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アート写真雑誌『IMA』エディトリアルディレクターから見た、被写体としての「東京」

アート写真雑誌『IMA』エディトリアルディレクターから見た、被写体としての「東京」

アートフォトマガジン『IMA』(アマナ刊)のエディトリアルディレクター・太田睦子が、写真雑誌を創刊した理由や、写真だからこそ表現できる東京の面白さを語った。

太田が登場したのは、4月12日(日)放送のJ-WAVE『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)の「WORLD CONNECTION」。ゲストを招き、世界の最新カルチャーに迫るコーナーだ。

アート写真業界では、日本の作家は世界で高く評価されている

太田睦子は、1991年にサントリー広報部に入社。その後、『マリ・クレール』『エスクァイア日本版』『GQ JAPAN』などで雑誌編集に携わったのち、フリーランスの編集者として独立。2012年のアートフォトマガジン『IMA』創刊から、エディトリアルディレクターとして写真集の発行やイベントなどで幅広く活躍している。まず、ナビゲーターの小川は『IMA』のコンセプトを訊いた。

太田:『IMA』は4月と10月の年2回発行しておりまして、「Living with Photography」をテーマとして、国内外のアートフォトグラファーの作品とその活動をご紹介しています。ビジュアル・コミュニケーションを生業としているアマナという会社から発行しておりまして、2012年の創刊から今年で14年目を迎えます。

小川:本当にすごい雑誌を作り続けてるなと思います。ディテールが素晴らしくて。もちろん、世界中のフォトグラファーの写真もいいんですけど、ページによって紙質を変えていたり、作家さんのインタビューも充実していて、アートやフォトグラフィーを伝えることにすごく力を注いでいるのが伝わってくる雑誌です。アートのなかでも写真表現にフォーカスしているのはなぜでしょうか?

太田:発行元のアマナがもともと写真を媒介にした会社なので、アート写真に特化した雑誌を作ろうということになったんですが、実は日本ってアート写真の業界では世界中ですごく評価されている国なんです。日本人の写真家は非常に評価が高いですし、注目されているんですよ。

東京は両極端なものが混在している都市

太田の経歴から出身地の話となったが、太田も小川と同じく東京都三鷹市出身だという。

小川:太田さんは東京都出身だそうですね。

太田:はい。東京ですけど、三鷹市出身です。

小川:私もです! まさか同じだとは。

太田:でも、母が銀座とか京橋のあたりで育ってるので、あまり東京出身とは言えないなと思っています。

小川:私も、実はあんまり東京出身だとは思ってないです。

太田:よく「武蔵野の子ね」とか「多摩の子ね」と言われていたので。

小川:太田さんにとっての「東京らしさ」ってどんなものですか?

太田:先々週、ニューヨークとロサンゼルスに行っていたんですが、海外に行くとやっぱり「東京って広いな」と思います。パリもニューヨークも思ってるよりも小さいんです。東京は広いなかにもいろいろなものが混在していて、新・旧もそうですし、聖・俗、人工物・自然とか、両極端なものが混在している。ハイブランドのショップが立ち並ぶ表参道みたいな街がある一方で、自然豊かな高尾山もあるし、なんなら島もある。そういうものが混在している都市ってなかなかないと思うんです。

小川:そうですね。

太田:あと、ちょっと前に仕事で銀座の歴史を調べたんですが、東京大空襲や江戸時代の大火とか、街並みがずっと変わらなかったヨーロッパとは異なり、東京という都市は過去に大きく変わらざるを得ない経験をしてきていると実感しました。その経験が東京を新鮮に保っている理由なのかなと。

「旅行者はたぶん、日本に過去を求めにやって来ている」

東京の話になったところで、太田に「東京」という被写体の魅力について訊いた。

小川:世界中のフォトグラファーにとって、東京という街の「被写体としての魅力」はどんなところにあるんでしょうか?

太田:東京って、あんまり計画的に作られた町じゃないので混沌としていて、その矛盾とかズレが常に共存してるというか、同時進行している気がします。そういう点が、写真家の心のアンテナに引っかかるというか、すごく面白く感じる点なんじゃないかなと思いますね。超高層ビルが立ち並ぶ近未来的な風景もあれば、その隣に古い街並みが残っていたりもしますが、外国では国家が街を強制的に変えてしまったり、ヨーロッパのように石造りの建物に長い歴史が残ってる都市もあったりする。東京は日々どんどん変わっていきますが、アジアのカオス感もありつつ、でもちょっと近代的みたいなところがすごく面白いんじゃないかなと。

小川:その混沌さが魅力なんですね。特に好まれる東京の風景ってあったりしますか?

太田:ちょっと前に、パリから来たクリエイターにインタビューしたときに面白い話が出たんですけど、その方は、かつて自分が若いころは日本に近未来を求めてやってきていた、と。たとえば、映画『AKIRA』の世界観とか、ウォークマンが世界中を席巻したときのイメージ。だけど今は、旅行者はたぶん日本に過去を求めにやって来ていると言っていて。でも、それは日本が過去を持ってるからということではなくて、日本に対して世界が勝手に求めているだけなのかもしれないですけど、東京の過去の時間が蓄積されている場所の面白さみたいな部分が、海外の方に求められているんじゃないかと思います。

小川:実際に東京を撮影した作品で有名なものはありますか?

太田:東京を題材にした海外の作家の写真作品はたくさんあります。もう亡くなってしまいましたが、ウィリアム・クラインという巨匠が1960年代に撮影した東京のシリーズ『TOKYO 1961』では、東京の舞踏集団や街の風景をたくさん撮影しています。ブルース・ギルデンというハードな写真家が撮った作品では、浅草の三社祭で神輿を担ぐ方々を撮影していますし、マイケル・ウルフという写真家は満員電車で押しつぶされている人をガラス越しに撮った『Tokyo Compression』(東京圧縮)というシリーズを発表しています。ほかにも面白い作品がたくさんありますよ。

小川:満員電車って海外から見たら奇妙な感じがして、もはやアートなのかもしれないですね。

太田:あと、岐阜県にあるニュートリノ観測装置のスーパーカミオカンデを撮影したことで知られるアンドレアス・グルスキーは、昔の証券取引所をものすごいダイナミックに撮影しています。この方は、カミオカンデやパリの無機質な大規模マンションのように、整然とした集合体のような風景を撮影することで知られていますが、証券取引所の職員の整然とした動きが東京の面白さみたいなものとして、海外のアーティストの琴線に触れたのかもしれません。

東京をレタッチで丸裸にする、安藤瑠美の写真の魅力

現在、J-WAVEでは東京の魅力を再確認する春のキャンペーン「MY STORY TOKYO ―僕らがここにいる理由―」を展開中。その集大成として、5月5日(火・祝)9時〜17時55分にスペシャル番組『MY STORY TOKYO -僕らがここにいる理由―』をオンエアする。同キャンペーンのメイン画像は、以前、アマナグループに在籍していたレタッチャー/フォトグラファーの安藤瑠美が手がけている。

小川:安藤さんはKIRINJIのジャケットにも起用された写真家さんですよね。太田さんも関わりがあったと伺いました。

太田:そうですね。安藤さんはもともとアマナでレタッチャーとして活躍すると同時に、作品も作られていて。キャンペーンに起用されている作品は、2025年に発売された安藤さんの『TOKYO NUDE 100』という写真集に収録されていますが、これが高く評価されまして、現在はアーティストとして活動されています。安藤さんはレタッチャーという経歴を活かして、東京の風景から看板の文字とかノイズを全部取り払っているんですね。だから、丸裸になった東京というか、もうほんとにヌードというタイトルのとおりなんですけども、一見、無機質なようでどこか現実の風景のような感じもあって、理想化された東京にも見える不思議な光景になっているんです。その違和感がすごく面白い作品です。

小川:そうなんですよね。見てきた東京と違うというか、「夢の中の東京感」もあるんですよね。レタッチャーってどういうお仕事なんでしょうか?

太田:レタッチは女優さんの肌の色味を整えることで知られていますが、たとえば看板を消したり、逆にノイズを入れたり、決して画面をきれいにするだけじゃないところが面白い仕事です。ほかにも、レタッチの技法を使って作品を発表している方が最近増えていますよ。

小川:アートフォトグラフィーの世界で、写真作品をレタッチするってどういう意味を持つんでしょうか? 私たちも撮影したものの一部を隠すなどは日常的に行っていますけど。

太田:ちょっと前までは、カメラのシャッターを切って撮ったものが作品という感じだったと思うんですが、今はさまざまな手法を加えてアートとして表現するようになっています。わざとすごく古い写真に見える技法を使うような方もいますし、最先端のデジタル技術を使う方もいる。写真を撮っておしまいじゃなくて、そのあとにいろいろな表現方法を駆使して加工する方が多くなりました。みんなが写真というアートに対して自由になってきている感じがします。

小川:いいですね。『IMA』を見ていても、写真作品をいろんな技術を使って表現していることが伝わってきますね。

太田:日本語だと写真って「真実を写す」って書くんですけど、「フォトグラフィー」ってもとは「光で描く」という意味なんです。なので、光を駆使しながらさまざまなものを描いていく、そのツールの選択肢が今はたくさんあるという意味では、すごく面白い時代なのかなと思います。

『IMA』は作品によって紙を10種類以上使い分ける

最後に、4月29日(水・祝)に発売された『IMA』の最新号Vol.45の内容について大谷に訊いた。

小川:『IMA』のVol.45はどういう内容なんでしょうか。

太田:近年、写真家たちが単に撮るだけじゃなくて、リサーチとか思考のプロセスをすごく大事にしているということで、医学とか歴史学とか生物学とかいろんなジャンルの研究者と一緒に協業して写真作品を作る方が増えてきているんです。写真家本人が研究やリサーチして作品を撮る人、そういうリサーチ系の写真家が生み出すアート写真を特集する予定です。たとえば、北極まで行って北極の氷の光で作品を作ったり、数学者の数式をビジュアライズして作品を作ったり、面白い作家の方々がたくさん登場します。

小川:それはとても面白そうですね! 最後に、アート作品としての写真に触れたことがない方に、楽しみ方を教えていただけますか?

太田:ギャラリーに行ってみたり、美術館に行ってみたりというのももちろんそうなんですが、私たちの雑誌『IMA』は特に紙で写真を表現するということを大事にしていまして、作品によって紙を10種類以上使い分けています。雑誌ってデバイスで見ることが多いと思うんですが、紙にプリントされたときの見え方の違いをぜひ写真集や雑誌で楽しんでいただきたいです。ちょうど4月18日(土)から、京都で『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭』という写真のフェスティバルが始まるんですが、すごく立体的な大きな写真が展示されます。また、私が今、展示を手伝っている『浅間国際フォトフェスティバル PHOTO MIYOTA』もこの夏に開催されますので、フォトフェスティバルで楽しんでいただくのもいいと思います。

小川:イベントだと作家さんもいらっしゃいますし、学芸員の方の説明も聞けたりして初心者の方にはとてもいいんじゃないかなと思います。もちろん、雑誌『IMA』も作品だけでなくインタビューもかなり充実してるので、まずは雑誌からイメージを膨らませつつ、イベントにも参加していただけたらと思います。『IMA』は紙ならではのずっしりとした重みがあって、大切に保存しておきたい1冊です。

アートフォトマガジン『IMA』の詳細は公式サイトまで。

『ACROSS THE SKY』のコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは毎週日曜の9時20分ごろから。

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