音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
「もしペリーが開国に失敗していたら、日本の音楽はどうなっていた?」坂東祐大が手がけた実験的作品の背景に迫る

「もしペリーが開国に失敗していたら、日本の音楽はどうなっていた?」坂東祐大が手がけた実験的作品の背景に迫る

作曲家/音楽家の坂東祐大が、作曲家になるまでの道のりや、音楽大学の附属高校で学んだ経験、日本の作曲家として感じる根無し草の感覚について語った。

坂東が登場したのは、クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』。この番組は毎週ひと組、クリスが今、声を届けたい人を迎える30分のトークプログラム。月曜から木曜はラジオでオンエアし、翌金曜には放送した内容に加えて、限定トークも含むポッドキャストを配信している。

ここでは、9月8日(火)にオンエアしたトーク内容(ポッドキャストのエピソード2)をテキストで紹介する。

・ポッドキャストページ

作曲家への道は、自分で選択してない

幼いころに母の影響でピアノを始めた坂東は、小学6年生のころに作曲の先生を紹介されたという。

クリス:作曲することが好きになっていったんですか?

坂東:好きではないんですよ。ルートを敷かれちゃって「ノー」と言えず、みたいな(笑)。小学6年生の後半だったかな、作曲の先生のところへ行ったら開口一番、「あなた、藝高(東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校)に行くのよね」と言われて「あ、はい」みたいな。漫画みたいな話ですけど。

クリス:中学生くらいで、先々どこに行くという感覚ではなかった?

坂東:ないですね。いつの間にか、そうなっちゃっていた感じで。本当に、あんまり自分で選択していないんですよ。

クリス:何か別になりたいものが強くあったわけでもない?

坂東:(なりたいものが)なくて。でも本当は、映画監督とかをやってみたかったんです。でも、音楽にリソースをかけすぎちゃったから逃げられなくなって。

クリス:これから映画を撮る可能性だって、あるかもしれないですよね。

坂東:いやぁ、ないですね。

クリス:逆に、実際に関わると、ないですかね。

坂東:ないというか、リソースを音楽に全振りしちゃったので、是枝裕和監督含めてですが、それだけリソースを全部(映画に)傾けている方に対して「やっぱりダメだわ」みたいな気持ちになります。

クリス:仕事を始めて、実際にそのことをやっている方に会うと本当に思いますよね。

坂東:思いますね。「無理だ」っていう。

カオスだった「超特殊」な高校

坂東は、その後、東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校へ進学する。

坂東:高校がすごく特殊なんですよ。藝大の音楽学部の附属高校なので、美術部はないんです。音楽学部ですが、各専攻がいるので、作曲から始まって僕の場合は声楽科もいきました。(他には)ピアノ、弦楽器、管楽器、木管楽器。あとは三味線とかの邦楽……それが1学年40人なんです。

クリス:40人のなかで、そのみなさんがいらっしゃると。バラバラですね。

坂東:3学年で120人しかいない。超特殊じゃないですか、そんな学校。

クリス:先々、音楽をやっていこうという方たちが集まっているわけですよね。

坂東:そうなんです。そのルートから逃れるのは、けっこう難しいというか。そういう特殊な高校に行っちゃったんです。

クリス:同じ方向性や似た学力の人が集まる学校とは違って、社会に出るといろんな人がいて、むしろ面白かったんじゃないですか?

坂東:面白かったけど、かなり違うのでけっこうカオスですよね。そういう集まりで高校3年間を過ごしたうえで大学へ行くと、すごく薄まるんですよ。そこまでキャラが濃い人が大学からは来ないというか。作曲科は学年で僕ひとりしかいなかったんです。大学に入ると突然、十何人とか入ってくるので。

教室でさまざまな楽器の演奏を身近に見られたことは、現在の作曲にも活きているという。

坂東:あらゆる楽器の人たちが教室にいるので、どういうロジックで何をやっているのかが、だいたいわかるんですよ。フィジカルをめちゃくちゃ見ているので、「こういう原理でこれをやっているんだ」と。何が難しいか、何が嫌だと言われるか、これはギリギリできるとか、これはやりやすいとか、だいたいわかります。

クリス:わかりすぎて困ることはないんですか?

坂東:あまりないかな。「難しい」と言われても、ニコニコして「頑張って」と言うだけなので(笑)。

クリス:(笑)。高校時代の同級生や先輩、後輩と今も作品で一緒になることはありますか?

坂東:いっぱいいます。いつもやっているアンサンブルは、本当に部活みたいな感じです。もちろん、学校が被っていない人もいっぱいいますが、基本のノリは部活という感じです。

番組では、坂東祐大 feat. Richard Bonaの『Voices』をオンエアした。

Voices (「報道ステーション」テーマ曲) (feat. リチャード・ボナ)

何かしら自分の根っこがもうちょっと見えていてほしい

坂東はこれまでのトークで、日本の作曲家には“根無し草”的なところがあると感じていることに触れていた。クリスが、それは最近思うようになったことなのかと尋ねると、坂東は「最近ですね」と答えた。

坂東:コロナ後かな、という感じで。歴史を考えれば考えるほど、やっぱり「虚業だな」みたいな気持ちになってきちゃって。虚業と言うと失礼かもしれないですが、日本において作曲家は、わりと新しい職業なんです。伝統的な歌舞伎の作品などは、たぶん三味線のプレイヤーが作っていたもので、作曲家がいて、それを楽譜に残して作曲しますという例は、そんなに長い歴史的な文脈があるわけじゃないんですよ。滝 廉太郎とか、明治維新後ぐらいからしか始まらないのでわりと近しい話じゃないですか。そう考えると、「やっぱり根がないな、これ」という。

クリス:それって美術などもそうですが、西洋の学び方やルールから学びがある?

坂東:というか、自国のカルチャーとあまり結びつかないんですよね。クラシック音楽って、ルーツがヨーロッパにあるじゃないですか。詳しく勉強すればするほど、キリスト教的な部分など、どうやってもわからない部分があるんです。僕自身はどこの宗教を信じているわけではないので、その根幹がわからないんです。生活習慣も文化圏も考え方も全部違うから、「ローカライズできないよ、これ」っていう。料理みたいに、全員が本格フレンチとか本格イタリアンとかを目指すんですが、作曲でそれをやっても仕方ないかなと(思っています)。

クリス:へええ。でも、それはけっこう大きな壁じゃないですか。

坂東:そうなんですよ。でも、今さら和食を勉強するほど、そこへリソースを全振りすることもできない。OSみたいなもので、WindowsとMacのOSは両方同時にインストールできないじゃないですか。“クラシックOS”を完全にインストールしちゃったから、中途半端に抜くこともできないし、「これ、どうしたらいいのかな」というのをすごく考えるようになりました。魅力的な創作和食になるのか、創作フレンチ和食になるのかわからないですが、そういうものになったときに、何かしら自分の根っこがもうちょっと見えていてほしいな、というのはあります。

本当の和洋折衷で表現してみる

その流れを受け、坂東は3月に埼玉県・彩の国さいたま芸術劇場で「坂東祐大 新作 ムジークテアター『キメラ』―あるはずのないメソッドの空想」を上演した。(編注:動画は2025年2月に実施したワーク・イン・プログレス公演、2026年3月に本公演を上演)

2025年2月22日(土) 坂東祐大 新作 ワーク・イン・プログレスの様子

クリス:『キメラ』は、先ほどのお話をかたちにしたものなんですか?

坂東:それを直球でやった作品ですね。思考実験みたいな作品ですが、ペリー来航で日本の音楽はすごく変わったんですよ。軍楽隊を連れてきたことで、いろんなものが一気に近代化、西洋カルチャー化する。『キメラ』という作品内では、もしペリーの開国が失敗していたらという“What if”(もしそうだったら)を考えて。開国もしないし、そのまま閉じこもるのではなく半開きで、徐々に近代化していったら、というタイムラインを事細かに洗って考えていきました。

クリス:歴史を想像するところから始まっているんですね。

坂東:そうです。「尺八がフルートと出会っていたら、どうなっていたのか」を本当に考える、という。都山流や琴古流にあるような型から、架空の流派を作るんです。「この流派では、これをよしとしています」という型を全部作ったあとに、それを実際のストーリーへ入れ込み、前半は全部“嘘”のレクチャーをするんです。

クリス:ミュージシャンのみなさんも、普段とは違うことをやったんですか?

坂東:普段と違うテクニックを、他の楽器から全部習ってもらいました。バイオリニストに胡弓を習ってもらって、「コキュオリン」と言って、胡弓をバイオリンみたいに弾いてもらったりして。あとは、琴がギターの人に渡っていたら、というのも考えて、ギタリストに琴を習ってきてもらいました(笑)。

一方で、坂東は「完全に和洋折衷にすると、たぶんみなさんが思っているバランスと違う」と続ける。

坂東:今の和洋折衷って、ほぼ洋が9で和が1なので。ちょっとスパイスで入れてみました、昆布を入れてみましたくらいなので、本当に5:5でやってみようと。「すごく変なものになるけど、大丈夫?」という感じで、1回やってみようって。

クリス:すごいですね。

坂東:簡単に「和とコラボレーション」とみんな言っちゃうけれど、そんなに甘くないよって。OSがこんなに違うんだから、徹底的にやってみようと(なりました)。

クリス:実際に舞台や空間で、生身の人間がやることが大事だったんですかね。

坂東:そうですね。具現化しないと面白くないので。レクチャーができたのも面白くて、嘘を一度、みんなが飲み込んでくれるというか。

クリス:「高度な遊び」と言うと、変ですが。

坂東:そうです。やっていることは、ほとんどロバート秋山さんの『クリエイターズ・ファイル』に近い(笑)。

クリス:またやってください。

坂東:やりたいです、ぜひ。

坂東祐大の最新情報は公式サイトまで。

クリス智子がお届けする『TALK TO NEIGHBORS』は、J-WAVEで月曜~木曜の13時よりオンエア。ポッドキャストでも配信中。


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番組情報
TALK TO NEIGHBORS
月・火・水・木曜
13:00-13:30