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役者の“自然な会話の芝居”しかし撮影現場では…松居大悟監督が語る、当たり前がひっくり返った経験

役者の“自然な会話の芝居”しかし撮影現場では…松居大悟監督が語る、当たり前がひっくり返った経験

6月13日(金)公開の映画『リライト』の監督を務める松居大悟が、自身の“当たり前”がひっくり返ったエピソードを語った。

松居が登場したのは、6月3日(火)放送のJ-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』(ナビゲーター:長井優希乃)の「VIBES JINRUIGAKU」。長井がゲストとともに「人と世界」について考えるコーナーだ。

甘酸っぱい青春から“イヤミス”の世界へ

映画監督としてはもちろん、劇団ゴジゲン主宰、劇作家と、幅広く活躍する松居。J-WAVEでは3月まで放送されていた『JUMP OVER』で、7年にわたりナビゲーターを務めた。そんな彼の最新監督映画『リライト』が6月13日(金)公開となる。長井は「どんな作品でしょう?」と松居に質問した。

松居:みなさんがきっとご覧になったことがある『時をかける少女』って、主人公の女の子が未来人と出会って、ひと夏の恋をするみたいな話ですよね。(『リライト』は)そこがスタート地点にありまして、高校時代の主人公・美雪が、300年先の未来人に出会ってひと夏の恋をして、未来人から「何か大変なときは、これを飲んでみな」という感じで「10年後に飛べる薬」をもらうんです。そして、大変なことがあって薬を飲んだら10年後に飛んで、10年後の自分に「この、ひと夏のことを小説に書きなさい」と言われて戻ってくる。その後、未来人と別れて小説を書いて、10年後にどうにか小説家になれて本もできた。「じゃあ次は、10年前の自分にそれを伝えなければいけない」と、10年後の美雪は待っているけど、10年前の美雪が来ない。「来るはずなのに、なんで?」というところから、「いったい何が“リライト”なのか」というのが始まっていく物語です。

長井:私、ひと足先に拝見しましたが、めっちゃ面白かったです! 最初の「恋をして……」みたいな部分は「青春の、こういう感じね……」とほっこりしながら観ていましたが、そのあとどんどん「何が起こっている!?」みたいな。

松居:けっこう意外性がありました?

長井:めっちゃ意外でした。全然、想像がつかない展開だったので、すごく面白かったです。

松居:よかった! ありがとうございます。

長井:登場人物たちも、けっこう個性豊かでしたね。

松居:そうですね。美雪以外の人たち、クラスメイトとかも観ているとだんだん際立ってきますよね。

映画『リライト』本予告 | 2025年6月13日(金)公開

監督として現場は「風通しがいい」環境にしたい

映画の原作は、法条 遥氏の『リライト』(ハヤカワ文庫)。松居は原作を初めて読んだとき、何を感じたのだろうか。

松居:原作自体は“イヤミス”(読後にイヤな気持ちになるミステリー)と言われる、読後感がググっと食らうタイプの小説なんですよね。世界をリライトしていけばしていくほど、世界線が変わっていくという話で、しかも章立てで全部、主観の人物が変わります。今回、脚本はヨーロッパ企画の上田 誠さんに書いていただいて僕が監督したのですが、上田さんから原作を勧められて読んだときは「これ、小説だから面白いけど、映画だったらどうやるんだろう?」というところから製作が始まりました。

長井:面白い! それもリライトというか、リメイクというか……。

松居:そうですね。原作の小説を映画用にリライトして。映画はけっこう世界線がひとつになっているので、そこは大きく変えましたね。

長井:リライトしていく過程で、何を大切にしましたか?

松居:つじつまや整合性のようなロジカルなところは、上田さんにおまかせをしました。僕が監督としてやっていたのは、情報の取捨選択などです。映画って、3歩くらい先に行ったり、難しすぎたりするとついて行けないし、逆にお客さんと併走しているとちょっと丁寧すぎて先読みされてしまう。だから、「食らいついていきたいけど、まだ先が読めない」くらいのさじ加減、お客さんの半歩先ぐらいを行く(ことを意識して作った)。

長井:私、完全にその半歩先を追いかけるような感じで見ていました! それを意図的に作っていくということですね。映画を作るって、すごいなぁ……。

松居:ありがとうございます。ドラマとかだと、チャンネルを変えられないようにわかりやすく表現したりしますが、映画は「暗闇で2時間座って観る」というのが約束されているから、そういう攻め方ができるのかな。

監督や脚本をはじめ、大勢のチームで作り上げる映画。長井は「チームワークの面で、監督として大切にしていること」を松居に訊いた。

松居:監督ってけっこう強いから、ふとしたときに、ちょっと裸の王様になってしまう。でも僕は、「このチームだから、この作品になった」という必然性が絶対にほしいから、若い子もアイデアを出しやすい環境にしたいし、なんなら「この本、どう思った?」と訊いて「ちょっと、ここがわからなかったです」と言われたら「じゃあ、そこ直そう」みたいな感じでやっています。みんなが思ったことを言い合える、風通しがいい環境にはしたいですね。僕が「こっちに行くぞ」っていったら、みんなそっちに行くしかなくなっちゃうから、そうではなくて「左にも行ってみませんか?」みたいに言える空気を作りたいかな。

長井:すごくいい現場でしょうね。見てみたいな。そして、『リライト』の主題歌はRin音『scenario』。映画のために書き下ろされた曲だそうですが、Rin音さんにオファーしたのはなぜでしょう?

松居:僕はヒップホップが好きで、Rin音さんのファンなんです。Rin音さんの音楽はちょっとリラックスできるし、歌詞がすごく入ってくるし、言葉選びも心地いい。それが聴いていてすごく好きなので、「『リライト』の(映画のなかで)いろいろなことがあったあとに、言葉とともにリラックスする感じになったらどうなるだろう?」と思って、歌ってほしくてオファーしました。

scenario

撮影現場で気づいた“当たり前じゃなさ”

映画監督だけでなく、大学時代に立ち上げた劇団ゴジゲン主宰として、舞台でも活躍する松居。彼の「自分のなかの当たり前がひっくり返った瞬間や出来事」は、「映画にはエンドロールの人の数だけフレームの外に人がいて、役者は不自然な状況で自然な会話をする」ことに気づいたことだという。

松居:映画のエンドロールを観ると、とってもたくさんの人が関わっているということを思います。映画自体は、観ていると(役者が)めちゃくちゃ自然な会話をしていて、「自分でもできるんじゃないかな?」と思ったりもしていましたが、実際に映画の撮影現場に入ると、自然な芝居ほど不自然なことはありません。たとえば、いまみたいに「ラジオブースで座ってしゃべっている、それぞれを撮ります」となったときに、自分と優希乃さんの間にカメラがあって、ブースのフレームギリギリにマイクがあって、目の前には大人たちが10人くらいずらりといて、滑舌とかがちょっとよくなかったら録音部からも伝えられるし、少し離れたモニターにもまた人がずらりといて、始まる前にメイクを直してと、圧倒的に不自然な状況です。だから、エンドロールの人の数だけフレームの外には人がいて、そこで自然な会話をする“当たり前じゃなさ”にはびっくりしました。逆に、舞台だと「不自然だろ」というぐらい大きな声でしゃべるのが、客席では自然だったりするんですよね。

長井:現場を見てわかる、不自然さですね。それで自然な演技をしている俳優さんたちも、すごいですよね。そうやって大勢の方が本当にたくさん努力して作ったものを、私たちは“作品”という形で見て、すごく心が動かされるじゃないですか。(観る側として)「作品は影響力を持つよな」と思いますが、作られている側として、映画や舞台の表現が持つ影響力について意識することはありますか?

松居:自分は映画や演劇を観て、「こんなに自由でいいんだ」「自分の正義を貫いていいんだ」「何気ない時間を物語だと思っていいんだ」と、背中を叩かれた気がするし、「この世界に入ろう」という人生のきっかけにもなったし、自分がいまこうやって仕事をしているときに、「10年前に松居さんのあの映画を観てこの世界に入って、ようやくご一緒できてうれしいです」ということもあります。だから、(表現は)人の人生を変えられるし、即効性がなかったとしても、意外と何年後かにその作品が精神の血肉として行動のきっかけになったりもすると思うから、自分が「観たい」「読みたい」「感じたい」という感性は、素直に受容していっていい気がします。好きな自分に変われるから。

長井:「血肉になる」って、素敵な言葉だなと思いました。ちなみに今日、リスナーのみなさんに「リライトしたい過去」というテーマで(エピソードを)訊いていますが、松居さんは何かありますか?

松居:いっぱいありますが、「リライトしたらどうなっただろう?」という過去があります。僕は福岡出身で、いまはもう東京のほうが長くなってしまったのですが、18歳で東京に来てこういう業界に入るという選択をしたけど、福岡に残って演劇や映像を作っている仲間たちもいて、そういう人たちもすごく生き生きとしていたんです。「僕がもし、東京に行かないで福岡に残るという選択をしたら、どうなっていただろうか?」という。「CROSS FMでラジオをやっていたかもしれない」とか、「福岡の文化振興がどう変わっていただろう?」とか、出会う人も変わっちゃうだろうし、最近、それはすごく考えます。

映画『リライト』の詳細は、公式ホームページまで。

J-WAVE『PEOPLE'S ROASTERY』のコーナー「VIBES JINRUIGAKU」では、“声でつながるフィールドワーク”と題し、自分の当たり前を問い直しながら人と世界について考えていく。放送は月曜~木曜の14時5分ごろから。

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2025年6月10日28時59分まで

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番組情報
PEOPLE'S ROASTERY
月・火・水・木曜
13:30-16:00