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地上波と配信、ドラマの作り手が感じた“違い”とは? 役所広司主演『THE DAYS』プロデューサーに聞く

地上波と配信、ドラマの作り手が感じた“違い”とは? 役所広司主演『THE DAYS』プロデューサーに聞く

ドラマプロデューサーの増本 淳さんが、国内ドラマ制作のこれからを語った。

増本さんが登場したのは『STEP ONE』のワンコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」(ナビゲーター:サッシャ、小林涼子)。ここでは6月27日(火)のオンエア内容をテキストで紹介する。

配信ドラマだからこそ描けることもある

元フジテレビ社員の増本さんは、『救命病棟24時』や『コードブルー』、『白い巨塔』など、数々の大ヒット作品をプロデュース。退社後はフリープロデューサーとして活動しており、Netflixオリジナルドラマ『THE DAYS』を手がけ、話題となっている。

そんな増本さんにサッシャは、改めて『THE DAYS』について「どのような作品ですか?」と質問する。

増本:2011年3月11日に起きた東日本大震災の一端を描きたいと思ったところから、話は始まっています。都会に生きている我々との接点も考えると、いちばん当事者として感じられたのが福島第一原発の事故だったかなと思いました。あのときあそこで何があったかっていうことを、自分たちとしてはなるべく過度な演出を避けて淡々と描きたいなというところで作った連続ドラマです。

サッシャ:俳優陣も豪華でセットとかCGもすごいんですけど、地上波のドラマとは予算感は全然違うものなんですか?

増本:違いますね。

サッシャ:やれることも違う?

増本:もちろん。ただ僕らが持っているバジェットのなかで、最善のものをと思って毎回やっているので、たくさんあるからいろんなことがやれて、少ないから我慢しているというわけではないんですけど、テーマに合った予算の規模感というものはもちろんあると思っています。

そうして出来上がった『THE DAYS』を視聴した小林は「誰かがヒーローだったり誰かが悪者だったりじゃなく、みんな自分の最善策を探していたし、わからないなかで頑張っていた。でも結果、それが本当によかったのか未だにわからないっていう空気感に、息が詰まるような思いだった」と感想を述べる。増本さんは「そう言っていただけるとほっとする」と、台本を作るにあたってのエピソードを語った。

増本:最初、僕はたとえば(原発の)電源がなくなったんで冷却できない、じゃあ頑張って冷却しよう、今度は冷却する水がないから海水を入れようとか、そういうふうな次々と問題がやってきて、それに対して彼らが頑張るとまたそれを跳ね返されて、みたいな台本を書いていたんですね。ところが当事者の人たちに読んでもらうと、「そんなことはない」と。そもそも電源が停まったかどうかもよくわからなかったし、水が入っているか入っていないかも、水を入れたら正しいかどうかも、何もかもわからなかった。でもいまある状況からなんとなく考えると、たぶん電源がなくて、水も入ってなくて……みたいななかで、混乱しながらやってたっていうことをおっしゃっていたので、その状況がうまく描けていればいいなってことはずっと思っていました。

サッシャ:これ、地上波だったらできなかった?

増本:「技術的にできないか」「作っている人たちに能力がないか」という意味では、作れたと思います。ただ、今の地上波の経済的な生態系が、やっぱりスポンサーに依存している体制で、東京電力っていう1社に対してすごくフォーカスを当てた内容にならざるを得ないので、それをスポンサーメインでやっている地上波で考えると、ある1社をよく描いてもまずいし、悪く描くことも許されないので、そういった規制のなかでは地上波では難しかったかなと思います。

地上波と配信のドラマの違い

『THE DAYS』をはじめ、配信オリジナルドラマも増加傾向にある昨今。サッシャは「地上波と配信のドラマの違い」について、増本さんに質問した。

増本:たった1本しか配信ドラマ作ってない僕に、すごく怖い質問だなと思ったんですけど、僕の個人的な感覚だけでお話させていただくと、やってみていちばん大きかったのは、地上波って何ヵ月とか何年も前に放送日が決まってるんですよね。で、作ったら100%放送されるんですよ。僕はこれが作ってるときはすごいストレスで、あと怖かったんですよ。悩める時間も決まっているし、悩んだ挙げ句、答えが出ていないけど放送日は想像しなきゃいけない。なんならキャスティングも思った人がつかまっていないとか、明らかにいいものにならないってわかっていてもやるしかないので、作って放送しちゃうわけですよね。ところが配信になるとまったく逆で、「いつできあがりますか?」「納得がいくものができたところでいいです」と。僕が納得するだけじゃだめで、たとえばNetflixさんとかワーナーさんが納得するものじゃないと、配信できないので……。

小林:それって撮影した段階で、放送されることが決まっていないわけじゃないですか。そのなかでどういうふうに取り組んでいくんだろう。

増本:思ったのは、地上波の恐怖なんていうのは大したものじゃなかったなっていう。はるかにこちらのほうが怖いというか、お蔵入りの可能性もあるし。もっというと、今回は新型コロナの影響で、撮影しはじめて11日目のときに我々で「中断しよう」って決断したんですけど、これは制作サイドが勝手に決めていることなので、できあがらなかったら準備期間のお金とか撮影したお金ってどうするんだって話になると当然出ないので。完成させて、納品してはじめて契約を履行したことになるので、そういった目途は全く立たないわけですよね。

小林:総期間はどれくらいかかったんですか?

増本:本当は、撮影自体は90日くらいで撮るつもりだったんですよ。ところが現実にかかったのは中断が1年半入って、4年です。

小林:4年かかって世に出したときの気持ちたるや、って感じじゃないですか。

増本:うれしいとかじゃなくて、ほっとしたというか、途中で何度も何度も制作が途絶える可能性はあったので。

世界で勝負できる1本を

ここでサッシャは増本さんに、今後のドラマのあり方について質問。「地上波からドラマが消えていくのか、配信作品との棲み分けができるのか」を訊いた。

増本:正直、僕も知りたいですね(笑)。どっちがいいとか悪いとかはあまりない感じがしていて、ただちょっと危機感を持っているのが、たとえばNetflixやAmazonなどの配信プラットフォームなどもそうですけど、日本だと国内ドラマは若干圧されている感じがあって、上位は韓国ドラマが独占しているんですよね。今回よかったなと思うのが、『THE DAYS』のグローバルの順位が5位から4位に上がったんです。日本では順位が下がったりもしていて、どういう現象なのか僕も分析できていないんですけど。ただ1つ言えることは、世界でそれなりに観てもらえているということだと思うんですよ。だから日本のドラマがもっと頑張って、世界でも観てもらえるもの、世界の人の興味を引けるテーマみたいなものでアプローチしていけると、未来があるのかなと。韓国なんかは明らかに国内だけの需要ってことを考えていないので、そこに勝負していけるようなものが増えてくるといいなと思いますし、自分もその1本になりたいなと思っています。

サッシャ:今後はどんなことをしたいですか?

増本:今後も同じように、日本人が作ることにちゃんと意味があるもの、海外の人の興味が沸くものを作りたいなと思っています。今回の『THE DAYS』は、もちろん外国資本で作っていますけど、作り手まで海外の人で作っていたらちょっと自分としては残念だなというか、本来なら自分がやるべきだなと思っちゃったりするので、日本人の手で作ることでより意味が生まれるものにチャレンジしていければと思っています。

さらに増本さんは今後の展望について、「日本が抱える問題点を外から見ることで、ちょっと自分たちも気づけるところがあったりする。そんな現象を起こすのはおこがましいが、起きるきっかけぐらいになればいいなといつも思っています」とも語った。

J-WAVE『STEP ONE』のワンコーナー「SAISON CARD ON THE EDGE」では、毎回ニューノーマル時代のさまざまなエッジにフォーカスする。放送は月曜~木曜の10時10分ごろから。

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9:00-13:00