー、素敵ですね! 表情が見やすく、活発に意見が飛び交いそうですね。
稲留:ありがとうございます。先ほどご紹介したInnovate Areaは、気軽に集まってワイワイ話し合うエリアですが、このCreate Areaは、もう少し議論を深めて具体化していくエリアと位置付けています。
クロスイノベーションセンターは、出入り口から、Innovate Area、Create Area、Work Areaの順に並んでいる。稲留さんによると、コーヒーメーカーは、あえて最も出入口に近いInnovate Areaに設置したのだそう。そこにも、人とのつながりを活性化させる思惑がある。
稲留:Work Areaからコーヒーを飲みに行こうとしたら、Create Areaで何か興味深い話し合いをしている──そんなとき、会話に参加してくれればいいなと。その逆に、ここでミーティングをしている社員も「あの人なら何か知見を持っているかもしれない」と、通りかかった社員を呼び止められますよね。せっかくさまざまな部門の人間が一つのオフィスに集っているのだから、部門の垣根を超えて気軽にコミュニケーションを取り、新しいアイデアを生み出すきっかけを掴んでもらいたいんです。
セレイナ:人の循環が、そのままアイデアの循環と発展につながると。このオフィスの作り自体が、クリエイティブな発想がベースになっている印象を受けました。
稲留:ちなみに、この円形ソファーのミーティングスペースではWEB会議もできるようになっていて、中央には360度カメラを設置しています。話している人にカメラが自動で向く仕組みです。
奥の壁一面を飾るのは、ウォールアートだ。奥村組は、障がいを持つ方々を支援する取り組みとして、障がい者アート事業を行うパラリンアート(一般社団法人 障がい者自立推進機構)のゴールドパートナーとなり、全国の事業所や建設現場に障がい者アートを展示している。このウォールアートも障がいを持つ方が描いた作品だ。さまざまな色を用いて「円」を表現したもので、多種多様な人間が集まり、一つの輪になって歩んでいくという意味合いが込められているという。
オフィス内を見学する中で、実際に働く社員の方に話を聞くことができた。インタビューに応じてくれたのは、管理本部 人事部 採用グループ所属で入社5年目の濱野絵美里さん。この新オフィスについて、彼女はどんな印象を持っているのだろうか?
セレイナ:クロスイノベーションセンターに初めて来たとき、どんな印象を持たれましたか?
濱野:第一印象はとにかく開放的だと思いました。特に気に入っているのがフリーアドレス。日々違った席に座れて景色が毎日変わるので、気分転換ができています。固定席ではない分、他部署との交流が以前よりも図りやすくなった気がしますね。
セレイナ:では、オフィスの中で一番好きなスポットは?
濱野:東京駅を見下ろせる窓際のソファー席です。景色がとても良くて、気持ちよく仕事ができますし、四人掛けで毎日違う人と席を共にするので、まさにクロスイノベーションセンターが目指す働きやすさと活発な交流・連携を実現することができる席だなと思っています。
セレイナ:最後に、企業としてどんな未来を創っていきたいのか、今後の展開や想いを聞かせてください。
稲留:当社は、将来のありたい姿を示した「2030年に向けたビジョン」を掲げています。具体的には「企業価値の向上に努め、業界内でのポジションを高める」「持続的な成長に向け事業領域を拡大し、強固な収益基盤を築く」「人を活かし、人を大切にする、社員が誇れる企業へ」の実現を目指してさまざまな取り組みを進めています。このクロスイノベーションセンターはその取り組みをさらに加速させるために新設したわけですが、やはり大切なのは「人」です。イノベーションも人と人との関わりの中で生まれると思っていますが、当社のイズムとも言える「人を大切にする」ことを忘れてしまっては、よりよい形で仕事を進めていくことは出来ないと考えています。その奥村組の「イズム」を体現し、次の世代にも伝承していく場所が、このクロスイノベーションセンターだと思っています。
(取材・文=小島浩平、撮影=竹内洋平)
この10月には、産官学民の交流・連携によるイノベーションを生み出すことを目的とした新拠点「クロスイノベーションセンター」が誕生した。東京駅直結の超高層ビル・JPタワーの22階という東京のど真ん中に生まれた新オフィスに、J-WAVEナビゲーターのセレイナ・アンが潜入! 東京のおもしろさを発信する番組『GRAND MARQUEE』を日々お届けするセレイナも驚いたクリエイティブな工夫と、その根底にある“人ヘの想い”とは。
技術の応用×他企業とのコラボでイノベーションを生み出す
オフィスに足を踏み入れたセレイナは、「開放感があって、すごくワクワクする空間ですね!」と一言。丸の内の高層ビル群を臨むオフィスはフリーアドレスとなっており、一人で集中しやすいエリアから、カジュアルなミーティングができるスペースまで、一人ひとりがその日の仕事内容に合わせて働く場所を選べる先進的な構造だ。「Innovate Area」「Create Area」「Work Area」という3つのエリアに分かれているが、仕切りや扉などはなく、シームレスに繋がっている。<オフィスの様子。大きな窓に囲まれ、光がたっぷりと差し込む空間。場所によって空調の温度を変え、過ごしやすさへの配慮もしているという>
セレイナ:建設以外の事業を立ち上げている部署もあるんですね! これまでに、どんな事業を開発してこられたのですか?
稲留:北海道石狩市で行っている木質チップやパーム椰子殻を燃やして発電するバイオマス発電事業や、長野県軽井沢市で行っている夏秋いちごの栽培・出荷事業などがあります。また、試験段階ですが、ふぐやバナメイエビの陸上養殖にも取り組んでいます。
セレイナ:発電事業に農業、水産業まで、建設会社の枠を超えた新事業の開発はまさに「イノベーション」ですね!
稲留:いずれの新事業も我々だけではなく、産官学民のさまざまな知見を持った方々と連携しながら進めています。そういった方々とより広く深く繋がり、連携することを目的に生まれたのが、このクロスイノベーションセンターなんです。JR東京駅から徒歩約1分でアクセスできる地を選んだのも、いろんな地域の方に足を運んでいただきやすいようにと考えたからです。
(写真左:奥村組 技術本部 技術戦略部 イノベーション担当部長兼DX・イノベーション課長の稲留康一さん。右:J-WAVEナビゲーターでアーティストのセレイナ・アン)
稲留:例えば、飲み屋さんでリラックスしながら話をしているときに、「こんなことができたらいいよね」と盛り上がることってありませんか? そんなコミュニケーションが活発に生まれる場にしたいと考えて、オフィス構造にもいろいろな工夫を凝らしました。
セレイナ:「都会的」「おしゃれ」という表層的なことだけでなく、アイデアを創出しやすくする狙いも込めているんですね。
「人を大切に」企業のフィロソフィーを込めたオフィスデザイン
稲留さんが最初に案内してくれたのは、Innovate Areaだ。ここでは、長机と椅子のレイアウトが自由に変えられ、簡易的なミーティングが可能なほか、備え付けのプロジェクターを用いてセミナーや講演会、ワークショップも行える。さらに、レセプションスペースとしての用途も。実際に、オープニングパーティーもこの場所で行ったそう。(Innovate Areaは、机の向きを統一せず、どこに座っても窮屈感のないようにしている)
セレイナ:このスペースには、独自のこだわりがあるそうですね。
稲留:そうなんです。木造建築が多い日本において木材は関わりが深い素材ですし、木の香りにはリラックス効果があるとされていますよね。当社創業の地である奈良県の天然木を使って、心安らぐ空間を創出しています。特にこだわったのが、全長6メートルにも及ぶ吉野杉の一枚板で作ったカウンターです。
<木のぬくもりを感じる、ならもくエリア。身長差があっても目線を合わせて会話ができるよう、手前と奥で段差を設けたのだとか>
稲留:天然の素材の良さを活かすため、ニスなどを塗っていないんです。ただ、あまりに大き過ぎて、搬入時にすごく苦労しました(笑)。
セレイナ:そんなハプニングもあったとは(笑)。たしかに、こんなに大きな一枚板は初めて見ました。
稲留:カウンター側面のデザインにもこだわりました。実はこれ、奥村組のシンボルマークのモチーフでもある「人」をかたどっているんです。
セレイナ:あ、ほんとだ! 「人」がたくさん連なっていますね!
セレイナ:奥村組さんのフィロソフィーが詰まったカウンターなんですね。
人の「循環」を意識したオフィス構造
フリーアドレスのオフィスは、机や椅子の形状も多種多様だ。「社員にはその日の気分・テンションで働く場所を、柔軟に選んでほしい」という願いを込めた。セレイナ:日替わりで場所を変えて働けば、その分、考え方が柔軟になりそうですよね。
稲留:おっしゃる通りです。新しい発想も生まれやすくなると考えています。
<窓際には、カフェのように景観のいいスペースも。リフレッシュできる空間で、休憩からブレインストーミングまで、さまざまな用途が想像できる>
稲留:ありがとうございます。先ほどご紹介したInnovate Areaは、気軽に集まってワイワイ話し合うエリアですが、このCreate Areaは、もう少し議論を深めて具体化していくエリアと位置付けています。
クロスイノベーションセンターは、出入り口から、Innovate Area、Create Area、Work Areaの順に並んでいる。稲留さんによると、コーヒーメーカーは、あえて最も出入口に近いInnovate Areaに設置したのだそう。そこにも、人とのつながりを活性化させる思惑がある。
稲留:Work Areaからコーヒーを飲みに行こうとしたら、Create Areaで何か興味深い話し合いをしている──そんなとき、会話に参加してくれればいいなと。その逆に、ここでミーティングをしている社員も「あの人なら何か知見を持っているかもしれない」と、通りかかった社員を呼び止められますよね。せっかくさまざまな部門の人間が一つのオフィスに集っているのだから、部門の垣根を超えて気軽にコミュニケーションを取り、新しいアイデアを生み出すきっかけを掴んでもらいたいんです。
セレイナ:人の循環が、そのままアイデアの循環と発展につながると。このオフィスの作り自体が、クリエイティブな発想がベースになっている印象を受けました。
社員も、コミュニケーションの活性化を実感
最後に訪れたのは、オフィス最奥に位置する「Work Area」。「一人で集中したい」「仲間とコミュニケーションを取りながら業務を進めたい」など、多様なニーズを満たせるように執務スペースがレイアウトされている。また、本物の植物とフェイクグリーンが随所に散りばめられ、働く人たちに安らぎを与えている。奥の壁一面を飾るのは、ウォールアートだ。奥村組は、障がいを持つ方々を支援する取り組みとして、障がい者アート事業を行うパラリンアート(一般社団法人 障がい者自立推進機構)のゴールドパートナーとなり、全国の事業所や建設現場に障がい者アートを展示している。このウォールアートも障がいを持つ方が描いた作品だ。さまざまな色を用いて「円」を表現したもので、多種多様な人間が集まり、一つの輪になって歩んでいくという意味合いが込められているという。
セレイナ:クロスイノベーションセンターに初めて来たとき、どんな印象を持たれましたか?
濱野:第一印象はとにかく開放的だと思いました。特に気に入っているのがフリーアドレス。日々違った席に座れて景色が毎日変わるので、気分転換ができています。固定席ではない分、他部署との交流が以前よりも図りやすくなった気がしますね。
濱野:東京駅を見下ろせる窓際のソファー席です。景色がとても良くて、気持ちよく仕事ができますし、四人掛けで毎日違う人と席を共にするので、まさにクロスイノベーションセンターが目指す働きやすさと活発な交流・連携を実現することができる席だなと思っています。
伝えていきたい奥村組の「イズム」
クロスイノベーションセンターには他にも特筆すべき点が。たとえば、ガラス張りのミーティングルームには、特殊技術を駆使したガラスを採用し、室外からは会議中のモニター画面を視認できないようにしている他、社員がオフィス内のどこにいるのかをリアルタイムで可視化する「メタバースオフィス」も用意。無人コンビニ「TUKTUK」に、災害時にも活用できる複数の大型バッテリー、来賓者にオフィスの案内などをするインテリジェントロボットなど、便利な設備・備品が満載だった。<左上:話しやすい配慮がなされた特殊技術のガラスを用いた会議室、右上:コミュニケーションを円滑化するメタバースオフィス、左下:フードとドリンクが買えるTukTuk、右下:オフィスの案内をするインテリジェントロボット。細部まで、働きやすさに配慮している。画像提供:奥村組>
(取材・文=小島浩平、撮影=竹内洋平)
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