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『THE FIRST SLAM DUNK』井上雄彦と話し合ったことは…映像編集を手がけた瀧田隆一が語る

『THE FIRST SLAM DUNK』井上雄彦と話し合ったことは…映像編集を手がけた瀧田隆一が語る

映画『THE FIRST SLAM DUNK』の編集を担当した瀧田隆一が、今作の制作秘話を語った。

瀧田が登場したのは劇団ゴジゲンの主宰である松居大悟がナビゲートする、J-WAVEで放送中の『JUMP OVER』。オンエアは3月22日(水)。同番組ではラジオ、映画、演劇、音楽などの枠を越えた企画を発信し続けている。

映像の「編集」は、何をする仕事?

瀧田は映画『ちょっと思い出しただけ』やドラマ『杉咲花の撮休』(WOWOW)をはじめ多くの松居作品に参加。また昨年公開して大ヒットを記録している映画『THE FIRST SLAM DUNK』にも編集として携わっている。

松居:瀧田さんは実写の編集をやっているじゃないですか。スラダン(SLAM DUNK)は1回置いといて、編集ってどんな仕事かを説明してもらえますか。

瀧田:編集は現場の撮影の素材を単純につなぐんですけど、ときにはシーンを丸々使わなかったり、シーンの順番を入れ替えたりとか。いろんな人の意見で「もうちょっとこうしてみよう」ってときに、脚本の段階というか、撮影のときの計画よりもガラッと変えたものを作ってみたりとか。そういう素材をどう扱うかっていう仕事ですよね。

松居:ドラマとかだと撮ってるときに編集をイメージしてないと間に合わなかったりするんですけど、映画はわりと長めに全部録ってたりするのでけっこう悩むことも多いし。僕らは「あれだけ大変だったあの素材をどうしても使いたい」って思うときがあるんですよ。(こっちは)「めちゃくちゃ“人どめ”してうまいことワンカットでやったから」とか言うけど、「それよりも普通の寄りを使ったほうがわかりやすいよ」とかいう話を特にするから。現場を知らないからこそ言えるし、だからこそそういう客観的な意見が必要なんですよ。そんな話をわりとしますよね。

瀧田:そうですね。

松居:加えて、編集って映画だとだいたい1カ月くらいなんですけど、最初のほうはそういうカット割のことだったり、シーンごと移動させたりっていうのもけっこうあるんですけど、そういうのをやってたいし最後のほうは映画って1秒が24枚の絵でできてて、その1枚を切るか切らないかとか、1枚伸ばすかとかで全然違うんですよ。それをどっちの心情で見ればいいかとか、そういうのをずっと判断しながらやっていましたよね。

これまで松居と共に作品を作ってきた瀧田に「松居組のクセってあります?」と松居は質問する。

瀧田:松居さんの脚本って読んでるときにはちょっとイメージしづらいというか。けっこう平凡な日常を描いて、その中に演出が入ってたりするじゃないですか。だから素材で発見することが多いというか。

松居:台本じゃなくてってことだ。

瀧田:台本は「こんな話なんだ」くらいで見てから、あとから素材を見て。それで「ここ見たかったのに撮ってなかったのか」みたいなのは松居さんじゃなくても思ったりするんですけど、ないならこうしようかなっていうときに「この絵、いいの撮ってるじゃん」とか。客観的って言われますけど、素材をもらったら僕の主観でつないじゃう感じですね。それで「松居さんこれでどうですか?」って感じで見せて、「そうきたか」って思ってるかもしれないですけど、そう見せてるって感じですね。

台本を一緒に作ってる感覚に近い

続いて、映画『THE FIRST SLAM DUNK』の話題に。松居は「この映画の編集はアニメの編集とも違うし、実写の編集とも違う、ちょっと独特な編集」と表現し、瀧田はうなずいた。

瀧田:僕が参加したのは2019年とかかな。たどればもっと昔のプレゼンビデオから関わっていたんですけど。

松居:そのときからいわゆるアニメではなく、実写を組み込んでそれをアニメに変換していくっていうものだったんですか。

瀧田:いや、どんな内容だったかというよりは、プレゼンムービーだったって話です。

松居:それがあって、(原作者の井上雄彦さんが映画化に)前向きになって。

瀧田:でも何回かダメだったんです。

松居:それで往復のやりとりがあって。最初は静止画でつないでってことですかね。

瀧田:最初はそうですね。コンテムービーみたいなのがあって。そのときはどういう見せ方というよりかはストーリーの流れだったので……僕が参加したときにはそういうのがあったんですよ。

松居:試合のストーリーラインが。

瀧田:とか物語自体が。それをもらって、2時間の映画だとするとどう伝えるべきかを客観的に見てほしいと言われて、それでけっこうガツガツ切ったんですよ。

松居が「井上先生とけっこうやり取りがあったんですよね?」と質問すると「むちゃくちゃあった」と瀧田は答えた。

松居:井上先生は連載をされている方だから、とにかくずっと飽きさせないようにしたくて、でも瀧田さんは映画とかをやっているから別に飽きないというか、2時間観ることはわかってるからそんなにサービスはしなくていいみたいなことだったんですか。

瀧田:僕が感じたことは、やっぱり漫画家の方って自分でストーリーを作るし絵を決めるし……みたいな感じで。

松居:カット割りも全部しますし。

瀧田:脚本家でもあり、カメラマンでもありみたいな。編集しているときに「もうちょっとテンポよくできますか?」とか井上さんが言うんですよ。なんでそんなとこがわかるんだろうって思うんですけど、僕のなかでその疑問をたどると、やっぱり自分で本を作っているし、「こう見せたい」「ああ見せたい」っていうのが漫画ではあるから、それが映像になっただけっていうマインドと、どう見せたいかっていうのがだんだんわかってくるのかなと思って。

松居:映画そのものを理解していくというか。

瀧田:そうですね。話していて根本的に違うのは、漫画を読むっていうのは読んでる人がページをめくるじゃないですか。戻れるし飛ばせるしみたいな。だからいかに読ませるかっていうところなんですけど、映画だと席立つ人もいるかもしれないけど結局は観るじゃないですか。だからじっくり見せるところは見せたいし、ここがあとあと効いてくるっていうのも……。

松居:ここは想像力に任せるよみたいな。

瀧田:そうなんですよ。映画は読み返せないからこそ、ここで見せておかないとっていう部分もあるし、そういうやりとりはしました。

松居:ギリ言っていいかわからないけど、宮城(リョータ)の回想シーンがもうちょっとあったんですよね?

瀧田:具体的な話は言えないですけど、いろんな案があってそれをつないでいくと、どうリョータと母親が向き合えるかっていうところに落としたいじゃないですか。それと山王戦の感情のラインを一緒にしたかったんですよ、僕としては。試合してたときにそういう風に思い出したことは「あのとき、ああしなきゃよかったかもな」「だから今負けてるのかな」って気持ちにさせたいなって思ったんですね。

松居:それって台本を一緒に作ってるのに近い感じですよね。

瀧田:そうですね……そうですねって言わないほうがよかったかな。

松居:もう言ったから(笑)。

1発目の打ち合わせはドキドキした

瀧田は松居の作品での編集経験が、『THE FIRST SLAM DUNK』に活かされる場面があったと明かす。

瀧田:何回も2時間観ていると、いろんなことが見えてくるじゃないですか。(井上雄彦)監督も初見の感覚と何度も観ているときの気持ちって変わってくるだろうし……というときに、僕は『ちょっと思い出しただけ』の編集をやってたんですけど、あのときも1回目のラッシュがいいとか2回目のラッシュがいいとか、よく言われてたじゃないですか。何回も編集してて、見に来てるスタッフは初めのほうがよかったとか。

松居:何回も編集するとどんどん間を切っちゃうのよ。不安になって。早く次のシーンに行かないと飽きるんじゃないかって思っちゃうけど、そんなことないのよね。

瀧田:そういうのもあるし、『ちょっと思い出しただけ』って過去をさかのぼる話じゃないですか。それがわかるかわからないかって議論もあって。

松居:テロップも出してないし。

瀧田:「2年前」とかやるかとか、色で表現するかとか。でもそれをやらずに堂々とやり切ったじゃないですか。そういうのを観てる人ってやっぱり理解してくれるもんだなって。不安にならないで堂々とやったほうが絶対いいっていう話を井上さんにしたのは覚えています。

松居:そうしたら井上先生は?

瀧田:なるほどって言ってました。

松居:それが聞きたかったんだな(笑)。

瀧田は『THE FIRST SLAM DUNK』制作を始めた当時の打ち合わせについてこう話す。

瀧田:1発目は僕がいろいろ切ったものを見せたんですよ。静止画をムービーにして。

松居:それはセリフも入ってる?

瀧田:字幕で入ってます。それを見せて。ドキドキでしたけど。

松居:『SLAM DUNK』の絵をつないで動画にして井上先生に見せたってスゴいかもしれない。

瀧田:もうできてたんですけど、切ったり貼ったりとか。いろんな枝葉があったんで、これだけの幹があれば映画として伝えたいことは伝わるんじゃないかって。それまでにいろいろ話してはいたんですけどね。監督の伝えたいことがこれだといちばん出やすいですっていうのをバーンと出したんです。それでよかったってことで。

松居:瀧田さんの考え方が井上さんのやってることと合致したというか。

瀧田:「大胆に切りましたね」って言われましたけど。

松居:もしそれがアニメの編集の人とかだったらうまくいかなかったかもしれないですね。

瀧田:やっぱり今なんであんなことをしたのかって思うんですけど、ある意味漫画のネームを切ってるようなものじゃないですか。

松居:先生の描いたストーリーを。

瀧田:そうそう。

彼らも生きてたんだなっていうのがすごく感じられる映画

『THE FIRST SLAM DUNK』を12回観たという番組のスタッフから、「この映画は原作を読んだことがない人も楽しめる映画になっているのはなぜか?」と質問をした。

瀧田:初見の方は正直そんなに意識してないというか。僕は試合ももちろん重要だけど親子の話にしたかったっていうのがあるので、親子の話で観れちゃうというか。試合がなんであろうと、少年の昔からの記憶が今のとんでもない強い相手にぶつけるっていう、その話が単純に物語として刺さったのかなっていう。

松居:宮城が原作でリストバンドを2つしてるじゃないですか。そのときから宮城の裏設定があったんですかね。

瀧田:わからないです。

松居:それ聞いといてよ(笑)。

瀧田:トーナメントから2つのリストバンドですからね。

松居:だとしたら、ここぞっていうときまでためてたのかな。

瀧田:僕はそこをあまり訊かなかったなっていうのがちょっと後悔ですけど、訊いておけばよかったな。

最後に、リスナーに向けて瀧田がメッセージを送った。

瀧田:当時、僕も原作の漫画を読んでいて、純粋にバスケをしてる彼らが好きで読んでたっていう人たちが多かったと思うんですけど、彼らも僕らと同じでスポーツをやってるけど家に帰れば自分の問題がそれぞれにあってとか、それをいろいろ抱えながらバスケとか部活とか友だちとかと向き合うとそれがちょっと解決したりとか、気持ちが和らいだりとか。そういうものを経てまた自分が成長していくっていうものがこの映画を観ると(感じられると思います)。あのとき純粋にスポーツをしてたけど彼らも生きてたんだなっていうのがすごく感じられる映画だったなと。

松居:スターじゃなくて人間だからこその。

瀧田:単純にプレーもスゴいんですけど、諦めないでバスケをやっててよかったなっていう気持ちになれるとか、部活やってよかったなとか、友だちといてよかったなとかそういう気持ちになれる映画だと思うので、まだ観てない方はぜひ観てほしいし、すでに観た方もいろんな新しい発見をしてほしいと思います。

『THE FIRST SLAM DUNK』は全国で公開中。

【関連記事】バスケ解説者も「度肝を抜かれた」と語る、映画『THE FIRST SLAM DUNK』のリアルな部分は?

瀧田が編集を担当した、『劇場版 優しいスピッツ a secret session in Obihiro』(松居大悟監督作)が6月2日(金)から、映画『神回』(中村貴一朗監督作)が今夏に公開する。

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